真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side典韋)〜 第零回 プロローグ
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『天界より遣はれし白き英雄、一なる世を救ひけり。然れと休む事能はず。未た救はれぬ世数多並列せり』

 

―――稀代の占師・管輅の出した予言より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【荊州、南陽郡、宛城】

 

 

冬も中頃、日が落ちるのもすっかり早くなった時分、寒空の夜闇に浮かぶは、立ち込める黒煙と、燃え揺らぐ真っ赤な炎。

 

宛城は燃えていた。

 

 

 

「華琳様、お体の方は大丈夫ですか?」

 

「ええ、流琉がいち早く気づいてくれたおかげで大事ないわ」

 

 

 

しかし、そのように激しい炎に包まれる城内を、二人の少女が脱出を図るべく、全力で駆けていた。

 

一人はブロンドの髪を両サイドで縦ロールに巻き上げ、紫紺を基調にした服に紫のスカートをはいた少女。

 

曹操軍の君主、曹孟徳その人である。

 

普段ならその碧眼には他者を圧倒する絶対的覇王の鋭さを放つ眼光が宿るはずだが、今となってはそのなりを潜めている。

 

もう一人は、短めのエメラルドの髪に、瑠璃色の大きなリボンで前髪を上げ、橙色を基調にした、

 

へそ上まで丸見えな、丈の非常に短いトップスに、黒のローライズスパッツをはいた、小柄な少女。

 

曹操軍の親衛隊を務める、 “悪来” 典韋である。

 

彼女は体中を煤で汚しながら、途中敵兵から奪った槍を片手に曹操を先導していた。

 

 

 

「やっぱり張繍は、華琳様が胡車児さんを引き抜こうとしていたことが気に入らなかったんでしょうか」

 

 

 

現在、曹操と典韋がこのような窮地に立たされているのは、張繍の居城である宛城に招かれた際、

 

突然、張繍軍から夜襲を受けたからあった。

 

張繍軍と曹操軍はつい最近まで対立していたものの、これ以上の対立は無益と、張繍が降伏の意を示し、

 

曹操軍に降って間もないことであったが、典韋が予想するように、曹操が張繍軍随一の猛将であり、

 

軍中一の美しさをも兼ね備えた胡車児を引き抜こうと、曹操が手を出した(主に性的な意味で)ことが、

 

張繍にとって許しがたい行為であったと思っている節が見受けられていたため、

 

今回、曹操に夜襲を仕掛けたのではと推測するのは至極当然のことであった。

 

 

 

(本当にそれだけで自分の城に火を放つかしら・・・何か他の誰かの思惑があるのでは・・・)

 

 

 

しかし、曹操は典韋の推測に疑問を投げかけた。

 

確かに、たとえ胡車児が張繍にとって大切な存在であり、それが曹操に奪われるのが耐えられなかったから、

 

曹操を襲ったというのは理解できるが、そのために張繍は自らの居城に火を放っているのである。

 

これではどう考えても採算が合わない。

 

それなら、誰か他の人物の思惑によって自分の命が狙われていると考えた方がまだあり得る話であると言えた。

 

 

 

「「「死ねぇ曹操ぉおおおおおおお!!」」」

 

「でええええええええいっ!」

 

「「「がはっ・・・・・・ぐへぁ!」」」

 

 

 

しかし、そのようなことを考えている最中も、当然敵は曹操の首を狙ってくるわけで、

 

前方から曹操を狙って三人の張繍軍の兵士が跳び出してきたが、典韋は手にした敵兵の槍を片手で振り回し、

 

三人まとめて城壁に叩き付け、続けざまに三人まとめて串刺しにしてしまった。

 

 

 

「とにかく城からの脱出を優先しましょう。考えるのはそれからでも遅くなくてよ」

 

「はい!」

 

 

 

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【荊州、南陽郡、宛城・本殿】

 

 

ここは宛城の中でも火の回っていない本殿にあたる建物。

 

その中に、張繍軍の兵士が現状を報告すべく駈け込んで来た。

 

部屋の中には二人の人物がいるようである。

 

 

 

「申し上げます!曹操、未だ討ち取れず、典韋と共に城外への脱出を図っている模様!」

 

「まぁ、当然そう簡単にはやられてくれないでしょうね」

 

 

 

兵士が慌てた様子で報告するのに対して、しかし報告を受ける人物の一人は一切の焦りを見せない。

 

