リリカル東方恋姫外伝 ネギま編 第15話 『ラストステージのあとは必ずしもEXステージがある』 |
リズベットがまだ赤翼龍王の魔杖を作り始めていた時のこと。
帝国の地下にある一刀専用のラボにて、一刀が黒板にチョークを走らせながら考え事をしていた。
(キョウスケの原作知識が正しいければ…完全なる世界のボス…創造主を殺すことは正しいことじゃないな…)
キョウスケから、自称・ラスボスの正体と目的を事前に聞かされた。
彼…いや、彼女がなぜ魔法世界を消す…その理由と絶望。
そして、彼女が不死身である仕組み…と、その後の呪いについて…。
多くの異世界で絶望を何度も体験した一刀にとって、同じく世界に絶望し希望を求めた創造主には同情する。感情移入もできるし、消去法で“その答え”にたどり着くのは当たり前かもしれない。が、一刀は彼女のやり方には賛同できない。それでも世界を救うことに繋がると言い張るろうが、一刀の視点で言えば、そんなものは彼女自身の自分勝手な横暴であり、“希望を諦めた”ための結論でしかない。
故に、一刀は彼女の結論を否定する。多くの絶望を観てきため、多くの希望を求め続ける者として、彼女の止めたい。でなければ、彼女の魂が絶望と後悔の泥沼に沈んでしまう。そうなってしまえば、彼女は文字通り“死ぬ”。そんなこと…見捨てられるものか!
恩師で大の甘党である坂田銀時でさえ匙を曲げてしまうほど、甘々な一刀にとっては、十分すぎるほどほっとけない理由でもある。
で、創造主を助ける、と言いたいが、まず無理だろう。相手は事実上魔法世界を滅ぼそうとする組織のボスであり、世界の敵。世界的にかつ社会的が彼女を認めるわけがない。…のは一刀にとっても関係ない。根本に問題なのは彼女自身である。なにせ、世界を救うため世界を滅ぼす魔王を演じようとしてるのだ。相当の覚悟と信念をもっているはずだ。他人の権利を他者どうこうする権利など存在しない。あるのは互いの命と信念を掛けて己を正すための真剣勝負だけ。これはどの平行世界でも共通することだ。
とすれば、一刀がやるべきことは、ただひとつ。自分の正義を貫くため、彼女の正義を喰らうしかない。
生憎、彼女は自分が不滅の存在であるため殺すことは不可能だと、一刀たちに見下しているが、一刀に言わせれば不老不死などただのステータスに過ぎない。封印や、不死身のカラクリさえ分かれば攻略法などいくらでもあるのだ。
が…、
「やっぱ筋が通らないなぁ…」
これは命の取り合いで解決できる問題ではない。自身のロジック(論理)と敵のロジック(理論)の問題だ。自身のロジックで勝たなければ本当の勝利とはいえない。
こちらには物理的かつ論理的に勝利するための材料は十分備わっている。決戦に挑めば紅い翼が勝つ勝つ理屈は高いといって過言ではない。しかし、論理的な問題を解決する結果はまだない。
このままでは、試合には勝って勝負に負けたようなものだ。
「あっちが大人しくしていれば、魔法世界の問題も解決できるんだけど…アスナを誘拐してる時点で向こうはもう後戻りができない一線を超えたと考えたほうがいいな…」
ラスボス(仮)自らが直接アスナを攫ったということは、計画は最終段階に移行したということだろう。
そうなれば、相手は計画の成功しか頭になく、こちらの話に聞く耳をもたないはずだ。
一刀は敵の計画の要とされてしまった義妹のアスナの身を心配する。
今頃、心細く泣いているのだろう。かわいい妹が自分の名前を呼びながら涙目になる姿を浮かべる。
ご飯は食べているのだろうか、乱暴はされてないだろうか、エロ同人誌みたく卑劣漢に強姦されてないだろうか…触手で全身の穴と穴を陵辱され、薬漬けで感度が上がってしまいイキ狂いした挙句、蟲や獣の苗床にされて肉便所のように調教―――
「って!? なに義妹にいやらしい妄想を浮かべてんだ俺!?」
次第に過激になっていく自身の妄想に自分でツッコミを入れた。
飢えてるのか…? と義妹に発情しかける自身(とハードプレイの妄想)に自分自身険悪する一刀。前夜、帝国の姫とその他の女性たちと体力がなくなるまで過激な運動をしたので、欲求が溜まっているはずがないはずなのだが…。
今夜あたり、肉体関係になったばかりのリーファとデートでもしようかと一刀は考え――、
「じゃっなくって!? 創造主をどう止めるかっの問題だろうが!! あぶねぇ〜ひさびさのシリアスだったから流されるところだったぁ〜」
チッ、正気に戻ったか種馬め。
だが、フラグは立ててやった。いずれは自分の手で義妹を汚すだろう…スクールディズ的に。そうなれば間違いなく修羅場となってお前は間違いなくバットエンド行き確実だ!
