英雄伝説〜菫の軌跡〜 |
〜夜・特務支援課〜
「ふう、ただいま。」
「あ、かえってきた!おっかえり〜!」
ロイド達がビルに入るとソファーで本を読んでいたキーアは嬉しそうな表情でロイドの身体に抱き付いた。
「はは………キーアはいつも元気だなぁ。」
「うんっ!キーアげんきだよー。ロイドたちは遅かったねー。おしごと、いそがしかったの?」
「ふふっ、まあまあかしら。」
「ま、今日は移動に車を使えたからその意味でも助かったかもな。」
「ですね………」
「車の楽さを知ったら、冗談抜きで支援課にも車が欲しいと思うわよね。いっそ、レンがポケットマネーを出して支援課用の車を買ってあげてもいいわよ?導力車なんて大した金額じゃないし。」
「おお、マジか!?さすが小嬢、太っ腹だぜ!」
「一般人からすれば高級品である導力車を”大した金額”じゃないと言えるなんて、さすがは世界一の資産家である”Ms.L”ですね。」
「もう………感心している場合じゃないでしょう。」
「あのな、レン……幾らお金を有り余る程持っているからって”仕事”で使う車をレン個人が購入したら問題がいろいろ発生するだろう……」
キーアの質問に答えた後雑談を始めている中、キーアはティオに近づいて心配そうな表情でティオを見つめた。
「ねえねえ、ティオ―。なんか疲れたカオしてるけどだいじょーぶ?」
「ええ………大丈夫です。キーアの顔を見たら元気になっちゃいました。」
「んー………」
ティオの話を聞いたキーアは考え込んだ後ティオに抱き付き
「キ、キーア………!?」
抱き付かれたティオは戸惑った。
「キーア、げんきだからティオにおすそ分けしてあげるね!ん〜、すりすり。」
「あ………」
「はは、なるほどね。」
「確かにそいつは効きそうだな。」
「ふふっ、何よりの特効薬かもしれないわね。」
「うふふ、キーアを可愛がっているティオからすればどんな薬よりも効果はあるでしょうね♪」
「………ありがとう、キーア。元気、出てきました。」
「えへへ、そっかー。」
「そういえば………課長はまだ帰ってないのか?」
「かちょーならそこの部屋にいるよー。さっきおきゃくさんがきてお話ししてるみたい。」
「お客さん?こんな時間に珍しいな。」
「どんな人だったの?」
キーアの話を聞いたロイドは不思議そうな表情をし、エリィは尋ねた。
「んー、おヒゲが生えたクマさんみたいなオジサン。かちょーはせんせーって呼んでたかなぁ?」
「ああ、イアン先生か。」
「珍しいな、こんな時間に。」
「一応、私たちも挨拶した方がよさそうね。」
「そうね。もしかしたらレン達今後が関わる事になる事件を持ってきてくれたかもしれないし。」
「わたしは夕食当番ですからそちらはお任せしておきます。」
「大丈夫か?何だったら夕食当番くらい俺が代わるけど………」
「いえ、既に下ごしらえは済ませてありますから。キーア、晩ご飯、もう少し待ってください。」
ロイドの申し出を断ったティオはキーアに夕食をもう少しだけ待ってくれるように答え
「あ、だったらキーアもてつだうー!」
「そうですか……?ふふっ、それではよろしくお願いします。」
キーアの申し出を聞くと静かな笑みを浮かべてキーアと共に厨房に入り、ロイド達は課長室に入った。
「―――失礼します。」
「おう、遅かったな。」
「やあ、お邪魔しているよ。」
ロイド達が部屋に入るとそこにはセルゲイとイアンが話し合っていた。
「やっぱりイアン先生でしたか。」
「珍しいですね。先生がいらっしゃるなんて。」
「ああ、セルゲイ君に少し聞きたいことがあってね。他の用事もあったついでに足を運んだというわけなんだ。」
「他の用事、ですか?」
イアンの話を聞いたロイドは不思議そうな表情をした。
「ああ、端的に言うとキーアの身元についてだ。」
「も、もしかして………」
「何かわかったんスか!?」
そしてセルゲイの話を聞いたロイドとランディは血相を変えて尋ねた。
「いや………残念ながら。ギルドにも依頼したそうだが私もセルゲイ君に頼まれて他の可能性について調べていてね。残念だが――――いや幸いと言うべきかその可能性は無いとわかったんだ。」
「他の可能性………ですか?」
「ああ………数年前の話なんだがな。カルバード共和国を中心に子供が拉致される事件が相次いだことがあったんだ。」
