神剣の刀鍛冶【第1話:プロローグ】
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まえがき――

どのような経緯で凱が――聖剣の刀鍛冶――と――魔弾の王と戦姫――の世界に来たかを語ろうかと思います。

それではどうぞ。

 

 

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【2008年・地球・GGGオービットベース】

 

国際犯罪シンジケート・バイオネットの名を知らぬ者など、たとえ宇宙広しといえど一人もいない。

第二次世界大戦以降より台頭し、各紛争地域への武器密売、人造人間、メタルサイボーグ等を提供販売する。つまり、奴らは諸悪の根源を体現する死の商人だ。

宇宙防衛勇者隊「ガッツィ・ギャラクシー・ガード」、通称GGGは宇宙収縮現象という未曾有の危機を乗り越え、60年という次元を超越し、右曲余折を得て地球へ帰還した。

そんなGGGに束の間の休息すら許されなかった。

GGGが地球圏を追放という形で太陽系を離れていた僅かな間でも、バイオネットによる世界規模の被害は確実に広がっていった。

基本的にGGGは史上最強の武力を保有している理由と勇気ある誓いの憲章に従って、他国の紛争地域に介入してはならないのだが、バイオネット絡みとなると流石に軽視できない。GGGに影響を及ぼす事態は少しでも防衛策をとる必要があった。

次々とバイオネットの野望を追撃し、阻止し、食い止めていき、その勢力は縮小しつつあった。

勇者王を筆頭にするGGGが健在している限り、もはやバイオネットは地球や外宇宙に対して容易に手出し出来なくなっていた。

勇気ある仲間たちの、GGGというフィルターが、バイオネットという異物を遮る役目が機能し始めてきたのである。

だが、バイオネットの総帥であるプロフェッサーモズマは、次なる標的へと目を見据えていた。

 

――多次元世界への進撃――

 

どういう経緯かは不明だが、モズマはバイオネットの新たな収入源をそのように算段していた。

度重なるバイオネットの多次元世界攻略は、各世界の均衡バランスを崩壊させつつあった。

 

時空に亀裂を生む次元震動も――

 

消滅したはずのギャレオリア彗星出現も――

 

終焉の銀河の序曲も――例外ではなかった。

 

火急の事態と判断した安全評議会は、外敵の新勢力に対抗するため一度GGGを解体した。そして安全評議会は、再びGGG新生計画を実行に移した。

 

・地球防衛勇者隊、勇気ある地球の守護者「ガッツィ・ジオイド・ガード」通称GGG。

 

・宇宙防衛勇者隊、勇気ある銀河の守護者「ガッツィ・ギャラクシー・ガード」通称GGG。

 

そして――発足した新生GGGの名は――

 

・多次元防衛勇者隊、勇気ある時空の守護者「ガッツィ・ギャレオリア・ガード」通称GGG。

 

最強の破壊神に実装されていた最後のGツールの名を、かつて青年が追い求めていた次元ゲートの彗星名を拝借し、次元のキーワードが係るとのことでこのように命名された。

GGGにとって、この名はある意味感慨深いものがある。特に――

 

青年は「母を追い求める為のきっかけ」となり――

 

少年は「故郷からの来訪と故郷への帰還」として――

 

――全ては「ギャレオリア」の名から始まったと――

 

GGG新生に呼応するかのように、次々と管理次元世界の事件が発生した。

 

一つは、宇宙警察と宇宙海賊の抗争に介入する形となり――

 

一つは、宇宙皇帝を名乗る大悪党の野望に巻き込まれ――

 

一つは、伝説の力を求める超越意識体と雌雄を決し――

 

一つは、三次元人という、真の意味での神を撃ち――

 

一つは、AIという新たな生命体と人間の心の触れ合いに立ち会い――

 

一つは、黄金郷を追い求めて銀河の大冒険をして本当の宝を見つけ――

 

一つは、勇者高校生と共に宇宙監獄の俗どもを蹴散らし――

 

一つは、無の時代より始まりし時代の戦いに終止符を打った――

 

数多の世界で勇者たちと出会い、次々と野望を打ち砕いていった。

 

勇者の熾烈極まる時空大戦の傍ら、ひそかに暗躍している組織があった。バイオネットという隠れ蓑もまた、再起を伺っていたのだ。

 

バイオネットのナンバー2、ドクタータナトスは「次元と次元を往来する多次元相違性理論」「同一の世界を共有する同一性並行次元理論」を展開し、バイオネットの技術発展に貢献したと思われる。

推測の中から証拠を突き止めたボルフォッグは、大至急にて大河長官へ報告した。

 

「まずはこれをご覧ください。貴重なサンプル記録を入手しました」

 

「ボルフォッグ。メインスクリーンに出せ」

 

大河長官の指示に従って、ボルフォッグのAIに録画してあるメディアとメインスクリーンを直結同期し、広々とリアルデータが投影される。

 

「なんだ!?これは」

 

GGGスタッフは一斉に驚愕した。あらゆる驚異の最前線に立つガッツィ・ギャレオリア・ガード機動部隊隊長の獅子王凱さえも冷や汗が垂れる。この映像を見るからに、恐らく次元と次元を繋ぐ実験記録なのだろうか。

 

我々GGGが見たことのない奇々怪々な存在。生命体なのかどうかうかがわしい。機界生命体ゾンダーよりも有機的な印象がある。

 

魔物?

 

悪魔?

 

怪物?

 

化け物?

 

竜?