ふっはははは愛した女たちに殺されて絶望するその瞬間を楽しみしているぞぉぉぉぉ!!
↑愉悦最高ーで走るロボット(by作者)
「なんだろう…集合意思からキーやんとサッちゃん並の悪意を感じる…(汗)」
空から「ワイら、そこまで鬼畜じゃないでぇカズピー!?」と「そうです!! 私たちは性欲的ではなく、ドS的な悪戯で愉悦を満たしますから!!」と関西弁で喋る魔王と腹黒な救世主の抗議の叫びが聞こえるが、一刀は気のせいだろうと無視する。…ここ地下だし。
仕切りなおして、創造主と魔法世界の問題を解決するため答えを考える。
そして、一刀が出した答えは…。
「やっぱ、創造主には封印してもらうか。30年ぐらい」
臭い物(煩いラスボス)に蓋をする。一刀はそう導き出した。ただし、永遠ではない。創造主が考えなかった“答えの結果(魔法世界の救済)”が出るまで干渉させないためだ。
黒板に書かれた図録と方程式によれば、約30年で“計画”が成功する。現世と絶つことを目的とした完全なる世界とは違う半永久に存続できる世界。つまり、魔法世界が消えない選択が可能にできる。
結果さえだせば、創造主の論理を覆し、納得するだろう。
その時が、一刀たち紅い翼の完全勝利となる。
「封印するのはいいとして、どうやって封印しよう…」
封印する術は大きく分けて三つ。
ひとつは触媒(物・生き物)を用いて心身ともに封じ込めるタイプ(魔封波など)。
ふたつめは魂と肉体もしくは両方バラバラに引き裂き、部分ごと別々の場所に封印するタイプ。
みっつめは――
「一刀たいへだ!!」
ナギがラボに入ってきた。
しかも、なぜか慌てていた。
「どうした? まさか完全なる世界が動き出したのか…!?」
「違う! もっと恐ろしい事が起こりそうなんだ…!?」
いつもは怖いもの知らずのはずのナギだが、今のナギは何かに恐れて顔を青くしていた。
あの千の呪文が恐れるとは、いったい何を恐れているのか一刀も緊張する。
そして、ナギがおもむろに取り出したのは、何かを包んだハンカチ。
ナギがゆっくり包みを開くとそこには――
「姫さんのマグカップ割っちまって、このままだと姫さんに殺されちまう!」
「うんなもん知るかぁー!!」
粉々に割れたマグコップらしき破片だった。
馬鹿馬鹿しい事にシリアスになった自身に一刀が恥ずかしがる。
「なぁなぁ、頼むよおまえの錬金術で直してくれよぉ〜でなきゃ〜俺、姫さんに筋肉バスターかけられて病院のベッドでまずい病院食を食う羽目になっちまうぅ」
「自業自得だろうがッ。だいたいなんで一国の元皇女さまが筋肉バスター会得してるんだぁ…?」
「……キョウスケが姫様に暇つぶしにどうぞって渡した漫画にはまったみたいで……」
「あぁ〜」
その名前が出た時点で納得してしまう。
ご愁傷様と一刀がナギに同情しながら、内心「またあいつかぁ〜!」とここにいない馬鹿(キョウスケ)に叫んだ。仲間(主にナギ)に変な知識を当たるばかりか、とうとうこの時代(世界)にはない物まで普通に取り出した上、一様常識人だったアリカにまで影響を与えてしまった。
ここ最近、安部キョウスケという人種が転生者といえば、本家を超えている気がする…天然ボケが。
トラブルメーカーと言われる一刀にも、トラブルメーカー兼トリックスターで問題児と言わせるほどの安部キョウスケという人間。
このままいけばアフロの鼻毛男の世界の住人になるのでは……と、一刀が内心危惧し、心の底でそうならないこと願った。そうなったらもはや手が付けられない…マジの話で。
