「真・恋姫無双 君の隣に」 第59話 |
あわわ、目の前の光景が信じられないです。
お祭りの一角で本専用の市場があると聞いて、朱里ちゃんと一緒に亞莎さんに連れてきて頂いたのですが、想像を遥かに超えた規模に興奮が収まりません。
孫子、六韜、呂氏春秋、他にも様々な本が並んでいて、正に宝の山です。
「建国祭が終わった後も本市場は維持する事が決まってますので、どうぞゆっくり御覧になって下さい」
「あ、ありがとうございます。で、ですが亞莎さんも御予定があるのではないでしょうか?」
桃香様をはじめ華国の臣となった私達ですが、御役目を戴くのは建国祭の後になっています。
ですが既に重鎮であり軍師の亞莎さんは多忙な身の筈ですから、これ以上の御面倒をかけるのは心苦しいです。
「大丈夫です。それに私もまだまだ勉強が足りない身ですので、御一緒に色々観て回らさせてください」
あわわ、とてもいい方です。
戦術家としても一流で軍師でありながら武にも優れてると聞いてます、同じ軍師として憧れてしまいます。
「あの、亞莎さん、お聞きしたい事があるのですが」
「はい、何でしょうか、朱里さん」
朱里ちゃんが尋ねたい事は、華国で研究されている印刷という技法の事です。
書物が貴重なのは人伝で写本する事によって数を増やすしかない事、それに紙自体が高価なので手に入り辛い為です。
そこで一刀様は紙の生産増量に努めるのと同時に、印刷という技法を真桜さんの技術部門に研究するように指示されてたそうです。
苦労の連続だそうですが、ようやく完成の形がみえてきてるとの事。
ここにある書物もいずれは誰でも持つ事が出来る、とても素晴らしい事だと思います。
「私は戦術書を探そうと思っていますが、雛里さん達はどうしますか?」
どうしようかと朱里ちゃんに相談しようと思ったら、朱里ちゃんが少し先の小さめの露店の商人さんに話しかけてました。
亞莎さんも気付かれたようで、
「確かあの辺りは娯楽用の書物が多かった区域でしたが、気になるものでもあったのでしょうか?」
娯楽用?あっ!朱里ちゃん、ひょっとして!
「私達も行ってみましょうか」
だ、駄目です、多分あれは、こ、ここは何とか阻止しないと。
「あ、あ、あ、あのっ、亞莎さん、そ、そ、そういえばどうして穏さんは一刀様に本市場に行くのを止められてたんですか?」
最初は穏さんの提案で案内してくださる話だったのですが、急遽亞莎さんに代わったのです。
私としては話を逸らしたいだけで深い意味は無かったのですが、何故か亞莎さんのお顔が真っ赤になりました。
「そ、それは、その、私は未遂で済みましたが一刀様は大変な事になったといいますか、わ、私はいつもお待ちするだけしかできなくて少し羨ましいといいますか、そ、その・・・・・」
「真・恋姫無双 君の隣に」 第59話
周りが凄く騒がしいけど、鈴々はそれどころじゃないのだ。
「かなり、いい。でも、まだまだ強くなれる。だから、もう少し本気出す」
言葉が終わると同時に戟が迫ってた。
速っ、何とか防いだけど舞台の端まで吹っ飛ばされる。
一瞬でも気を抜いたら一発でやられる、いくらなんでも強すぎるのだ。
「鈴々!大丈夫か、無茶はするな」