 

「多次元サテライトビューでサーチした結果、100パーセントこの太陽系には存在しないDNAで構成されています。別物ですが、ゾンダーのように素粒子ZOと酷似したものを放出していると思われます」

 

「俺たちの世界のDNAに一致しない……ボルフォッグ。これまで確認された次元世界の生命体との一致性は?」

 

顎に手を当て、何かの可能性を見つけ出そうと、GGG機動部隊隊長は紫の諜報部員に問いただす。

 

「凱機動隊長。その前にまずはこれをご覧ください。猿遠寺オペレーター、お願いします」

 

ガッツィ・ギャレオリア・ガードのオペレーターチーフ、猿遠寺耕助は即座にライブラリから結論を見出す。次の記録再生に移った瞬間、またも全員が絶句した。特に命は口元を抑え、発作を抑えるような仕草を見せた。

 

「な……なによ……これ!」

 

「これが……人間のすることか!?」

 

「……くそったれが!」

 

命が、凱が、参謀である火麻激が、感情をあらわにする。その中で凱は戦慄と慟哭と怒りを瞳に滲ませていた。

スプラッタなんてものじゃない。それは、誰もが憤怒とすることだろう。

 

――人間の心臓を覗き込み、鏡で無理矢理覗かせ、強要していることをみれば――

 

「何かを唱えている?ボルフォッグ、もっとレベルを上げてみてくれ」

 

「了解しました」

 

凱は「対象者」の僅かな唇の動きを見逃さなかった。出している声こそ聞こえたが、言葉までは理解できなかった。まるで、発している本人にしか理解できないような、不気味な数珠のような発音だった。

瞬間、「原種大戦」を彷彿とさせる魔の怪奇現象が発生したのだ。

 

「ゾンダー化!?……いや!違う!」

 

ゾンダー誕生かと思った凱は、有り得ないと判断した。管制人格(マスタープログラム)であるZマスターが滅びた以上、Zの文明は活動できないはずだ。かといって機界新種ゾヌーダかもしれないと考えたか

それも否定する。はっきりとした有機の生態動悸が、それを裏付けたからだ。それに反して、なぜか生気が感じられない。むしろ本能的な悪寒さえ感じる。

 

「……悪魔……デビル!!」

 

ガッツィ・ギャレオリア・ガードのR&Dオペレーター務めのスワン=ホワイトがそう表現する。なるほど、悪魔と呼ぶにはしっくりくる。

 

渦蜘蛛に酷似した氷漬けの悪魔。憑依合体する可視型自縛霊の悪魔。

 

異次元から連れ去った人間達をこのように変貌させているのか?忌々しいが奴らの基準から考えれば、高コストの獣人や改造人間、、メタルサイボーグ等に比べれば、はるかに安価で確実な生物兵器を製造できるだろう。

新生バイオネットの180度人道から背いたやり方に、凱は頑なに握りこぶしを作った。あまりの強さに指が食い込み、手のひらから血が垂れる。凱の怒りを表現するかのように――

 

WARNING!!WARNING!!

 

突然、全機のモニタリングディスプレイがブラックアウトする!

 

「システムダウン!?」

 

異常事態はオービットベース端末ブロックエリアにとどまらず、GGGスタッフが在席しているメインブリッジにも及ぶ。

GGGメンバーの中で最初に気付いたボルフォッグは、ブラックアウトしていく原因を別にあると推測する。それは、決してハッキングなのではない。

順次状況を整理した命は、大河長官に報告する。

 

「各ブロック被害発生!GSジェネレータールーム破損率30パーセント突破!各コントロールシステム遠隔伝送不能!」

 

「こんな荒っぽいことをしやがるのは……バイオネットか!」

 

凱の推測は正しかった。それを証明するかのように、ブラックアウトしたはずのメインスクリーンに、忌むべき来訪者が映し出された。

 

<レディース&ジェントルメン♪>

 

歪んだ陽気な気質の持ち主、もとい元人間のメタルサイボーグが現れた。その声を聴いた瞬間、一部のGGG隊員は感情を灼熱化させた。

 

「懲りない奴だな。いくら壊しても壊してもまた蘇ってきやがる!ギムレット!!」

 

「もう……完全に人間をやめてるわね……」

 

怒りを抑えつつ、半ばあきれ顔で嘆息する凱。そして一言加える命。

 

<最新のアトラクション!『悪魔阿鼻叫喚ショー』は如何でしたでしょうか♪>

 

「悪魔……まさか!」

 

ナイフより鋭い勘を働かせた凱は、まるで指示をするかのような視線をボルフォッグに移す。全システムが正常に機能しない以上、ボルフォッグの卓越した特殊装備に頼らざるを得なかったのだ。

 

「スキャニングの結果、敵アンノウンのDNAデータは98パーセントの確率で人間の変異体だと推測します」

 

恐らく、ボルフォッグの示唆するパーセンテージは遺伝子地図をさすのだろう。98パーセントは地球上存在しないゲノムを差し、残りの2パーセントは、人間のゲノムを残していることになる。

 

「ゾンダーと同じ元人間だった者達か!?」

 

大河の推測も的を一直線に得る。正解を当てるGGGの面々を前にして、陽気な死の商人はニタァと悪笑を浮かべる。

 

<ガッツィ・ギャレオリア・ガードの皆様!!GGGの新生を祝して、我々バイオネットから贈物を贈呈させて頂きマース!!>

 

「贈物(ギフト)だと……ふざけやがって!!」

 

「第3ブロック占拠!なお敵アンノウンはなおもメインオーダールームへ進撃中!」

 

「……現時刻を以て、敵アンノウンを『DD-02〜79』と認定呼称する!」

 

DDナンバー。それはDIMESION・DIFFERENT――異次元多動体の出現認定番号である。初目撃のDD-01は次元の彼方へ潜伏したらしいが……

この危機的状況を打破すべく、大河長官は号砲のような指令を飛ばす!

 

「GGG機動部隊!出撃!!」

 

「行くぞ!お前達!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」「だもんね!」

 

竜シリーズの隊員とマイクシリーズの末っ子は、行き高らかに任務を遂行しようとしていた。

 

 

 

 

 

【同年・地球・日本・東京都・新宿・摩天楼上空】

 

 

 

 

 

勇者たちの戦いは、昨日の太陽と明日の月に見守られ、最終局面を迎えようとしていた。

 

バイオネット新造兵器によるGGGオービットベース襲撃は未遂に終わり、後退していく残党どもを、我等が勇者、獅子王凱を筆頭に追い詰めていく。

 

「ウィル!ナイフ!」

 

黄金の勇者が振るいし深緑の短剣が一閃!!忌々しいメタルボディのギムレットを無慈悲になぞっていく!