それは兎も角、ナギがしつこく粘着するので、一刀はしぶしぶ錬金術でコップを治した。
「へぇ〜便利だなぁ一刀の錬金術って。俺にも教えてくれねぇ?」
「ナギには無理だ」キッパリ
「あぁ? それって俺が馬鹿だって言いんのか?」
「それもあるけど、そもそも錬金術は万能の術じゃない。可能なこと可能にする技術だ。魔法みたいに理を曲げるんじゃく、理に則ってるからある程度の制限あるし、ナギみたいに力押しかつ直感で応用するタイプには向かないよ」
「初対面で熱線ぶっぱなしたチートの癖に説得力ないぜ」
「血をにじむ努力の結果だ」
えっへん、と胸を張って威張る一刀。そもそも、一刀には武術や学者などの才能がない凡人だ。それを異質な体質と努力とあきらめの悪さによって手に入れ力と智恵を誇って文句を言われる筋合いがない。
実際、天賦の才能を持ったナギも、一刀の努力に内心認めており、賞賛している。
「でも、一度でもいいから錬金術使ってみてぇなぁ…」
「…たぶん、しょうもないことだろうと思うけど何に使う気?」
「石ころを黄金に変えてウハウハな人生を♪」
「駄目人間」
「誰もが求める欲望だぜ。学校で金の練成は禁忌だって知ってるけどな」
「ふーん、こっちでも金の練成は違法か…。まぁ、下手に金を増やすと金の価値が下がるから、魔法で増やしても価値が下がのは同じだから禁忌にされても不思議じゃないか」
「へっ? そうなの?」
「魔法だけじゃなく社会知識身に付けたほうがいいじゃないのか…?」
伊達に魔法学校を中退したにあって残念な頭をしているナギに一刀があきれて、ナギの将来が心配になる。
その後、一刀が錬金術について説明し、話が弾んだ。
「地殻運動のエネルギーねぇ〜魔法学校の教師が聞いたら目が飛び出すな。ほぼ無制限の星のエネルギーをフルに活用するなんて、固有する魔法力でしか魔法が使えない魔法使いの理念を変えちまいそうだぜ」
「人体の血液循環…この場合、気だな。それでも十分練成するためのエネルギー源になるよ。あと、増幅器として触媒があれば、ある程度物質の法則を無視して、物質を無尽蔵に無限に創生できるだ」
「魔道具やアーティファクトとか?」
「あぁ、他には……錬金術だからやっぱ賢者の石かな。それも不良品じゃないやつがいい」
「不良品? 賢者の石のパクリモンでもあんのか?」
「ある。それも胸糞悪い奴で…――あっ」
ふと、一刀の脳裏にひらめきが走った。金の練成と別に禁忌とされる錬金術。その代価と結果は胸糞悪いものであったため記憶の片隅に追いやったが、その錬金術の過程を考え直せばそれこそ真の魔法である“魂の物質化”と同等であり、多くの可能性があったことに気がつく。
そして、それは魂の不老不死に関係していた…。
「たしかにあれなら魂を永久固定することも…ナギ、ありがとう。おかげであいつを封印する手段がみつかったよ♪」
「え? え?」
「そうなれば通常の練成陣を組み替えて…いや…その場合魔法と魔術を組み合わせれば瞬時に展開が……」
意味不明な単語を呟きながら一刀が白衣を纏いメガネをかけた研究者モードに入り、黒板と紙に方式や陣らしき図面を書き記していく。
残されたナギは?マークを浮かべて一刀の背中を唖然と見つめるのだった。
ちなみにマグカップはこっそり元の棚に戻したので、一刀以外、バレてはいない。
時を戻して現在。
自称ラスボスこと創造主に、一刀とナギが挑んでいた。
