魔法少女リリカルなのは〜原作介入する気は無かったのに〜 第百五十七話 倒れゆく鬼斬り役達
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 「火拳!!」

 

 「ほいっと」

 

 俺の手から放たれる特大の炎も崇徳上皇が手を振るい、発生する風によって軌道を逸らされる。

 

 「次はコッチの番だな」

 

 指先から電撃が放たれ、俺に迫るが

 

 「イージス!!」

 

 魔力の障壁によって防ぐ。

 

 「本ッッッッッ当に硬いなそのバリア」

 

 うんざりした表情を浮かべる崇徳上皇だが、向こうは全然本気出して攻撃してないのでそんな表情浮かべるぐらいなら本気で攻撃すりゃ良いのに。

 

 「ヘパイストス!!」

 

 今度は威力重視の砲撃魔法。

 ついでに

 

 「っ!?身体が!?」

 

 リングバインドで崇徳上皇の両手足を拘束する。

 これで身動きを封じた上、徐々に距離を縮めていく砲撃魔法。

 直撃と同時に爆発が起きる。

 ようやく攻撃が当たったが

 

 「やったの!?」

 

 ……九崎ぃ。その言葉はフラグになる確率大だぜ。

 

 「残念ながらやってないんだなコレが」

 

 ほらな。

 爆発した位置よりも更に上方から声が聞こえたので見上げれば案の定、ヘパイストスを避けたと思われる崇徳上皇の姿があった。

 

 「何で!?モロ直撃だったじゃない!!」

 

 「ああ、直撃を受けたのは私の用力で生み出した分身体だ。私自身は長谷川の力で拘束される瞬間に、分身体と本体の位置を入れ替えたって訳だ」

 

 つまり別の場所に妖力で生み出した分身体と本体を拘束前に瞬時に入れ替えて直撃を避けたっつー事か。

 しかしあの僅かな時間に分身体を作って本体を入れ替える妖力の扱いの上手さや、一切感知させずにそれ等を実行した妖気の隠蔽能力とかマジパねえ。

 

 「ちなみに妖力で生み出せるのは自分の分身体だけじゃないぞ長谷川」

 

 「む?」

 

 崇徳上皇の周囲がグニャリと僅かに歪む。

 膨大な妖気が徐々に形を成していく。

 やがてその姿は巨大な((何か|・・))として俺を見下ろす格好になっていた。

 全長は数十メートルぐらいあり、指は4本しかないが鋭い爪が伸びている。

 

 「何だコイツは?」

 

 エヴァに出て来そうな容姿なんだが新手の使徒か?

 

 「デカッ!?何コイツ超デカッ!?」

 

 九崎もビックリして巨大な存在を見上げていた。

 

 「何だお前等、コイツの本物を見た事無かったのか?なら教えといてやる。コイツが((大太法師|ダイダラボッチ))だ」

 

 ((大太法師|ダイダラボッチ))……名前は聞いた事あるぞ。

 そうか――コイツがなぁ。

 

 「私の妖力で生み出したとはいえ、性能は本物に迫る程だと断言してやろう。ついでに言えば私の妖力で満ちているこの空間にいる以上、再生能力も半端無いものになっているしな」

 

 つまり生半可な攻撃では倒せんと。

 

 「なら再生能力が如何程のものか溜めさせて貰いますか」

 

 大きく振り被り、勢いよく振り下ろしてきた((大太法師|ダイダラボッチ))の腕を飛んで躱し

 

 「カラミティ――エンドォッ!!!」

 

 短い時間とはいえ集束した魔力を纏った手刀を振り下ろし、((大太法師|ダイダラボッチ))のの片腕を切断する。

 

 「お?やるなぁ長谷川」

 

 手刀で腕を斬り落とした様を見て崇徳上皇が声を上げる。

 ――――が

 

 「……ふむ。((この程度|・・・・))じゃあ瞬時に再生されるか」

 

 斬り落として間もなく腕は再生される。

 俺にとっちゃ予想を上回る再生速度だ。これじゃあ上半身と下半身をお別れさせても腕同様、瞬時に再生されちまうな。

 てか斬るぐらいじゃ意味無さそうだ。アレを一撃で屠る程の大技でないと。

 

 「仕方ない……」

 

 俺は『ふぅ…』と一息吐いて

 

 「俺の((切り札|・・・))の1つを切らせてもらうか」

 

 ((大太法師|ダイダラボッチ))を睨みながら決心した。

 

 「ほぅ…((大太法師|ダイダラボッチ))を一撃で滅する技があるのか?」

 

 崇徳上皇は興味津々な感じで聞き返してくる。

 ならご期待通りに見せてやるぜ。

 

 バッ!!

