恋姫OROCHI(仮) 肆章・弐ノ参ノ弐 〜陽平関へ〜
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「そんなことが…」

 

星から漢中の状況を聞いた本陣は静まり返っていた。

 

定軍山を拠点に漢中の調査をしていたところ異変が起こり、その中から敵部隊に追われた二人の少女を保護し、今は陽平関に拠っているらしい。

定軍山から撤収の際、璃々を残していってしまい、それを助けたのち、山を降りていた最中だったようだ。

 

「それじゃあ、綾那と歌夜は無事なんですね!?」

 

剣丞が二人の無事を念を押して確認する。

 

「確証は出せないが、少なくとも私が関を出るまでは無事だった。ただ、陽平関がいつ落ちるとも限らん」

「それじゃあ、急がないと!」

「そうだな。ならば先導は私がしよう」

 

と、話をしながら傷の応急処置を受けたとはいえ、満身創痍の星が立ち上がる。

 

「いえ、趙雲さんは休んで頂いても…」

 

止めようとする剣丞を制し、

 

「大丈夫だ。それと剣丞。私のことは星と呼ぶがいい」

「あ、はい。ありがとうございます!」

 

柔らかく微笑む星に、剣丞も笑顔を返すのだった。

 

 

 

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――――――

――――

――

 

 

 

「うぅ〜〜〜……星はまだなのかーーー!!」

 

関の上から敵軍後方を見ながら、地団太を踏む鈴々。

そろそろ星が言った二刻が経とうとしていた。

輜重の準備は既に整い、一部は先行して剣閣方面に撤退を開始させている。

あとは星の到着を待つだけなのだが…

 

「あ!あれはっ!!」

 

 

…………

……

 

 

「桔梗!桔梗!!」

 

関の中で綾那と歌夜から事情を聞いていた桔梗。

ひと段落といったところで、上から鈴々が降りてきた。

 

「なんだ騒々しい。星が来たのか?」

「そうじゃないんだけど!桔梗にも来てほしいのだ!」

「一体どうした?何かあったのか?」

「ん〜〜!!いいから上がってくるのだ!口じゃ説明出来ないのだ〜!!」

 

見たものを説明できないのがもどかしいのか、手足をばたつかせる鈴々。

こういう風な慌て方をする鈴々も珍しい。

 

「分かった分かった、いま行く」

 

桔梗もそれに気付き、鈴々に促されるまま階段を登る。

 

「…歌夜」

「うん」

 

綾那と歌夜もこれに続いた。

 

 

…………

……

 

 

「「「――――っ!?」」」

 

三人は驚きをもって、その眼下の光景を見た。

その驚きの種類は桔梗、そして綾那と歌夜で違っていた。

 

「何故孫家がここに!?しかも、月と詠の旗もあるだとっ?」

「そうなのだ!訳が分からないのだ!」

 

鈴々と桔梗の驚きは単純な疑問。

ここに居るはずのない人物の旗が林立していること。

 

「歌夜……歌夜っ!」

「えぇっ!剣丞さまが…剣丞さまが助けに来てくださったのね!」

 

二人の視線は一つの旗で交錯していた。

円の中に太い線が一本入った図形。

鈴々や桔梗には意味の分からないその旗は、綾那と歌夜にとっては救いの旗。

新田一つ引き。

二人の愛しき人がそこにいる証だった。

 

 

 

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――――――

――――

――

 

 

 

「いるわいるわ〜うじゃうじゃいる♪」

 

最前線の雪蓮は眼前の部隊を見て、涎を垂らさんばかりに歓喜していた。

剣丞たちの布陣は、先程とほとんど同じ。

第一陣に雪蓮、第二陣に蓮華。

本陣と後備えを剣丞隊が務める。

唯一違うのが…

 

「私の獲物も残しておいて下されよ、雪蓮殿」

 

雪蓮の隣には、祭の他にもう一人。

大斧を構える壬月がいた。

 

 

もともと本陣にいたのだが、

 

「我らが仲間の尻拭いを、孫呉の方々だけに任せておくわけにはいかん」

 

と直訴して、前線行きが決まった。

 

 

「ふふっ、それはどうかしらね?我が孫呉の戦場は早い者勝ちが常なのよ♪」

「これはこれは。それですと、雪蓮殿の獲物が無くなってしまうことになりますが?」

「あら…面白いことを言うのね」

 

雪蓮と壬月の間に火花が散る。

 

「これこれ策殿、落ち着いて下され。壬月殿も、あまり策殿を煽らんで頂きたいの」

 

止め役に回らざるを得ない祭。

 

「別に本気になってる訳じゃないわよ、祭。なんだか壬月といると昂ってくるのよね〜。相性が良いのかしら?」

「そう言って頂けると、私としても光栄の至りですな」

「……儂はなんだか壬月殿の声を聞くと、背筋がゾッとするんじゃがのぅ?」

 

そんな話をしていると、

 

「敵軍、動きました!」

 

敵がこちらに向かって進軍してきた。

 

「活きがいいわね〜!それじゃあ壬月、行くわよ!」

「応っ!」

 

敵軍に突撃する雪蓮と壬月。

いつもの、主の久遠を諌める姿は影も形もない。

織田家筆頭家老という立場から解放されているからなのか、はたまた雪蓮の気に当てられたからなのかは分からないが、今の壬月は一人の((武士|もののふ))だった。

 

 

 

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「前線、戦闘始まりました。雪蓮さまと壬月殿が先頭で戦っているようです」

「あぁ…姉様は〜もう!壬月殿は何となく止めてくれそうだったのに…」

 

思春の報告に頭を抱える蓮華。

 