愛紗が声を掛けてくれて飛びそうな意識が戻ったけど、正直怖いのだ、こんな強い奴、信じられないのだ。
建国祭の目玉の一つ、武術大会。
面白そうなので申し込んだら、将軍級の参加は認められないって言われた。
ガッカリしてたら終了後の余興としてならと言われて喜んで受けたけど、今思えば係りの人の方が喜んでいた気がするのだ。
それはそうなのだ、恋が相手だなんて聞いてないのだ。
鈴々じゃなきゃ試合にもならないのだ。
観客はよく頑張ってると応援してくれるけど、勝つなんて欠片も思ってないのも分かるのが腹立つのだ。
そんな事は鈴々が一番分かっているのだ、こうなったら、
「うりゃりゃりゃりゃーーー!」
もう守る事なんか考えない、力尽きるまで攻め続けるのだ。
突いて、薙いで、払って、どれだけ手を繰り出したか分からないけど、とにかく打ち込んだのだ。
でも呼吸が苦しくなって勢いが弱まった時、
「ここまで、もう休む」
目の前に刃が突き付けられてたのだ。
「うーーー、悔しいのだ、悔しいのだ、悔しいのだ。お替りドンドン持ってくるのだ!」
やれやれ、どれだけ食べる気だ。
「次」
そうかそうか、幾らでも焼くぞ、沢山食べるがいい。
焼き加減を確認して引っくり返す、そうすとまよねえずを塗って海苔をふって、よし、出来た。
「恋、出来たぞ」
「ありがと、愛紗」
「愛紗、鈴々のは!」
「分かっている、暫し待て」
まだ焼けていないのだ、こればかりはどうしようもない。
「愛紗、追加の材料は此処に置いておくよ」
「一刀様、申し訳ありません、ありがとうございます」
「御礼を言いたいのはこっちだよ、愛紗が手伝ってくれて本当に助かってるからね」
とんでもない、最初は大事な食材を駄目にしてしまい、どれほど御迷惑をおかけしたか。
自覚の無かった不器用な私を、お忙しいのに懇切丁寧に指導してくださった。
そ、その時に後ろから手をとって動きを逐一併せてくださって、
「愛紗、麺も欲しいのだ」
ハッ!いかん、あやうく呆けてしまうところだった、集中せねば。
次のおこのみやきを焼いていく。
武術と同じで余分な力は必要無い。
基本通りこそ大事、後は反復することが肝要。
うむ、焼けば焼くほど上手くなってるのがよく分かる。
しかし、一度思い出してしまうと頭から離れない、あれはとても幸せな時間だった。
今も屋台をやり繰りしていて話をしている訳でもないのだが、同じ空間で同じ作業を行なっているだけで心が満たされる。
忙しい事すら楽しい。
・・ああ、やはりそうなのだな。
ここまでくれば如何に無骨な私とて気付く。
一刀様を主君としてだけでなく、男性としてもお慕いしている事を。
空気が重いよ〜。
中央広場で美羽ちゃん達が楽しそうに子供達と踊ってる。
観てるだけでとても幸せな気持ちになるんだけど、隣に居る張勲さんの無言の圧力が正直怖い。
鉢合わせして無言で挨拶されたきりで一言も喋らないし。
・・やっぱり、嫌われてるよね。
以前にお世話になってた時も怒ってた感じだったし、今回も挨拶以外は避けられてたもん。
それなのに、どうして隣にいるんだろう?
「そんなに緊張しなくていいですよ、私が此処にいるのは友好を深めたいと思ったからですから」
えっ?今、友好を深めたいって言ったよね?
