真・恋姫無双 新約・外史演義 第09話「虎銅鑼・後編」 |
目の前に広がる獣の群れ。
前面、側面そして背面と四方を囲まれ完全包囲される曹純と虎豹騎。
金属音が響き渡り、激しくぶつかり合う剣と剣が火花を散らして交錯する。
獣たちの野太い雄たけび、そして少女たちの甲高い咆哮が大地にこだまする。
真・恋姫無双 新約・外史演義 第09話「虎銅鑼・後編」
「――っ! 曹純さま。前方からこちらに接近する集団が」
最初に気がついたのは曹純のとなりで周囲を警戒していた副官の少女。
遠くからでも見える、大きく舞い上がる砂塵。あれは騎馬の全力駆けで起きるときのものだ。
こちらに向って徐々に大きくなる砂塵。距離は目測で一里半ぐらいだろうか。
副官の報告を受け、曹純も馬上から確認する。
「ん〜……あまり友好的な方たちには見えませんね……」
「総員、警戒態勢! 前方から未確認が接近中! 総員、警戒態勢を取れ!」
注意を促す大きな声が周囲に響き渡る。虎豹騎の隊員たちの間に緊張が走り、近づくにつれ、接近する集団の姿が徐々に見えてくる。十頭近い馬の群れ―― その背に背負うは堅気とは言いがたい凶悪な人相の男たち。
曹純も街道沿いを走る“ただ”の馬乗り集団なら、ここまで警戒はしなかっただろう。ここは洛陽から長安、河北、西涼、揚州と大陸の主要な地域と都市を繋ぐ街道で、いわいる天下の往来と呼ぶべき道だ。
時期によって通行量に差はあるが行商人や旅人たちが行き交う公道にそういった類の人間が馬に乗って通行するのは不自然なことでは無い。
「数は八。全員、武装しており戦闘態勢の模様。曹純さま!」
だが、天下の往来で刀剣を片手に馬を走らせながら向ってくる集団は限られてくる。
つまり、こちらに敵意がある無法者と考えて良いだろう。それに気になる事がある。それは彼らが身につけている衣装が――
「あれは……黄色の頭巾? 黄色い頭巾……あの三人組と同じ格好…………ん、盾を前面にして迎い撃ちます」
「は! 総員、戦闘態勢に移行! 未確認を敵として認める! 急いで前を固めろ、一戦交えるぞ!」
十日前ほど前に発生した盗難事件。
陳留に保管されていた太平要術の書が盗み、逃亡をした三人組の賊たち。
そして、盗難事件の犯人たちが着けていた物と同じ黄色い布を身体に身につけ、こちらに迫る前方の集団がいる。
これは偶然でしょうか? …………いえ、あの三人の仲間という可能性もあるのでは?
あらためて考えると共通点は多い。洛陽周辺に出没する賊たちには組織的な繋がりがあるのでは? と可能性について考える。
だが、接敵まで、あとわずか―― 曹純は浮かび上がった疑念を振り払い、目の前の敵に意識を戻す。
進路を変えずに一直線にこちらに向って突進する集団に対して、前面に盾を持たせた兵たちを配置し、このまま真正面から受け止める形になる。
「馬による正面からの突撃は変わらず。でしたら―― 」
目と鼻の先まで迫る敵の集団。待ち構えるは盾を五枚並べた守備陣形―― 曹純は目の前に迫る敵の集団を前に冷静に構える。
そして、目測で距離を測りながら声に出してカウントダウンを開始。
十、九、八、七、……接近するにつれ縮まる距離。それに併せ抑揚の無い声で数を刻む。
「五、四、三、二、一…………今です!」
曹純の合図と共に、勢い横に広がる虎豹騎の騎馬。
両翼から挟み込む様にに展開する騎馬は、小規模な鶴翼の陣。突破力に優れる騎馬の突撃の弱点。それは比較的もろい側面からの強襲だ。
勢いが掛かった馬足は止まることを許されず、左右からの圧力で激しい音と共にサンドイッチ状態に―― 激しい土埃と馬の嘶きが巻き起こる。
「確保ぉぉおおおおーーーー!」
副官の合図と共に横転した騎馬の集団に十数人の兵たちが一斉に襲い掛かる。
所詮は賊たちの蛮勇。戦術のいろはも知らぬ賊の集団が、訓練された本職の軍人の連携に敵うはずもなく、みごとなまでに蹴散らさる。
そして、土埃がたちこめる落下地点に押し寄せる虎豹騎の兵たち。
女子供だと侮ったのだろう。無策に突っ込んできた賊の集団を確保しようと虎豹騎の兵たちが押し迫ろうとしていた。だが――
「えっ! お馬さんだけ!?」
「――なっ! これは一体……?」
困惑の声を上げる虎豹騎の兵たち。
落馬した集団に対して勢い良く押しかけたと思いきや―― そこにあるのは転倒した馬のみ!