深緑と翠碧の短剣二刀流!

銀閃のような閃光が!次々と空間中を描いていく!

両手に浮かぶGの紋章効果も相まって、その切れ味とIDアーマーの防御力はかつて左手のみに出現していた紋章とは段違いに上昇していた。

 

(やはり、左手だけのGパワーとは全く違う。まるで自分の体じゃないみたいだな)

 

Gの紋章。かつて凱がサイボーグからエヴォリュダーへと生まれ変わったとき、左手に宿していたオリジナルGストーンをそのまま取り込んだことで、Gストーンの力を体現化できるようになった。

それから、時代や時空、次元さえも超越し、様々な経緯を得て、ついには右手にもGの紋章が浮かぶようになった。

すなわち……――第二の覚醒――その名はアンリミテッドガイ!!

 

「さあ!事件の真相を洗いざらい吐いてもらうぜ!ギムレット!!」

 

「ひゃひゃや!!!相変わらずせっかちなお人だ!」

 

この台詞を繰り返すのは、Qパーツ事件において対峙した時と同じだ。そして、ギムレットの歪みきった性格もあの時と同じだった。

 

「この力……有効に活用させていただきマース!!」

 

ギムレットからの指令を受けて、新型バイオネットロボは忌々しく出現する。建造物を打ち破り、逃げ惑う人々を嘲笑いながら、40mを超える鋼鉄の身体は図々しく降り立ったのだ。

 

「ギムレットデスベラード!!」「ファントムガオォォォォォォ!!」

 

敵の前口上を無視して凱は新生したガオーマシンを召喚した。正式名称「ファントムガオーF」と呼び、生まれ変わった凱の能力に合わせて、「U型」と「V型」の全ガオーマシンは再設計を促された。

凱の召喚に応じ、ファントムガオーは収納部に金色の勇者を収納していく。

 

――フュージョン――

 

唱えるように小さく融合呪文を説くと、凱はその身を青き機体へ身をゆだねる。

 

瞬間、ファントムガオーは次々とシステムを組み換え、戦闘機形態から人型へ、凱の神経接続と機体情報の共有化が進み、変形を済ませていく。

 

「ガオファァァァァァァ!!!」

 

アンリミテッドガイの適正に合わせ、旧地球性メカノイド、ガオファーは新生した。

その名はファイナリティ・ガイガー。

 

「ファントムクロー!!」

 

唯一の実装兵装であるカギ爪を展開!

ジェイダーに匹敵する機動性と俊敏性を持ち、かつ単体でスーパーメカノイドを凌駕するパワーにて、バイオネットロボを粉砕していく!

かつてのガオファーと同様に、このファイナルクローは唯一の兵装だ。それでも、今の凱にとって十分お釣りがくる。

それは、ギムレットデスベラードと対峙する前までの間だった。

 

「行くぞ!ギムレット!」

 

背面のスラスターを吹かし、20mを超える巨体から繰り出せるとは思ないほどの速度で近接する!

回避不可能と悟ったギムレットデスベラードは機体の一部をメタモルフォーゼさせ、ガオファーの鉄拳を文字通り受け流した!

 

「何!?」「ひゃははは!!!」

 

すかさず、ギムレットの剛腕がガオファーの顔面を直撃!ストレートにて吹き飛ばす!数10m飛ばされながら、ガオファーは派手な土煙を上げつつ背中から倒れる形となった。

 

「……ギムレット……そのおかしな怪力はどこで手に入れた!?」

 

よろよろと立ち上がるガオファー。しかし、その双眸のデュアルアイの光を失ってはいない。

 

「ひゃははは!!これが本来の実力ですよぉぉぉ!種も仕掛けもございませんことよ!」

 

戦慄を覚えるほどの超剛力。ガオファーを凌ぐほどのパワーを一体どこから出せるというのだ?

 

「馬鹿を言うな!フェイクGSライドでそれほどの出力など有り得ない!」

 

「ですが、これでは勝負になりませんねぇ。早くガオーマシンを呼んでください♪」

 

「くっ……ガオーマシン!!」

 

真実は分からないが、どのみち今のガオファーでギムレットデスベラードに勝てる見込みなど全くない。ギムレットの忠告は癪に障るが、すかさず凱は残りの全ガオーマシンをリリースする!

 

「長官!ガオファーからファイナルフュージョン要請のシグナルが来ています!」

 

ガオファー発信の緊急信号を受けて、宇津木オペレーターは状況を報告した。それに応えるように、大河長官もまた力強い指令を飛ばす!

 

「うむ!ファイナルフュージョン承認!!」

 

「了解!!ファイナルフュージョン……ファイナリティドラァァァイブ!!」

 

CONTACT!!

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ファイナル・フュージョォォォン!!」

白銀のプログラムリングを展開。戦場を囲む幻想的なメビウスの輪は瞬くガオファーを覆いかぶさっていく。

 

「銀閃……の風……」

 

既に何度でも見た光景なのに、戦闘区域離脱途中は思わずガオファーの発するプログラムリングに目が釘付けになった。

GGGスタッフが見守る中、勇者は召喚した各装備軍を身にまとう準備をする。

 

大地を震撼せし漆黒の銃撃戦車!ドリルガオーF!

 

真っ先にプログラムリングの軌道に乗った螺旋マシンは、ガオファーの膝部まで食い込み、両足部を形成して一体化する!

 

ドリルガオーF−COMPLETE!!

 

天空を突き抜ける蒼機の大列車!ライナーガオーF!

 

二番手に乗り込んだシャトルマシンは、ガオファーの両肩を貫通して、二の腕と双肩を形成して一体化する!

