世界が終わりなんて間違っている 第15話 |
陽 乃「ん? おーい。比企谷くーん。きこえてないのかな? かな?」
目の前で手を左右に振りながらこちらを見つめてくる。
いろはのメールで来ていたことは知っていたが実際に目の前にこの人が現れると体がすくんでしまうのはこれまでの経験からだろう。雪ノ下さんの無事を喜んでいいはずなのにこの人がいるだけで面倒ごとが増えそうな気がしてくる。
調達からみんなの所に帰ってしょっぱなからの遭遇で蛇ににらまれたカエル状態(昔のあだ名がぴったりっ……じゃなくて)で動けなくなっていると
陽 乃「あ……もしかして、お姉さんに見惚れっちゃったのかな? かな?」
雪乃を開放し笑顔で近づいてくる。自分に都合のいい解釈をしてくれたようで雪ノ下さんが怖くて動けなかったことをごまかすように
八 幡「……そ、そうですね。それより無事で何よりです。心配してましたよ」
陽 乃「本当に? 本当に心配してたのかな? かな?」
八 幡「……当り前じゃないですか……」
本当はこの人なら一人でもどうにかできる気がして心配はしていなかったが……
俺の返答を聞きなぜか俯いていたかと思うといきなり
陽 乃「嘘だッ!!!」
少し俯いて顔に影を作りつつこちらを睨んでくる。表情もいつもの人当たりのいい強化外骨格を脱ぎ捨て裏の顔をのぞかせていた。顔に影ができている分更に恐ろしく感じられる。
俺が何も言えずにいると
陽 乃「本当は心配なんかしてなかったんじゃないかな? この人なら一人でも大丈夫とか思ってない?」
八 幡(なんでこの人は毎度毎度俺の心の声が読めるんだ! それになんか鉈を持って追いかけてきそうな雰囲気出してるし……)
心の中で思ったことを当てられ目の前では裏の顔をしている雪ノ下さんに恐怖し戸惑っていると
雪 乃「……姉さん。比企谷君をからかうのはそこまででいいんじゃない?」
雪ノ下さんから解放されて傍観者となっていた雪乃が助け舟を出してくれた。雪乃の声を聞くと表情は戻りいつもの人のよさそうな顔になっていた。
陽 乃「ぶぅーぶぅーっ。雪乃ちゃんなんで止めるの? これからが面白くなるのに……」
雪 乃「姉さんのお遊びにいつまでも付き合わせるのは流石に可愛そうでしょ。それに今日調達してきた物の整理もしないといけないから早く比企谷君たちを中に入れたら?」
陽 乃「……雪乃ちゃんがそういうなら仕方ないかぁ」
雪乃に諭された雪ノ下さんは防火扉の前からつまらなそうに中に入っていく。その後を追うように俺の後ろにいた葉山たちが中に入っていった。最後に俺が入ると入り口にいた雪乃の耳元で
八 幡「サンキュ。助かった雪乃」
と他の人に聞こえないように囁いた。
すると耳元に声と息が伝わりくすぐったく感じたのか体をビクン! とさせていた。すると雪乃はみるみるうちに髪の毛の根元まで顔を赤らめて逃げるように生徒指導室に入っていった。
俺はその行動に首をかしげながら後を追うのだった。
そのやり取りをとある人物に見られていたとは気づかずに……
〜
生徒指導室に入り今日調達した物資の仕分けが済んだところで今日連れてきた留美・折本・仲町さん・玉縄ゾンビを紹介した。留美や折本を知っている人は多かったが見たことがあるという程度だったので一応のためだが……
留美や折本を連れてきたことにいろはあたりが何か言いたそうではあったが……玉縄ゾンビの紹介になるとみんな一斉に距離を取った。だがゾンビ使い折本の実演を見せると少しは安心したのかみんな元の席に戻った。
その際いろはが玉縄ゾンビの前でろくろ回しをするとなぜか対抗するように玉縄ゾンビもろくろ回しを始めだした。いろはが手の動きを速めるとそれにも対抗して手を速めている。……なにやってんの? こいつら……
一段落すると玉縄ゾンビをバリケードの前に連れていき折本にバリケード前の警備をしてくれるように伝えてもらった後、今日合流した人たちとの情報交換をすることにしたその中で