―― ジャーン! ジャーン! ジャーン! ジャーン! ジャーン! ジャーン! ジャーン! ジャーン! ジャーン!
「銅鑼の音…………まさか!」
――続けざまに、規則正しく響き渡る銅鑼の音が平野に響き渡る。
音の発生源は前方から。こちらに向って突撃して来た敵の集団は途中で馬から飛び降り、離れた場所から銅鑼を鳴らしなしていた。
罠に掛けたはずが、完全に読まれていのか? まさかの展開に「くっ!」と言葉を漏らす曹純だったが――
「「「「「うおおぉぉおおおおおお――――!」」」」」
銅鑼の音に続くように激しい雄たけびがあがる―― そして、草と土埃を巻き上げ、厳つい男たちの群れが次々と飛び出してくる。
土中からの突然の襲撃。まさに予想もしていなかった展開が発生した。
「そんな――……くっ! 側面から敵襲です! 武器使用自由。各員、迎撃してください!」
「了解!」
曹純の号令と同時に瞬時に前方位に広がる。次々と襲い掛かってくる男たちを刀剣で迎え撃つ可憐な乙女たち。
静けさに包まれていた平野が一変して、剣戟がぶつかり合う激しい戦場と化した。
正面からの突撃に意識を取られていた中での、横からの不意打ち。完全に虚を突かれた攻撃は見事と言うしかない。
まさに“危険が危ない”状況に陥った虎豹騎―― だったが。
「ぐぅ……この程度で、調子に乗るんじゃねえよ! くされチ●コどもがあぁぁああ!」
「わたくしたちに喧嘩を売るなんて命知らずにもほどがありますわ。死ね……死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね死ねぇええ!」
「きゃはははははは! 貧弱な男が女に勝てると思ってんの!? あんたたち、バカじゃないの? バカじゃないの? ねえ! バカじゃないの?」
「貴様ら、軟弱な男どもが虎豹騎に敵うと思っているのか? 皆殺しにしてやれぇええい!」
「「「「「うおおぉぉおおおおおお――――!」」」」」
可憐な乙女たち(?)の甲高い咆哮が大地にこだまする。
不意を突かれたとはいえ、そこは曹操自慢の精鋭部隊虎豹騎。力、技量、経験、そして、精神力でそこらの賊に遅れをとるなどありえない。
敵の数は百という所か―― 単純な戦力比は3対1と圧倒的に不利な数字だ。だが、それは同格の相手に対しての話。
バラバラに襲い掛かる賊たちに対して、こちらは複数人での連携攻撃。
次々と舞い散る血の雨に乙女のものはなく、赤い雨はひたすら大地を濡らし続ける。
百人近くいた賊たちはあっという間に半数以上を失い、物言わぬ身体を赤い地面に晒していた。対する虎豹騎は脱落者は一人も無し!
―― 勝った!