 

 俺は自分の懐から1枚のカードを取り出す。

 そのカードには俺自身が描かれていた。

 カードを天高く掲げ

 

 「!”#$%&’‘+*!”#$%&’‘+*」

 

 俺は呪文を詠唱する。同時に俺の眼前の地面には巨大なミッド式の魔法陣が現れた。

 

 「何だ?聞いた事の無い言語だな」

 

 崇徳上皇は眉を顰め、若干の警戒心を向ける。

 しかしそんな彼女を無視して俺は更に呪文の詠唱を続ける。

 

 カアアアアアァァァァァァァァッッッッッッ!!!!

 

 呪文の詠唱が進む度に魔法陣の輝きが増していく。

 

 「何!?何が起きるの!?」

 

 九崎がワタワタとしてる中、遂に呪文の詠唱は終わりを迎える。

 天高く掲げたカードがひとりでに俺の手から離れ、更に高く舞い上がった後に粒子へと変換され、魔法陣に降り注いだ次の瞬間、魔法陣から出現するのは天を焼き尽くすかのような勢いで噴出する炎。

 その炎が徐々に姿を形成し、((大太法師|ダイダラボッチ))にも匹敵する大きさの生物へとなった。

 

 「デカッ!?コッチも超デカッ!?」

 

 「フフフ……」

 

 九崎が再度驚き、俺は不敵な笑みを浮かべ、笑い声を完全に押し殺せず小さく漏れてしまっていた。

 先程俺が唱えた呪文――――それこそ古代エジプトにおいて法律、文学、宗教の文書に用いられた文字であり、特別な地位の者にしか解読できない((古代神官文字|ヒエラティック・テキスト))である。

 そのとある一節――――

 

 

 

 ――時一つとして神は不死鳥となる。選ばれし魔物は大地に眠る――

 

 

 

 「((来たれ|アデアット))((太陽神|ラー))よ。地より蘇生し天を舞え!炎を纏いし不死鳥と成りてええぇぇぇぇっっっ!!!!」

 

 声高々に叫び、某作品に登場した三幻神が一柱、『ラーの翼神竜』が炎を纏い不死鳥へと成った今、裁きを下す。

 

 「((太陽神|ラー))の攻撃!ゴッド・フェニックス!!!」

 

 俺の命に従い、不死鳥が猛烈な勢いで((大太法師|ダイダラボッチ))に襲い掛かる。

 ラーが接触すると同時に灼熱の業火が((大太法師|ダイダラボッチ))を包み、再生するよりも早く((大太法師|ダイダラボッチ))の身体を燃やしていく。

 

 「オイオイ……この炎はシャレにならんな」

 

 崇徳上皇が頬を引き攣らせながら口を開いていた。

 やがて妖力で生み出された((大太法師|ダイダラボッチ))は消し炭と化し、再生もされる事無く消滅してしまった。

 

 「((去れ|アベアット))」

 

 対象を完全に撃破したのを見届けた俺は短く告げて((太陽神|ラー))自身の姿を霧散させ、粒子化した筈のカードが元の形へと復元する。

 

 「所詮は妖……それも偽物じゃあ、神の攻撃に耐えられないのは道理だな」

 

 俺は何度もうんうんと頷いていた。

 流石((太陽神|ラー))。三幻神の中で最高位に君臨するだけの事はある。

 まあ、ぶっちゃけると((古代神官文字|ヒエラティック・テキスト))を唱えなくてもこのカードを手にして『((来たれ|アデアット))』って言えば((太陽神|ラー))は呼び出せるんだけどねー。

 ((古代神官文字|ヒエラティック・テキスト))はノリと勢いでやった演出みたいなもんだし。

 けど威力は見ての通り、カイザーフェニックスや邪王炎殺黒龍波を上回る程で切り札の1つとして数えるのに相応しいのだよ。

 唯一残念だと思ったのは何故遊〇王なのかという事だ。

 これがヴァ〇ガー〇のド〇ゴニッ〇・オーバー〇ードなら俺は今頃狂喜乱舞していただろう。

 ま、遊〇王の原作は読んでたから嫌いって訳じゃないけどね。

 俺はカードを懐に戻すと

 

 「むぅ……こんなアッサリやられるとは予想外だな。なら次は……」

 

 再び崇徳上皇の周囲が妖力で歪み、何らかの形を形成し出す。

 ……どうやら今度は1体だけじゃなく、複数のナニかを生み出すようだ。

 大きさからして俺達人間とほぼ等身大……しかも

 

 「…………マジか」

 

 やがて妖力がハッキリとなった姿を見て俺はそう呟いた。

 何故ならそれ等は皆、((俺の知り合いの姿|・・・・・・・・))だからだ。

 