 

ライナーガオーF−COMPLETE!!

 

隠密の大怪鳥!黒き空軍戦闘機!ステルスガオーF!

 

ラストシークエンスに加わった漆黒のステルスマシンは、ガオファーの背面、腕部、頭部を形成して一体化する!

 

ステルスガオーF−COMPLETE!!

 

合体シークエンスを終えたメカノイドは、銀閃の風を打ち破って、その大いなる姿を民衆の前に見せた!!

 

「ガオ!!ファイ!!ガァァァァァァァ!!」

 

あらゆる次元世界の脅威から地球を守る為、60年の時代を超越して新生したファイナリティ・メカノイド。

 

 

 

 

 

 

――その名は――

 

 

 

 

 

 

 

 

――勇者王――

 

 

 

 

 

 

 

 

――ファイナリティ・ガオガイガー!!――

 

 

 

 

 

 

ファイティング・ガオガイガーからファイナリティ・ガオガイガーへ……

準地球性次世代型勇者王は最終神化を遂げた。だが、正式名称が変わったところで、30mを超える鋼鉄の勇者王の名声と最大の使命が変わることはない。

なぜなら、全ての希望の代名詞が「ガオファイガー」なのだから――

 

「ディビジョンツゥゥゥゥル!!!ディバイディング・ドライバァァァァァ!!」

 

ウルテクエンジンをストラトスフェザーに展開。8枚の翼を広げた堕天使は雲上より高く上昇し、DDキットを空間精製していく。

ディビジョンツール。それは、ガオファイガーに新装された特殊ツールの名称である。

ジェネシック・ガオガイガーに全ガジェットツールを内蔵していたのと同じ理屈で、ガオファイガーにも純地球性ツールを搭載させている。

破壊神のツール搭載方式が付属品(オプション)なら、堕天使のツール搭載方式が記録情報(データ)である。

装着したディバイディングドライバーを眼下の大地に突き刺し、ガオファイガーは大地を引き裂いた!

戦闘領域精製を終えたガオファイガーは、ディバイディングドライバーの物質化(マテリアライズ)を情報化(アルゴライズ)して左腕に収納する。

ディビジョン艦から射出する手間を大幅に省くことが出来、迅速にツールを使用することが出来るようになった。

反面、凱に掛ける負担は重く、使う本人も時と場所を判断しなければならない。

 

「これが噂に聞くディバイディングフィールドデスカ?」

 

「そう……その通り!!」

 

円形にくりぬかれた大地にそびえ立つギムレットデスベラードとガオファイガー。ストラトスフェザーを閉じて敵を睨み返す。

 

「勝負だ!ギムレット!!」

 

戦いの場がフランス以外、Qパーツ事件の再現を思わせる台詞と場面だった。

 

「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

二つの巨体が激突し、大気が振動する!!

鋼の拳を組み合った両者は、そのまま均衡した。圧倒的出力をぶつけ合い、力の逃げ場を失ったエネルギーは、互いの眼下へ散っていく。

メキメキと大地に陥没していくガオファイガーの両足に、凱は戦慄を覚えた。

 

「信じられん……スティグマ・バハムート・システムの力を上回るのか!!」

 

「長きにわたる因縁も今日でおしまいデス!!」

 

「そいつは……ありがたいぜ!!!!」

 

恐怖を勇気に、戦慄を闘志に変えて、ガオファイガーは反撃に転じた!!

ギムレットの拳をぐしゃぐしゃに握り潰し、ひるんだスキに膝部の螺旋プレートを叩き込んだ!!

 

「リボルバードリル!!」

 

「ごえええええええええ!!」

 

派手に腹部を貫通されたギムレットは、情けない声と共に背中から倒れこんだ。

 

「あの時代から託されたこの力!無駄にはしない!!」

 

「ぎゃはははは!!このギムレットデスベラードを侮ってはなりません!」

 

貫通されたはずの腹部を瞬時に再生させ、応戦体制に入るギムレット。その再生能力の高さはゾンダーにひけをとらない。

 

「うおおおお!!ブロウクンファントォォォォム!!」

 

ギムレットの耳障りな言葉を遮るかのように、ガオファイガーは右腕に秘めた魔弾を放った!

 

「掛かりましたネ!」「!!?」

 

ファントムリングを纏った拳はなんと、ギムレットの体を貫通したかと思いきや、そのまま異空間らしき場所へ消えていった。

 

「このギムレットデスベラードには、様々な特殊能力が秘められているのデス!これがその1!イリュージョンプローネ!」

 

右腕を失ったガオファイガーに、なすすべなし……と思われた矢先だった――――

 

「ごがぎょえええええ!!!!!異空間に取り込んだはずのブロウクンファントムが!!!!」

 

そう、ギムレットは次の瞬間に吹き飛ばされたのだ。現実空間に帰還したブロウクンファントムによって――

本体を補強しているプログラムファントムリングが、常に現実空間の座標を自動保存している。例え超空間に飲み込まれても、ファントムリングが空間そのものをくりぬいて再び戻ってくるのだ。

それでも負けじとギムレットは体を再三復元させ、右腕を触手にメタモルフォーゼさせ、迎撃態勢をとろうとする!

 

「特殊能力その12!!グロン!ラグルズエクスプロジオネオ!!」

 

天地崩壊の雷雲が!壮絶なまでの電離現象がガオファイガーを襲う!!しかし――ガオファイガーはギムレットの行動を予測して左手を突き出した!

 

「プロテクトウォォォォォォル!!!」

 

ガオファイガーを覆うように360度展開された空間湾曲障壁が、ギムレットの雷を寄せ付けない!それどころか、一点に集めた雷を増幅反射してギムレットに叩き付ける!

 

(いけましぇぇぇぇん!!このバケモノには勝てましぇぇぇぇん!!)