辺りが暗いせいか目元で煌めく眼鏡以外、その姿ははっきりとしないが、その声色から女性である事が窺えた。

 

 

 

「ね、ねぇ、本っ当に大丈夫なのでしょうね?万が一、ここで曹操を取り逃がすようなことがあっては、劉表への手土産もなくなって、

 

わたくしは文字通りすべてを失うことになるのよ?」

 

 

 

しかし、冷静に兵士の報告を聞いていた先ほどの眼鏡の女性とは対照的に、やや上品な物言いの

 

―――こちらもその声色から女性であると窺えるが―――もう一方の女性は、明らかに慌てた様子で大丈夫なのかと尋ねた。

 

 

 

「張繍様、ご心配には及びません。ここまではボクの想定通りです」

 

 

 

そのような落ち着かない様子のやや上品な物言いの人物、張繍に対して、眼鏡の女性は想定通りであると説明し、落ち着かせようとする。

 

 

 

「曹操、アンタだけは絶対に許さない・・・」

 

 

 

そして、眼鏡の女性は曹操に対して思うところがあるのか、拳が軋むほど握りしめながら、恨み言を呟いた。

 

 

 

「胡車児、そろそろボク達の出番よ」

 

「・・・御意」

 

 

 

すると、眼鏡の女性が胡車児という名の人物を呼ぶと、突然二つの白い眼光が暗闇の中に浮かび、

 

何か布で覆われたような籠った声色で了承の意を伝えた。

 

 

 

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【荊州、南陽郡、宛城】

 

 

「華琳様!もうすぐ城門に着きます!頑張ってください!」

 

「ええ・・・」

 

 

 

曹操と典韋はその後も敵の攻撃を難なく跳ね返し、ようやく城門にたどり着こうとしていた。

 

どうやら城門辺りはまだ火の手が回っていないようであった。

 

二人は炎により少しの火傷はあったものの、敵の攻撃による負傷はなく、このまま城外に脱出できれば、

 

当然その後の追手のことも想定できるが、取り敢えずは一難去ると言えた。

 

 

 

(こんなに簡単に逃げ切れるものかしら・・・あまりにもお粗末・・・)

 

 

 

しかし、そのような状況になってもなお、曹操は一抹の不安を拭い去れずにいた。

 

張繍が自分の居城に火を放ったということ。

 

それに加え、敵の攻撃の緩いこと。

 

あまりにも穴だらけの策に、むしろ裏があるのではと曹操が思案しようとした、その刹那、

 

 

 

「放てぇえええええええええええ!!!」

 

 

 

城門周辺に突然複数の弓兵が現れ、曹操たちに対して弓を放ったのであった。

 

 

 

「チッ、やはり伏兵―――!」

 

 

 

偶然曹操が思案に集中しようとしていたタイミングでの伏兵出現だったため、

 

一瞬反応の遅れた曹操は、避けるのが間に合わず、あえなく弓矢の餌食となってしまった。

 

弓兵たちの誰もが曹操が矢の筵と化した姿を目撃し、自分の矢が曹操を射抜いたと口々に喜びの声を上げようとした。

 

そうなるはずであった。

 

しかし、

 

 

 

「華琳様!!!!」

 

 

 

矢が曹操の体を射抜くよりも早く、典韋が曹操の前に躍り出、手にした槍で矢を叩き落としてしまった。

 

 

 

「ガッ―――かふ・・・ごぱぁっ!」

 

「流琉!!!」

 

 

 

しかし、矢の数は到底一薙ぎで打ち落とせる数ではなく、打ち漏らした数本の矢はそのまま典韋の小さな体を貫いてしまった。

 

矢で貫かれた典韋は、膝をつくと、口から大量の鮮やかな赤い液体が零れ落ちる。

 

 

 

「もうアンタは終わりよ曹操。諦めてボクにその首を差し出せ」

 

 

 

すると、弓兵たちが新たな矢をつがえて構える中、一人の女性が暗がりからゆっくりと前に歩み出て、曹操に最後通告を突きつけた。

 

緑がかった長い髪を両サイドで三つ編みに結い、黒の軍師帽をかぶり、白を基調にした服に、

 

黒のプリーツミニスカート、黒のタイツ、黒のロングブーツをはいた眼鏡の少女。

 

そのレンズ越しに映る鳶色の瞳には、冷徹な印象の影に、燃えるような強い殺意の情が現れている。

 

 

 

