英雄伝説〜菫の軌跡〜 |
その後ロイド達は男性陣と女性陣の二手に分かれて支援要請の消化と捜査一課の資料に載っている人物達の調査を行う事にし、レン達と一旦別れたロイドはランディと共に担当している支援要請を片付けた後資料に載っている人物の内の一人が所属している不良集団―――”サーベルバイパー”の本拠地を訊ねた。
〜旧市街・ライブハウス”イグニス”〜
「オイ………居なかったってのはどういうことだ?俺は連れて来いと言ったんだ。聞こえなかったのか、アア?」
ロイドとランディがサーベルバイパーの拠点であるライブハウスに入るとヴァルドがサーベルバイパーに所属している青年を睨み
「そ、そのう………ディーノの奴、家にも帰ってないらしくて……」
睨まれた青年は言い辛そうな表情で答えた。
「ならとっとと探して来いやァ!!」
「オッス!!」
そしてヴァルドに怒鳴られ、焦りながら頷いた。
(ディーノって………まさか一課のリストにあったパシリの?)
(よくわからんが………行方不明ってことか………?)
その様子を見ていたロイドとランディは小声で会話をした後ライブハウスを出た。
「どうなってんだ、ありゃあ……」
「状況はわからないけれど、リストにあったディーノの姿は見当たらなかったな。」
「ああ、それに連中の様子も普通じゃなかったし……」
「―――やあ、ちょっといいかな。」
ライブハウスを出たロイドとランディが顔を見合わせて話し合っているとワジが近づいてきた。
「ワジ……どうしてここに。」
「バイパーの様子が気になってさ。新入りの例の子、今朝からいないみたいじゃない。ま、あんな事やっちゃった後だし、まさかとは思うけど………」
「お前……何か知ってるのか?」
「まあね。ここじゃ何だし、トリニティにおいでよ。僕の知ってる範囲でよければ教えてあげるからさ。」
ロイド達に自分の所に来るように伝えたワジはその場から去り
「………サーベルバイパーの情報についてはあいつに頼るしかなさそうだな。」
「そうだな……」
ロイドとランディもワジに続くようにワジの後を追って行き、トリニティに入ってワジに話しかけた。
〜プールバー”トリニティ”〜
「……来たね。」
「ワジ、早速だけど話を聞かせてくれるか?」
「情報料、って言いたい所だけど今回はタダにしておくよ。僕らも無関係じゃないし………そこそこヤバイ話だからさ。」
「「?」」
ワジの言葉を聞いたロイドとランディががそれぞれ不思議そうな表情で首を傾げているとワジは話し始めた。
「バイパーのパシリの子はディーノっていったっけ。最近、様子が変だったみたいだね。」
「ああ、噂には聞いてたな。確か幹部とタイマンしたとかなんとか………」
「それがさ、昨日はついにヴァルドに喧嘩を挑んだらしいよ。」
「あ、あのヴァルドに………!?」
ワジの話を聞き、ヴァルドの強さを身をもって体験した事があるロイドは驚きながら尋ねた。
「そういうこと。聞いた話だけど、ものすごいスピードと力でヴァルドと良い勝負をしたらしいよ。最終的にはヴァルドが全力を出して何とか勝ったらしいんだけど………ディーノの方はそのまま飛び出て行った挙句に今朝、誰も姿を見てないらしいんだ。」
「ヤバイじゃねえか……」
「ああ……ただ事じゃないな。」
ワジの説明を聞いたランディは目を細め、ロイドは静かな表情で頷いた。
「それで………やっぱり何かのクスリなわけ?」
「なっ………どこでそれを……!?」
ワジの問いかけを聞いたロイドは信じられない表情をし
「あ、やっぱりそうなんだ。最近『願いが叶う薬』とかいう都市伝説みたいな噂が流れてるからさ。もしかしてと思ったんだけど。」
「カマをかけたのか……」
「おい、あんまり周りに広めるんじゃねえぞ?事が事だからな。」
自分の反応を見て納得した様子になったワジを見て自分がカマをかけられた事を知るとまんまとカマをかけられた自分の不甲斐なさに疲れた表情で溜息を吐き、ランディは真剣な表情でワジに忠告した。
「フフ、その辺はわきまえてるよ。ま、旧市街じゃ今の所そのディーノって子以外にクスリを使ってるのはいなさそうだ、ただ、誰がクスリをさばいてるのかもわからないしね。僕の方でも気を付けておくよ。」
「……助かるよ、ワジ。」
その後ロイドとランディは住宅街に向かった。
〜グリムウッド法律事務所〜
「やはり報せた方がいいでしょうか……」
「うーむ、しかし間違いだった場合先方の不利益になりかねない。まずは事実関係を確認してからだね。」