 

泣き寝入りしそうになるも、何とかこらえて頑張るギムレット。しかし、凶悪なまでのガオファイガーのデュアルアイは、決して見逃すはずがない。

何度体を再生させても、結局迎撃されてしまう。イタチごっこにやられ役を演じるギムレットは疲れ切っていた。

それは、凱とて例外ではない。

 

(おかしい。あまりにも手ごたえがなさすぎる。だが、速攻で終わらせてもらうぜ!!)

 

「ならば……これでどうだ!!ディヴィジョンツウゥゥゥル!!」

 

肥大化していくガオファイガーの両腕。それは、アンリミテッドガイの最大能力を再現するために使われるのだ。その姿は……不世出の怪物の二つ名を持つ彼女のようだった。

 

「ヘル!アンド!ヘヴン!」

 

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ・ウィータ……」

 

「ウィル!!」

 

それは、緑の星の指導者カインとその息子ラティオでさえ成し得なかった「神撃と魔弾のヘルアンドヘヴン」

 

その名は――ヘルアンドヘヴン・ロード・オブ・アンリミテッド――

 

緑の星で『超越』を意味する言葉を加えることで、凱は「真のヘルアンドヘヴン」を乗り越えた「超越式ヘルアンドヘヴン」を使うことが出来るのだ。

ゴルディオンハンマーの緩衝材としてゴルディーマーグが開発されたように、このディヴィジョンツールもまた……

 

<凱!ヘルアンドヘヴン・ロード・オブ・アンリミテッドは1度の戦闘につき1回しか使えない!使いどころを間違えるんじゃねーぞ!!>

 

「了解だ!!」

 

火麻参謀の忠告を肝に銘じて、凱は無限を超えた一撃をギムレットに叩き込もうとした瞬間だった。

 

「……この戦闘パターン……もしや……」

 

紫の隠密はひそかに戦闘を解析していた時、妙な違和感をいだいていた。

 

敵があまりにも歯ごたえなさすぎる。真っ先の感想がそれだった。

 

その結果に満足そうに浮かべていたバイオネットの総帥は、ニタァと笑みを浮かべていた!

 

――掛かったな!!アンリミテッドガイ!!――

 

虚空が、虚無が生まれた。

 

「何!?」

 

凱は次の瞬間に、言葉を失った。

阿鼻叫喚の空間地獄絵図を表現すれば、このことを呼ぶのだろうか?

次々と崩壊する建造物!飲み込まれていく地球の一部!

 

「次元振動発現!!ラスターブラックホール出現!!」

 

「雷牙博士!何だ!!あれは!?」

 

「おそらく、ヘルアンドヘヴンを起爆剤として、多次元世界への次元ゲートを無理やり作ったのじゃろう。バイオネットの奴!始めからガオファイガーを管理外世界へ閉じ込めるつもりじゃったか!?」

 

「……畜生!!」

 

「それじゃあ、凱はどうなるんですか!?」

 

命の悲痛な叫びが、メインオーダールームに響き渡る。

 

「このままでは、凱はガオファイガーもろとも、行方不明の世界へ放り出される」

 

「そんな……凱ぃぃぃぃ!!」

 

それぞれが、何もできない苛立ちを抱いたまま、ガオファイガーの行く末を見守っていた。

 

「隊長!今助けに行きます!!」

 

「無茶だ!よせ!炎竜!!」

 

果敢にガオファイガーにとびかかっていく赤きレスキューロボは、空しくもガオファイガーまであと1m弱の所で弾き飛ばされた。

超強力な反発フィールドが形成されている。飲み込まれそうになるガオファイガーの運命はいかに――

 

 

 

 

 

【???】

 

 

 

 

 

「っつ……ここは?……」

 

虚無とまどろみの狭間にて、彼の意識は揺らいでいた。

見上げた空は漆黒のとばり、その中に煌めく星々の数。夜の中だがうっすらと灯りが照らされている。どうやら街中にいるらしい。周囲の風様を見る限りでは、ヨーロッパの中世時代を模したような背景だ。路地裏なのだろうか、人が集まっていない。

徐々に意識を覚醒し始めた彼、獅子王凱はふらふらと立ち上がると、二人組の男に呼び止められる。

 

「お前!何をしている!?」

 

二人組の男は同じような格好をしている。胸や肩を守る部分甲冑を装備し、腰には大体1m弱の刃を帯刀している。もう一人の男は凱の身なりを見て眉を潜める。

 

「あんた、怪我しているのか?」

 

腹部の切り傷、額からの流血、来ていたGGG防護服もボロボロだ。纏っていたIDアーマーもいつの間にか消失しており、文字通り今の凱はすっぴん状態だ。

この雰囲気……もしかして、俺って職務質問されている?

 

「言葉が通じていない?この男。もしかして西の外界の人間か?」

 

「ん……ジスタート人かブリューヌ人なのか?あの領域を抜けてきた人間がいるというのか?」

 

「おいおい、冗談はよしてくれよ。そもそもジスタートとかブリューヌなんていう国の存在あるかどうか……」

 

二人の男がいろいろと喋っている。そして、二人の会話からかすかな違和感を受け取っていた。

 

(……翻訳?)

 

凱の頭の中には、「翻訳機」や「受信機」のような翻訳器官が存在しているらしい。かつて、新生した凱のアジャスターを務めていたパピヨン=ノワールによれば、凱はエヴォリュダーになった際、あらゆる言語を理解して意思疎通できる感覚帰還を後天的に手に入れていたという。それにより、凱の感覚器官を参考にして言語認識に関する研究が発展、ついには世界各国の言語共通の実現が可能になり、GGGの新生にも大きく貢献できたのだ。(既に日本語習得しているヤン=ロンリー博士やスワン等を除けばの話だが)

凱の言う違和感というのは、翻訳する際に生じる「差異(ラグ)」なのだ。それもただの差異じゃない。

 

――異世界概念言語――

 