「あなたは・・・賈駆・・・?」

 

 

 

曹操はその眼鏡の少女に見覚えがあるらしく、元董卓軍軍師にして、現在は張繍も軍師である賈駆の名前を出した。

 

 

 

「なるほど、すべて合点がいったわ。今回の謀叛も、すべてあなたが張繍を唆して起こしたことのようね」

 

 

 

そして、賈駆の姿を確認したその瞬間、曹操の頭の中で納得のいく一つの答えが導き出された。

 

賈駆が元董卓軍であること、そして、董卓を自分が討ち取ったこと。

 

つまり、賈駆は曹操に対して大いに恨んでおり、曹操を殺すためなら手段を選ばないことも、

 

ある程度想像がつくし、張繍が自らの居城に火をつけたのも、張繍が普段から賈駆に頼りきりであることから、

 

賈駆が張繍を言いくるめたとすれば、まだ納得のできることであった。

 

城門まで容易くたどり着けたことについては、目の前の現れた賈駆と伏兵を見れば一目瞭然である。

 

 

 

「ボクはアンタの首を董卓の墓前に供えるまで絶対に許さない」

 

 

 

賈駆は曹操のことをじっと睨み続け、静かな恨みの籠った呪いの言葉を吐き捨てる。

 

 

 

「ふ、やはりあの時、あの甘ったれた逆賊と仲良く一緒に殺しておくべきだったかしらね」

 

 

 

しかし、絶体絶命の状況にもかかわらず、曹操はまったく怯んだ様子を見せず、逆に賈駆を挑発した。

 

下手に出ても無意味なことは分かっている。

 

ならば、最後まで自分らしく堂々としているべき。

 

それでこそ覇道を突き進もうと決めたもののあるべき姿。

 

自身の得物、巨大な死神鎌「絶」も、元々戦う予定もなかったため持ち合わせておらず、

 

これだけの伏兵相手に対抗するすべの見いだせない曹操は、半ば死を覚悟しつつも、その志だけは捨てまいとした。

 

 

 

「言いたいことはそれだけ?」

 

 

 

そのような曹操の挑発に、賈駆はつまらないものでも見るような軽蔑の眼差しを向け、一言、呟いた。

 

 

 

「胡車児」

 

「・・・御意」

 

 

 

賈駆が胡車児の名を呼ぶと、城壁辺りの暗がりに二つの眼光が浮かび上がり、賈駆の隣へと飛び降りてきた。

 

松明に照らされ姿を現したのは、頭から口元含め、全身を黒装束に包み込まれた女性であった。

 

その全身黒装束の人物が女性であると判断できるのは、その胸部が非常に豊かなためであった。

 

そして、張繍軍随一の猛将たる胡車児は、陰陽対極図の描かれた大きな円盤状のものを担いでいた。

 

 

 

「流琉の伝磁葉々・・・そう、あなたが・・・手癖が悪いようね」

 

 

 

それは、本来典韋が持っているはずのもの、巨大なヨーヨー型の得物「伝磁葉々」であった。

 

というのも、曹操と典韋が張繍に宴に招かれた際、何者かに奪われ、

 

探す間もなく夜襲を受けたため、典韋は敵から奪った槍を手に脱出を図る羽目になっていたのである。

 

 

 

「・・・去ね」

 

 

 

そして、胡車児は静かに短く死の宣告をし、電磁葉々を曹操目掛けて放った。

 

通常、典韋ほどの規格外の怪力の持ち主でないと扱えない重量を誇る得物を、しかし胡車児は軽々と放ってみせた。

 

そのまま、何の障害もなく、一直線にヨーヨーは曹操の体を破壊すべく直行する。

 

しかし、

 

 

 

「はぁあああああああああああ!!!」

 

 

 

巨岩すら軽々と打ち砕くほどの超ド級の一撃が、曹操の命を刈り取ろうとしたその時、複数の矢に射抜かれ、

 

重傷を負っている典韋が再び曹操の前に立ち上がり、胡車児の放った一撃をその小さな体で受け止めた。

 

 

 

「・・・!?」

「流琉!!」

 

 

 

典韋の予想外の行動に、止められるはずのない攻撃を受け止められた胡車児が、

 

唯一見えている二つの眼光に驚きの色を見せたのは勿論の事、死を覚悟していた曹操も驚きの声を上げた。

 

 

 

「華琳様、ごめんなさい・・・!」

 

