真・恋姫†無双〜江東の花嫁達〜(壱九)
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(壱九)

 

 雪蓮が臨月を迎えた。

 

 ちょうどその頃になると、特使としての役割を終えて霞は冥琳と七乃、それに美羽と月達を連れて戻ってきた。

 

 久しぶりの再会に喜ぶ一同。

 

 そして雪蓮の大きくなったお腹を見て祝福の言葉を伝えた。

 

「それでこの方達は?」

 

 月は風達を不思議そうに見る。

 

「この子達も一刀の側室になるのよ」

 

 寝台の上で大きくなったお腹をさすりながら雪蓮が順番に紹介していく。

 

「魏や蜀の軍師だけではなく五胡までとはね……」

 

 文で知らされていた以上に増えていたため、冥琳は呆れた視線を一刀にぶつけていく。

 

「お義兄さま……」

 

 月ですらどことなく困惑した表情を浮かべ一刀を見る。

 

「まぁあんただから逆に納得するわ」

 

 今更、驚くことでもないと言いつつも、露骨に呆れていた。

 

「まぁ一刀様だしな」

 

「……ご主人さま」

 

 華雄は苦笑し、恋は悲しそうに見つめている。

 

「へぼ主人はどこまでいってもへぼ主人なのですよ」

 

 音々音は誰よりも辛口だった。

 

「妾もみなと同じじゃ。のぅ七乃」

 

「そうですね〜。一刀さんだからこれぐらいで済まされていますよ」

 

 それは喜ぶべきなのかどうか一刀は正直、泣きたい気分だった。

 

「まぁこれも一刀の日頃の行いのせいちゅうことであきらめな」

 

 霞は落ち込む一刀を励ますどころか、追い討ちをかける。

 

「お兄さんですからね」

 

「えっと……」

 

「御主人様って本当に不思議な人です」

 

 風達三人ですら援護しようとしなかった。

 

 まさに四面楚歌状態だったが、雪蓮だけは違った。

 

「はいはい。そんなにいじめたら一刀が可哀想よ」

 

「雪蓮……」

 

 もつべきは良妻だと一刀は心から感謝をした。

 

「口でそう言いながらもここまできたのは、会いたいと思ったからでしょう?」

 

「そうね」

 

 雪蓮の言葉に誰もがそのとおりだとお頷いた。

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 自分達を大切にしてくれている一刀と少しでも早く会いたいという気持ちがあっただけに、霞から声をかけられた時、誰もが即答するほどだった。

 

「お義兄さま」

 

「ただいま、月」

 

 雪蓮の援護によって立ち直った一刀は義妹の頭を優しく撫でる。

 

「へぅ〜……、お義兄さま」

 

 顔を真っ赤にしながらも久しぶりに感じる一刀の手の温もりに幸せを感じる月。

 

「詠もただいま」

 

「…………」

 

 何か言いたかった詠だがそれよりも先に一刀に頭を撫でられ顔を紅くする。

 

「あんまり月を心配させないでよね」

 

「悪かった。詠にも心配させたようだな」

 

「ば、バカじゃないの。ボクは何も心配なんかしてない……」

 

 声を小さくしていく詠。

 

 本当は早く戻ってこないか、毎日のように屋敷の外に出てはその帰りを待っていたことは月が一番よく知っていた。

 

 宛城に行く時も自分から率先して月に声をかけていた。

 

「詠ちゃんもすごくお義兄さまのことを心配していたんですよ」

 

「ゆ、月!」

 

 慌てる詠は首まで真っ赤になった。

 

「ごめんな。でもこうしてきてくれて嬉しいよ」

 

 一刀の笑顔に詠は視線をそらして小さな声で、

 

「バカ」

 

 とつぶやいた。

 

「そや。琥珀、会わせたい人がおるんやけど」

 

 霞は頃合を見計らって琥珀に声をかけた。

 

「私にですか?」

 

「せや。入ってええで」

 

 霞に呼ばれて部屋に入ってきたのは蜀の王、桃香と五虎将軍である黄忠こと紫苑の二人だった。

 

「琥珀ちゃん!」

 

 声と同時に桃香は琥珀に抱きついた。

 

「と、桃香様……」

 

「うんうん。私だよ」

 

 嬉しそうに言う桃香だが、琥珀の目を見て言葉を失った。

 