 「優人、くえす、飛白さん、飛鈴ちゃん、静水久、リズ、明夏羽、沙砂、遥、葵、クルミ、テスラ、ナイン、アミタ、キリエ、アリサ、すずか、テレサ、謙介、直博、泰三、宮本、モチョッピィ――」

 

 「てか私までいるじゃない!」

 

 「どうだ?本人含め、お前等の知り合いを再現させてみたんだが」

 

 九崎が自分の偽物を見て叫んでいた。

 他にも野井原や静水久の知り合いの妖に優人、くえす、飛白さん以外の鬼斬り役、果てには九尾の偽物までいやがる。

 そして――――((俺自身も|・・・・))。

 唯一、野井原の偽物だけはいねーな。

 ただ生み出された偽物の集団は人形の様に無表情であり、瞳も虚ろなものである。

 

 「(本物には若干劣る偽物……ねぇ)」

 

 はたしてどこまで俺の((能力|チカラ))を再現出来るのか。

 流石に宝具まで再現は出来ねーだろ。出来たら面倒だ。特に宝物庫。

 

 「てか遥達だけ服装の意向が何だか違う気がするんだけど」

 

 九崎が言う様に遥、葵、クルミはツインエンジェル。テスラとナインはツインファントムの衣装で登場している。

 他の皆は風芽丘の制服だったり鬼斬り役として活動する際の服装だったり私服だったり特に違和感を感じない中、遥達だけ異色を放っている様に九崎は感じてるのだろう。

 俺からすれば別に違和感なんて感じないけどね。

 

 「コイツ等は時々、この格好で((色々やってた|・・・・・・))からこうしてみた。なぁ長谷川」

 

 …崇徳上皇の奴、この様子だと((七つの聖遺物|セブンアミュレット))の一件の事について知ってやがるな。

 もしくは風芽丘にロボットが襲撃してきた時に実は何処かで見てやがったか?

 

 「…所詮は偽物。見た目が知り合いだからって手加減するつもりはねーぞ」

 

 「しかしこの数を相手に出来るか?特に九崎やバニングスのような一般人は逆に底上げされてるんだぞ。特に九崎はサービスとしてバストが本人よりも大きいと言う――」

 

 「長谷川君遠慮はいらないわ!!偽物なんてブッ飛ばしちゃって!!」

 

 殺意の籠もった九崎の声が俺に届く。

 偽物の胸が本人より大きいという事実が許せないのだろう。

 しかしそれなりの実力を伴った偽物達による物量作戦か。

 ……相手に出来ない事は無いが、確かに数の暴力で来られては面倒だな。1体1体倒しても崇徳上皇の妖力が続く限り何度でも甦ってくる可能性もある。

 ……しゃーねーか。

 

 「切り札((その2|・・・))、切らせてもらうぜ」

 

 ここには管理局の目も届いてないし、ダイダロスも俺の意を汲んでくれているから一部データを削除するなり捏造するなりしてくれるだろう。

 後は九崎だが、他言無用を約束させておけば問題は無い。優人と出会った時以来の付き合いだが、信頼と信用は出来る奴だし。

 俺は自分の背後の空間を歪ませる。

 

 「何だ………って、おいおい」

 

 崇徳上皇の声色から察するに意外に驚いてやがるな。

 それもそうだろう。

 今、俺の背後には剣、槍、斧、他にも様々な形状の武器と言えるのか疑問に思う様な形状の物の切っ先もしくは先端が大量に現れ、全て相手側に向いているのだから。

 俺はゆっくりと右腕を上げながら言う。

 

 「崇徳上皇。お前、自慢して良いぜ」

 

 何せこれこそが((王の財宝|ゲート・オブ・バビロン))の本来の使い方、攻撃方法であり

 

 「この俺が宝物庫の本来の使い方をするなんて、少なくとも後2年は無いと思ってたからな」

 

 2年後――それは『Sts編』が始まる時期の事を指す。

 

 「だからその事実を光栄に思いながら――」

 

 散れ。

 そう発すると共に俺は上げた右腕を振り下ろし、次々と宝物庫から姿を見せている武器の数々を偽物達に向かって射出した………。

 

 

 

 〜〜優人視点〜〜

 

 「このっ!」

 

 くえすが緋鞠に向けて魔力の砲撃を放つ――が、ソレは緋鞠に躱されてしまう。

 

 「チッ!本当にすばしっこい猫ですわね」

 

 小さく舌打ちをしながらくえすが緋鞠を睨む。

 俺達と緋鞠が交戦し始めて十数分。

 緋鞠は自らの妖力で自分自身の身体能力を底上げし、俊敏な動きでコチラの攻撃を躱しながら接近し、一撃を入れようとしてくる。

 