「子供が拉致……!?」
「そ、それって………」
「!!………………」
セルゲイの話にロイド達がそれぞれ血相を変えている中目を見開いたレンは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「詳細は省くが………かなりのデカイ事件でな。カルバードだけじゃなく、周辺諸国にも被害が及んでいた事から国際的な捜査体制が組まれる事になった。この捜査体制には、各国の軍隊、警察組織、そして遊撃士協会が協力した。」
「そんな事が………」
「初めて聞きました………」
「……俺も初耳だな。あまり知られてないって事は相当ヤバイ事件だったんスか?」
「………ええ。あの事件は様々な意味でとんでもない内容となった事件だから、世間には知らされていないのよ。」
「へ…………」
「もしかしてレンちゃんはその事件を知っているのかしら?」
レンが自分達が知らない国際的に極秘とされた事件を知っている事にロイドは呆け、レンは驚きの表情で訊ねた。
「………まあね。その事件にレンも関わっていたし。」
「小嬢もって事は……遊撃士としてか?」
「…………………」
「!まさか君は…………」
レンの答えを聞いたランディが不思議そうな表情をしている中、セルゲイは目を伏せて黙り込み、ある事に気づいたイアンは信じられない表情でレンを見つめたが
「うふふ、本人の許可もなく他人の過去を暴くのはマナー違反じゃないかしら?」
「!……そうだな…………」
「???」
意味ありげな笑みを浮かべたレンに声をかけられると目を見開き、そして重々しい様子を纏って頷き、その様子が気になったロイドは不思議そうな表情をしていた。
「話を続けるが……結局、その事件は解決したんだ。しかし彼女の言う通りかなり深刻な内容だったので結局は極秘扱いになってしまった。私は民間のアドバイザーとして偶然、関わっていたんだが………」
「ちょ、ちょっと待ってください!もしかしてキーアがその数年前にあったという”D∴G教団”事件の被害者である可能性が………!?」
イアンの説明を聞いてある事を察したロイドは驚きの表情で尋ねた。
「そうだったんですか………」
「キーアちゃんがその事件に巻き込まれていなくて、安心しました………」
イアンの話を聞いたロイドとエリィは安堵の溜息を吐いた。
「ただ、結局キーアについては振り出しに戻っちまったんだがな。」
「ま、いいんじゃないッスか?身寄りが見つかるまで俺達が面倒見りゃいいんだし。」
「まあ、問題はその身寄りが見つかるかどうかだけどね。」
「ああ、当分の間はここで保護した方がいいだろう。ただ、本当に身寄りが無かった場合………里親を探すなり、教会の福音施設に預ける事も考えるべきかもしれない。」
「そ、それは………」
「………で、でも………」
「いずれそういう事も含めて考える必要があるってことだ。子供一人を預かって育てるってのはハンパな覚悟で出来る事じゃねぇ。どれだけその子が可愛くったってな。」
イアンの話を聞いて迷っているロイドとエリィにセルゲイは真剣な表情で忠告した。
「そう、ですね………」
「確かに、猫の子を預かるのと同じわけにはいかねぇしな………」
「はは、すまない。厳しい事を言ってしまったな。そういえば、任務から戻ってきたばかりみたいだな。報告もあるだろうし、私はそろそろ失礼させてもらうよ。」
「いえ、そんな。実は先生にも相談しようかと思っていた案件だったんですが………」
「ほう、私に?」
「ええ、実は―――」
ロイド達はセルゲイとイアンに失踪していた鉱員の一件を説明した。
「なるほど………そんな事がありやがったのか。クク、いかにも支援課らしい仕事じゃねえか?」
「結局、事件ではなかったので本人の説得はしませんでしたが……町に帰るよう説得くらいした方が良かったんでしょうか?」
「ふむ、難しいところだな。遊撃士だったら、説得や交渉も仕事のうちに入るんだろうが………」
「警察の人間がそれをやった場合、民事介入になる可能性もある………なかなか難しい線引きの所だな。」
「やはりそうですか………」
「ま、いい歳した大人なんだし、余計なお世話ってモンだろ。これでガキだったらケツでも叩いて家に連れ戻してやるところだが。」
「ふふ、そうね。」