「琥珀ちゃん……その目」

 

「はい……」

 

 さっきまでの楽しい気持ちは消え去り、琥珀は寂しそうな表情をした。

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「華琳さんから文をもらっても信じられなかったよ。でも、本当に……」

 

「もう桃香様のお顔も見ることはできません」

 

 琥珀は瞼を閉じると桃香は優しく抱きしめた。

 

「見えなくても琥珀ちゃんは琥珀ちゃんだよ」

 

 桃香は一刀の予想通り、琥珀を何事もなかったように受け入れた。

 

「私こそダメな王様だよね。徐州から逃げるとき、琥珀ちゃんのお母さんを守れなかったんだもん。それに華琳さんから知らされたときだって、一緒に行ってればこんなに苦労させることもなかったんだよ」

 

 全ては自分のせいだと言わんばかりに桃香は琥珀に何度も謝った。

 

「琥珀ちゃん」

 

 紫苑は琥珀を優しい目で見る。

 

「私達はこの三年間、一日たりとも琥珀ちゃんを忘れたことはないよ」

 

 政務の合間を見ては誰かしら情報を集めに駆け回っていた。

 

 泣きじゃくる桃香を愛紗や鈴々達が慰めたりもした。

 

 それでも誰も諦めることはなかった。

 

 必ずどこかで生きている。

 

 そうして三年という長い年月が過ぎてようやく生きていることがわかり、桃香達は喜び合った。

 

 目が見えないことを知っても、自分達でどうにかしようと色々と考えてもいた。

 

 しばらくして琥珀自身からの文を紫苑が受け取り、それを桃香に知らせ、ようやく再会する日がやってきた。

 

「みんな琥珀ちゃんが戻ってくるのを楽しみにしているんだよ」

 

「朱里ちゃんや雛里ちゃんも待っているわ」

 

 二人の温かい言葉に感謝しつつも琥珀は顔を横に振った。

 

「どうして?」

 

「私はもう御主人様の傍で生きると決めました」

 

「御主人様?」

 

 桃香は何気なく一刀のほうを見た。

 

「御主人様って一刀さんのこと?」

 

「はい」

 

 頬を紅くする琥珀に桃香は一瞬、寂しそうな表情を浮かべた。

 

 だが、自分の中で納得したかのように笑顔に戻った。

 

「うん。琥珀ちゃんがそれでいいのならかまわないよ」

 

「桃香様?」

 

「でもね、一刀さんが嫌になったらいつでも蜀に戻ってきていいからね」

 

 一息ついて桃香は琥珀にこう付け加えた。

 

「私達はいつでも琥珀ちゃんを待っているから♪」

 

 その言葉を聞いて琥珀は桃香にしがみついた。

 

 自分を必要としていないと思っていた桃香はいつでも戻ってきていいと言ってくれたことが嬉しかった。

 

「ありがとうございます……桃香様」

 

 琥珀にとって桃香はいくら敬愛しても足りないぐらい素晴らしい主だった。

 

 一刀の傍にいることを許してくれ、また蜀にいつでも戻ってもいいと言った桃香が大好きだった。

 

「よかったわね、琥珀ちゃん」

 

 紫苑も穏やかな微笑みで琥珀を祝福する。

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 落ち着いたところで紫苑は雪蓮の状態を見ることになった。

 

「順調にいけば近日中に産まれますね」

 

 指診を終えた紫苑はこれから母親になる雪連にそう告げると、雪蓮は安堵の表情を浮かべていた。

 

「それにしてもよかったわ。体験者がいてくれるのは心強いわね」

 

「母親になるというのは大変ですよ」

 

 何かあればすぐに呼んでほしいと言い残して紫苑は用意された部屋に戻った。

 

 残されたのは一刀と月、それに詠の三人。

 

「雪蓮お義姉さまの中にいるんですね」

 

 もうすぐ産まれる子供が待ち遠しいのは雪蓮だけではなかった。

 

「子供が出来るとこうなるのね」

 

 詠も食い入るようにして雪蓮のお腹を見ながら自然と手を伸ばして撫でていた。

 

「俺達の家族が一人増えるんだよ」

 

「「かぞく?」」

 

「簡単に言えば北郷家の家族かな。俺と雪蓮、月に詠。それに産まれてくるこの子の五人。十分に家族だと思うよ」

 

