城南島
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 城南島の砂浜は昼間は解放されている。そこでおれたちはアサリを採っていた。城南島のアサリは美味しく、一個五百円で売れるので大もうけだった。おれたちは一生アサリ採りをしていようと誓い合っていた。他に何の仕事をしなくても、砂に埋もれているアサリだけ採っていればいい。それはすばらしいことだ。何しろ当時、他の連中のしていることと言えば、パソコンとにらめっこしたり、帳簿とにらめっこしたり、とにかく、にらめっこをする仕事しかなかったのだ。おれたちはにらめっこはしたくない。一日中、水平線を見ていたり、波打ち際で波に追いかけられたり、波を追いかけたり、無為でいることを楽しんだり。砂の中にいるアサリの感触。このあたりにいそうだという勝負勘を鍛えること。そういうことがおれたちのしたいことだった。おれたちは無人島のはずの城南島に住んで、朝から晩までアサリを採っていた。風の気持ちのいいこの島には、生きるのに必要なすべてがそろっている。

 時折、飛行機から荷物が落ちてきた。おれたちはその落ちてきた荷物を、「海から流れ着いた漂着ゴミ」だったふりをしてちょろまかしていた。たいてい、ろくでもないものが落ちてくるので、そういうときは本当に海に流してしまう。中には良いものもあって、お酒とか、食べ物とか、高級な機械のパーツとか。高級な機械のパーツはおれたちでは使えない。仲間の機械に詳しいアサリ採りが、本土に行って売りに行ってくる。すると途方もない値段になる。儲けはみんなで山分けだ。

 そういうときおれたちはバーベキュー会場を借りてバーベキューをする。バーベキューをすると時間の感覚はなくなり、おれたちは永遠に続く砂浜と水平線の間で、自分たちが小さく薄くなって世界を支えているんだという感覚にとらわれる。そういう神話だ。世界はあまりに天井が低かったので、一生懸命背伸びして天井をあげてくれた神様の出てくる神話。おれは仲間にそのことを話してやったことがある。「おれもそんな感じになることあるよ」と言ってくれた。だからおれたちは仲間なんだ。

 ある日。おれたちは城南島のアサリを採り尽くしてしまったことに気づく。おれたちは喧嘩を始める。加減を知らないからみんな頭を殴る。瓶や石や貝殻で傷つける。じきに喧嘩は殺し合いになった。でもどうにもならない。おれたちはアサリの貝殻で互いを傷つけあいながらも、なにもかも終わりだということを自覚していた。おれたちは倒れたやつから口々につぶやく。愛していたよ。アサリも城南島も仲間たちもみんな。一生遊んで暮らせると思ったんだ。

 満ち潮。おれたちの死体はゆっくりと潮に飲まれていく。生き残った仲間たちはバーベキューを始める。お酒を飲みあい、笑うが、ちっとも笑ってない。そこへ羽田へ向かう飛行機が現れ、荷物が落下。巨大なコンテナ。おれたちの生き残りも、バーベキューも、アサリの貝殻も押しつぶし、城南島はやっと静かになる。水平線にはイカ釣漁船のLEDランプ。

 来年になればまたアサリも戻ってくるだろう。

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オリジナル小説です
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