日本語からほかの外国語へ――同一次元世界の翻訳なら、それほど頭に負荷はかからない。しかし、異世界の言語を理解するのは骨が折れる。

パソコンのCPU使用率が高ければ、必死に処理しようとするのと同じように、凱は頭部の僅かな発熱を抑えながら、二人の言葉を理解しようとしていた。

 

「そうか……俺はバイオネットとの戦いの後、次元ゲートにまきこまれて……」

 

ヘルアンドヘヴン・ロード・オブ・アンリミテッドの余波で異世界へ転移しちまったのか、そう漏らしたとき――

 

「何を言ってる?……まぁ、とりあえず一緒に来い。特別なんも無ければすぐに帰してやれるから」

 

こうして、負傷中の凱は二人組の男に連行されていった。

傷も癒すこともできない今の彼にとっては、ただ黙って従うのが最善の選択だと判断したのだ。

連行される道中にて、二人の男は凱をじろじろと見まわしていた。多分凱を珍しがっているのだろう。腰あたりまで伸びた長髪にその風貌と、彼がもつ独特の空気を感じれば――

そんなこんなで公務役所?の一室に辿りついた。

取り調べをされて、そして聞いて、いくつか分かったことがある。これは、今の凱にとっては大きな収穫となるものだった。

今、自分がいるのは「独立交易都市ハウスマン」と呼ばれる交易業で栄える大都市にいる事。

先ほどの二人組の男は、独立交易都市の治安組織「自衛騎士団」に所属している事。ちなみに彼らは7つある街の内の「第3番街自衛騎士団」に所属している。

この世界では、機械設備や情報化社会のような高度文明まで発達していない。その変わり「祈祷契約」なるもので住民の生活の発達を促している事。

職務執務の結果、凱は問題なしと判断されて取り調べから解放された。「ご苦労だったな」と声をかけられて凱は役所の外へ放り出された。それからして――

 

「……どうする?」

 

第一声がそれだった。冗談抜きで考えなければならない。

おそらく、凱のいる世界はGGG「ガッツィ・ギャレオリア・ガード」の管理外次元世界の可能性が高い。もし、GGGの管轄世界なら、凱の「受信機」に何かしらの反応が占められてもいいはずだ。

最悪の場合、この世界での長期滞在を考慮しなければならない。

となれば、食事をしなければならない。寒気や夜の露を凌ぐ衣類、住居が必要になる。

人が生きるための「衣食住」――ハイテク文明の世界から流れ着いた凱には、現在それがない。

再びGGGのいる次元世界へ戻る手段などない。その力もなければ、算段もない。

働くしかない。働かなければ飯にもありつけない。

長い間、多次元世界を渡り歩いてきた凱はある教訓を思い出していた。

 

――働かざる者食うべカラス――

 

それは、どの次元世界にも言える事なんだなと、つくづく思った。

凱は再び己の身なりを見まわして――

 

「それにしても……祈祷契約か。すごいな。傷が完全にふさがっている」

 

パティと言ったかな、あの女性にまた会う機会があったら礼を言わないと。

ボロボロの服も、新しい服に着替えさせてもらった。上は簡易的な軽服に、下は動きやすい生地でできた薄革仕様だ。かつて、「約束の丘」で命といた時の服装に似ている。

本当は獅子篭手(ガオーブレス)も手元にあればよかったのだが、現在は行方不明。もしかして収納状態に戻ってどこかの次元空間に放り出されてしまったのか?ただ、ひび割れたウィルナイフが1刀残っていたのは不幸中の幸いだった。

やや自暴気味に叫び、彼は拳を振り上げながら、夜の街道を走り抜ける。

 

「勇気ある誓いと共に……進めぇぇぇ!!」

 

こうして、元?ガッツィ・ギャレオリア・ガード機動部隊隊長、獅子王凱は未知の異世界への第一歩を踏み出したのである。

 

そして翌日――

獅子王凱は昨日、自衛騎士団から聞き得た情報で、自分がこの年で生きていく為には何が必要かを、市民に訪ねまわっていた。

まず、独立交易都市で最低限な生活を送る為には「戸籍登録」の代わりとなる「市民権」とかが必要らしい。それは独立交易都市の中心部、「公務役所」に行けば手に入るそうだ。飯食う為に働くには、どうしても必要との事。

助かった。都市の仕組みを粗方理解した凱は、ほっと胸をなでおろした。

 

(俺達の故郷と、社会構造が近くてよかった……)

 

異世界というのは、凱達地球人が考えているような構造を成しているとは限らない。それは貴族社会然り、純然たる軍事国家かもしれない。もしかしたら、それらの概念を覆すものかもしれない。

ここ、独立交易都市は幸いにも地球と同じ理念で成り立っているらしい。早速凱は交易都市の役所を回って、かくかくしかじかで何とか必要事項の原本をGETした。

最初、身元不明の流民者と思われて軽遠されると思ったが、それは杞憂に終わった。

もともと、独立交易都市は多種多様な人種、国籍、流浪の旅人等が混在している。褐色肌の南国人や独自の文化をもつ東洋人、異彩虹瞳()」の西洋人様々だ。

 

(シシオウ=ガイって名前……なんだか可笑しいと思われたかもな)

 

発音し難い名前を、公務役所の受付で申し出た時、不思議そうに役人さんがこっちを見ていたのが印象に残っている。やっぱり偽名を使うべきだったか。と言っても、偽名なんて思いつかないけどな。

今更登録したのだから気にしていても仕方がない。俺はこの世界で「凱」ではなく「ガイ」を名乗る。

市民権が手に入らなければ、金を手に入れる手段としての仕事もつけず、それどころか、独立交易都市での行動にも極端な制限が設けられる。市民権をモノにできたのは大きな進展だといえよう。

苦労の末、次に凱が向かったのは、都市の住所を斡旋している、凱の故郷にある「不動産」に該当する場所だ。

この世界にも不動産屋があるのか?半ば疑いつつも、その不動産屋に該当すべき場所を探し回っていた。しかし、市民権を手に入れた時のように簡単にはいかなかった。

市民の住所を管理業務している公務役所の「市営住宅課」に問い合わせてみた。

なけなしの予算と希望を告げたところ、役人さんはえらく渋い顔をしながら、凱にある物件を提供した。その第一声がこれだ。1・2・3

 