「うふふ、悪い子供には罰を与えたりしかったりするのが大人の義務だものね。」
セルゲイとイアンの意見を聞いたロイドとランディは納得した様子で頷き、エリィとレンはランディの言葉に微笑んでいた。
「しかし天才的なギャンブルの腕と別人のようなツキとカンか…………………………」
一方イアンは黙って考え込み始め
「………先生?何か心当たりでも?」
イアンの様子に気付いたセルゲイは尋ねた。
「いや、偶然かもしれんが………ここ最近、似たような話を2つばかり聞いた事があってね。」
「本当ですか?」
「まさか他にも、ギャンブルで一山当てたヤツがいるとか!?」
「いやいや、そうじゃないよ。聞いた話というのは、とある証券会社の証券マンと貿易会社の経営者なんだがね。どちらも最近、大きな損失を出して非常に困っていたそうなんだが………ここ数日で、耳を疑うほどの素晴らしい業績を上げたらしいんだ。特に証券マンの方は………まるで未来が見えていたかのようなツキとカンで株を売買したらしい。」
「それは………」
「どこかで聞いた話だな………」
「………………」
イアンの説明を聞いたロイドとランディは真剣な表情で呟き、レンは黙って考え込んでいた。
「はは、もちろんただの偶然だろうけどね。ただ、聞くところによるとその2人の態度もあからさまに横柄になったという話でね。少し気になってしまったんだ。」
「確かに気になりますね………」
「ふむ………イアン先生。その2人の身元について詳しい情報はわかりませんか?」
「ああ、その気になればすぐに調べられるだろうが………念のため確かめておくか?」
「ええ、できれば。」
「課長………何か気がかりでも?」
イアンに依頼したセルゲイの行動が気になったロイドは尋ねた。
「ま、こういう稼業をしてたら情報は多いに越したことはねぇ。意外な所から事件の解決の糸口が掴めるかもしれねぇしな。ただそれだけの話だ。」
「なるほど………(兄貴も言ってたな………捜査の決め手は、カンと足による情報集めだって………)」
セルゲイの話を聞いたロイドは兄から聞いた警察の話を思い出していた。
「さてと、私はこれで失礼しよう。君達も、気になる事があったらいつでも相談してきてくれたまえ。出来る限りの協力はさせてもらうよ。」
「イアン先生………ありがとうございます。」
「その時はどうか、よろしくお願いします。」
その後ロイド達は夕食を取って、明日に備えてそれぞれ休み始めた。
〜深夜・黒月貿易公司〜
「―――ルバーチェの裏ルートが復活している?」
ロイド達が明日に向けて休み始めたその頃、ツァオは構成員の一人――ラウから報告を受けていた。
「………はい。ここ1週間で、我々が潰した3つのルートが立て直されました。こちらも妨害しようとしたのですが思っていた以上に抵抗が激しく………」
「ふむ……妙ですね。この状況で、失ったルートをわざわざ取り戻すだけの余力が彼らにあるとは思えませんが………あちらの営業本部長殿がわざわざ動いたのですか?」
「いえ………それが。”キリングベア”の姿はなく、配下の構成員だけだったそうです。それも軍用犬は連れておらず、数名程度の少人数だったようで………」
「ふむ、ますます奇妙ですね。構成員一人一人の戦闘力ならば我々”黒月”の方が上のはず………例のラインフォルト社製の重機関銃を持ち出したのですか?」
ラウの報告を聞き、ルバーチェの急激な戦闘能力の向上が気になったツァオは目を細めて質問を続けた。
「ええ、確かにその武装も持ち出してきたようですが………それ以上に、戦闘能力そのものが大幅に向上しているとの報告です。」
「なるほど………現在、マルコーニ会長は議長閣下のお怒りを静めようと躍起になっているようです。どこぞの猟兵団を新たに雇った様子もありませんし、大規模な戦闘訓練の報告もない………ふむ、なかなか興味深いですね。」
「………我々の知らない切り札を持っていたという事でしょうか?」
「ええ、間違いないでしょう。しかも私の見立てでは………尋常な切り札ではなさそうです。それこそ”銀”殿のような状況を一気にひっくり返せるほどの”鬼札(ジョーカー)”かもしれませんね。」
「くっ、一体どんな手を………」
不敵な笑みを浮かべて語るツァオの推測を聞いたラウが唇を噛みしめたその時、激しい銃撃音が聞こえ、さらに部屋が揺れた!