 「これ以上の接近はさせん」

 

 しかしコチラへの接近は愛路さんの護符が阻む。

 ついでにこの護符は俺の光渡しで強化もしてあるから易々と破られる事は無い。

 

 「キキ……」

 

 しかし緋鞠は焦る様子も無く、微かに笑って後退する。

 先程からお互いに決め手がないこの状況が続いている。

 だが…

 

 「……このままだとマズいですわね」

 

 「ああ、ジリ貧だな」

 

 くえすの言葉に頷く愛路さん。

 

 「アハハハハ!」

 

 緋鞠は結界内に満ちている妖気を取り込み、攻撃に使って消費した分の妖力を回復させる。

 拮抗している状況だが、実際は俺達にとって不利な展開。

 俺や愛路さんは霊力、くえすは魔力を使えば消費するのに対し、緋鞠は妖力を回復しながら戦える。この結界内に存在する妖気を取り込め続ける事が出来る限り緋鞠に消耗は無いも同然。

 

 「イイカゲンアキラメテワガカテニナレ。キサマラニンゲンニカチメハナイ」

 

 「はっ、調子に乗ってるんじゃありませんわよ猫。何処かの誰かさんの言う事を聞きさえしなけりゃ今頃は完璧にDEATHってますわよ」

 

 うぐっ……。

 確かに緋鞠を殺さない様にお願いしてるからくえすは全力で攻撃を放たず、威力を抑えてくれている。

 

 「それで天河君。君がどうにかしてくれないと事態が好転しないのだが?」

 

 「分かってますよ」

 

 けど実際にはどうすれば良いのか…。

 ただ叫ぶ様に声を張り上げるだけじゃあ意味無いもんな。

 

 「アアアアアア……」

 

 「む?」

 

 緋鞠が妖気を今まで以上に全身に纏わせる。

 俺達が警戒心を更に上げ、緋鞠が軽く腰を落とした次の瞬間

 

 フッ

 

 「……え?」

 

 緋鞠が……((目の前から消えた|・・・・・・・・))。

 

 ガツンッ!!

 

 そしてすぐ真横から音が聞こえたので振り向くと

 

 「くっ!」

 

 緋鞠の攻撃を防いでいるくえすの姿があった。

 

 「い、何時の間に…」

 

 姿が消えたと思ったら瞬時にここまで移動していたのか。

 全然見えなかった……。

 

 「ククク…」

 

 何度かくえすの張る防壁を殴りつけたと思ったらまた視界から消える緋鞠。

 

 「っ!!今度は何処に……」

 

 「上だ!」

 

 愛路さんがいち早く反応し上を向くと、獰猛な笑みを浮かべた緋鞠が宙で腕を振るった。

 

 「護符よ!!」

 

 愛路さんの護符が発光しながら俺達と緋鞠の間に割って入るが

 

 パアンッ!!

 

 緋鞠が腕を振るった際に放たれた妖気によっていとも簡単に弾けてしまった。

 光渡しで強化した護符を今度は簡単に破るなんて!

 

 「「ぐうっ!!」」

 

 「きゃあっ!!」

 

 威力を相殺出来ず、妖気の一部が衝撃波となって俺達3人の身体を吹き飛ばした。

 各々が別方向に吹き飛ばされ、孤立を余儀なくされる。

 地面に着地した緋鞠はバラけた俺達に態勢を整える暇も与えないと言わんばかりに襲い掛かってくる。

 緋鞠が狙っているのは――――愛路さんだ。

 自分が狙われているのに気付いた愛路さんは護符で緋鞠を近付けさせまいとするが

 

 「ムダダ。モハヤソンナモノデワレハトメラレヌ」

 

 妖力で覆われた緋鞠の身体を傷付けるどころか足止めすらままならない。

 緋鞠の拳が愛路さんの腹に突き刺さり、そのまま愛路さんを持ち上げては地面に叩き付ける。

 

 「がふっ!」

 

 「アハハハハ」

 

 うつ伏せで倒れる愛路さんの顔を足で踏みつけ、徐々に力を込めていく。

 

 「ぐ……がぁぁっ!!」

 

 「コノママフミツブシテクレル……ッ!?」

 

 緋鞠が突如跳躍し、その場を銃弾が通り過ぎていく。

 

 「チッ……外しましたわ」

 

 くえすだ。

 くえすが緋鞠に向けて問答無用で発砲していた。

 

 「ククク…キサマハソウマデシテシニイソグカ」

 

 銃弾を避けた緋鞠はくえすへ言う。

 