「流石に……これは……」

 

異世界を訪れたばかりの凱でも、すぐ一目でわかるほどの老朽化した建築物だった。そもそも、建築物と呼ぶには程遠い、まるで何かの跡地のようなものだ。例えるなら、山賊とかの夜盗が拠点とするようなひどいものだ。リフォームしても、なかなか新品にはならないほど、原型をとどめていない。(そもそもそんな金は凱にはないが……)

悪い方向を予感していたとはいえ、身元不明の怪しげな大の男を受け入れてくれる所など、そうそうあるものじゃない。とりあえず、横になれる場所が確保できただけでも良しとしよう。

こうして、僅かにだが、凱の新しい生活に花開くのだった。

 

さらに翌日。凱は体を休める暇もなく、仕事探しに熱を入れた。

中世期レベルの文明だと、さすがに電気、ガス、水道、をはじめとしたライフラインが確立されていない。生活の基礎が元の世界と違うので、生活習慣も改めなくてはならない。数日の間は、オンボロ住まいと相まって、道端の雑草を食すような野営に近い生活が続いた。これでは元の世界へ帰れる進展があるはずもない。「どうやって元の世界に帰るか」から「どうやってこの世界で生活していくか」へと、徐々に本来の目的が薄れていく。

かつては、地球をあらゆる脅威から守り抜いてきた勇者も、今ではただの流浪人青年でしかなかった。

多忙な生活を送るようになってから数日、凱の耳にある噂が飛び込んでくる。

凱は街の隅々まで散策し、掲示板の広告を読み解いていた。すると、日雇い形式の仕事を発見する。

それから凱は、ある程度金銭がたまるまで、あらゆる仕事をこなしていった。土木関係しかり、酒場のような接客関係しかり、引越事業しかり、馬車の交通整理といった、多種に渡る仕事をしていった。独自の雰囲気と、凱が生来もつ親和性と風貌も相まって、見かける市民達からは「ガイさんじゃないか」「ガイ兄」「よ!ガイ」と言われるほど親しまれていた。

各方面の市民から顔を覚えられるほどにまでなった頃――

 

「これは……自衛騎士団団員募集の広告か」

 

独立交易都市治安自警集団。各街を自衛する騎士団の総称だ。その騎士団が急募の広告を堂々と見せつけている。

職務質問された凱にとって、あまりいい印象が残っていない。しかし、今の凱にとって、自衛騎士団の待遇はとてつもなく破格なものとなっている。

色々と考えながらも、凱は自衛騎士団入団を希望し、そして採用される。新顔である凱は騎士団の先輩たちの目の敵にもされやすかった。

その理由としては、市長であるヒューゴー=ハウスマンや、凱の所属先の上司である3番街自衛騎士団団長ハンニバル=クエイサーにえらく気に入られているからである。

早い話が、凱とその双方に不満を抱いている。

どうして新参者がちやほやされる?

入団した同期生からはともかく、先輩達からの悪意に近い矛先を感じたのは明らかだった。

しばらくの間、凱に対する嫌がらせの日々は続いた。

それからというのも、とりわけ凱は嫌がらせに対する反撃も考えず、ひたすらこの世界の情報収集に没頭した。凱自身はいつかは元の世界へ戻らねばならない。だからこういう事には執着しようと思わなかった。

幸い、この自衛騎士団公務役支部所にも、図書館なる施設が存在していた。

独立交易都市の文字を一文字ずつ解読、学習し、一通りの読み書きができるようになったとき、ある書物の見出しに凱の目が留まる。

 

「神剣の刀鍛冶?」

 

凱にとってもすでに聞きなれた故郷の言葉を、なぜか印象深くつぶやいた。気が付くと、自然と手がその本に伸びていた。

 

「あら、ガイじゃない。どうしたの?」

 

「パティ。いや、少し調べものをしようと思って」

 

気が付けば、隣にパティがいた。以前、傷だらけの凱を祈祷契約なる技術で治療してくれた女性だ。

凱の言う調べものというのは、手元にある翆碧の短刀ウィルナイフをどうにかして修理できないか?というものだ。

 

「ガイには悪いけど……多分修理は無理かもしれないわよ」

 

「やっぱりそう思うか?」

 

「私も鍛冶についてはあまり詳しくないけど……なんとなくわかるわよ。なんだったら新

しい剣に乗り換えたら?紹介してあげるわ」

 

「でも、ほとんどの鍛冶屋は鋳型専門じゃないか。決められた型を注文通りの数量で作る。それじゃダメなんだ。できれば鍛錬する工房があれば……」

 

「ん〜〜ガイがそのナイフを相当使い込んでいるのは分かるけど、それほど優れたナイフとは思えないわ」

 

確かに、ある意味ではパティの言う通りである。

それでも凱は、異文明の獅子の恩恵である短剣の修理を諦めることはできなかった。実の所、凱はウィルナイフで、この大陸のあらゆるマテリアルの試し切りを行っていた。

木材しかり、金属しかり、そして刃しかりと、徐々に対象物の硬度を上げていった。

 

(持ち主の意志で切れ味が自在に変化するが)

 

結果、ヒビ割れたウィルナイフが折れるどころか、逆に対象物であった剣が折れたり切れたりしてしまう始末である。これではまだウィルナイフを装備したままのほうがいいに決まっている。

とはいえ、やはりひび割れたままでは心もとない。だから凱は手探りで修理方法を探しているのだった。

そのことをパティに伝えると、改めて凱に情報提供する。

 

「『魔剣』ならあなたの要求にこたえてくれなんだけどな」

 

「魔剣?」

 

「未知の力を宿す剣と言われていて、来月の「市」には出品するらしいわよ」

 