「い、今のは………!?」
「噂をすれば影、ですか。」
その事に気付いたラウは驚き、ツァオは目を細めて部屋の扉を見つめた。すると扉が開き、構成員が慌てた様子で入って来た。
「た、大変です!ルバーチェと思われる黒ずくめの一団による襲撃です!その数、およそ10!”キリングベア”の姿はありません!」
「たかが10名ごとき、返り討ちにしてしまえ!警察は心配するな!正当防衛でなんとでもなる!」
構成員の報告を聞いたラウは指示をしたが
「そ、それが………襲撃者の戦闘力は尋常じゃなく、重機関銃を片手で軽々と振り回して………」
構成員は慌てた様子で説明をしていた。するとその時再び部屋が揺れ、新たな構成員が慌てた様子で部屋に入って来て新たなる報告をした。
「1階が突破されました!こちらに迫ってくるのは時間の問題かと思われます!」
「くっ………”銀(イン)”殿がいれば………!」
新たに入って来た構成員の報告を聞いたラウは唇をかみしめていたが
「………フフ、やれやれ。どうやら頭脳派を気取っている訳にも行かないようですね。」
ツァオは眼鏡をかけ直して余裕の笑みを浮かべて呟いた。
「ツァオ様、まさか―――」
ツァオの言葉を聞き、ある事を察したラウが驚きの表情でツァオを見つめたその時、ツァオは片腕をコキリと鳴らし
「―――出ますよ、ラウ。この程度で”銀”殿に頼っては”黒月”の名折れ………東方人街を支配する我らの力、存分に見せつけてやりましょう。」
不敵な笑みを浮かべてラウを見つめた後、行動を開始した。
〜同時刻・ミシェラム〜
”黒月貿易公司”が襲撃を受けていたその頃、ジョーカー達やゼノとレオニダスが滞在しているレンの別荘も襲撃を受けていた。
「”黒月”はともかく、まさか我々にまで襲撃を仕掛けるとは………クッ、一体何が目的で……」
襲撃によって時折揺れている部屋の中、部下である執事の報告を聞いていたジョーカーは表情を歪め
「そらまあ、ここを襲撃する”動機”を考えたら間違いなく”黒の競売会(シュバルツオークション)”の件やろうな。」
「”黒の競売会(シュバルツオークション)”を台無しにした”特務支援課”を逃がした結果、ハルトマンの怒りを買ってしまった”報復”か。」
ジョーカーと共の報告を聞いていたゼノとレオニダスはそれぞれ推測していた。
「やはりですか………ですがこのミシェラムは”ルバーチェ”にとってこのクロスベルの”裏”の覇権を握るのに必要なハルトマン議長の邸宅も傍にあるというのに随分と思い切った事をしたものですね………下手をすればハルトマン議長の怒りをさらに買う事になるかもしれないというのに。」
二人の推測を聞いて納得した後ある事が気になったジョーカーが考え込み始めたその時新たなメイドが慌てた様子で入室してきて新たな報告をした。
「―――ジョーカー執事長!玄関の守りが圧され始めています!」
「―――何!?フローラとフェリシアもいるの圧されているのか!?」
「は、はい……!フローラメイド長とフェリシア副メイド長のお陰でなんとか持ちこたえてはいるのですが、敵の数が多く、このままでは他の部屋並びに2階への侵入を許してしまう恐れが出てきています!至急救援をお願いします!」
自分の報告を聞いて信じられない表情をしているジョーカーにメイドは報告を続けた。
「チッ…………――――仕方ない。襲撃者達を撃退後この拠点は放棄し、拠点L−2に移動する。」
「なっ!?まずはレン様の許可を取ってからの方がよろしいのでは……!?」
ジョーカーの口から出た今後の方針を聞いた執事は驚いた様子で訊ねた。
「今はレン様に報告して指示を仰いでいる時間も惜しいし、レン様からも”ルバーチェ”のような何者かによる襲撃があった場合は俺かフローラの判断で拠点を変更するかどうかの決定権を与えられている。―――俺も今から出る。予備部隊も全て出せ!何としても我らを救って頂いたレン様の所有物であるこの別荘を襲撃した愚か者達を全員外に叩きだすぞ!」
「「はいっ!!」」
そしてジョーカーの指示に執事とメイドはそれぞれ力強い返事をし、その様子を見守っていたレオニダスはゼノと共に互いに視線を交わして頷いた後ジョーカーに申し出た。
「―――ならば我々も敵の撃退に手を貸そう。」
「……よろしいのですか?」
”報酬”も支払っていないのに自ら協力を申し出たレオニダスの申し出を聞いたジョーカーは驚きの表情で訊ねた。
「待機している拠点に襲撃があった際、お前達だけで敵の撃退が厳しい場合俺達が手を貸すことも”契約”の内に入っている。」
「ま、こっちは一人年間5億ミラという普通に考えたらありえへん金額の”報酬”を全額前払いで貰っているんや。”その程度の事”はしないと給料泥棒やし、”西風の旅団”の”猟兵”としても名折れやしな。」
「ご協力ありがとうございます。先程も申し上げたようにこの拠点は放棄しますので、別荘の被害は気にせずお二人の好きに暴れてもらって構いませんのでよろしくお願いします。」
大陸最強の猟兵団所属の二人が加勢する理由を聞いたジョーカーは二人に会釈をし
「ああ、大船に乗ったつもりで俺達に任せとき。」
「”西風”の守り、お前達にも見せてやろう。」
会釈された二人はそれぞれ不敵な笑みを浮かべて答えた。
こうしてそれぞれ突然の襲撃に驚いた”黒月”と”Ms.L”が保有する戦力達は襲撃に本格的な対処を始めた。そして翌日―――――
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