 「……って、くえす!!今完全に緋鞠の眉間狙って撃っただろ!?」

 

 「それが何か?」

 

 「緋鞠を殺さないでくれって言ったじゃんか!」

 

 「……そう言うならさっさとあの猫をどうにかしなさい。貴方の光渡しで強化した護符を軽々と打ち破る程、今の緋鞠は厄介なんですのよ」

 

 「分かってるよ。分かってるけど……」

 

 「正直言って今の緋鞠を相手に殺さない様、力を抑えて戦うのは無理がありますわ。ここで私達が負ければ確実に一般人への被害が出る事ぐらい想像出来るでしょう?」

 

 「それは……」

 

 「まあ、そうなった場合緋鞠は討伐の対象としてここにいない退魔師や武偵にでも狩られるのがオチですわね」

 

 ぐっ…確かに緋鞠が民間人への被害を出してしまえばもうお終いだろう。

 

 「イクサノサナカニオシャベリトハヨユウダナ」

 

 くえすの背後に一瞬で周り込んだ緋鞠が妖力を纏わせた腕を振り下ろす。

 マズい!遠距離攻撃が主体のくえすじゃ、あれだけ接近されたら――

 

 「対抗出来ないとでも思っていますの?天河優人」

 

 俺に不敵な笑みを浮かべながらくえすは言う。

 

 ガキンッ!!

 

 金属同士がぶつかるような甲高い音が鳴る。

 

 「ヌ!?」

 

 完全にくえすを捉えたと思われた緋鞠の腕はくえすには届かなかった。

 背を向けたまま片腕を上にあげたくえすの手には光を帯びた剣が握られていた。

 あの剣と緋鞠の腕がぶつかったから音が鳴ったのか。

 しかしあんな剣いつの間に……。

 

 「せいっ!」

 

 「チイッ!」

 

 すぐさま身体の向きを変えると同時に剣を振り抜くが、緋鞠は小さく舌打ちをして躱したため、くえすの攻撃は空を切っただけで終わった。

 

 「((魔剣再現|ソード・ゴースト・リプロダクション))『カラドボルグ』。ちゃんと近接戦闘に使える魔術も習得していますので、要らぬ心配ですわよ」

 

 片手で剣を構え、もう片手には魔導書を携える。

 

 「……フン。イクラケンヲアツカエルトイッテモキンセツセンデハサホドキョウイニハナルマイ」

 

 「脅威になるかならないか…貴女自身で確かめてご覧なさい!」

 

 剣をその場で振るい、魔力の斬撃を緋鞠に向けて飛ばす。

 

 「オソイオソイ♪」

 

 楽々と斬撃を躱す緋鞠だが

 

 「ならコレもプレゼントしますわ」

 

 今度は魔導書がひとりでにパララララとページが捲れ、止まったと同時に大きな魔力の砲撃が緋鞠に迫る。

 

 「大人しく食らってDEATHりなさい」

 

 「ッ!?コレハ!?」

 

 魔力砲撃は途中で拡散し、様々な方向から緋鞠に襲い掛かった。

 コレは流石に緋鞠でも避けられないんじゃあ――

 

 「カクサンシタブンダケイッパツイッパツノイリョクハサガッテイル。ヨケルマデモナイ」

 

 更に周囲に漂っている妖気を取り込み、身に纏う事によってくえすの魔力砲撃を弾き飛ばした。

 

 「もとよりソレが本命ではないから気にしてませんわ――――よ!!」

 

 高速で移動して緋鞠の背後に回り込んだくえすは躊躇なく剣を振り下ろす。

 

 スカッ

 

 だがその一閃は緋鞠を((すり抜けた|・・・・・))。

 

 「オソイナ」

 

 「チッ…本当にすばしっこい」

 

 少し離れた位置から聞こえた緋鞠の声。

 

 「ひ…緋鞠が2人!?」

 

 驚愕する俺を余所に攻撃をすり抜けた方の緋鞠はフッと姿を消した。

 

 「ソノオンナガコウゲキシタノハ、コウソクデウゴイタワレノアトニノコッタザンゾウダ」

 

 ざ、残像ってマジかよ…。

 

 「だったら攻撃を避けられない様な広範囲の魔術で薙ぎ払えば良いだけの事!」

 

 くえすが再び魔力を溜め始めるが

 

 ドシュッ!