八 幡「そういえば雪ノ下家って結構遠いみたいですけどよくここまで無事にこれましたよね。雪ノ下さん」
陽 乃「ん? まぁ幸いここまでくる間玉縄君みたいな特殊なゾンビに遇わなかったからね……」
八 幡「特殊なゾンビって玉縄以外にいるんですか?」
陽 乃「ネットの情報だから信用していいのかわからないけど、走るゾンビや力持ちなゾンビ・ひたすら飛び続けているゾンビとかいるらしいよ。実際に動画とかあったのは走るゾンビだけなんだけど……これは映画とか作った動画の可能性があるからね。本当かはわからないよ」
八 幡「他にゾンビ達の情報とかネットに流れてました? 俺たちも確認しないといけないとは思っていたんですけど物資の確保とかに重点を置いてましたから見て無いんですよ」
陽 乃「細菌兵器・工場廃棄物・原子力発電の廃棄物・地球外から未知のウイルスっていったゾンビ発生の原因が憶測されているけど事実確認も対抗策もまだわからないみたいだよ。あと……世界中でも人口の多い国は壊滅状態にまで追い込まれているところが多いみたい。ゾンビの餌となる人間が多く、噛まれた人間が片っ端からゾンビになるんだから人口の多い所より少ない所の方が安全みたいだね……」
八 幡「そうですか……そうなると都市部はやばいですね。それで各国首脳部や日本の政府の対応はどうなってるんですか?」
陽 乃「たしか……アメリカ首脳部はホワイトハウスから洋上に拠点を移動。ヨーロッパ各国も同じように洋上に移動した国が多いみたい。ただ……中国やインドみたいな人口が多い国だと首脳部との交信ができない状態みたいだからまずいみたい」
八 幡「各国の軍隊とかはどうしているんですか?」
陽 乃「アメリカやヨーロッパとかは軍の施設を国民に開放して立て籠もっていたり、人口が少ない場所や無人島などを避難場所にするための準備・要人の警護・公共施設の防衛といった状況ね」
八 幡「じゃあ日本の自衛隊も……」
陽 乃「そうね。自衛隊の基地が近くにあるところは避難民の保護・基地や重要施設の防衛・要人の警護などをしていたみたいね……ただ噂だと総理を含む国会議員の半数が連絡取れない状態みたい」
めぐり「……噂ですよね……」
陽 乃「そうであってほしいけど……もう国の政府は機能していないも同然かもね」
めぐり「はるさん! け、警察とかはどうなってるんですか?」
陽 乃「この騒動が始まって最初に行動したのは警察なのよ。通報があって対応したんでしょうけど……そのせいか多くの警官が亡くなったそうよ。残っている警察も重要拠点や避難場所の防衛についてるって聞いたけど……避難場所のはずのこの学校に警察がいないってことはこのあたりの警察は……」
雪ノ下さんの話で物資調達に出た時の血に染まった警官の制服を思い出した。多分あの警官もゾンビと対峙して返り討ちにあったのだろう。
八 幡「雪ノ下さん。聞きたいことがあるんですけど玉縄みたいな特殊なゾンビになる原因とかあるんですか? あと人間以外の動物とかに感染したりするんですか?」
陽 乃「まず……特殊ゾンビなんだけど、死ぬ直前にやりたいと思ったことをやっているのではないかって説があるんだよ。例えばさっき走るゾンビって言ったけど、その走るゾンビとなった人物の生前を知っている人が言うにはそいつはマラソンランナーだったって……つまり走るゾンビになった人物がゾンビに襲われて死ぬ直前に思ったことがもっと走りたかったとかじゃないかな?」
八 幡「それを考えると普通のゾンビは死にたくない・もっと生きていたかったとか考えたからただ動くだけの死体になってしまったと……」
陽 乃「その説が正しければね……それを考えると玉縄君は死ぬ直前に折本さんを守るとか考えていたのかもね」
充分あり得る話かもしれない。玉縄は折本に惚れている気があったしこんな状況になってしまったことで折本を守らないとと考えても不思議ではない。仮説ということで実際はわからないが……