 一刀の前にいるのは孫策でも董卓でも賈?なく、北郷の姓を持つ雪蓮、月、詠だった。

 

 それが一刀に家族というものを感じさせていた。

 

「お義兄さまは私達もその家族というのですか?」

 

「そうだよ」

 

 自分にとって大切な家族が目の前にいるということ一刀は嬉しかった。

 

 たとえ血が繋がっていなくてもそれ以上に大切なもので繋がっているのであれば何も問題はなかった。

 

「月も詠も私にとっては大切な家族よ」

 

 雪蓮はそれが当たり前なのだと付け加えた。

 

「ボクもその中にいるわけ?」

 

 詠は一刀に問いかける。

 

 彼女の表情には不安と戸惑いが入り混じっていた。

 

「ボクには月しかいなかった。月だけがボクを信じてくれた」

 

「詠ちゃん……」

 

「月だけがいればいいって思っていた。そんなボクを家族に加えてもいいわけ?」

 

 それは詠が今まで漠然と感じていた不安だった。

 

 一刀に保護されてから自由に制限はあったものの、月といつも一緒にいることで詠は安心していた。

 

 詠にとって月が全て。

 

 そういっても過言ではなかった。

 

「俺は詠はとっくに家族だって思っているぞ」

 

「えっ?」

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「だって二人とも俺と雪蓮にとって大切な義妹なんだぞ。それで家族でないなんておかしいだろう?」

 

 何を今更そんなことを言うんだといった感じで一刀は呆れていた。

 

「それとも義妹ってだけじゃあ不安か?」

 

 詠にはわからなかった。

 

 だが少なくとも彼女にとって一刀の存在は月に劣らないほど、いつの間にか大きくなっていた。

 

 同時に自分が本当はどうしたいのか、答えが出ているはずなのにそれを言葉にすることが怖かった。

 

「詠ちゃん……」

 

 月としても彼女の気持ちはそれとなくわかった。

 

「ごめん。少し頭を冷やしてくる」

 

 詠は辛そうな表情をして雪蓮から離れて部屋を出て行った。

 

「「一刀(お義兄さま)!」」

 

 二人は一刀に追いかけるように促すと、一刀も分かっていたのですぐに詠の後を追いかけた。

 

「まったく、世話が焼けるわね」

 

「詠ちゃんは本当にお義兄さまのことが好きなんです」

 

「見ていたらわかるわよ。義妹よりももっと近づきたいと思っているのよ」

 

 だが素直になかなかなれないのがツン子としての詠らしさだった。

 

「でも詠だけでなくて、貴女も本当は一刀と結婚したいのでしょう?」

 

「へぅ〜…………」

 

 顔を真っ赤にする月だが、本音はそのとおりだった。

 

「素直になればいいだけよ、私みたいにね♪」

 

 雪蓮は月や詠も一刀と結婚を勧めたことがあったが、その時はまだ義妹になったばかりだったので断られていた。

 

「それに一刀が言っていたでしょう。家族なんだって」

 

 だから何も遠慮することはないのだと月に改めて勧める雪蓮。

 

「一刀も喜ぶわよ。義妹と結婚できるんだから」

 

「へぅ〜…………」

 

 首まで真っ赤になる月に雪蓮は笑った。

 

「お、お茶を飲みませんか、お義姉さま」

 

「そうね。いただこうかしら」

 

 それから義姉妹はお茶を飲みながら産まれくる子供がどちらに似ているか話した。

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 一刀が詠を見つけたのは屋敷の庭に植えられている一本の木の陰だった。

 

「ついてなくていいわけ?」

 

 一刀が近づいてくることに気づいて不機嫌そうに言う詠は、彼に背を向けたまま木にもたれていた。

 

「詠を追いかけろって逆に言われたさ」

 

 苦笑する一刀は詠の反対側に立ち木にもたれた。

 

「ボクは一人でいたいんだけど?」

 

「そんなこと言うなよ。今戻ったら間違いなく雪蓮に殴られる」

 

「知らないわよ」

 

 素っ気無く答える詠。

 

 会話が途切れて静けさが流れ込んでいく。

 

 屋敷の中では賑やかな声が聞こえていた。

 

「ねぇ」

 

「なんだよ?」

 

「ボク達をどうして家族だっていうの?」

 