「ああなった雪蓮さまを止めるのは、冥琳さまでも難しいと思いますが…」

 

思春の呟きは、悩む主の気休めにもならなかった。

 

「もういいわ。万が一にも無いと思うけど、突破されないよう警戒だけは怠らせないように。両翼には特に注意しておきなさい」

「はっ!」

 

 

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「ご主人様」

 

斥候に出ていた小波が戻ってくる。

 

「お疲れ様。前線の様子は?」

「はっ。敵軍こちらに攻めかかってきました」

「隘路で関と部隊に挟まれたら、こちらに攻めかかるは必定かと」

「なるほど、それで?」

 

雫の補足に頷き、小波に先を促す。

 

「は…お味方前曲が、その…突出して、交戦中です」

「ま〜雪蓮さんなら仕方ないですね〜」

「雪蓮姉ちゃんなら仕方がないか…」

 

もはや端から諦めていた。

 

「いえ、それが…雪蓮さまだけでなく、壬月さまも単騎駆けを…」

「いいっ!?」

 

想定外の事態に思わず奇声を上げる剣丞。

 

「それは…本当なのですか?」

 

詩乃も信じられずに目を丸くする。

 

「はぁ……金剛罰斧を振り回し、敵をバッタバッタと薙ぎ倒し…あぁいえ、もちろん峰打ちのようでしたが…」

「いや、峰打ちでも死んじゃうんじゃ…」

「そんなことより、陽平関の動きは?」

 

剣丞の呟きを掻き消すように、詠が質問を被せる。

 

「まだありません。遠目には、関の上に人影が数人分確認できましたが…」

「桔梗は動かない、か…」

 

疑り深い星と桔梗対策の董旗と賈旗だが、桔梗に対して効果はまだ出ていないようだ。

 

「でも、死地に追い詰めないほうがいいのかしら?」

 

これで陽平関からも兵が出れば、敵は完全に死地に追い詰められる。

死地に追い詰められた敵は、文字通り死に物狂いで戦うため、味方にも大きな被害が出る。

そのため、殲滅戦でもない限り、敵を完全包囲するのは悪手にもなりうる。

 

「んまぁ〜、今のまんまでも死地にような状態ですし〜」

「しかも、どうやら敵は正気ではないようですし、早めに兵を繰り出し、無力化することが肝要かと」

 

風と詩乃の意見は同じようだ。

 

「待っていればそのうち、桔梗姉さんじゃ止められずに鈴々姉ちゃんが出てくると思うけど…」

 

いかにもありそうなことを言う剣丞。

そんな時、

 

「小波さん、私を陽平関へ連れて行く事は出来ますか?」

 

月が小波にそう尋ねた。

 

「え?」

「ちょっと月!なに言ってるの!?」

「どうですか、小波さん」

 

声を荒げる詠に構わず、月は小波に続けて問う。

 

「は、はぁ…月さまお一人を運ぶことなら、可能だと思いますが……」

 

剣丞をチラチラと窺いながらなので歯切れの悪い小波。

 

「私が行って、鈴々ちゃんと桔梗さんに兵を出すようお願いしてきます」

「そんな月、危ないよ!」

「そんなことないよ。小波さんに連れて行ってもらうんだけだもん。小波さんの腕は知ってるでしょ?」

「う…そ、それじゃ他の人に行ってもらおうよ!そうだ!星がいいんじゃない?」

「ダメだよ。星さんは怪我してるし、小波さんの負担を考えても、体は小さい方がいいと思う」

「なら風が…」

「いえ〜。風が行っても、事情を説明している間に、戦闘が終わってしまいそうですね〜」

「自分で言うなっ!」

 

ツッコむ詠。

 

「ならボクが行くよ!それならいいでしょ!?」

 

しかし、月は首を横に振る。

 

「詠ちゃんならここに居て知恵を出すことが出来る。でも、私には何も出来ないから。だから少しでも役に立ちたいの」

「でもっ…!」

「詠姉ちゃん」

 

なおも食い下がろうとする詠の肩を優しく剣丞が止める。

 

「こうなった月姉ちゃんが梃子でも動かないこと、詠姉ちゃんが一番良く知ってるでしょ?」

「うぅ〜〜〜……はぁ。分かったわよっ…」

 

詠はガックリと肩を落とす。

 

「小波、月姉ちゃんのこと、よろしくお願いね」

「はっ!」

「よろしくお願いします」

 

よほど心配なのだろう。詠は深々と頭を下げた。

 

「はい。お任せ下さい」

 

小波はお姫様抱っこの形で月を抱き上げると、音もなく駆け出した。

 

 

 

説明
どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、78本目です。

函谷関で、念願の紫苑救出を果たした一刀たち。
次なる舞台は漢中。

零章の時間軸ですので、よろしければお時間のある方、また忘れてしまった方は今一度お読み頂けるとスッと入れるかと思います。
http://www.tinami.com/view/713915
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コメント
いたさん>毎回のコメントありがとうございます! 綾那と歌夜にはこの後一層の活躍をしてもらうつもりです^^(DTK)
かなり遅れてのコメント申し訳ない。 絢奈と歌夜の活躍振り、大変期待しています。(いた)
センリさん>コメントありがとうございます^^そうですね。もうちょっと先に活躍してくれると思います。(DTK)
いよいよ絢奈と歌夜の活躍が見れるのか?(センリ)
フォックスさん>取りこぼし、という点では最後にあるかなぁ〜という感じです。鈴々は…なんて呼ぶんでしょう?^^;(DTK)
今回は取りこぼしは無いのかな?考えてみたら初対面なら鈴々当たりにもお兄ちゃんと呼ばれる?(フォックス)
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