損耗率は圧倒的にこちらが低い。いや、零だ! 故に鎮圧は必至であり、必須―― そう、誰もが思っていた。
「まだだ、続け続け! どんどん襲い掛かかれえぇぇええええい!」
「「「「「うらああぁぁああああああ――――!」」」」」
突如として戦場に響き渡る獣たちの野太い雄たけび。
頭目と思わしき男の号令と同時に、先ほど賊たちが飛び出してきた地点から次々と土埃を撒き散らして湧き出る厳つい男の群れ。
土中から次々と這い出る土まみれの姿はまるで土竜の群れの様。
目の前の異様な光景に、然しも勇敢な虎豹騎も脅え怯む。実戦、訓練、数多くの経験のしてきた。だが、これほど奇妙な相手は初めてだ。
五分に持ち込んだ戦力比が一瞬で元通りに―― それ以上に増え、前面、側面そして背面と四方を囲まれ完全包囲される曹純と虎豹騎。
「――っな!? くそっ、手を緩めるな! こいつら、唯の賊じゃあないぞ……曹純さま!」
状況は一気に形勢逆転。
先ほどまで三倍以上の相手を圧倒していた虎豹騎も、まさかの場所からの増援で窮地に立たされる。
目の前には見渡す限りの賊の群れが―― その数、千人以上。もはや大軍勢といっても過言ではない。
そして、ついに虎豹騎側からも血しぶきが飛び散った。精鋭部隊の名に恥じぬ力で奮戦するも圧倒的な数の暴力に圧されだす。
戦力比は1対30と、ほぼ絶望的な値。それに加え、先ほどからの連戦で虎豹騎の疲労も限界に近い。
「撤退します! 各員、騎乗してください。後方に向けて一点突破を図ります!」
撃退はもはや不可能であり“この場に留まれば全滅は必至!”曹純はそう判断し、大声で号令を掛ける。
「急いで! 先陣はわたしが務めます! 負傷者を中心に突撃陣を組んでください!」
陣形が整うのを今か今かと焦りながらも、襲い掛かってくる賊たちを刀剣で切る伏せる曹純。
もはや一刻の猶予も許されないほど切迫した状況。圧倒的な数に圧されながらもなんとか陣形が組みあがる。
曹純は剣を交わしながら先頭に駆けつけ、比較的薄い後方を突破口に定める。そして――
「全員、わたしの後に付いてきて! 行きます!」
「「「「「うおおぉぉおおおおおお――――!」」」」」
響き渡る野太い雄たけびを切り裂くように、乙女たちの激しく可憐な咆哮が戦場を駆ける。
突破を仕掛ける後方が比較的薄いと言っても、あくまで“比較的”という注釈が付くだけの話。二百はいるであろう筋骨隆々な男たちの壁に向かい、三十位一体となった騎馬の一団が猛スピードで突っ込んで行く。
「おい、あいつらこっちに突っ込んでくるぞ!」
「馬鹿! どけどけ! 逃げろおおぉおおおお!」
「てめえがどけよ! 邪魔だって―― うぎゃああぁああああ!」
まさかの特攻に大パニックに陥る二百名の賊たち。
目の前に迫る騎馬の突撃で賊たちの体を空に吹き飛ばす。それはまるで豹のような加速を持つ衝撃。
すれ違いざまに走る剣閃に賊たちの頸が空に舞い上がる。それはまるで虎の牙のように力強い一撃。
曹操が誇る最強の精鋭騎馬隊『虎豹騎』の名は伊達ではない。騎馬の運用や突破力だけなら、猛将と謳われる曹操陣営最強の夏侯惇隊をも凌駕する。
時間にしてわずか十数秒。虎豹騎は二百人の厚い壁を見事に破壊して、穴が開いた隙間を全速力で駆け抜ける。
そして、ついに千を超える人数の完全包囲網を脱落者無しで突破に成功する。
「点呼終了! 負傷者十八名なれど脱落者なし。全員無事です」
「そう…………良かった。本当に良かったわ」
副官から現状報告を受け、曹純はほっと胸を撫で下ろす。
あれほど不利な状況に陥ったのは、虎豹騎結成以来初めての事ではないだろうか。よく全員生き残れたものだ。
包囲を突破した虎豹騎は馬足を緩めずに、軽快な馬蹄の音を響かせながら街道沿いを西に向かいもと来た道を進む。
「はっ! それよりも追手の存在があるやもしれません。待ち伏せの危険もあるかと」
「そうですね。彼らがどう出るか…………ん、わかりました、任務はここで中止します。各員、速度をできるだけ維持。陳留に帰還しましょう」
「宜しいのですか? 負傷者だけを帰して少人数で任務を続行させることも出来るのでは?」
「待ち伏せを可能性がある以上、戦力を分けるのは危険です。それに、これだけの負傷者を抱えたまま洛陽まで行くのは無理でしょうし……」
命に関わるほどの重傷を負った者はいなかった。だが、後ろからは悲痛な呻き声と泣き声―― 濃い血の臭いが伝わってくる。
もしかしたら、何人かは虎豹騎にすぐに復帰するのが難しいかもしれない。身体に一生残る傷が付いた娘だっているかもしれない。
――もしも、最初の時点で撤退していたら……敵の増援が来た時点で撤退していたら……愛する部下たちがこんな辛い目に遭うことも無かったのでは?