「どうしてって、そう思うからだろう」

 

「答えになってないわよ」

 

 詠が聞きたいのはそういうことではなかった。

 

 だが一刀相手だとうまく言えない自分がもどかしかった。

 

「あんたってやっぱり変な奴よ」

 

「よく言われる」

 

 一刀は笑うが詠は表情を固くしたままだった。

 

「いつもいたあんたがこの一年近くいなくてボクは凄く不安だった」

 

 詠はこの一年、月と話す時ですら笑顔が少なかった。

 

 主のいない部屋を掃除する時もその場に長いこといたいと思い、どこよりも時間をかけて掃除をしていた。

 

 月も驚くほど綺麗になった部屋を毎日のように掃除を繰り返していた。

 

 恋達と夕餉を食べる時も静かな時が多かった。

 

 賑やかな原因は一刀がいたからだと嫌でも思い知らされた。

 

「ボクはあんたのことなんかどうでもいいのに、考えていることがいつもあんたのことばかりだった」

 

 それが悔しくて苛立つこともあった。

 

「月に言われたの」

 

 ある夜、いつものように同じ寝台で眠ろうとした時、月はあることを詠に聞いた。

 

「詠ちゃん。本当は雪蓮お義姉さまのように一刀お義兄さまと結婚したいんだよね?」

 

 思わず寝台から落ちそうになった詠だったが、その日から月の言葉が頭から離れなかった。

 

「だからあんたを見た時、本気で首を絞めてあげようと思ったのにそれができなかった」

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 久しぶりに姿を見て安心していた自分がいただけではなく、早く自分に声をかけて欲しいとまで思ってしまった。

 

「ボクってどうかしているよ。こんな奴が気になって仕方ないなんて」

 

「悪かったな、こんな奴で」

 

 一刀は思わず笑って答える。

 

「ねぇ、一つだけ答えて」

 

 一刀は黙って詠の問いを待つ。

 

「月とボクも義妹としてでなく、本当の家族にして欲しいって言ったらどうする?」

 

「いいよ」

 

 あっさりと答える一刀。

 

「あんたねぇ……。普通少しは考えない?」

 

「なんでだよ。考える必要あることか?」

 

「あるわよ。だからあんたは種馬だって言われるのよ」

 

 木をはさんでお互いを見ることなく言い合う二人。

 

「悪かったな種馬で」

 

「開きなおらいでよ。まったく……どうしてこんな男がいいのかわからないわ」

 

 文句を言いつつも詠は笑っていた。

 

 一刀も笑っていた。

 

「月を泣かしたら許さないから」

 

「詠は泣かしてもいいのか?」

 

「いちいち言わないと分からない?」

 

 気の利かない男だと付け加えて文句を並べていく詠。

 

「わかった。俺の出来る限り月も詠も幸せにするよ」

 

「…………期待しないで待っているから。一刀義兄さん」

 

 一方の耳にも聞こえるように詠はそう答えた。

 

「お、今のいいね。もう一度呼んでくれよ」

 

 言った後、しまったといった感じで後悔する詠は全力で断った。

 

「いいじゃんかよ。減るもんじゃあないだろう?」

 

「し、知らないわよ」

 

 顔を紅くする詠はいつもの明るく調子が戻ってきた。

 

 そこへ廊下から月の声が聞こえてきた。

 

「一刀お義兄さま!詠ちゃん!雪蓮お義姉さまが!」

 

 一生懸命に振り絞った大声に一刀と詠は何事かと思い月の元へ走っていく。

 

「どうかしたのか?」

 

「お、お義姉さまが苦しみだして……」

 

 月を詠に任せて一刀は部屋の中に入っていく。

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 そこで見たのは苦しそうに寝台の上で横たわっている雪蓮だった。

 

「雪蓮!」

 

 彼女のもとに駆けつけると、汗が吹き出ていた。

 

「か、かず…………ああっ…………」

 

 痛みのせいで雪蓮は一刀の名前すら呼べなかった。

 

「月、詠。すぐに黄忠さんを呼んできてくれ」

 

「わかった。月、いくよ」

 

「う、うん」

 

 二人が紫苑のいる部屋に向かう間、一刀はとりあえず寝台の上にきちんと寝かせて手を握った。

 

「あっ…………」

 