「シャラクセェェェェ!!」
赤翼皇の魔杖を棍棒のように扱い振り回す。その荒々しさはまさに暴風と思わせる。頑丈と思わせる創造主の多重魔法障壁が、赤い杖により次々に叩き割れ、破壊されていく。
最後の魔法障壁を破り創造主に殴りかかるも、創造主は転移魔法で消え、頭上より現れた。
「灰燼と化せ…!」
創造主の背後に展開された無数の魔方陣より極太の魔力砲が同時に発射される。
「…うっとしい」
無数の魔力砲を一刀が二本の無明鬼哭刀と破修羅で軽々と切り裂いた。
「………おぬしら本当に人間か……?」
「「ラスボス(笑)に言われたくないッ」」
自身の魔法をこうも簡単に打ち破る一刀たちに創造主が疑う。
フードで見えないが、おそらく顔が引きづってる。
「と、一方的に攻めてんのに逃げてばっかだなあいつ。戦う気あんのか?」
「たぶん、時間稼ぎだと思う。」
「そのとおりだ千の武器よ。たとえおぬしらを倒せなくても、世界を終わらす魔法はもうすぐ完成する」
上から目線で見下ろす創造主が言う。
「どんなにおぬしらが抗おうが世界は終わる。これは運命だ」
「けっ、何が運命だ」
「誰にだって終わりがある。世界も例外じゃない。でも、それは今じゃない」
「愚か。この世界の真実を知らぬが故に、幻想に執着するとは…この先はあるのは絶望しかないというのに…」
「幻想だぁ? ハン、結構じゃねぇーか。夢は儚く残酷ってもんだ」
「…千の呪文貴様知っているのか?」
「一刀とキョウスケに教えてもらった。この世界がテメェが作った幻想だってことも俺たちが必死に阻止しようとしてる大儀式が巨大な転送魔法だってこともすべて…」
「ならばなぜ、我の邪魔をする。この方法こそ世界を救済するための手段というのに?」
創造主がそう言うと、ナギが創造主を見上げながら鼻で笑った。
「たとえ、幻想だったとしても、儚い夢幻だったとしても、俺は惚れた女が最後まで笑っていればいいんだよ」
「…誰にだって終わりがある。現実も幻想も同じだ。でも終わりがあるから価値があるんだ。だから皆、生きようとする。この世界の住民も同じなんだ。それをお前が奪った」
怒りを込めた低い声で言う。
一刀とナギが無明鬼哭刀と赤翼皇の魔杖をゆっくりと持ち上げはじめる。
「散々、世界をめちゃくちゃにした挙句、世界を泣かせて別世界に高飛びするテメェを逃がしたら死んだマクドナルド議員や戦場に散った奴ら、そして、姫さんに顔向けできるかよ…」
「誰にも相談することも頼ることもせず、自己解決で世界の命運を握ろうとする自分勝手な神は排除すべき。そうするべき」
だから…と、刀と杖の先を創造主に向けて二人が叫んだ。
「「テメェ(おまえ)のをぶったおす」」
「死んだ奴のため、今を生きる奴らのため、絶対に世界を終わらせねぇ!」
「この世界はもうお前の幻じゃない! この世界の世界のものだ! 世界はお前の救済を望まない!」
それは創造主に対する宣戦布告にして、創造主の思考の否定だった。
二人の言葉と威圧に押されて創造主は困惑する。
「なぜなだ。なぜ分からぬのだ。我のやり方こそが唯一世界を救う方法だというのに…」
『簡単なことだ。一人だったおまえと違って共に支える仲間がいるからだ最初の魔法使い』
ナギが掴んでいた赤翼皇の魔杖から声が発せされた。
その声の主は赤翼皇の魔杖に封印された赤き翼の龍、アヴァロデウスだった。
創造主の視界に、ナギの背後でアヴァロデウス本来の姿が幻として現れる。