「そうですね……」
ロイド達がトリニティを訪れる少し前、事務所でハロルドとイアンが話し合っていて、そこにエリィとティオが入って来た。
「おや、君達は……」
「ハ、ハロルドさん!?どうしてハロルドさんが先生の所に………(ど、どうしましょう……レンちゃんも一緒についてきているけど……)」
自分達の登場にイアンが目を丸くしている中ハロルドに気づいたエリィは驚いた後レンとハロルドが顔を合わせるのは不味いと瞬時に理解するとティオに小声で相談したが
(……わたし達が心配しなくても、既に勘づいて逃げたみたいですよ。)
(え………い、いつの間に……)
ティオの返事を聞いて呆けた後事務所に入る直前まで自分達と共にいたレンが既に姿を消している事に気づくと疲れた表情をした。
「おお……特務支援課の方達ではないですか。はは、丁度よかった。皆さんに相談すれば解決するかもしれませんね。」
「ああ、いいタイミングで来てくれたものだ。」
一方ハロルドは二人の様子に気づかず明るい表情をし、ハロルドの言葉にイアンは頷き
「あの、話が見えないんですが………」
「………何かあったのですか?」
2人の様子にティオは首を傾げ、エリィは真剣な表情で尋ねた。
「いや、実は昨日話していた貿易会社の経営者なんだが………今朝から連絡が取れないらしいんだ。」
「えっ………!?」
「『リゼロ貿易』という会社をお持ちで私も少しお付き合いがあったんですが………自宅にはいらっしゃらず、会社の方でも行方がわからないそうなんです。それで警察に届けようかと先生に相談していた所なんですが………」
「やっぱり失踪………でしょうか。」
ハロルドの話を聞いたティオは静かに呟き
「…………ハロルドさん、警察の方は少々事情があって動けないかもしれません。この件は支援課に回すという形を取っていただけますか?警察本部には折を見て話を通すことになると思います。」
エリィは考え込んだ後提案した。
「わかりました………皆さんが捜査してくださるんですね?」
「ええ、少し時間がかかるかもしれませんが………イアン先生も、もし今後失踪者の相談があればセルゲイ課長に連絡を回してもらえますか?」
「ああ………わかった、気を付けておこう。」
その後エリィとティオは事務所を出てエニグマでレンに連絡を取り始めた。
〜アルカンシェル〜
エリィ達が事務所に入ったその頃、事務所にイアンと共にハロルドがいる事に気づいてその場から急いで離れたレンは捜査一課の資料に載っている人物の内の一人を調べる為にアルカンシェルを訊ねた。
「おお、君は支援課の……!丁度良い所に………!」
自分達に近づいてきたレンに気づいた劇団長は明るい表情をした。
「………どうかされたのですか?」
「じ、実は………ああ、これは内密にお願いするんだが………朝から、うちのアーティストの一人が行方不明なんだ。」
「!!」
劇団長の説明を聞いたレンは表情を厳しくした。
「前に少しお話ししたニコルさんなんですけど………昨日から家の方にも帰ってないそうなんです。」
「家族の方でも手分けして探しているらしいんだけど、見つからないらしいのよ。」
「私どもの知っている連絡先は全て当たってみたいのですが………」
「……そのニコルさんという方は最近様子がおかしいといった事はありませんでしたか?」
リーシャ達の話を聞いたレンは真剣な表情で尋ねた。
「あ、ああ、その通りだ。気が弱くて、ミスの目立つ新人アーティストだったんだが………記念祭の後くらいかな。急に驚異的な才能を見せ始めたんだ。」
「………………才能というのは、具体的には………」
「―――卓越した身体能力だ。それに情熱的な演技も難なくこなすようになった。」
「でもあれって………まるで憑き物がついたような感じよね。絶対ニコルがやるような演技じゃないわよ。」
「ええ、それに何だか熱に浮かされたような雰囲気で………まるで別人みたいでした。」
「なるほど………(この様子だと他の人達も失踪しているでしょうね……)
劇団長、イリア、リーシャの話を聞いたレンは頷いて厳しい表情で考え込んでいた。
「劇団長さん、ニコルさんの事は支援課に任せて頂けないでしょうか。もしかすると、私達の方で探し出せるかもしれません。」
「本当かね………?もしそうなら願ってもない。是非頼みたい所だよ。」
「そうね、貴女や弟君達が担当してくれるなら安心かも。それにあたしたちも、公演の段取りを付けないといけないしね。」