「え・・・ちょっと流琉―――きゃっ!?」

 

「・・・どうかご無事で・・・」

 

「流琉、いったい何を―――」

 

「とぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!」

 

「きゃぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!??」

 

 

 

そして、この場の全員が驚愕で動きか停止している中、典韋は静かに曹操に謝罪の言葉を告げると、

 

曹操を担ぎ上げ、城門の上目掛けて投げ飛ばしてしまった。

 

典韋の行動に思考が追いつかない曹操は、生まれて初めて体験するようなスピードと浮遊感にただ悲鳴を上げることしかできず、

 

そのまま城門を飛び越え、場外へと落ちていった。

 

 

 

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【荊州、南陽郡、宛城外】

 

 

「――――――ッ痛・・・流琉・・・流琉!!!」

 

 

 

生まれ持っての身体能力の良さが幸いしたのか、混乱の中上手に受け身をとって地に降りることに成功した曹操は、

 

ジンジンする全身の痛みに震えながらも、今起きた出来事を瞬時に整理し理解し、

 

固く閉じられた城門を叩き、その内にいる愛すべき大切な部下の名を叫んだ。

 

 

 

「そ、曹操だ!!」

 

「何で空から降って来たんだ!?」

 

「そんなことはどうでもいい!仕留めるぞ!!」

 

「「「応っ!!」」」

 

 

 

しかし、曹操が城内から空を飛んで落ちてきたことは当然外にいる張繍兵たちに目撃されてしまっており、

 

驚きながらも、我こそ討ち取らんと、次々に曹操に襲い掛かって来た。

 

 

 

「チッ・・・流琉・・・・・・!!」

 

 

 

今すぐにも典韋を助けたいものの、丸腰の今の状態でみすみす殺されていては、

 

何のために典韋が体を張って自分を逃がしてくれたのか分からない。

 

曹操は唇が切れるほど強く噛みしめながら舌を打ち、今は典韋の意志を汲み生き延びるときと、

 

張繍軍の攻撃を掻い潜るべく、立ち向かうのであった。

 

 

 

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【荊州、南陽郡、宛城】

 

「悪来典韋・・・何て滅茶苦茶な力なの」

 

 

 

一人の人間を場外へ投げ飛ばすという前代未聞の離れ業を目にし、

 

賈駆は驚きと感心とあきれが混ざったような、非常に表現しにくい表情で感想を述べた。

 

一方、目下の獲物である曹操がいなくなり、伏兵たる弓兵たちは騒めき合っている。

 

 

 

「・・・曹操様は討たせません」

 

 

 

典韋は曹操を逃がしたことで力を使い果たしたのか、膝を突き、手にした槍で何とか体を支えているといった状況であった。

 

 

 

「・・・追撃」

 

「いいえ、その必要はないわ」

 

 

 

しかし、すぐさま胡車児が曹操を追いかけようと城壁の上へ跳び上がろうと構えるが、

 

賈駆は追いかける必要はないときっぱり言い切り、典韋の元へゆっくりと歩きながら見下した。

 

 

 

「外の兵士だけでは逃げられてしまうだろうけど、むしろ好都合よ。アンタを殺してその首を曹操に送ることにするわ。大切な人を失う

 

苦しみを曹操に味合わせてあげるんだから」

 

 

 

それはかつて、賈駆自身が味わった絶望。

 

目の前で愛すべき董卓を曹操に殺された、忘れようもない地獄。

 

目には目を歯には歯を。

 

絶望には同等の絶望を。

 

 

 

「ま、アンタが曹操にとってどれほど大切かは知らないけどね」

 

「・・・構え」

 

 

 

そして、胡車児がポツリと号令をかけると、周囲の弓兵たちが一斉に典韋目掛けて弓を構え直した。

 

 

 

(華琳様・・・どうやら私はここまでのようです・・・)

 

 

 

数十本もの矢じりを自身に向けられ、もはや体の動かせない典韋は静かに死を悟った。

 

すると、脳裏に次々と大切な人の顔が浮かんでくる。

 

これが走馬灯というやつかと典韋はぼんやりと感じていた。

 

最初に浮かんだのは曹操。

 

自らが命を賭すに値すると認めた、いずれ大陸を統一すべき主君。

 

 

 

(秋蘭様・・・もっとたくさんお話して、たくさん学んで、秋蘭様のように強く、美しくなりたかったです・・・)

 

 

 

次に浮かんだのは夏侯淵。

 