「その杖から感じる違和感…まさかと思ったが、なぜ貴様がそのような姿でおるアヴァロデウス」
「えっ、お前ら知り合い?」
『知り合いもなにも、そやつは我が最初に出会った人物であり我の住処を提供した者だ』
まさかの衝撃事実。
と、一刀の隣で「あの罠はテメェか!!」とナギが怒鳴っていたが一刀は創造主とアヴァロデウスの会話に耳を傾ける。
「…貴様も私の邪魔をするのか」
『フン、世界がどうなろうと知ったことか。ただ、我は我が認めた相棒に付き添うだけだ』
「世界を繁栄させ、世界を滅ぼす存在の言葉とは思えないな」
『他者の認識など知ったことか。だが、おもしろいのだ。ナギと…いや、仲間たちと』
「………そうだとしても我はもう止まらぬ。否、止まることは出来んッ!!」
先ほどとは比べられないほど巨大かつ精密な魔方陣が多重にして無数が創造主の背後に展開された。
「たとえ、運命を司る龍の加護があろうと世界の救済は誰にも止めはせぬ!!」
「一刀…わかってると思うけど、あいつはもう相当な覚悟してるぜ」
「わかってる。でなきゃー俺はこの場所にいないさ」
『だったら示せ。貴様の覚悟をあのボッチの覚悟ごと飲み干してみろ北郷一刀ッ』
「…あぁ」
ナギとアヴァロデウスの言葉に背中を押された一刀は決意を固めると、両手に持っていた刀をなぜか地面に突き刺した。
「今度こそ…――消え去れ!!」
創造主の叫び声と同時に魔方陣から凶悪な極太のビームや電流が帯びた魔法球などが同時に放射される。
それはまさしく城塞の砲撃と思わせるほど凶悪凶暴な弾幕の壁だ。
まともに当たれば、障壁ごと消し飛ぼほど。
――あたれば話だが。
「頼むぜ!! アヴァロデウス!!」
『ブラストモード!!』
すぐさま赤翼皇の魔杖を砲撃形態に変化。砲身を創造主の弾幕の壁に照準を合わせた。
「ブレストハリケェェェェェン(錆び色の息吹)ッ!!」
砲身から放たれる竜巻と竜巻による津波。森羅万象すら根こそぎ削り取る暴風が魔力の暴力というべき弾幕とせめぎ合う。
「無駄だ!! 永遠にして不滅の我を殺すことは不可能だ!!」
「はんッ! なにが永遠で不滅だ。他人に取り憑きて生きてるだけだろう! そんなの性質が悪い悪霊と同じだ!」
徐々に、ナギのルストハリケーンが創造主の魔力を削りながら押していく。
最後には竜巻が魔力を魔方陣ごと飲み込み、消し飛ばした。
その衝撃に頑丈な魔法障壁を張ったはずの創造主が障壁ごと吹き飛ばされそうになり、後退する。
「それによぉ、誰が殺すって言った?」
にやりと笑うナギに創造主は気づいた。
創造主の周囲が、見慣れない文字と真紅の電流が走る赤い円に囲まれていることに。
「五大元素に基くは終わりなき円。大地に流れる血は龍脈の鼓動。雄の太陽は雌の月と天高く交わらんとすれば、衰えた獅子が不死を求めて太陽を喰らわんとする」
ナギの後ろで一刀が唱える。
その詠唱に同調して、創造主を囲む円に線が伸び始め、円が魔方陣の形になろうとしている。
「こ、これは…」
「錬金術の代名詞、賢者の石を練成するための陣をいろいろと改良した練成陣だ。異世界の技術だから知らないお前に説明すると、この練成で作る賢者の石は人の魂を材料にして作る」
「な、なんだと…!?」
「つまりだ。不死だろうが不滅だろうが、ちっぽけな石ころになったら手出しできねぇよなぁ?」
創造主は戦慄した。