「へぇ、未知の力を宿す剣か。一度お目にかかりたいもんだぜ。俺の給料じゃ到底手の

届かないシロモノだろうからな」

 

「ねぇ、ガイ。ここに行ってみたら?」

 

そういわれて、凱はパティから一枚の紙切れをもらう。

 

「私の知り合いが小物を作ってもらってる工房なんだけど、気晴らしにどうかなって」

 

「工房……リーザか」

 

詳しい内容はこうだった。実用品専門の工房で燭台なんかも受け付けている。剣以外なら何でもござれと言ったところか。

たまには方向を変えてみるのもいいか。

 

「ありがとう。早速行ってみるよ」

 

そういってパティに一礼すると、凱は気分転換がてらに足を運んで行った。

 

【同年・独立交易都市・7番街の奥地】

 

「こんなところに鍛冶屋があったんだ」

 

感慨深そうに、凱はつぶやいた。

三番街と違って、ここ工房リーザのある7番街は、森林や畑が大半を占める農地だ。果てなく続くような農道を抜けていくと、薄っすらと灰色がかぶっている森が、そして巨山が見えてきた。凱の故郷で表現すれば、まるで富士山が巨大な雲の傘を被ったようだった。それがなぜか、印象深かった。

古めかしい家の戸の前に立ち尽くした。見た目は確かに古いが、年季がかかった雰囲気も感じられる。秘めたる何かを隠しているような――

 

「……さて、入るか」

 

気を取り直して、ノックしようとすると、一人の少女が凱に取り次いだ。

 

「イラッシャませ!」元気があってよろしい声で、凱は工房の待合室へ案内された。

 

「あ、ああ」

 

心の準備ができていなかったのか、女の子の応対に凱は一瞬たじろいだ。

 

「ルーク!お客さんを連れてきましたよ!」

 

「客?今日はそんな気分じゃないんだが」

手に何かを以ているらしく、椅子に座っていて何かを眺めていた。本を読んでいたのか。

 

「ご丁寧にどーもです。隣にいるのが親方の……」

 

「要件はなんだ?」

 

さっさと本題に入れと言わんばかりに青年が割って入ってきた。凱も彼に対してあまりいい印象は持ち難くなる。

面倒な用事はさっさと片付けたいと思われている。気を再度取り直して、凱は要件を告げた。

 

「実は……これを修理してほしいんだけど」

 

そう言って、圧布に包んでいた翆碧のナイフを青年に差し出す。ひび割れたナイフを見た時、青年はあらゆる角度からナイフの症状を診断する。

 

「芯が折れている。修理不可能だ」

 

診断結果。NGが出た。

この結果は半分予想していた範疇だから、凱もそれほど残念そうに思っていなかった。むしろ、中世期レベルの文明で、超文明の獅子から受けた恩恵の短剣を修理しろというのが無理というもの。

少し悪いことをしたなと、凱は心の中で謝罪していると――青年の瞳は小さな輝きを取り戻し、まじまじと短剣を覗き込んでいた。

 

「珍しい金属で作られているな。それにこのナイフ、実用品じゃない。戦闘を想定して

作られている」

 

「どうして分かったんだ?まだ何も言っていないのに」

 

「刃の構造を見れば大体わかる。切込みから剣先にかけて標的を抉るように刃筋が流れている。実用品ならこれほど鋭い刃筋なんて必要ない。ただ……」

 

「ただ?……」

 

「この金属……おそらく地上にはない物質でできているのか?あんた、この短剣をどこで手に入れた?」

 

困ったな。どう説明したらいいものか。まさか「異世界から来たんだぜ」なんて言えないし、言ったところで信じてもらえるかどうかだ。とりあえず適当なことを言ってその場を凌いでみた。

 

「これはウィルナイフと言って、俺の家宝?なんだ。先祖代々受け継がれてきたものだか

ら、どこで手に入れたかなんて詳しいことは分からない」

 

ルークの興味心に灯が付いた。

 

「玉鋼……ではないな。柄治めも、研ぎも、どれも大陸に存在しないものばかりだ。」

 

「ウィルナイフと仰いましたよね。一体どこで見つけたんデスカ?」

 

弟子と親方、二人はこれまで拝見したことのない深緑の刃に無我夢中。完全に取り残された青年は、短剣を取り囲む二人に横やりを入れた。

 

「なぁ、悪いけど、そろそろ返してくれないか?」

 

「あっ!すみません!すぐお返しします!」

 

そう言うと、弟子はパタパタと短剣を包装する。

 

「……ふっ」

 

軽くため息をついて、親方はしぶしぶ短剣から目を離した。

 

「二人とも、ウィルナイフを診てくれてありがとうな」

 

弟子は残念そうな瞳を浮かべていた。親方は先ほどと変わらずな表情だ。

この人はどこか不思議な雰囲気がする人だなぁ、弟子は思っていた。

 

「それにしても……髪の長い男の人って珍しいですね。せめて名前だけでも教えてくれますか?」

 

「俺か?」

 

さっと踵きびすを返して、軽く木製の戸を開きかけた時に、青年は呼び止められた。

 

「私はリサ、隣にいるのは親方のルークです」

 

「……ルーク=エインズワースだ」

 

珍しく親方は、ぶっきらぼうにフルネームで自己紹介をした。普段は素直に会話すらしない親方の態度に、弟子のリサは驚きを隠せなかった。目の前の青年に対してルークは何か印象深いモノを感じたのだろうか。この青年が纏う不思議な雰囲気を、リサと同じように受け取ったのかもしれない。

青年は、力強い笑みを浮かべて言った。

 

――三番街自衛騎士団所属、獅子王(ししおう)凱(がい)だ――

 

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説明
――折れない勇気を逆刃に変えて、護れ!全てを!――

聖剣の刀鍛冶と勇者王ガオガイガーのクロスです。
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魔弾の王と戦姫 勇者王ガオガイガー 聖剣の刀鍛冶 

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