 苦痛に耐えるように口を噛みしめている雪蓮は次第に握られた手を握り潰すかのように力を入れていく。

 

「すぐに黄忠さんがくるから我慢するんだ」

 

 男にとって体感することのない出来事に慌てながらも一刀は雪蓮を励ます。

 

「う、うまれ……あっ…………」

 

「産まれるのか!?」

 

 苦痛の中で頷く雪蓮は次第に声を抑えることが出来なくなっていった。

 

「か、かず…………と」

 

「な、なんだ?」

 

「そ、そばに…………あああああああああああああっ…………」

 

 傍にいて欲しいと雪蓮は言いたいのだと思い、両手で彼女の手を強く握り締めた。

 

「大丈夫。俺はどこにもいかないから」

 

 励ましていると、紫苑達が部屋に慌しく入ってきた。

 

「陣痛が始まったようね」

 

 雪蓮の様子に気づいた紫苑はすぐさまそこにいた全員に指示を出した。

 

「すぐにお湯を沸かしてきてくれますか。それと綺麗な布をたくさん持ってきてください」

 

 月と詠、それに霞はすぐにお湯を沸かしに行き、桃香と華雄は布を探しに行った。

 

「雪蓮、しっかりするのじゃ」

 

 美羽なりに雪蓮を励ます。

 

「雪蓮……頑張る」

 

 恋も初めて見る光景に戸惑っていたが、応援しなければならないと思い声をかける。

 

 音々音はどうしたらいいのか分からず、オロオロするばかりだった。

 

「大丈夫。ゆっくりと落ち着いてくださいね」

 

 紫苑は雪蓮を励ましながら出産の準備を整えていく。

 

 その間でも一刀は手を離すことなく必死になって雪蓮を励ましていた。

 

「北郷さんも頑張ってくださいね」

 

「は、はい」

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 紫苑に励まされ一刀は大きく頷き、痛みに耐える雪蓮に声をかける。

 

「頑張るんだ」

 

「そうじゃ。妾がついておるぞ」

 

 この時ほど美羽が頼もしく見えたことはなかった。

 

 雪蓮もそんな彼女に苦痛で染まった表情から笑みを見せた。

 

「だいじょうぶ……よ。ああっ…………」

 

 息が荒くなっていく。

 

「北郷さん、決してこちらを見てはいけませんよ」

 

 髪を束ねた紫苑は雪蓮の身体を楽な姿勢にさせていく。

 

「綺麗な布を持ってきたぞ」

 

 桃香と華雄は真っ白な布を持ってきて、それからいくつか紫苑は受け取り広げていく。

 

「お湯はまだですか?」

 

「見てくる」

 

 華雄は部屋を出て行き月達の様子を見に行った。

 

「雪蓮さん、頑張って」

 

 桃香も近くにより励ます。

 

「雪蓮……」

 

 冥琳も出産間近の雪蓮を心配そうに見守る。

 

「はぁはぁはぁはぁ…………」

 

 息をするのも辛くなっていた雪蓮。

 

 次第に痛みに耐えられなくなり暴れ始めた。

 

「北郷さん、抑えてください」

 

「わ、わかった」

 

 寝台から落ちないように一刀は雪蓮を抑える。

 

「あああああああああ…………,、か…………かず…………と…………」

 

 雪蓮にとってもっとも大切な人の名前を呼ぶ。

 

「大丈夫だ。もう少しの我慢だ」

 

 一刀もどうしたらいいのかわからないが紫苑の指示に従うほかなかった。

 

「雪蓮さん、もう少し頑張ってください」

 

 紫苑は腕をまくり、助産を開始した。

 

「持ってきたで」

 

 霞と華雄が両手で抱えて大きな湯入れを持ってきた。

 

 近くに置き、そこへ月と詠が湯を注いでいく。

 

「今、追加の湯を用意してるさかい」

 

「張遼、我らも火を熾して湯を準備するぞ」

 

「そやな」

 

 霞と華雄は再び部屋を出て行った。

 

「布をもっと持ってきてください」

 

「「は、はい」」

 

 桃香と月は同時に答えて一緒に走っていく。

 

「ま、待ってよ、月」

 

 詠も慌てて二人についていく。

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 もはや悲鳴に近い雪蓮の声が部屋の中に響いていく。

 

「雪蓮、しっかり」

 

「雪蓮様、もう少しですよ」

 