 

 「――――――――え?」

 

 くえすの腹から突然腕が生えてきた。

 ……いや違う!くえすが背後から攻撃を受けたんだ。

 

 「ククク…イツマデマエヲミテイルツモリナノダ?ワレハスデニコウヤッテキサマノウシロニイタトイウノニ」

 

 「あ………………かはっ!」

 

 くえすを背後から貫いたのは緋鞠だった。つい先程までくえすと喋っていた緋鞠はまたも姿を消す。

 これも既に残像と化していたのかよ。

 無防備な状態で攻撃を受けたくえすは少し間を置いて口から血を吐き出した。

 魔力で生み出した剣は消え、溜めていた魔力自体は霧散する。

 

 「(けどさっきと違ってくえすが気付く事無く背後を取られるなんて)」

 

 緋鞠のスピードが更に上がったって事かよ。

 それだけ今の緋鞠の実力は高いって事実を認識させられた。

 緋鞠が自分の腕を引き抜き、くえすを蹴り飛ばす。

 くえすはそのまま受け身も取れず、地面を転がってうつ伏せになったまま動かない。

 

 「ぐっ……ごほっごほっ」

 

 穴の開いた腹からも血が溢れ出す。

 

 「フフフ…キサマヲツラヌイタサイニ、ウデヲツタッテタイナイニワガヨウキヲシミコマセタ。コレデチリョウノジュツモツカエマイ」

 

 くえすを貫いた腕に付着した血を舐めながら緋鞠が言う。

 実に美味そうに血を舐める姿を見て、俺の中を2つの思いが渦巻く。

 今でも緋鞠の意識は消えていないという僅かな希望を込めた思いと……既に緋鞠の意識は完全に消えたという絶望に染まった思いが。

 

 「ソウイエバキサマハフジミダッタナ」

 

 血を一通り舐めた緋鞠が倒れているくえすにゆっくりと近づく。

 何をする気だよ、緋鞠の奴。

 

 「キサマノキクヲクライツクシ、コノヨカラカンゼンニキエタトシテモイキカエルコトハデキルノカ?」

 

 「っ!!緋鞠!お前!!!」

 

 くえすを食らう気か!!

 

 「ワカイオンナノニクハサゾカシウマカロウ」

 

 くえすの前に辿り着くと髪を掴み、無理矢理に起こす。

 

 「ゼェ…ゼェ……。汚らわしい手で……髪を掴まないでくれる?」

 

 妖気で力を封じられ、深手を負ったくえすには抗う力も残っていないようだ。

 

 「フン」

 

 「あぐっ!」

 

 再び地面にくえすを叩き付け、くえすの頭を足で踏む。

 

 「サテ、ドコカラクロウテヤロウカ。モモニクカムネニク、ソレトモシンセンナウチニナイゾウヲ――」

 

 「止めろおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 俺は緋鞠に向かって飛び掛かっていた。

 緋鞠を正気に戻す方法は未だ思い付かないが、これ以上皆に被害を出す前にまずは緋鞠自身を止めなきゃいけない!

 何よりさっきから主に戦ってるのがくえすや愛路さんで俺自身ロクに戦ってないじゃないか!!

 緋鞠を助けると言った手前、自分自身が積極的にならずしてどうするんだ!!

 全身を強化し、自分に喝を入れながら緋鞠の元へ迫る。

 

 「フン。バカショウジキニツッコンデクルトハ。マルデミグルシイトッコウダナ」

 

 緋鞠がくえすの頭から足をどけ、ゆっくりと身体をコチラに向ける。

 どうせこのまま突っ込んでも簡単に避けられるのは分かっている。

 なら――

 

 「これでどうだ!!」

 

 「ナッ!?メガ……!!」

 

 俺は指先に霊力を集め、パチンと音を鳴らすと同時に霊力を解放し、眩い光を放つ。

 霊力による目眩まし。

 俺は事前に目を瞑ったので害は無いが、緋鞠には効果があった様で驚きと僅かな動揺が声色から窺えた。

 

 「でえええぇぇぇぇぇいいぃぃぃっっ!!!」

 

 緋鞠にタックル。

 身体ごとぶつかって俺と緋鞠はもつれ合いながらゴロゴロと地面を転がる。

 勢いが止まった時、俺は緋鞠の上――――マウントポジションを取っていた。

 

 「(これはチャンスだ!!)」

 

 もう一度、光渡しを使って緋鞠の深層意識に――

 

 「天河少年!!猫神君から離れるんだ!!!」

 

 え?

 柩が遠くから叫ぶ。

 彼女は緋鞠から離れろと言うが既に遅かった。

 

 ブシュッ!!