破天荒な姉、夏候惇をものともせず巧みに補佐する姿にあこがれを抱いた、姉のように慕う大切な上司。

 

 

 

(季衣・・・もうご飯作ってあげられないよ・・・ごめんね・・・)

 

 

 

そして次に浮かんだのは許緒。

 

同じ親衛隊を務める同僚であり、無二の親友でもある、かけがえのない存在。

 

さらに次々と魏の面々の姿が脳裏に浮かんできた。

 

夏候惇、張遼、楽進、李典、于禁、荀ケ、程c、郭嘉・・・すべてが愛すべき大切な仲間たち。

 

 

 

(・・・・・・まだ・・・死にたくないよぉ・・・)

 

 

 

すると、それらの走馬燈が消え、弓兵に囲まれた現実世界へ戻って来た典韋の脳裏に残ったのは、

 

そのような飾ることのない、純粋で、素直な、生物が本来的に持つ、生存本能にのっとった心からの叫びであった。

 

 

 

(・・・・・・天の御遣い様・・・!)

 

 

 

そして、最後に無意識のうちに助けを求めたのは、曹操でも、夏侯淵でも、許緒でも、

 

まして魏の誰でもなく、かつて、どこぞの占い師が予言したという、乱世を収める英雄であった。

 

元々典韋は占いの類は、占いを好む女性が多い例に違わず、割と好きなほうではあったが、

 

それでも好きであっても信じているかと聞かれたらそれほどでもないという程度であった。

 

それでも、典韋は知らず知らずのうちに、存在するかもわからない御遣いに頼っていた。

 

 

 

「・・・放て」

 

 

 

そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカーーーーーーーン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡車児の号令で、弓兵たちが一斉射撃を開始しようとした次の瞬間、突然空から光り輝く物体が飛来し、宛城内へと墜落した。

 

 

 

「くっ・・・いったい何が起こったの・・・?」

 

「・・・誰かいる」

 

 

 

轟音と共に土煙が舞い上がり、賈駆も胡車児も張繍兵たちも、何が起こったのか理解できず、

 

衝撃から身を守ろうと、典韋を討ち取るどころではなくなっていた。

 

そして、しばらくして土煙が晴れ、視界が良好になると・・・

 

 

 

「な・・・馬鹿な・・・!?」

 

「・・・逃げた」

 

 

 

地は抉れ、城壁の一部が壊れているという凄惨たる状況の中、傷ついた典韋の姿はそこから消えていた。

 

 

 

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「が・・・かはっ・・・けほっけほっ・・・・・・・・・!?」

 

 

 

典韋は何かの飛来による衝撃で遠くの城壁まで吹き飛ばされてしまい、

 

ぶつかった衝撃で呼吸が止まり、次いで血反吐を何とか吐き出し気道を確保する。

 

 

 

「いてててて・・・くそ・・・何がどうなっているんだ・・・おい、貂蝉!どういうことか説明―――ん?何だか凄く柔らかくて気持ち

 

いい感触に包み込まれているような・・・?」

 

 

 

すると、典韋はそばで何者かがうごめき、ぶつぶつとつぶやいている声を聞いた。

 

 

 

「き・・・」

 

「き・・・?」

 

 

 

そしてその何者かは、どのようにしてそうなったのか、典韋の短いローライズスパッツに包まれたお尻に、

 

見事に顔面をフィットさせる形で倒れ込んでいたのであった。

 

 

 

「きゃぁーーーーーーーーーっっっ!!??」

 

「ぶへらぼぞえゃ!?」

 

 

 

瀕死の体の典韋ではあったが、その時ばかりは本能が赴くままに、

 

反射的にその謎のセクハラの塊に対して渾身の右ストレートを繰り出し、殴り飛ばした。

 

まだ土煙の立ち込める中、かすかに見えたのは、見たことのないような白い衣に身を包んだ青年の姿であった。

 

 

 

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「がぱっ・・・・・・な、何なんだいったい・・・」

 

 

 

訳が分からなかった。

 

呂布たちと共に見事大陸を統一して間もなく、北郷の目の前に、ピンクのビキニパンツ一丁のガチムチ変態辮髪オカマ野郎、

 

という悪夢が現れると、訳の分からないことを言われ、気が付いたら知らないところにいて、

 

けど何だか幸せな感触に包まれたかと思うと、誰かの本気のグーパンを鳩尾にくらう、といったのが今北郷に起きた一連の現状である。

 