 冥琳と七乃は力強く励ます。

 

 苦痛とそれから解放されるの繰り返しで雪蓮の体力はかなり消耗していた。

 

「雪蓮、もう少しだ。頑張れ」

 

 もう少しで自分達は親になる。

 

 そのことが一刀と雪蓮に最後の力を与えていく。

 

 汗だくの表情の雪蓮は何度も繰り返すように、

 

「一刀」

 

 と一刀の名前を言い続けた。

 

 どれほどの時間が過ぎているのかわからなかった。

 

「見えてきましたよ」

 

 紫苑のその言葉に北郷は喜んでいく。

 

「頑張れ」

 

「はぁはぁはぁはぁはぁ……」

 

 再び苦痛に襲われる雪蓮は何度も頷く。

 

「雪蓮……頑張る」

 

「そうじゃぞ」

 

 恋も美羽も必死になっていく。

 

「ねねも応援するです」

 

 両手をバタつかせながらも自分なりに励ましている音々音。

 

「持ってきたわよ」

 

 よほど急いだのだろうか、桃香、月、詠は息を切らしていた。

 

「すぐに並べてください」

 

 紫苑の指示に従う三人。

 

 その彼女も今は雪蓮の中から赤子をゆっくりと取り出していく。

 

「ああああああああああああああああああああああ…………」」

 

 雪蓮の大きな声と同時に紫苑は赤子を取り出した。

 

 そして……。

 

「オギャーオギャーオギャーオギャーオギャーオギャーオギャー………………」

 

 元気な泣き声が聞こえてきた。

 

 紫苑は月に温度を確認させてから産湯につけて赤子を洗っていく。

 

 その様子に見とれる一刀達。

 

 綺麗に洗い桃香が白い布で丁寧に拭いていく。

 

「北郷さん、おめでとうございます。女の子ですよ」

 

 微笑む紫苑から白い布に包まった我が子をゆっくりと抱かせてもらう。

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「雪蓮、俺達の子供だぞ」

 

 優しく抱いている我が子を雪蓮に見せる。

 

 疲れ切ってぐったりしている雪蓮は笑みを浮かべる。

 

「私と……一刀の子供……」

 

 苦痛を乗り越えてようやく対面することが出来た雪蓮の微笑みは母性を感じさせるものだった。

 

「ご主人さまと雪蓮の……」

 

 恋は優しそうな瞳で一刀に抱かれている赤子を見る。

 

「可愛いです」

 

 月の言葉には誰もが頷いた。

 

「とりあえずは雪蓮さん、大仕事お疲れ様です」

 

「ありがと……ぅ……」

 

 安堵の表情を浮かべながら雪蓮は眠りについた。

 

 体力の限界まで消耗してしまったために深い眠りについてしまった雪蓮。

 

「大丈夫です。少し疲れただけですから」

 

 紫苑が言うのならば大丈夫だろうと一刀は安心し、我が子を見た。

 

「しかし赤子というものはどうしてこう、猿に似ておるのじゃ?」

 

「「「「「あ〜……」」」」」

 

 誰もが思い、口には出さないでおこうと思っていたことを、美羽は何の躊躇もなく言ってしまった。

 

「それにしても女の子ですか」

 

 七乃の言い方に反応したのは詠といつの間にか戻ってきていた霞だった。

 

「まぁ一刀やしな」

 

「まったく」

 

「なんだよ、二人とも」

 

 あまりにも予想できていたことなので答える気力もない詠と霞。

 

「あれ、そういえば風達は?」

 

 赤子誕生に沸き立つ中で一刀は風、葵、琥珀の姿がないことに気づいた。

 

「琥珀ちゃん達ならさっき街へ行くって言っていたよ」

 

 桃香も街のどこに行ったかまでは知らなかった。

 

「おや、風達をお探しですか?」

 

 噂をすればなんとやら。

 

 風達は部屋の中に入ってきた。

 

「どこいってたんや?」

 

「この方をお迎えに行っていたのですよ」

 

 そう言うと横から華琳が出てきた。

 

「間に合わなかったわね」

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「どうしてここに?」

 

 部屋の中に入ってきて一刀に抱かれている赤子を興味津々で見る華琳。

 

「決まっているでしょう。お祝いよ」

 

「お祝い?」

 

