AEGIS 第九話「meet again〜皮肉という名の再会〜」(4)
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AD三二七五年六月二七日午前一時一三分

 

「うおらぁぁぁぁぁぁ!」

 ゼロの咆哮が周囲に響き渡る。

 一合、横に一閃。二合、村正はそれを片方のフィストブレードで弾くと、もう片方のフィストブレードをゼロへと向けて一閃した。

 ゼロはとっさに義手を前面に出してフィストブレードの剣の一本を無理矢理掴んだ。

 だが、それに対して村正はニヤリと笑う。すぐさまフィストブレードに仕掛けられたトリガーを引いて、ゼロに捕まれていた剣を射出した。

 フィストブレードは剣先がバネになっており、トリガー一つで飛ばすことが出来る。それの三枚刃タイプという、異端なものが、ムラマサの得物だった。

 両手に六本もの剣を抱え込む剣舞師、そして、その剣は質量の関係上射程こそ短いが近距離に置いては恐ろしい破壊力を秘めた弾丸にすらなるのだ。

 その衝撃に思わずゼロものけぞり転倒する。

 それと同時に村正は踏み込んだ。

 だが、ゼロは転ぶと同時に左足を出してその剣劇を防いだ。

 本来の足ならば軽く肉が裂けているが、ゼロの左足はアーマードフレームだ。こういう風にガードに転向することも可能なのだ。

 鋭い音と思わぬ使い方に思わず村正も唸る。

 ゼロは思いっきり足で剣を弾いた後バック転をして後退する。

 そしてある程度距離をおいたところで再び剣を構えた。

 呼吸を、一度互いに整える。

「今の使い方はなかなか面白いな、鋼」

「ま、堅ぇから出来る芸当だけどな」

 ゼロは首を一度軽く回した後そう言った。

 しかし、彼らの会話の中にはやはりというべきか凄まじいまでの殺気が孕んでいる。

 彼らにとって、お互いの存在している理由を確かめる手段が戦い意外に存在しない。

 いや、それ以外求めることが不可能だった。

 どんな人間にも闘争本能が存在する。彼らにとっての生活空間は幼い頃から戦場だった。

 その戦場の記憶を引きずりながら生きていたのだ、否が応にも闘争本能は徹底して育っていく。

 特にゼロの場合、物心付いた頃からゲリラの村で育ち戦っていた。そのため闘争本能がやたらと成長し、結果このような性格になった。

 だが、それを不幸だとはこれっぽっちも思ってはいない。恐らく、村正も同じなのだろう。

 ここまで来たのは誰に決められたわけではなく、自分で選んだ道だからだ。それさえあれば、その道が血にまみれていようが構わない。悔いは、何一つ存在しない。

 再び剣先を互いに向ける。

 その後再び大地を蹴り上げ疾走、そしてまた鋭い音を立てて互いの剣を合わせる。

 まず先手を打ったのはゼロだ。

 一度村正と剣を合わせるやいなや、体を横に回転させ村正の背後に回り、後ろから村正を突き刺そうと、両刃刀の片側を彼へと向ける。

 だが、その時村正はすぐさま後ろに手を回しその剣劇を受け止めるとそれを支点にして一気に百八十度回転しもう片方の剣でゼロに斬りかかる。

 狙いは頭だろう。ゼロはそれを察して避けようとするが、その剣劇は頬をかすった。

 そのかすった場所は、彼が昔受けた、十字傷の跡。そこから再び血が吹き出る。

 その時、ゼロの中に一瞬過ぎるフラッシュバック。切り刻まれた自分の左手足、治ることすらなくなった傷跡。

 そのトラウマから逃げるように、彼は村正の脇腹を思いっきり蹴りつけた後、再度僅かに距離を置いて村正の二の太刀を避けた。

 その時村正は不機嫌そうな顔をした。

「どうした、鋼」

 答える余裕が、何故かない。心臓の鼓動が高鳴る。あの時のトラウマが何故か蘇る。出血はもうないのに、何故それが未だに心を縛るのだ?

 何故今更蘇る?!