陽 乃「それと人間以外の動物の感染は今のところ情報ないね。だからゾンビ達が人間を襲えない状況であり続ければ、餌が無くなりゾンビ達が勝手に自滅していくんじゃないかと考えている国もあるくらいだよ」
極論ではあるがその通りだろう……映画で似たような状況のものもあったし……
八 幡「ただ……その間持ちこたえることができるかですね」
陽 乃「数か月持ちこたえれば大丈夫なんじゃないかって話もあるから政府は国民にむやみに自宅から出ないよう呼び掛けているみたいだけど……食料の問題とかあるから犠牲者が減ることはないんじゃないかな? 余計増える気がするんだけど……」
八 幡「それには同感ですね。だから俺たちもゾンビが多くなる前に物資の調達に出ましたし……」
陽 乃「多分それが正解だと思うよ。時間が経てば経つほどに食料は減り行動が制限されてしまうから……水だけでもある程度は生き延びれるかもしれないけど水だけではいざという時エネルギーが足らずにゾンビにやられてしまうかもしれないし」
八 幡「そうですね……とりあえず食料とかの確保はできているのであとは学校の防衛と校内での安全場所の確保ですね。とりあえず食料が悪くなる前に調理室は確保したいですね。特別棟二階は合宿用の宿泊施設もあることですし……」
葉 山「じゃあ明日は校内の拠点拡大ってことになるのかな?」
八 幡「そうだな。それにそろそろみんなゆっくり風呂に入りたいだろうし……今の子供用プールにお湯を入れてタオルで体をふいたりしかできない状況もきついしな」
女性陣「お風呂入りたい!」
俺の言葉に反応して女性陣が一斉に声を上げる。特に女性にとって風呂は大切だからな……
八 幡「とりあえず二階までの安全確保してから校舎周りの防衛施設を考えることにしますか……校舎周りになると資材とか必要になって来るんだけど……このあたりで建設現場とかあったっけ?」
陽 乃「それなら○○の××に建設中のマンションがあるよ」
八 幡「よく覚えてますね……」
陽 乃「比企谷君……雪ノ下家が何やってるのか忘れたの?」
八 幡「県議員と……あ、建設会社だったんでしね」
陽 乃「その通り。ということで家の会社の担当だったから覚えてたのよ。そこに行く途中に資材の加工場もあるからトラックとかも入手できるかもよ」
八 幡「それはたすかりますね」
雪 乃「それじゃあ明日のことも決まったし夕食の準備にしない? せっかくお肉を入手してきたんだからそれを使って何か作りましょう」
みんな「さんせーっ!」
話し合いで時間を取ってしまいみんなお腹を空かせていたのだろう。雪乃の提案にみんなが即答で返す。
調理する面々を残し生徒指導室を後にすると防火扉前の所にロッカーなどで通れなくしていく。その途中で
陽 乃「ひっきがやっくーん」
いきなり後ろから雪ノ下さんに抱きしめられた。
八 幡「ゆ、雪ノ下さん。後ろ当たってるんですけど……」
後ろから抱きしめられたら必然的に雪ノ下さんの豊満な胸が当たってしまいそれを抗議すると
陽 乃「当たってんじゃないのよ。当ててるの! それより聞いたよ〜。雪乃ちゃんのこと雪乃って呼び捨てにしてたよね? もしかして進展あったのかな? かな?」
自信満々に体を押し付けてくる。そして強化外骨格の仮面で聞いてくる。
おっかしいなぁ……いずれ呼び捨てはバレるとわかっていたがさっきの会議で一度も雪乃を呼んではいなかったはずだ……雪ノ下さんから体を離し正面に立つと少しでもと抵抗してみることにするが
八 幡「な、なんのことですか。雪ノ下さんの聞き間違いじゃないですか? ほら雪ノ下と雪乃って少し違うだけでs」
陽 乃「さっき防火扉の所で雪乃ちゃんの耳を愛撫しながら囁いてたよね」
俺の話をさえぎって事実を突き出してくる。誰もいない状況・そして誰にも聞こえないように耳元で囁いたはずなのに……何この人怖い!