「それについては風からご説明するのです」

 

 風の説明はいたって簡単だった。

 

 雪蓮が宛城で出産するとわかった時点でこっそり、風は華琳にもそのことを知らせていた。

 

 本当であればすぐに駆けつけるつもりだったが、魏王としての政務を片付けなければならず、それらがひと段落したのはつい十日前。

 

 馬を飛ばしに飛ばしてようやく南陽郡に入ったのは昼前。

 

 つまり陣痛が始まる少し前だった。

 

「でも来てくれて嬉しいよ」

 

「当然でしょう。あなた達の赤子は見ないといけないわ」

 

 天と孫家の血を受け継ぐ第一子。

 

「雪蓮は?」

 

「今は眠っているよ。だから静かにね」

 

 赤子も落ち着いたのか静かに眠っていた。

 

「可愛いわね」

 

「そりゃあ、俺と雪蓮の子供だぞ」

 

 完璧に惚気ている一刀に苦笑する華琳。

 

「お祝いの品も届くから楽しみにしていなさい」

 

「ありがとう」

 

 感謝する一刀。

 

「ところでこの子の名は決まったの?」

 

「それは雪蓮が起きた時に話すよ」

 

「そう」

 

 二人の子供ということが華琳を羨ましがらせたが、そんな素振りを見せるわけにはいかなかった。

 

「これが一刀と雪蓮の赤子」

 

 冥琳は羨ましそうに赤子を見ていた。

 

「冥琳、もしよかったら抱いてみる?」

 

「それは嬉しいことだがやめておくわ。雪蓮より先に抱いたら後で文句を言われるわよ」

 

 ひどくおかしそうに笑う冥琳に一刀はそれもそうかと思った。

 

「それにどうせ抱くなら自分の子を抱きたいわ」

 

 遠回りに冥琳は一刀に催促をしているように思えた。

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 翌日。

 

 長いこと眠ったために体力が少し回復した雪蓮は初めて我が子をその手で抱くことが出来た。

 

 誰もが順番にその様子を見ては羨ましそうにしていた。

 

「名前はどうしようか?」

 

「それなら決めているわ」

 

 雪蓮は愛しそうに我が子を抱きながら名を付けた。

 

「この子の名は紹」

 

「しょう?」

 

「ええ。孫紹よ」

 

 一刀はそこで気づいた。

 

「孫の姓にするのか?」

 

「そうよ」

 

 北郷ではなく孫にした理由。

 

「次の世代を引っ張っていくには孫家のほうがいいのよ」

 

 北郷を名乗るのはあくまでも自分達だけだと主張しているようにも一刀は思えた。

 

 だが雪蓮らしいと思えたのでそれに決めた。

 

「孫紹。俺と雪蓮の大切な娘」

 

 穏やかに眠っている娘の頬を軽く指で突付いていく一刀。

 

「雪蓮もこれで母親ね」

 

 冥琳は二人の様子を見ながら次は自分が産みたいと思っていた。

 

 だがそれはこの場にいた側室となる者達全員が思っていた。

 

「しかし、二人とも子煩悩になりそうやな」

 

「間違いなくそうなりますね。ちなみに風も子を宿せばそうなりますよ」

 

 風はまだ一度も一刀を受け入れていないが、お腹の辺りをさすってみせた。

 

 それを見て葵もそれとなく自分のお腹を見た。

 

「それで親になった感想はどうかしら?」

 

 華琳に言われ、二人はお互いの顔を見た。

 

「そんなの決まっているわ♪」

 

「そうだな」

 

 満面の笑みを浮かべる二人を見て華琳は十分すぎるほど納得した。

 

「はいはい。聞いた私が馬鹿だったわ」

 

 そう言いながらも心から二人を祝福する華琳だった。

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(座談)

 

水無月:え〜〜〜、まずはごめんなさい!

 

冥琳 :?

