5人の夏 前幕T |
前幕T
「あ〜もう嫌。」
市内の地図の上に、ひかるは倒れこむ。
「あ〜あ〜、地図にしわがつくって。」
ゆみはコーラの入ったコップをひかるの前に置く。
カーテンのたなびく7月。
入道雲を背中に、2人は夏キャンプのプランを立てていた。
…と言っても、8月半ばにはすぐに別のキャンプがあるので、2人が頭を
悩ませて立てているのはいわば旅行プランで、「夏キャンプ」と言うには少し無理がある。
「でもさあ、ゆみちゃんわがままだよ〜。温泉に、パークゴルフに、カラオケに、映画に、花火大会に、お祭りに、……いけるわけないし。」
ひかるはやれやれとため息をつく。
「だって、5日間だよ?」
ゆみの考えた旅行プランには、一言も「休憩」の文字がない。
「せっかくの夏キャンプだしさあ、ゆっくり楽しもうよ!」
ゆみはそれを受け取ると、
「えー!?」
と、不満げな顔。
なるほど、ひかるの旅行プランのテーマは「食」いや、「美食」。
つまり、市内の高級レストランを食べ歩くと言う、ひかるらしいプランだ。
「お金足りないって!何の為に市内旅行にしたと思ってるの?」
…2人はまだ高校生で、おこずかいもたかが知れている。
市外旅行なんてしようものなら、ビジネスホテルに食事は「ほかほか亭」。
入館料のかかる所にはどこにも行けない。これじゃあ、旅行の意味がない。
…ということで、市内プランを考えているのだ。
「でもさあ。」
ひかるはため息をつく。
「2人とも、ここに何年住んでると思う?17年以上だよ?」
「うん。」
「行ったことのない所って、ある?」
「…ない。」
つまりは、知っている所の旅行なんてつまらないということである。
ゆみもこれには同意。
「でもさ。市外旅行となると、旅費も交通費もばかにならないし…。」
ゆみはそう言って、ひかるの残したコーラを一気に飲み干す。
「なんだよね〜。」
ひかるはまた、市内マップに目を落とす。
見れども見れども、地図はむなしい現実をつきつけるだけ。
「誰か、行きだけでも送ってくれないかな。」
ひかるはそう呟いてケ−タイを開く。
ピッ ピッ ピッ
いつのまにかカーテンは静かになって、空気もほんのりなまぬるい。
蛙の鳴き声に混じって、セミの鳴き声が夏らしかった。
説明 | ||
カエルが鳴く隅田川 そこで起きた「5人の夏」の出来事・・・ 前幕です |
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コメント | ||
これは以前のお話とどう繋がっていくんでしょうか。すごく楽しみです。(華詩) | ||
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