自身の不死は他人に憑依し、現世に定着するという一種の悪霊が他人の肉体を奪うのと同じ仕組みだ。いってみれば魂さえ無事なら何度でも蘇られる。
しかし、その核となる魂が別のものに変化されれば、どうなるかわからない。最悪、魂だけの存在として現世に関与できず永久に囚われの身となるだろう。不滅であるため死ぬこともできない。
不老不死であるがための永久という地獄。創造主はナギたちのまえで恐怖に身を震えさせた。
その反応に効果的だなとナギがにやりと笑う。
「くっ、だったら貴様を殺せば――」
「させねぇ! 紅帝の鎖!!」
創造主の四方八方から小さな紅い魔方陣が出現すると、陣より紅く錆びた鎖が飛び出し創造主を拘束した。
こんなもんがどうした、と創造主が鎖を強引に解こうとするも鎖は外れない。そればかりか魔力が抜けいる感覚と鎖が頑丈になっている感覚がする。
始まりの魔法使いといわれた、創造主はその違和感の原因をいち早く見つけた。
「我の魔力を吸収しているのか!?」
「その通り。そいつ(鎖)はアヴァロデウスの衰退の力が込められた特別製だ。拘束した対象のエネルギーを吸収して強度を上げる。無制限の魔力を持とうが、相対性で永久にテメェを拘束し続けるぜ!」
転移魔法で逃げようとするも、その分の魔力が赤錆の鎖に食われ転移することもできない。そればかりか自身の膨大な魔力が鎖をさらに強固するため、壊すことはほぼ不可能。
同時に、練成陣が完成に近づくたび、創造主は自身の根源が別のものに変化される感覚に恐怖を膨張させた。
「千の呪文ンンン!! 千の武器ィィィィ!! 貴様らの希望! 未来など我は決して認めぬ! いずれ貴様たちは我の絶望を知るだろうォォォォ!!」
怨嗟の声とばかり、絶叫をあげる創造主。鎖で身動きがとれないが、拘束されてない首だけ動かし、詠唱を続けるに一刀に見下ろす。
フードから僅かだが、憎悪と恐怖、そして殺意に満ちた瞳が覗いていた。
「始まりの魔法使い…創造主。俺たちはお前の過去もお前が抱えた絶望なんてしらない。でもこれだけは言える。真実から逃げた奴が世界は救えない」
詠唱の途中で一刀が紅い鎖に束縛された創造主を見上げながら、低い声で創造主に言葉をぶつけた。
殺意を向けらるが、一刀は悟ったようなやさしい眼差しで創造主を見つめる。
「世界を救いたかったら真実から目を逸らすな。真実に負けるな諦めるな。望み結果を求めるならそんな真実なんて乗り越えて夢を掴むことができるんだ…」
「黙れェェェェェ!!!!」
説教を垂れる一刀に、創造主は怒りで我を忘れて叫ぶ。
火事場の馬鹿力か、それとも始まりの魔法使いのプライドか、鎖に縛られた四肢と腹を引き千切り、胸から頭部だけの状態で一刀に襲い掛かった。
ナギが止めに入ろうとすると、一刀が詠唱を唱えながらナギの前に出た。
「森羅万象の上には咎人を奉る鋼の十字架。その咎人…神を墜とそうとして神の領域を踏み越え禁忌を犯して堕天する。十字架に巻くのは人の宿命を具現化されし鮮血の蛇。地の底で嗤うは自身の尾を咥えて永遠になろうとした愚かなる蛇。この世とあの世の境にありし真の扉の前で、命飢えし神に無垢な魂を持ちし贄を捧げろ。さすれば真理は開かれ、我、望むものを顕現させん」
陣から離れようが、練成陣はまだ生きており、創造主と繋がっている。
喉元を噛もうと発狂する創造主を前にして、一刀は最後の言葉を唱えた。
「我、賢者の名において美味なる魂の雫を与えんこと、ここに望む!」
その言葉を最後に両手をパンと合わせ――
スッバン!!