 

 俺の首筋から妙な音がした。

 同時に何かが抜けていくような感覚に陥る。

 

 「(これ……俺の血?)」

 

 妙な感覚がする部位に手で触れたら掌がすぐに真っ赤に染まった。

 そう理解するよりも全身から力が抜け、そのまま俺は地面に倒れてしまう。

 

 「クク……アマリニモスキダラケダゾ、オニキリヤク」

 

 俺のすぐ側から緋鞠の声が。

 アイツ、どうやって俺の下から抜け出したんだ……。

 首筋からドクドクと溢れ出し、地面を赤く染めていく自分の血が視界に入る。

 ……ダメだ……体内の血がどんどん抜けていき、視界が霞んでいく。

 

 「ソンナニジブンカラクワレタイトイウノナラノゾミドオリキサマカラクロウテヤロウ」

 

 顔を動かす力も無い中、必死に視線だけを緋鞠に向ける。

 俺が見たのは完全に闇に染まり、人を喰らう本性を隠す事無く曝け出す緋鞠の狂喜の表情だった。

 

 「(ああ……結局緋鞠を救う事は出来なかった…………)」

 

 心中俺は緋鞠を救えなかった事に対する悔しさと不甲斐無さで一杯だった。

 おそらく緋鞠はここにいる皆を喰らい、餌となり得る別の人間を求めて結界の外に出るだろう。

 そして勇紀か各務森の姉妹か――あるいは別の誰かに討たれて……

 

 「(ゴメン、緋鞠……)」

 

 俺は緋鞠に謝る。

 最後まで助ける事が出来なかった彼女は今、俺の身体を引き裂こうと爪に妖気を纏わせ――

 

 ドゴンッ!!!

 

 物凄く大きな音がしたのと同時に緋鞠が((消えた|・・・))。

 

 「(……何だ?)」

 

 一体何が起きたんだ?今の音は何なんだ?

 そう思う俺の視界に1人の人影が入る。

 

 「ふむ……死にかけの少年が襲われそうに見えたからとりあえず殴ったが問題無かったんだろうか?」

 

 その人影はローブを纏い、フードを深く被っっていた。

 

 「(……誰…だ?)」

 

 顔はフードのせいでよく見えない。

 けど緋鞠のような邪悪な気配は感じない。

 味方…………なんだろうか?

 

 

 

 〜〜優人視点終了〜〜

 

 「ハア…ハア…ハア……」

 

 俺よりも更に高い位置を陣取っている崇徳上皇の息が乱れている。

 

 「ハア…長谷川ぁ…ハア…お前はもう少し年上を…ハア…労わるという事を知った方が良いぞ…」

 

 息を切らしながらも言葉を発する崇徳上皇。

 ここまで息切れしている理由は1つ。

 

 「いやいや、運動不足を解消してやろうという年下からの孝行ってやつッスわ。つー事で発射ぁ!!」

 

 宝物庫から新たに数十もの武器を射出する。

 

 「チイッ!」

 

 舌打ちしながら崇徳上皇は射出した宝具を避けていく。

 最初に射出し始めてからは一方的に俺のターンが続いていた。

 崇徳上皇も偽物の知り合い連中が一撃で消滅した様を見て障壁で防ぐような事はせず、ひたすら回避に専念していた。

 おそらく宝具1つ1つに秘められた魔力や効果に偽物軍団がやられた時の様子や、妖の本能、それと直感的なもので気付いたのだろう。『下手に受け止める方が危険』だという事に。

 そして宝具の射出を終え、向こうが反撃しようと動く前にはもう俺の背後に出現した新たな武器が崇徳上皇目掛けて飛んで行く。

 勿論射出し、避けられた宝具はすぐさま回収し、一旦宝物庫に収納し、また射出するために出す。

 相手に反撃の間を与えず、攻めまくる現状。

 少しずつ息を切らし、スタミナが落ちてきている以上、宝具の直撃を受けるのも時間の問題だと思われる。

 

 「嫌ぁぁっっ!!!優人ぉぉぉっっっ!!!」

 

 そこへ九崎の悲鳴が俺と崇徳上皇の耳に届く。

 俺は外の世界が映し出されている映像に目を移し

 

 「なっ!!?」

 

 そこには緋鞠に首筋を斬られ、その場に倒れる優人の姿があった。

 

 「野井原…本気で優人に手を出したのか!?」

 

 緋剣として護るべき主に手を掛けた……。

 それの意味する事は――

 

 「天河……野井原を救う事は出来なかったか」

 

 崇徳上皇が映像を見ながら言う。

 

 「……待て。外にはくえすや他の鬼斬り役もいた筈。アイツ等はどうしたんだ?」

 

 俺の疑問に答えるかのように崇徳上皇は外の状況が分かる様、全体が映る映像に切り替えた。

 そこに映っているのは野井原を除く皆が地に伏し、誰1人が野井原を止める事の出来ない状況だった。

 