「え……まさか役者が一人欠けた今の状況で今日の公演をするのかしら?」
イリアの説明を聞いたレンは驚きの表情で尋ねた。
「ええ、それも話し合っていた所なんだけど………ニコル君が戻らなくても舞台をやめるわけにはいかないわ。何とか役をやりくりして上演するつもりよ。」
「劇団アルカンシェルが舞台を降りる事などありえませんからな。」
「ああ、役や台本、演出も調整しなければならないだろうが………公演時間を遅らせるという手もある。何とかして実現するつもりだよ。」
「……ふふっ、さすが”アルカンシェル”ですね。………わかりました。皆さんは公演の方をお願いします。ただし、楽屋や客席にニコルさんが戻っていないか常に注意しておいてください。もし見つけた場合はすぐに支援課の方に連絡を。」
劇団員や劇団長達の話を聞いたレンは微笑んだ後指示をした。
「わかった、そうしよう。」
「……ごめんね、私がもっと注意していればこんな事には………ニコルさんのこと、どうかよろしくお願いね。」
「ええ、レン達に任せて。」
そしてレンが劇場を出るとリーシャが近づいてきた。
〜歓楽街〜
「―――レンちゃん!」
「?どうかしたのかしら、リーシャお姉さん。」
「その………レンちゃんにどうしても聞きたい事があって………」
「レンに?……うふふ、もしかして”L”でもあるレンが独自で何か情報を手に入れていると思っているのかしら?」
リーシャの話を聞いたレンは目を丸くした後事情を察し、意味ありげな笑みを浮かべて訊ねた。
「……単刀直入に言うとそうなるわね………」
「―――残念ながらレンもアルカンシェルの人が行方不明になった件はさっきの話が初耳だからわからないわ。だけど、そのニコルという人がどんな状態であるかは大体予想できているわ。」
「!?それは本当………!?」
レンの答えを聞いたリーシャは目を見開いて驚いた。
「……その前に一つ聞きたいんだけど………リーシャお姉さん。”裏”に属しているお姉さんもわざわざレンに聞きに来なくても多分、気付いているのでしょう?ニコルという人が今、どんな状態なのかを……」
「………………………やっぱり、薬物による副作用か中毒症状だったの………?私の知る東方の薬で一時的に身体能力を上げる薬がある事を知っていたから、もしかしてと思っていたのだけど………」
「十中八九そうでしょうね。ちなみに今朝ニコルという人と似た状況である別の人が行方不明になったという連絡も入ったわ。それを考えると薬物をしていると思われる人達はみんな、行方不明になっているでしょうね……」
「そう………」
レンの答えを聞いた疲れた表情で溜息を吐いた。
「……その、ありがとう。わざわざ教えてくれて………」
「うふふ、リーシャお姉さんとは”色々な意味”で今後も仲良くなっておきたいしね。それと一つだけ忠告しておくわ。―――多分、今日か近日中に”事態が一気に動く”でしょうから、”一般人の外出は控えた方がいい”と思うからくれぐれも気を付けてね?」
「!?………わかったわ、イリアさん達にはそれとなく伝えておくわ。それじゃあレンちゃんも頑張ってね。」
レンの忠告を聞いて血相を変えたリーシャはすぐに表情を戻してレンに微笑んだ後劇場へと戻って行った。するとその時レンのエニグマが鳴りはじめ、レンは通信を始めた。
「――はい、レンよ。」
「レンちゃん、今どこにいるのかしら?」
「今はアルカンシェルの聞き込みが終わって劇場を出た所よ。」
「え、そうなの。それならロイド達とも合流してそれぞれの情報交換をした方が効率がよさそうね。今ロイドに連絡して合流場所をどこにするか聞くから、ちょっと待ってて。」
「ええ、わかったわ。」
その後レンは再び来たエリィの通信で合流場所を聞いた後合流場所に向かった。
〜住宅街・住宅〜
「一課の資料によるとたしかこの家のはずだけど………」
エリィ達がそれぞれ合流場所に向かっているその頃、ロイドとランディは住宅街にある薬物を服用したと思われる人物の家に入った。
「お、あの人は確か小嬢の……」
女性と話し合っているソフィアに気づいたランディは目を丸くした。
「あの、あの……わたくし、一体どうしたら………」
「クレイユさん、どうか落ち着いてください。こうなったら誰かに相談するしかないでしょう。」
ソフィアが女性と会話をしていたその時、ロイド達が近づいてきた。
「あなたはハロルドさんの奥さんの………」
「あ……支援課の皆さん!よかった………実は困った事がありましてどなたかに相談しようかと………」