そんな仮定を想像すればするほど手綱を握る手に力が入り、無能で不甲斐無い自分に対しする怒りの感情がこみ上げてくる。
「ぐすっ……んっ! 皆さん、警戒を怠らずに進んでください! 辛いと思いますが手綱をしっかりと握ってください!」
「……りょうかい、です」
「声が小さいです! 陳留に戻ったら各自一ヶ月の休暇を許可します! だから、みんな……今は頑張りましょう!」
「「「「「了解!」」」」」
泣きたくなるほど悔しい状況だけど、指揮官として気丈な態度を崩すことは許されない。ちょっと泣いちゃったけど……。
そして、窮地を脱したとはいえ、この先に何があるか分からない状況下で士気が低下した状態というのは非常に好ましくない。
強気な姿勢で部隊を鼓舞し士気を上げる。彼女は生来の気の弱さを隠しながら指揮官の務めを果たそうとた。
―― 曹純子和。真名は((柳琳|うーりん))。曹孟徳こと華琳の従妹であり、勇猛な虎豹騎の隊長でありながら、ちょっぴり弱気で心清らかな可憐な乙女。
柳琳は、華琳の様な苛烈なまでの存在感、春蘭の様な豪胆な気性や秋蘭の様な静寂なる威厳、と言った将としての資質を持ち合わせていなかった。
元々、優しい気質で戦とは無縁の世界に生きる少女だった柳琳。幼いころに姉の華侖と一緒に華琳に連れ出されて遊びに外に連れ出される事がある。
だが、そこは悪童の名が通る華琳一味。血と愛液が飛び交うバイオレンスでエロティックな遊びに衝撃を受けて、泣きながら家に引き返す羽目に。
華侖姉さんは何故平気なのだろうか? その後『ねえねえ、うーりんも一緒にかりんねえと遊びにいこうよ〜』と誘われたが断固として拒否した。
―― 月日は流れ、柳琳は無垢な少女から可憐な乙女へと成長し、華琳の下で姉と共に働く事となる。
名門曹家の麒麟児と呼ばれる曹孟徳に誘われたと聞いて両親は大変喜んでいた。その頃の華琳はすでに陳留の刺史。彼女を悪童と呼ぶものはこの時期にはほとんどおらず、いずれは太守、いずれは県令、そして都の中央へ―― いわいるエリート街道を進んでいる華琳の尻馬に乗れれば娘の将来は安泰だ、そういう考えだったのだろう。
その後、速攻で頓丘県令に就任したと聞いた時は柳琳も本気で驚いた。この異例の速さでの県令就任を不思議に思い華琳に問いかけたら――
『頓丘県令? ああ、都の宦官たちが勝手に送りつけてきたのよ。全く、今は陳留を治めるのに忙しいのに迷惑きわまりないわね、本当』
―― 何て、心底迷惑そうに話された時はさすがに呆れてしまったのを今でも覚えている。尊敬する姉ではあるが、この価値観には同意できなかった。
『柳琳は馬に乗るのが昔から得意だったわね。今も変わらず乗れるのかしら?」
ある日の事、華琳付きの女官として側にいた柳琳にそう尋ねてきた。
『馬ですか? そうですね〜……今でも馬乗りはしますし、たぶん、昔よりも上達してると思いますよ。春蘭さんにも負けないくらいに……えへ』
まさか覚えていてくれたなんて! 一緒に外で遊んだことなんてほとんど無かったはずなのに―― 平静を装いながらも心の中では嬉しくてたまらない気持ちになった。たった一度、そう、たった一度だけ皆で遠乗りに出かけたことがあった。体を動かす事なら何でも一番だった当事の春蘭に勝った事を柳琳は今でも誇りに思っている。
春蘭は現在、華琳直属の部下として“陳留に猛将夏侯惇あり”と勇名を轟かせている。今、馬乗りで勝負しても絶対に勝てないでしょうね―― そう、思いつつも何となく見得を張ってしまった。幼馴染に対してのちょっとした虚栄心。ちょっとした茶目っ気であり、決して悪気があったわけではない――
『そう……ふふ、それは丁度良かった』
『え、華琳お姉さま?』
『わたし付きの女官の仕事はもうしなくていいわ…………いいえ、今日であなたのここでの仕事は終わりにしましょう』
いきなり飛び出した言葉に思わず耳を疑いたくなった。どうして―― まさか、嘘を付いた事がばれて怒ってしまったのか?