 「…正確には野井原以外に夜光院がいるが奴は先頭には不向きな奴だからな」

 

 「そんな…くえすまで…」

 

 九崎の絶望染みた声が聞こえる。

 九崎も先程までは俺と崇徳上皇のバトルに気を取られていたため、外の状況を把握していなかった様だ。

 

 「……………………」

 

 俺は拳を強く握りしめる。

 今、自分の中に渦巻いている感情は――

 

 「オイオイ長谷川。お前今スッゲエ怖い顔してるぞ。仲間を痛めつけた『敵』を殺す気満々な殺意も撒き散らしてるし」

 

 息を落ち着かせた崇徳上皇が言う。

 言われた通りだ。俺が抱く感情は『怒り』と『殺意』の2つ。

 くえすに優人。自分の知り合いである2人の人間が今、瀕死の重傷を負っているのだ。

 そして負わせた相手もまた知り合いであり、闇に堕ちてしまった野井原だからと事情を((理解し|わかっ))ていながらも、野井原に対しての怒りと殺意が湧いてしまう。

 

 「(……初めから全力で崇徳上皇を潰して優人達の元へ駆け付けておけばアイツ等をあそこまで酷い目に遭わす事は無かった……俺の判断ミスでもある)」

 

 その気になれば俺はいつでもこの特異な結界内の空間を突き破って外に出る事が可能だった。英雄王の至高でもある乖離剣を使えば。

 もっともその場合、非殺傷設定が有効とはいえ、一般人の九崎も巻き込む事になるが故に使わなかった訳だが。

 

 「(((あの人|・・・))も来れなかった以上、外にいる連中に起死回生の一手は無いも同然)」

 

 ……仕方ない。

 九崎には悪いが、ここは乖離剣を使わせて貰う。

 

 「(そしてここから脱出して俺の手で野井原を――)」

 

 始末する――そう思った時だった。

 

 

 

 『ドゴンッ!!!』

 

 

 

 「「「んん?」」」

 

 俺と九崎、崇徳上皇の声が重なった。

 映像から物凄い音が聞こえてきたからだ。

 まるでとんどもない衝撃がぶつかったかのような音が。

 映像をよく見るとそこには新たな人物が姿を現していた。

 全身をローブで、顔をフードで覆い隠している人物――。

 

 『ふむ……死にかけの少年が襲われそうに見えたからとりあえず殴ったが問題無かったんだろうか?』

 

 謎の人物はそう言って野井原を優人から引き離していた。

 その後すぐにフードを外し、素顔を晒す。

 

 「「…………誰?」」

 

 九崎と崇徳上皇は疑問符を浮かべるが

 

 「来てくれたのか」

 

 俺は取り出そうと途中まで出していた乖離剣を仕舞う事にした。

 その仕草に気付いた崇徳上皇が尋ねてくる。

 

 「お前の知り合いか?」

 

 「ええ……俺にとっては公私共にもっとも信頼のおける先輩ッスよ」

 

 映像に移されている人物を見ながら言う。

 あの人が来たなら優人達の命も大丈夫だろう。

 何せ時空管理局本局所属の魔導師では間違い無く最強の人物なのだから。

 『((千の呪文の男|サウザンド・マスター))』の二つ名で知られ、数多くの巨大犯罪組織を悉く潰してきた本局の若き英雄。

 そしてこの世界における最初の転生者――

 

 

 

 『まあ、それは後にしてまずは怪我人の治療だな』

 

 

 

 鳴海理中将が俺の要請に応え、馳せ参じてくれたのだった………。

 

-2ページ-

 〜〜あとがき〜〜

 

 2ヶ月ぶりの投稿――――。

 こうも暑い日が続くと何もやる気が起きなくなる作者です。

 おかげで執筆意欲も下がる事下がる事…。

 夏は嫌いだ。さっさと冬になればいいのに――。

 次回は堕ちた緋鞠VS理のバトル回。そしておまひま原作は終了予定です。

 本編で理はまだバトルしてないのでいい加減戦わせないといかんですよね。

 

説明
神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。
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コメント
まだまだ待ってます。(Tyuson)
更新キボンヌ(蕾姫)
4ヶ月経過。年内の更新は厳しそうですね、気長に待ってます(ingvalud)
待ちどうしかったです!(マチャオ)
確かにメチャクチャだけどおもしろいよ!!(マチャオ)
もう流石にクロスしすぎて何が何だかわからん。なのは要素が弱すぎて、話がめちゃくちゃ。(GANGAN)
わぁお、流石の冴ちゃんも王の財宝の斉射はきつかったですか・・・でも結構余裕ありそうってのがまたね(^_^;) 次回も楽しみにさせていただきます!(海平?)
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