 ゼロは頭の中で必至になってその感情を消そうとする。

 その時、村正は一気に疾走、ゼロが反応したとき、彼は既に目の前にいた。

 そして、気付けば自分の頭に村正からのハイキックがかまされていた。

 ゼロは思いっきり横に飛ばされる。

 そして重い音を立てて受け身を取ることすらまま成らず大地に伏した。

 完璧に今ので右耳がやられた、全く聞こえない。ついでに右目も相当まずい、視点が定まらない。しかも未だに頭がくらくらする。

 相当効いた。

 その後村正は再び話しかける。

「今のは凄まじくつまらん。お前がさっきまでやっていた荒々しくも洗練された戦の動きがねぇぞ」

 その言葉が一番効いた。だが、おかげでくだらない考えが吹っ飛んだ。

「そうだな、わりぃ」

 幸い、手に両刃刀は持っているし、アーマードフレームは何の問題もなく動く。

 なら、まだ戦えるということだ。

 両刃刀を杖にして、立ち上がった。

 軽く頭を一度振った。

 血が出ている所から少し蒸気のような何かが出ている。

 その間にも傷は再生していく。

 この呪われた体だろうが何だろうがそれをも引きずってやる。

 そんな思いを抱きつつ、ゼロは不敵な笑みを浮かべた。

 それに答えるかのように、村正もまた不敵に笑う。

 そして、三度目の疾走。

 その鋭い音はいつ果てるともなく続いた。

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 ルナは空破のコクピットで唸らずにはいられなかった。

 隊長機であるこの機体には他機よりも強力な広域通信アンテナを持っている。だが、今掛けられたECMによって完璧にその手段が封じられた。

 しかもレーダーも死にかけている。

 なんとかしてECMを封じる手段はないかとこまねく。

 その時、僅かに生きている熱探知レーダーが二つの人影を見つける。

 ルナはその先にモニターを合わせた。

 そこにいたのは、ゼロと村正だ。

 彼女が見る限り、ゼロの方が不利だった。見事にゼロの顔面に村正のハイキックが決まったのだ。

 今のはやばい、ルナの目にも明らかだった。

 今ここでゼロを死なせるわけにはいかないと感じた。すぐさま空破の召還を解除して彼の増援に行くべきかと思ったとき、パッシブソナーが反応した。

 自分に高速で迫り来る敵機、その数一機。しかしかなり近距離に迫っている。

 ゲイルレズを腰部のマウントラッチに取り付けた後、オーラブラストナックルを展開してその機体へと高速で移動した。

 スコーピオンのカスタムタイプかと思ったが、漆黒に塗られた機体色、明らかに相手はシャドウナイツだ。

 それに、手に持ったシールドナックルから緑色のオーラが出ている。AIがデータを検索したところ、フェンリルのリュシフェルなる機体らしい。

 空破と同じような格闘戦タイプだが、空破と違って一発に質量がある。

 先に先制したのはリュシフェルだ。

 一度構えた後、ブースターを一気に噴出して空破へと迫り来て、頭部狙いの拳を打ち出す。

 回避すると、位置が入れ替わっていた。空破の足にある爪のようなアンカーを軸にして無理矢理機体を反転させると、リュシフェルへと突っ込んだ。

 再び位置が入れ替わる。ダメージはない。

 入れ替わった段階で、一度互いに構えなおした。

 リュシフェルは軽く地面を一度蹴るようにその場で飛んだ。

 人間に置き換えた場合、とんと軽く一回飛んだことになる。

 その動作が、ルナには見覚えがあった。

 エイジスはイーグのイメージ通りに動くIDSSを搭載している。ということはイーグの癖をも反映されるのだ。

 バックステップした後、軽く一回飛んで足の調子を確かめる癖を持った人物を、ルナはよく知っていた。

 その人物こそ、エミリア・エトーンマントだった。

 自分の師匠にして唯一の幼なじみにして、かつての唯一の友達。それが彼女だった。

 しかし、彼女は確かに血のローレシアで死んだはずだ。行方不明とは言われていたが結局死体すら見つからなかったのだ。

 あの炎の中焼かれたのだろう。ずっとそう思っていた。

 しかし、目の前の相手の癖、あんな変な癖を持っている人物などエミリア以外にあり得ないが、だったら何故彼女がフェンリルにいて、更にはシャドウナイツになっているのか、それがまったくわからない。

 ルナは確かめるためにリュシフェルに有線ワイヤーを使ってのダイレクト通信を試みた。

 空破の指から通信ワイヤーが放たれリュシフェルの装甲に接続された。相手の方から声が聞こえる。

 ノイズが激しいが一応聞けないこともない声だ。

『フレーズヴェルグとお見受けした。私はソフィア・ビナイム。ガードハウンドとも呼ばれている。貴公とは真剣に勝負がしたい』

 その声を聞いた瞬間に確信した。

 間違いない。この声の主はエミリアだ。

 だが、その雰囲気はあまりにも冷たい。

 そして、彼女は自分のことを『ソフィア』と名乗った。

 何故そんな名前を使う?

「エミリア姉ちゃんでしょ?! そうなんでしょ?! あたしよ、ルナよ! 『ルナ・ラナフィス』よ!」

 いつの間にか、声を荒げていた。

 ルナとエミリアは十年も前に別れたっきりだ。当然今の名字など知るはずもない。

 だから昔の名前で言った。

 だが、その声に対してもソフィアの反応は淡泊だ。まるで戦場に置いては感情がないかのように冷静で冷徹な声である。

『私はエミリアなどと言う名前ではないぞ、フレーズヴェルグ』

 その時、ルナの心が何故か痛んだ。

 何故分からないの?