 

水無月:正直、出産シーンは想像です。

 

冥琳 :確かに、あなたでは難しすぎたわね。

 

水無月:いろんなサイトを参考にしましたが、コレが限界でした……orz

 

冥琳 :こればかりは本当に想像でしか無理ね。

 

水無月:女性にとってはいつかは体験すること、男性にとって未知の世界。まさにそれが出産です。

 

冥琳 :そうね。私も近いうちに体験したいわね。

 

水無月:まぁその辺は一刀にでも相談ということで。

 

冥琳 :次回でいよいよ第二期も終わりね。

 

水無月:そうですね。次回は少し長めの予定なので。

 

冥琳 :そう。

 

水無月:それが終わればいよいよリクエストSSのほうになります。

 

冥琳 :無理しない程度に頑張りなさい。

 

水無月:了解です。

説明
臨月を迎えた雪蓮。
そして久しぶりに一刀と再会する月達。
宛城でのもう一つの再会。
出産に駆けつける華琳。

今回は未知のことなのでかなり作者は混乱していますが、ご了承ください。
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コメント
おめでとうございます。しかし、一刀にはこれから側室全員からのアプローチがまってるんでそこはうらやま…じゃなくて御愁傷さまww(ロックオン)
おめでたやな雪蓮と一刀。(杉崎 鍵)
おめでとう雪蓮。頑張れ一刀。君は今から側室達の猛アタックに晒されるだろうから。(トーヤ)
出産シーンならラマーズ法は必須でしょう!ひ!ひ!ふー!(ゲスト)
出産おめでとうございます。次回で2章も終わりですか。次の3章からは親子の生活ですね(cyber)
おめでとう!!孫呉にベビーブーム到来!!(tyoromoko)
おめでとう!!  呉には何人の子供が生まれるんでしょうかwww(キラ・リョウ)
おめでとう!・・そして詠・・俺を萌え死にさせる気かww(悪来)
出産おめでとう!第一子は女の子か、男の子は生まれるのかな?(yuu)
臨☆月☆出☆産\(?▽`)ノそれにしても一刀のバカwこういう時はラマーズ法でしょ、しっかりしてよwwwでもよかったあ無事出産できて〜(まーくん)
出産おめでとう!!(絢風 悠)
混沌様>第二子はあの人の子供です!(ナニ(minazuki)
仁様>誤字報告ありがとうございます(><)(minazuki)
ルーデル様>ベビーラッシュです!(minazuki)
最上那智>詠もツン子からデレ子に(^^(minazuki)
タンデム様>雪蓮達はきっと喜んでいます(^^)(minazuki)
斑鳩様>これからも一刀が大暴れ?(笑)(minazuki)
村正様>ヽ(*´▽`*)人(*´▽`*)人(*´▽`*)ノ(minazuki)
asf様>ヽ(*´▽`)人(*´▽`*)人(´▽`*)ノ (minazuki)
フィル様>ヽ(*´▽`)人(´▽`*)ノ(minazuki)
munimuni様>ヽ(*´▽`)ノ(minazuki)
toto様>ありがとうございます(><)(minazuki)
Poussiere様>ようやく生まれました(*´▽`)(minazuki)
一刀の第一の娘誕生オメデトォ〜〜!!第二は誰が授かるのかwww(混沌)
motomaru様>蓮華はもちろんきたかったはずですよ(^^(minazuki)
舜焔 様>誤字報告ありがとうございます(><)(minazuki)
brid様>愛しき者同士だから、自然とできることです(^^(minazuki)
nanashiの人様>( ・ω・)b(minazuki)
5ページの14行目は誤字ですか? →「詠ちゃんは本当にお義兄さまんことが好きなんです」 (DUAN)
おめでとー!!さあここから呉のベビーラッシュが始まるんですねww(ルーデル)
一刀さん、雪蓮さんおめでとうさんです。それと、詠可愛いよ詠(最上那智)
おめでとぉっ!!!!!(タンデム)
出産オメデト〜 これからも期待しております(斑鳩)
おめでとう(・∀・)(温泉まんじゅう)
やっと生まれた 大感動(asf)
オメデトーw(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ(フィル)
良い話を読ませていただきましたw(toto)
無事生まれて良かったです! さて・・・・次回・・・どうなるのか〜愉しみですね^^w(Poussiere)
無事生まれてなによりですね^^たぶん蓮華も立ち会いたかっただろうね〜〜。(motomaru)
も、桃香様→と、桃香様 じゃないですか?(舜焔)
そうですよね、本とに未知のせかいですもんね〜でも最後の、見つめあうシ−ン−はなんかいいな〜(brid)
ぶらぁぁぁぁぁぁっぁああぼぉぉぉぉっぉおっぉおぉっぉぉぉぉl(nanashiの人)
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