頭の中でそれらの状況を整理しても、頭がおかしくなってしまったのではと思える北郷は、

 

腹の辺りを抑えながら、ぼんやりと霞みゆく視界で何とか状況を把握しようと目を凝らすと、

 

目の前にエメラルドグリーンの髪色の小柄な少女の姿を捕えることができた。

 

 

 

「・・・・・・ねね・・・?」

 

 

 

しかし、徐々に視界がはっきりしていき、目の前にいる少女が陳宮ではないことに気づく。

 

そしてその人物の事を、北郷は知っていた。

 

 

 

「・・・じゃない・・・君は確か・・・典韋・・・?」

 

 

 

それは曹操軍の親衛隊長の姿。

 

かつて呂布たちと共に大陸統一を目指して幾度となく戦った、小柄で、しかし誰よりも力強い猛将の姿であった。

 

 

 

「・・・そうです。我が名は典韋。あなたはいったいどこの誰なんですか?なぜ空から降って来たのですか?どうして、その、わ、私の、

 

お、お尻に・・・」

 

 

 

典韋もまだ何が何だか状況がさっぱり理解できていないようで、北郷に対して質問攻めをするが、

 

最後の質問が自分で言って恥ずかしくなったのか、最後まで言い切ることなく黙り込んでしまう。

 

 

 

(典韋って、だってそんな・・・)

 

 

 

目の前の人物が典韋で確定したものの、状況は何ら進展していない。

 

北郷は辺りを見回してみる。

 

そこら中で黒煙が立ち込め、火の手が上がっている。

 

しかも、土煙が徐々に晴れていく中、大量の弓兵に囲まれていることに気づいた。

 

 

 

「何だか分からないけどヤバイ状況だっていうのは分かったよ」

 

 

 

何一つ状況が理解できない北郷ではあったが、この現場が絶体絶命の状況であるということだけは、

 

長年の経験から瞬時に判断し、さらに北郷は周囲を観察すると、一か所、城壁が崩れている所があることに気づいた。

 

近くには小規模なクレーターのようなものもあり、自身が空から降って来たというのなら、

 

恐らく自分が城壁を巻き込んで突っ込んだのかっていうかオレ体丈夫過ぎじゃね?などと適当に考えるが、

 

そのようなツッコミはとりあえず頭の隅に押し込み、北郷は腹をさするのをやめ立ち上がった。

 

 

 

「きゃ!?」

 

 

 

そして、典韋の元に駆け寄るとそのままお姫様抱っこをし、崩れた壁からの脱出を図った。

 

幸い、まだ周囲の弓兵たちに動きはない。

 

 

 

「典韋、ここはいったいどこなんだ?」

 

「・・・宛城じゃないですか・・・あなたは、自分がどこにいるのかもわからないんですか?」

 

 

 

典韋は北郷にお姫様抱っこをされ、顔を真っ赤に恥ずかしそうにモジモジするものの、

 

そもそも体は限界を裕に越しており、当然抵抗する力もなく、ただ北郷の問いかけに弱弱しく答えるしかできなかった。

 

 

 

(典韋・・・宛城・・・その組み合わせってまさか・・・)

 

 

 

典韋、宛城、そして今置かれている絶体絶命という状況というキーワードから、北郷は一つの絶望的未来を思い描き、顔を青ざめさせた。

 

その刹那、北郷の頭の中でピンクのビキニパンツ一丁のガチムチ変態辮髪オカマ野郎、貂蝉の言葉がよぎった。

 

 

 

<ここの外史は救われたけれど、まだまだご主人様には体を張ってもらわなくちゃダメなのよ♪>

 

 

 

(恋、ねね、霞、なな、みんな・・・オレ、いったいどうなっちゃんたんだよ・・・)

 

 

 

北郷は徐々に状況が理解できつつも、そこには不安しかなく、呂布ら仲間たちの顔を思い浮かべながら、

 

ただ、典韋を抱きながら走ることしかできなかった。

 

乱世を治世に導く天の御遣い、北郷一刀の第二の外史が、今、幕を開けた。

 

 

 

【真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side典韋)〜 第零回 プロローグ 終】

 

 

 

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あとがき

 

 

御遣い伝説side典韋編の第零回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

さて、このお話は作中でも言及されているように、side呂布軍の後日譚となっております。

 

今回のヒロインは曹操軍が誇る特急厨師、悪来典韋、流琉ちゃんでございます。

 

なぜ数ある恋姫の中から流琉ちゃんを選んだのか。それはひとえに私の趣味というほかありませんが、

 

御遣い伝説というお話の土台が、死の運命を一刀君が変えるっていうのが元々でして、

 

早くに退場してしまった典韋に照準を定めたといった感じの言い訳をしておきます。

 

そして今回のボスキャラは詠ちゃんです。もし史実通り月が討たれ、詠が生き残っていたらという想定です。

 

復讐の炎に燃える詠ちゃんというのもまた、良い色が出ると思うのですがいかがでしょうか?