しょうがないのでいきさつを説明することに……嫌な予感しかしないが……
八 幡「……ということで、名字がかぶる人がいるんで希望があれば分かるように名前で呼ぶことにしたんですよ」
陽 乃「ふーん。そ・れ・じゃ・あ、私のことも名前で呼んでくれなきゃねぇ〜」
嫌な予感は的中したらしい。ニヤニヤしながら提案してくる。どうせ抵抗しても無駄なんだろうと思い
八 幡「わかりましたよ。……陽乃さん」
そう切り返すと素直に読んでくるとは思っていなかったのだろう。名前を呼んで1拍おいた後頬がみるみる紅潮していくと顔をそらしながら
陽 乃「……やるわね。比企谷君まさか素直に返してくるとは思わなかったわ。その話は置いておいて比企谷君。ありがとう……」
紅潮していた顔を無理やり直して真剣な顔で見つめてくる。いかに怖い人とはいえ美人に真っ正面から見つめられると照れてくる。
八 幡「な、何のことですか? 陽乃さんに何かお礼されることしましたっけ?」
陽 乃「比企谷君なんでしょう? ゾンビ発生時に雪乃ちゃんを避難させるように伝えたの……」
八 幡「小町に電話しただけで直接雪乃に俺が伝えたってわけじゃないですけど……」
陽 乃「それでも……雪乃ちゃんが今生きていられるのはその電話があったからでしょ。だからあなたにありがとうでまちがいないわ」
八 幡「……」
陽 乃「ゾンビ発生時私は無我夢中で自宅に戻り門を固めて避難したわ。その後、親や雪乃ちゃんに伝言サービスを使って安否を確認しようとしたけど夜に入っても連絡が来ることも家に誰かが戻ってくることもなかった……だから最悪、親や雪乃ちゃんはもう……と考えていた時に雪乃ちゃんからの伝言に気付いたの。その時初めて神様はいたのかなと思えたぐらいうれしかったわ……」
八 幡「……」
陽 乃「この状況で親と連絡が取れない以上残された肉親は雪乃ちゃんだけの可能性も否定できない。だから雪乃ちゃんが生きていてくれて本当にうれしかったの。だから雪乃ちゃんが生き残れるようにしてくれた比企谷君にはありがとう以外どんな感謝を表していいかわからないの」
八 幡「……」
陽 乃「だからありがとう!」
真剣な顔して語り掛けてくる。その間俺はその話をただ聞くしかできなかった。そして最後には真剣な表情から見たことのない笑顔でお礼された。多分これがこの人の本当の顔なんだと思っていると……
陽 乃「ということで比企谷君にはお礼としてっ! 私の体を好きにしていいわよ!」
今までのまじめな話から一変いろは並みにぶっ飛んだ思考で正面から抱き着いてくる。
腕や足など体全体を俺に絡ませて迫って来る陽乃さんに抵抗するが体の使い方を知っているため(多分雪ノ下姉妹がならっていたという合気道のせい?)身動きできなくされてしまった。
蛇に絞められた獲物のごとく食べられてしまうのかと思っていると
雪 乃「そこまでよ。姉さん。もう食事もできたから比企谷君を早く開放しなさい!」
今日2度目となる雪乃の静止に助けられた。そのおかげで陽乃さんから解放されたのだが、その陽乃さんはつまんなそうにため息をつくとその場を去ろうとした。
陽乃さんが雪乃の横をすり抜けようとすると
雪 乃「……私も姉さんが生きていてくれてうれしかったわ」
少し上ずった声でつぶやく。この人にお礼なんて滅多にしたことがなかったのか気まずそうな横顔を見せてしおれる。そのことに陽乃さんも驚いたのだろう。今日何度目かの仮面を外し驚いた表情の後、雪乃に向かって抱き着いた。
陽 乃「ゆきのちゃーん」
雪 乃「姉さん……少し鬱陶しいわ」
陽 乃「そんなこと言ってぇホントはうれしいくせに」
雪 乃「本当に鬱陶しいわ……姉さん」
そうやって二人でじゃれつきながら生徒指導室に向かっている。ゾンビ騒動があったからこそ見れたものと考えると何とも言えないがまぁ姉妹にとってはこれでよかったのだろう。
というか……雪乃どこから聞いてたんだよorz
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第十五話 | ||
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台本形式 ゾンビ やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 | ||
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