 それとも、過去を捨ててしまったの?

 それとも、記憶がないの?

 だからかルナは余計に声を荒くする。

「姉ちゃん!」

 その言葉の直後だった。ソフィアの苦しみにも似たうめき声が聞こえたのだ。

 しかし、それも一瞬でかき消え、ソフィアの荒げた声が響き渡った。

『何故貴様は私を惑わせる?!』

「え?!」

『迷わせるな、私を!』

 そう言った瞬間、リュシフェルに付いていた通信ワイヤーを切ってリュシフェルは空破へと向かう。

「戦うしか……ないっていうの……?!」

 ルナはこの時、何故か『皮肉めいた再会だ』と、心の奥底で思った。

 そして、またオーラブラストナックルを展開し、相手へとその拳を向けた。

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「やってくれる……」

 バートは思わずこの状況に唸る。 ルーン・ブレイドの戦力を大幅に減らすにはあの戦艦を潰すことだ。そう思いわざわざ隠れながら移動していたときにECMをやられたのだ。冷や水を掛けられた気分になった。

 頭の中では戦局を将棋に見立てている。そうすると何故か戦場の様子がよく分かるのだ。将棋の全国大会によく出て、そこでなんでもいいから賞をもらってくること(参加賞でも構わない)が、最近の彼の楽しみだった。

今のところ相手の方に三手先まで潰されている。

 しかし、三手などものの数ではない。本場ならば十手先まで封じられていることもあり得る。

 これを打破するにはECMを破壊すること、これだけだ。この機体の持つ機動力とスナイパーとしての確かな腕、それがある。ならば相手を逆転することも可能だ。

 その時、微かに反応していた熱源探知レーダーが建物の上に妙な影を映した。

 バートはサーモグラフィーを展開してチェックする。

 その形、その温度、明らかに人間だ。その人間の手に握られているのは形から察するにアンチM.W.S.ライフル。

「まさか……あれで破壊する気か?」

 だが、いくらアンチM.W.S.ライフルとてあのECMポットを破壊するのは余程の腕と集中力がない限り無理だ。

 見た限りではかなり装甲が厚い。

 だが、何故かこいつならやってくれるのではないかという、妙な期待感がある。

 ならばそのショーでも見ていることとしよう。

「私を楽しませてくれよ」

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 アリスは、ECMポットの浮いている場所に一番近いビルへと上っていた。

 屋上からは炎がわき上がる施設の様子がよく分かった。

 だが、今はそれどころではない。

 早くこれを片づけなければ、自分たちはやられる。

 そう思い単独で行動したのだ。ルナに通信を入れようにもECMによる電波障害で通信網が遮断されている。SNDを経由してもダメだ。

 しかし、自分の愛機であるレイディバイダーで行けば間違いなく相手に察知され殺される。

 そうなると手段は一つ、直接生身で行くしかない。そう彼女は考えた。

 すぐさまレイディバイダーの召還を解除した彼女はビル伝いに静かに進行し、ECMユニットの展開している場所まで向かった。

 装備はボックスマガジンが二個、弾丸数計一〇発、それと各種スコープユニット。

 アリスはそれらをセットした後、ハウリングウルフにボックスマガジンを入れ、大地に伏せるようにして寝そべる。

 FCSは完全にエラーを起こしている。予備のサイトは一応使える程度でしかない。精密射撃が出来ないことはないが困難を極めている。一応暗視スコープを展開するが、ECMの影響でノイズが入りまくっていて話にならない。結局アリスはそれをしまう。

「こんなことになるんならコンピュータ制御じゃないスコープ持ってくりゃ良かったわ」

 アリスは愚痴りながらも片目を閉じて神経を集中させる。

 一〇発全部当てなければ破壊できまい。一発でも外れたらアウトだ。間違いなく破壊できない上に位置がばれる。

 そうなったら自分はもうジエンドだ。

 相手は近くにいる。

 一四.五ミリ×一一五鉄鋼弾五発が二セット、それにアリスは全てを託す。

 マガジンを装填する。一度だけボルトアクションを起こして装填。

 アリスは一度深呼吸をする。敵は目の前、当てなければ死が待つのみ。彼女はトリガーに指をかけた。

 何度もやってきたピンホールショット、それを決める。だが、動体に対してピンホールショットを決めるのは厄介なことこの上ない。

 心臓の鼓動が高鳴る。

 しかしやるしかないのだ。

 だからアリスは、迷うことなくトリガーを引いた。

 当たれ。

 彼女は弾丸に祈りを込めるかのようにそう願った。

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村正との死闘、再会、そしてECM破壊作戦
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