突然のクビ宣言に、何か言おうとしても言葉が出てこない。顔中から血の気が引いていく音が聞こえてきた。
『柳琳。明日から軍に異動よ。ちょうど今、機動戦に特化した騎馬隊を試験的に作ろうとしていたの。あなたにはそこで指揮官として働いてもらうわ』
『…………ふえっ! えっ、えっと、はい、喜んで!』
『――? 大丈夫かしら。少し顔色が悪いみたいね……体調管理も立派な仕事なんだからしっかりしてちょうだい』
こうして、争い事を好まない暴力とは無縁の可憐な乙女は、武力を生業にした血なまぐさい世界で生きていく事となった。
あの時、正直に『もう馬には何年も乗っていません。春蘭さん? いえ、流石にもう敵わないと思いますよ』と答えていれば、違った未来があったのかもしれない。だが、後悔先に立たず。こうなった以上は責任を持ってやらねばならない。華琳お姉さまから直々に任命されたのだ―― 何かあれば華琳お姉さまの人選が疑われてしまう。それだけは絶対にイヤだから。
―― それからは苦労の連続だった。
騎乗自体は元々才能があったらしく、軍の騎馬兵としての行軍速度を身につけるまでにはそう時間は掛からなかった。
しかし、根本的な体力は現役の兵士たちとは雲泥の差があり、一石一夕でその差を埋めることは出来ずに、設立当初の虎豹騎では常に足手まとい。
“お荷物隊長”“曹家の縁故隊長”などと、影口を散々叩かれたものだ。そして、徹底的に無視されるなどの陰湿なイジメ―― 何度も挫けそうになったが、それでも華琳お姉さまの顔を潰すわけにはいかない!と、並々ならぬ努力を重ね、向上する実力と共に周囲の信頼を得るに至る。
今では“お姉さまお姉さま”と慕ってくれる可愛い部下たち。何時しか“華琳のために”という気持ちは“この娘たちのために”と大きく変化していった。
「本当に……本当に誰も死ななくて良かった。……ぐすっ」
「あの、曹純さま?」
「え! え、え、はい、どうかしましたか」
右手から急に聞こえてきた声は副官のものだった。
彼女は虎豹騎の一番の中でも古株であり柳琳が最も信頼している補佐官。柳琳に対するイジメの首謀者だったのは過去の話。今は曹純を公私ともに支えてくれる大切な友人でもある。
先頭を走る柳琳に併走する型で、少し気まずそうに話を続ける。気まずい表情は涙を見てしまったせいだろうか?