ロイドに話しかけられたソフィアは明るい表情になった。
「それはもしかして証券マンをしているこちらのご主人の事ッスか………?」
「そうなんですの。今朝目を覚ましたら、主人がいないんですの。ソフィアさんと2人でご近所を探してみたのですけど………」
「そうですか………あの、ご主人は最近様子がおかしいような事はありませんでしたか……?」
「あ……そうかもしれませんの。娘はずっと心配していましたの。」
「……予想的中か。夜の闇に消えたって事は目撃者を見つけんのは難しそうだな。」
ロイドの質問に答えた女性の話を聞いたランディは目を細めてロイドに指摘した。
「ああ、今はともかく失踪者の全員の確認を取ろう。ソフィアさんはこちらのご家族の方と面識があるみたいですね。あの………警察の方でも捜索してみますが時間がかかるかもしれません。しばらくご家族の方に付き添っていて頂けますか?」
「ええ、喜んで。主人もじきに仕事から戻るはずですし。」
「すみません。では、この場をよろしくお願いします。」
その後ロイド達は合流場所に向かい、エリィ達と合流してそれぞれの情報交換をした。
〜住宅街〜
「…………まさか全員、行方不明になってるなんて……」
「嫌な予感、的中だな………自発的に消えちまったのか、それとも拉致されちまったのか。」
「どうやら向こうの方が一枚上手だったみたいね。」
「現時点では情報が少なすぎてどちらの可能性も考えられますね。」
エリィとランディが溜息を吐いている中、レンとティオは考え込んでいた。
「……失踪した5人については氷山の一角かもしれない。クロスベル市全体ではかなりの人数が失踪している可能性が高そうだな……」
「ええ……一体どれだけの人達が消えてしまったのか………」
「どうする、ロイド?一人一人を捜すってのはさすがに難しそうだぜ?」
「ああ……こちらの手が圧倒的に不足している。こうなると上からの圧力で一課が動けないのが痛いな……」
「こっちの人手はたった5人と一匹だものね。」
「でしたら二課のドノバン警部に相談してみてはどうでしょう?以前、手伝った貸しもありますし。」
「いや……難しいと思う。ダドリー捜査官がわざわざ、支援課を頼ってきている以上、二課にも圧力がかかっているはずだ。」
「なるほど……確かに。」
「となると広域防犯課も状況は同じでしょうね………警官隊のマンパワーが使えればすごく助かるのだけど………」
今後の方針にロイド達がそれぞれ悩んでいるとロイドのエニグマが鳴りはじめた。
「はい、特務支援課、ロイド・バニングスです。」
「おい、新米ども……!まさか何かしでかしたんじゃないだろうな……!?」
「へ………もしかしてその声はダドリー捜査官ですか?」
「もしかしても何もない!お前達、ルバーチェに何かちょっかいをかけなかったか!?」
「い、いえ別に………現在は薬物捜査の方に専念していますから。……何かあったんですか?」
「あったも何も!連中の事務所が……ゴホン、何でもない。何もしてないなら構わん。そのまま捜査を続けていろ。」
「あ………………………………」
通信相手―――ダドリーに一方的に通信を切られたロイドは声をあげた後エニグマを真剣な表情で見つめていた。
「ダドリー捜査官から?何かあったの?」
「いや……」
ロイドはエリィ達にダドリーとのやりとりを伝えた。
「なんだそりゃ。」
「……露骨に怪しいですね。ルバーチェ商会で何かあったんでしょうか?」
ロイドの話を聞いたランディは目を細め、ティオは考え込んだ。
「……多分だけど、ルバーチェも全員行方不明になったんじゃないかしら?」
「ええっ!?」
「…………確かにルバーチェの構成員達がこの蒼い錠剤を服用している可能性があったからな。その可能性は十分にありえるな………」
そしてレンの推測を聞いたエリィは驚き、ロイドは考え込みながら呟いた後、エリィ達と共に考え込んだ。
「こりゃ、行ってみるしかねえんじゃねえのか?」
「そうね……抗争には関わるなって釘は刺されているけど………」
「失踪者にマフィアが絡んでいるなら大義名分は立つのではないかと。」
「うふふ、薬物捜査の延長だからダドリーおじさんも文句は言えないしね♪」
「ああ………ルバーチェ商会に行こう!」
その後ロイド達は裏通りにあるルバーチェ商会の建物に向かった―――――
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