紅い電流が流れる右拳が創造主の胸下を貫いた。
背中まだ貫通した腕には創造主の血が塗れて床に落ちる。
貫かれた創造主は身体を一刀の肩に身を預けるようにぐったりともたれ掛かった。
「……英雄が…たとえ迷える羊を慰めようが、この先にあるのは絶望という名の地獄…いずれ、私が示した策が次善解であったと知ろう」
耳打ちするように、女々しく創造主が言う。
それに対し、一刀は創造主の耳元でつぶやく。
「悪いけどこっちは見飽きるほど絶望を見てきたんだ。それに、たかが真実ひとつで生きるのを諦めるほど人間はそこまで弱くない」
「フフフフ、その意地、どこまで通じるか石の中で見物してやろうぞ……」
その微笑を最後に、創造主の体が赤い電流となって練成陣に吸い込まれた。
そして、陣の中心で光が集まり、心臓が鼓動するようにドックンと鼓動すると、赤い閃光となって室内を照らした。
光が収まると、創造主と練成陣は消え、天井から何かが落ちた。
それはルビーと思わせる一握りの真紅の石。
始まりの魔法使いの魂を材料に作られた法術増幅器――“賢者の石”だ。
一刀はおもむろに賢者の石を拾いあげた。
「………なぁ、一刀。そいつがもし俺たちみたいに仲間がいれば、こんな戦争起こらなかったのかな…?」
「…そうかもしれない…」
ちっぽけな欠片となった創造主に、哀れむナギと一刀。
一人だった故、頼れるものがいなかった為、残酷な真実に押し潰れ、絶望した。
人間とは絶望して挫折してしまうほど弱いだろう。それを知ったから創造主は世界を犠牲してまで強引な手段で世界の救済しようとした。
しかし、彼女もまた一人の人間だった。文字通り創造主だったとしても、人間として弱さを克服していなければ負の連鎖は終わらない。更なる絶望が彼女に降りかかったはずだ。
それに比べて、たとえ自身が道を踏み外しても身を張って止めてくれる頼れる仲間がいる自分たちはどれほど幸福なことか。
『孤独であったためすべての絶望を背負う…呪いだったとはいえなんとも馬鹿馬鹿しい。一人で背負うなどたかが知れておる。世界を救いたかったまず自分の救いを求めらろ、ボッチめが』
「そうだな。アヴァロデウスの言うとおり。世界を救ったら今度はこいつも助けないとな…それでいいかナギ?」
「俺は別に。後は一刀にまかしとくぜ」
賢者の石を強く握りながら、一刀は決意する。
(だから、それまで見届けてくれ。俺たちの未来を…この世界を生きる者たちの可能性を)
この想いが届くかわからないが、僅かに賢者の石が少しだけ鼓動したように聞こえた。
「お〜い、ナギ〜一刀〜生きてっか〜?」
「一刀さん、ナギ、無事…だねやっぱ♪」
「おっ、遮那」
「リーファ…それにみんなも」
道中で分かれた紅い翼おメンバーが一刀とナギに近づく。
全員、多少ボロボロであったが目立った外傷はなく無事なことに一刀が一安心した。
一刀は仲間たちに創造主を賢者の石にしたことを説明した。そのとき、アルとキョウスケとゼクトは興味深々だった。
紅い翼一行は目的のひとつであるアスナの救出のため、アスナが囚われているらしき黒い球体の前えで睨めっこしていた。
「この黒い球体に姫子ちゃんがいるんだな、アル?」
「ハイ。ざっと調べたところ、この球体はアスナ姫の余分な力を抑えるための拘束を兼ねた結界でしょう。中心からアスナ姫の気配と魔力がありますからまちがいありません」
「じゃが、下手に触ると危険じゃぞ」
「何が飛び出すかわかりませんしね…」
「だったらスッパと斬ってチビ姫だけ取り出せばいいんじゃねぇ?」
「やめて! うちのアスナまで真っ二つにされそう!?」
「大丈夫よ一刀さん。某ケータイのCMみたいにパッカーってやるから♪」
「それのどこが大丈夫なんだ…(汗)」
「この際だ。誰かに犠牲になって、この球体を割ってもらうしかないだろう」
キョウスケがそういうと、一刀、ナギ、遮那、リーファ、詠春、アル、ゼクト、剣呉が一斉にジャックとマサトに見る。
「おい、もしかして俺たちを犠牲にする気じゃ…」
「犠牲なんてそんなひどいこと…ただ実験台になってもらうだけです♪」
「どっちも同じじゃねぇーか!!」
「もしも、この球体を割ったら、口がでっかい怪物が出てきて、どっかの魔法少女みたいにマミったらどうすんだ!?」
「お前らなら大丈夫じゃろう肉固そうだし」