 

そしてオリキャラの胡車児さん。見た目ガチのくノ一です。

 

華琳様が張繍軍から引き抜こうと性的に手を出してしまったことが今回の事件の引き金です。華琳様、アンタって人は、、、

 

 

それでは最後に本作の投稿ペースについて、

 

side呂布軍との同時投稿になるのですが、御存じの方いらっしゃるかもしれませんが、

 

現在side呂布軍のお話のストックがすっからかんとなっております。

 

ですので、このside典韋については新作ができ次第投稿という不定期投稿の形をとろうと思っております。

 

忘れた頃に投稿の様な形になると思いますので、もし見かけたら気楽な気持ちで目を通していただければ幸いです。

 

 

それでは、またどこかでお会いしましょう!

 

 

 

ついに気を失ってしまった流琉を抱いたまま逃げる一刀君。果たして、詠・胡車児の追撃を逃れられるか、、、!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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北郷「ローライズスパッツ越しに感じる柔らかな温もりがぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

清々しい朝の陽光に照らされた成都城内にある北郷の寝室で、北郷はそのような変態的発言を叫んでいた。

 

 

 

??「ふにゃ?」

 

 

 

そして、そのような奇声を朝っぱらから上げるものだから、北郷の傍で眠っていた人物が妙な声を上げてびくっとした。

 

 

 

北郷「ヤバッ」

 

 

 

その刹那、北郷は我に返る。

 

夢の世界から現実の世界に舞い戻ってくる。

 

自身の隣で、陳宮が幸せそうに眠っていることを思い出す。

 

 

 

北郷「ね〜んね〜んころ〜りよ〜〜〜おころ〜り〜よ〜〜〜」

 

陳宮「ふにゃふにゃ」

 

 

 

そして、北郷は何を思ったのか、陳宮を起こさぬよう耳元で下手くそな子守歌を囁きかけると、

 

陳宮は口をむにゃむにゃさせると、再び安らかな夢の中へ帰っていった。

 

 

 

北郷「ふぅ、危なかった・・・」

 

 

 

意外とあっさり陳宮が眠った姿を見ながら、まさか自身の子守歌が効くとは、何て単純な奴なんだと北郷は胸をなでおろした。

 

 

 

北郷「ていうか、またこのパターンかよ・・・二度あることは三度あるってか・・・本編滞ってるのに何考えてんだよまったく・・・」

 

 

 

陳宮が再び眠りについたことを確認すると、北郷は独り言をつぶやくように、神のみぞ知る意味不明な言葉を独りごちた。、

 

 

 

北郷「さて、今年のエイプリルフールはどうしたものか・・・」

 

 

 

今日は4月1日。

 

北郷が元いた世界でいう、エイプリルフール。

 

そのようなイベントを浮かべながら北郷は陳宮を見つめた。

 

 

 

陳宮「むにゃむにゃ・・・き、きょうは・・・だめなひ・・・なのれすが・・・かずとどのが・・・どうしてもと・・・いうなら・・・」

 

北郷「・・・・・・・・・ローライズスパッツをはいた女の子とイチャつかないと死んでしまう病・・・コレダナ」

 

 

 

そして、顔を赤らめながらニヤニヤと幸せそうに寝言を呟く陳宮の頭を優しく撫でながら、

 

悟りを開いた、どこかの崇高な賢者のような無心の表情を浮かべ、華佗に協力を仰いでの、毎年の如く、

 

非常に残念なエイプリルフールプランを淡々と組み上げる北郷なのであった。

 

 

 

 

 

 

【真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 特別編 えいぷりるふ〜る3 終】

 

 

 

-11ページ-

 

 

 

あとがき

 

 

 

はい、という訳でここからが本当のあとがきでございます。

 

今年で3回目となるエイプリルフール企画。美羽、南蛮ズと来て、3回目は流琉ちゃんでした。

 

この人選については本当に深い意味とかはなく、単純に息抜きがてら、書きたい娘を書いているだけで、

 

それがたまたま流琉ちゃんになっただけの事でした。

 

この娘は他のちびっ子たちと一線を画す良い子で、ローライズスパッツが素t―――とにかく魏軍でもお気に入りの子なんです!