「やつらが追ってくる気配が無いようですが……全体の速度を落としてもよいのでは?」
「そういえばそうですね。わたしも追撃してくるものだとばかり思っていたのですが…………わかりました。速度を落としましょう」
副官の提案を了承して、柳琳は徐々に速度を落として行く。先頭の柳琳の馬足に合わせて後続も徐々にスローダウン。包囲網を抜ける時の突撃と合わせて、馬たちにはかなりの距離を全速力で走らせている。どこかで馬たちを休ませなければ潰れてしまうだろう、と考え始めた時――
「結局、やつらは何者でしょうか? 格好や立ち振る舞いを見る限りは賊で間違いないと思いますが……」
「賊、ですか。そうね……無法者の集団である事は疑いようも無い限りです。ただ―― 」
柳琳は先ほどの戦闘を思い出し、賊にしては不自然なことが多すぎる、と考えていた。
まるで無策であるかの様に一直線に突撃。それに対して、こちらは直接受け止めるかの様に盾を前面に並べ直前で挟撃しようとした。
――だが、それは罠だったのだろう。
こちらの陣形を崩れた瞬間を見計らって、さらに側面からの挟撃。しかも、ご大層に銅鑼まで鳴らしてだ。偽装攻撃とは賊らしくもない。
そして、見晴らしの良い平野だとこちらが油断していたところに土中に隠れた賊たちが引っ切り無しに飛び出してきた。千人近い人数がいたのだから、土の下までの長い空洞をあらかじめ掘っていたのかもしれない。こちらの位置を挟撃できる位置に―― 極めて正確に、だ。
坑道を掘って敵の想定外の場所から攻撃する。これ自体は確立された戦術であり、戦争においては良く使われる部類の方法だ。
しかし、それは攻城戦に限っての話で、常に流動的に動きまわる平地での戦闘で使えるような代物ではない。
この時点で三つの策を使い、それを有効的に運用している手際の良さ。戦術理解度の高い夏侯淵隊や部隊錬度の高い夏侯惇隊でもこれほど上手く決まるとは思えない。つまりはあれは―― ただの賊などでは無く高度な訓練を施された何がしかの組織。
「…………急いで華琳お姉さまに報告する必要があるみたいですね」
謎の組織。華琳が想定していた懸案が嫌な型で的中していた事に、一抹の不安を覚えながらも柳琳と虎豹騎は整えられた街道行く。
一路、陳留を目指して…………約一名、“誰か”を忘れている事に気が付かないままに。
【人物・用語・解説】
【有能な人物をすぐに欲しがるところが華琳お姉さまの欠点だわ〜】
華琳さまの欲しい欲しい病ってやつです。三国志の曹操さんも兄者LOVE×2チュチュな関羽さんや裏切りの代名詞、中華のジャーニーマンこと呂布さんを欲しい欲しいしていましたね。関羽さんのほうは見返りが大きかったけど。
【さすがお姉さま!】
お兄様大好きなあの娘のオマージュ。俺TUEEE系のバイブルに出てくるヒロインですね。
【スイーツ(笑)脳】
まあ、あれだ……流行や恋愛などに強い興味を持つ女性に対する侮蔑的なスラングなのかな?意味が広義すぎてトマトには何とも……。
【誰かの先取りをしてしまった気もするが〜】
???「隊長、ひどいのーー! 反省しているのなら頭にサー!て付けて謝るのーー! この蛆虫隊長めーー! なのぉ!」
【プ●イベートライアンや地●の黙示録】
歴史に残る名作戦争映画。特にプラ●ベートライアンは若き兵士たちが無残に命を散らす様をリアルに映し出しており反戦映画としても有名。初見では胃が痛くなること必至なのでご注意を。??ーーーー!
【イジメ、カッコワルイ】
女子ノ複数イジメ、マジデコワイ。いわいる実体験です。
【ジャーン!】
ネタとしても広く知られる、あの擬音です。続けざまに「げぇ!」と叫ぶのはお約束。
【貧弱な男が女に勝てると思ってんの!?】
恋姫シリーズって明らかに男の方が弱いですよね? 英雄譚ではある程度頑張っていたみたいですけど…………華琳さまのウェディングドレス姿は美しいかったなあ。母よ、なぜトマトに“かずと”と言う名をくれなかったのですか……(´;д;)
【血と愛液が飛び交うバイオレンスでエロティックな遊びに〜】
ロリ華琳さまとロリ麗羽さまがナニをしていたのかは皆さんのご想像にお任せします。
【坑道を掘って敵の想定外の場所から攻撃する〜】
土龍の出番ですよ、吉川先生!……失礼しました。史実では金髪縦ロールさんもこれを使っておりました。普通の方には効果抜群でしたが…………バイオレンス&エロティックさま相手には残念な結果に。
???「普通って言うな!」
【約一名、“誰か”を忘れている事に〜】
はてさて、一体、誰のことなんだろう?
説明 | ||
【主人公が蔑ろにされる回その1です】 初の集団戦闘回です。 虎豹騎と曹純の実力は如何に! そして、我らが主人公は? |
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コメント | ||
一刀の知識しか必要とされてない感じで、曹操からも見限られる感じです。そのまま、どこかで死ぬかも…管理者にとって一番いい結末なのかな?(弥生流) この手のミス大嫌いな華琳にすげぇ怒られそう(kirikami) 蔑ろにされた挙句忘れ去られたその人の運命は…このまま黄巾入りとか?それはさすがに無理があるかな。(mokiti1976-2010) |
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