「もしも、死んだら涙を流してやるぜ。三十秒くらい」
「短ッか!? 俺たちが何かしたか!?」
「なんでそこまで俺たちの扱いが酷いんだよ!? 理由を求める!」
涙目になる筋肉ズに一刀たちは…
「「「「「「「「「うるさい(なぁ/せぇ)。そもそもキモい筋肉に拒否権なんて元からねぇ(ないよ/ありませんよ/ないわ/ない)」」」」」」」」」
「「泣くぞ!?全国のマッスルたちが全員泣いちゃうぞマジで!?」」
残酷な人種差別にディスられ、泣きたくなる筋肉ズ。
そんな扱いを受けるマサトに、相棒のドライグが二人に同情する。
と、そんな時、
「――そうは問屋がおろさなぁい」
突然背後から不可視の衝撃が襲い掛かり紅い翼を吹き飛ばした。
「きゃっ!?」
「のっわ!?」
「ちっ、誰だ!?」
「ふっははははははは僕だよ!」
黒い球体から離された紅い翼一行。
声の発生源は黒い球体の上にいた。
そこにいたのはリーファたちに敗れ散ったオペトロンがいた…それも怪我もない状態で。
「おぬし、オペトロン!?」
「てめぇ、おっぱいの嬢ちゃんに倒されたはずじゃ…」
「もしや、死んだフリを…?」
「うんうん、ちゃんと手応えはあったよ。私の攻撃で生きてるはずがない…」
「巨乳の妖精ちゃんの言うとおり。僕は一度死んだ。でも、それは“僕たち”の中にいるオペトロンの一人が消えただけにすぎない」
「僕たち…? おまえほんとにオペトロンっか…?」
「フフフフフ、半分正解よ、正しき転生者よ」
キョウスケが指摘すると、オペトロン?は先ほど違い、女性の妖艶な声で言う。
「たしかに妾はオペトロン。でも、オペトロンという個はワシの一部に過ぎない」
腹話術のように口調が変えるオペトロン?という者。
徐々に、オペトロン?の輪郭が薄れていく。
まるで光が歪むかのようにぐにゃと形が崩れ、色彩が混じったような液体の塊となって呻き動く。
「僕は個。私たちは郡。我らは悪魔の集まりであり、妾は孤独な堕天使にして、ワシこそ魔王。横に並ぶし森羅万障を汚し、犯して、我が一部にするにする卑しき穢れの化生」
まるで蛹が自分の肉体を一度溶かし蝶に変身するかのように、ソレは形を変えいく。
あるときは天使のような翼、あるときは魔王の顔面、絶世の美女などなど、形に成り代わるソレは徐々に形を定めっていく。
「命の天敵にして不道理の化身。我らに与えるならば異名を姦淫の女王、名をバヴィロン…」
煌く銀河と思わせる紅紫のウェーブ状のツインテェールに、性欲と妖艶を練りこんだような深い藍の瞳。
誰もが抱きたいと思わせる豊満な胸に長身であるも、淫らな香りが漂う肉付けの良い白肌の女体。
その体を包むのは民族衣装と思わせる金の刺繍が施された赤銅のドレス。
頭部には鈍く光る煤まみれの金の王冠。
背には二つの魔法陣から伸びる巨大な赤黒い両腕と、七色に怪しく光る五対の翼。
撫でただけで射精しそうな細い指が両手で包むのは金の聖杯。
姦淫、淫乱、性欲、色欲、すべての卑しい欲が具現化されたようなソレが紅い翼に告げた。
「私こそが穢れの大結晶…大淫女王バヴィロンなり!」
アスナがもつ特別な因子を狙い、最高の領域へ上がろうと暗躍していた謎の存在。
ついに赤い翼の前に姿を現したのだった。
同時刻、紅い翼の隠れ家で一人の少女が眠りから覚めていた。
『奏者、もうすこし休んだほうが…』
「そんな暇してる場合じゃないわ。あっちはもう裏ボスにあってるかもしれないんでしょう?」
聖鎚が心配するが鍛冶師は笑って言う。
「私たちがいなちゃー世界を守れない。だったら急ぐしかないじゃない」
『承知しました。されど、私たちはさきほど覚醒したばかり。無理は禁物です」
「えぇ、パルコー!」
聖鎚を掲げると聖鎚と鍛冶師が鮮やかな七色の光に包まれる。
それはまるで何かが生まれるような蛹のようであった。
世界を滅ぼす者の出現に合わせ、世界を守護する聖なる獣とその使い手も目覚めた。
物語の終焉は…もう近くまで迫っていた。
つづく
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ただいま肉体の再構築中……二次元世界への出撃まで…およそ―― | ||
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