 

まぁ実際side呂布軍を書き終えた後は、月を殺され復讐に燃える詠なんていうのも書いてみたいなぁとか思って、

 

今回の話まんまのものを考えていた時期もあって、それを今回そのまま形にしたというような感じになっております。

 

〆にねねを持ってくるのはお約束ということで 笑

 

 

それでは、また次回からは通常通りside呂布軍を投稿します。

 

が、ここで非常に申し訳ない発表が、

 

第五章パートBの最初の方は出来ているけど、全部出来てないから4月まで待ってと言ってましたが、

 

書いている時に致命的なミスが見つかってしまいまして、現在パートB全編修正中でございます。

 

(話的にはあと2〜3回で五章のエピローグを迎えそうです)

 

なので4月中に投稿再開するということでご容赦願いたく、

 

(エイプリルフール企画も、このお詫びを言うためと、生存報告を兼て、本編の執筆止めて投稿させてもらっています)

 

見切り発車すると言っておきながら不甲斐ないことこの上ありませんが、

 

蒸発だけは絶対しないので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

是非とも女子会でねねに一刀君との近況を暴露させたいものです。

 

 

説明
皆様どうも大変お久しぶりでございます!初めましてな方はどうも初めまして!stsと申します!

お久しぶりな方はタイトル見てあれ?と思われたかと思います。

そうです、今日から新年度ということで、心機一転、新作の投稿を開始します!

内容はタイトル通り恋姫の二次創作で、ヒロインを流琉ちゃんにしたものとなっております。

つまり、もし北郷一刀が曹操軍親衛隊長・典韋の眼前に舞い降りたら、というお話です。


では初めての方のために私stsの作品を読むに当たっての注意事項をば、、、

作者は恋姫萌将伝のみプレイの新参者です。(無印未プレイ・未見、真は動画閲覧、英雄譚はパーケージ版の発売を待っている状況)

ちなみに、元ネタ三国志については、正史と演義は学生時代読んだかなぁといった、まぁそこそこという知識レベル

(コーエーさんとかで補っている、俗にいう俄かでもあります)

ですので、恋姫の口調に違和感を覚えることがままあるかと思われます。

もしあまりにこれはひどい、という箇所があればビシバシご指摘していただきたく。

また、オリキャラはちょくちょく登場することが予想されますので、その点ご理解のほどよろしくお願いします。


では冒頭長々となってしまいましたが、最後までどうかお読みいただければ幸いです!


それでは我が駄文の至り、とくと御覧あれ・・・


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コメント
>聖龍様  一刀君ならすでに現時点で「天の御遣い」の頭にその異名を戴いているに違いありませんけどもw(sts)
次回企画の一刀君ですが「姓(氏)を変、諱(名)を態、字を紳士」で逝きましょうよww(聖龍)
>アルヤ様  エイプリル企画は本当にその時の気分次第なので、3週目になるか、或は他の恋姫になるかは未定です。(今の気分なら4週目を書きたい気分ですが)(sts)
>ラオチュー様  まったくもって仰る通りでして、SS書く前に本家をちゃんとやっとけっていう話なんです。お恥ずかしい限りです 汗(sts)
>神木ヒカリ様  近年は華佗を巻き込んで内容もエスカレートしている模様ですが、内容がショボすぎるため、騙されるねねもねねだったりw(sts)
呂布軍(一周目)、袁術軍(五周目)、南蛮組(6周目以降)ときて2周目の流琉か………来年は3周目かな?(アルヤ)
なんか全体的にキャラ描写が薄いというか、二次創作をそのまま張り付けたみたいだとおもってたら、原作エアプレイとは…SSを書く前にまず無印と真をやってください、DL版があるんですから。萌将伝はただのFDですから二次創作と似た様なもんです。(ラオチュー)
また、変態的なエイプリル企画を考えているんだな、一刀はw(神木ヒカリ)
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真・恋姫†無双 恋姫†無双 オリキャラ 北郷一刀 流琉 華琳  胡車児 張繍 貂蝉 

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