私の事、嫌いだったんじゃ。
「ええ、以前は嫌いでしたよ。努力もせず綺麗事しか言わない、一刀さんと根っこがそっくりでしたから余計に腹立たしかったです」
はっきり言われました。
でもごもっともです、私も以前の私に説教したいです。
「ですが現在の貴女は尊敬に値する方です。一刀さんを支えるのに頼もしい仲間が出来た事を喜んでますし、私自身がお付き合いをお願いしたい、そう思っています。ですから済し崩しではなく、個人として向き合って私の気持ちをお伝えしたいと思ってました」
凄く嬉しい言葉だった。
「ありがとうございます。私、桃香といいます。これからもよろしくお願いします」
「私は七乃です。敬語はいいですよ、お互い自分らしくでいきましょう」
「うん、分かったよ。七乃ちゃん、私達も踊りに行こう♪」
「え〜、私は美羽様を見ていたいんですが」
「あはは、それじゃ美羽ちゃん達と一緒に踊ろうよ」
フゥ、ようやく一段落ついたな。
風呂に入って疲れを癒そう。
もう遅いから誰もいないだろ、と思ってたんだけど。
「どうした?入らないのか?」
湯船には先客がいた。
「・・何で秋蘭が入ってるんだ?脱衣所には何も無かったよな?」
見落としてはいない筈だぞ、トラブル防止の為に毎度念入りにチェックしてるんだから。
「うむ、張勲殿にお願いしたのだ、北郷と二人で話をさせてほしいと」
七乃の仕業、ね、納得出来るのがなあ。
「それでどうして風呂になるんだ?」
「いや、妙案だと思うぞ。当然武器など持ち込めぬし、邪魔も入らない、本音を語るには適切な場かもしれんな」
同性ならともかく異性でそんな訳あるか、秋蘭、絶対に面白がってるだけだろ。
「まあ折角だ、背中でも流そう」
ハァ、もう好きにしてくれ。
ふむ、思っていたより大きい背中だな、冷静さを保つのも一苦労だ。
「それで、話って何なんだ?」
「フッ、そう焦るな。疲れているのだろう?少し奉仕させてくれ」
「・・分かった、お言葉に甘えるよ。でも華琳と春蘭には内密にしてくれよ、ホントに」
私は愉快な気持ちになりながら、内心安堵していた。
よかった、お前は華琳様を恨んでいないのだな。
・・私が持ち帰れる、唯一の収穫だ。
魏国の使者としての訪問は表面上は歓迎されてるが、招かれざる客なのは明白だったからな。
同盟や停戦などは話す前から予防線が張られ交渉の余地は全く無く、経済封鎖されないのはあくまで商業政策の為で、感情を挿む事ではないからだと突きつけられた。
冥琳もかつての仲間から突破口を見出せないか試みたが無理だったようだ。
もう公人としての私に出来る事は何も無い、今こうしているのは個人的感情によるものだ。
だからこそ張勲は協力してくれたのだろう。
洗い終わり二人して湯に浸かる。
北郷は私を見ないで距離を取ろうとするが、私は傍へ寄り身体を預ける。
「秋蘭?」
「つれないな。私とて女だ、命の恩人であり惚れた相手にそのような態度をとられては悲しいぞ?」
北郷は強張った表情を一瞬したが、顔を横に向けて柔らかに問い返してきた。
「惚れたはともかく、命の恩人には心当たりが無いけど」
「・・そうだな、あれは私の夢での事だから、お前には与り知らぬ事だな」
私達が夢で見る北郷との出来事。
風が定期的に私を含む特定の者達に聴取を重ねて、大分形が見えてきている。
華国の王ではなく、共に華琳様を支えている仲間の姿が。
端から見れば滑稽極まりない話だが、事情を共にしている者は最早誰一人疑っていない。
唯一、華琳様だけを除いて。
否定はされないが肯定もしない、風も華琳様からだけは話を聞けていない。
風も無理には聞こうとせず報告だけをしている。
「傷付いてる人に無理に聞く事は出来ないのですよー」と、風は言っていた。
私も一度話を振ってみた事があるが返事は無かった。
思うにおそらく華琳様には事由の心当たりがあるのだろう、誰にも言えず心を閉ざしてしまいたい程の悲しい思い出が。
そして、
「北郷、お前は辛くないのか?」
「何がだい?」
「自分の胸にだけ秘めている事をだ」
私達は思い出せないのだ。
それでも私達は一人ではない、心を打ち明け相談できる仲間がいる。
だからこそ苦しい事でも耐えられる。
だがお前は全てを一人で背負って、お前に剣を向けた華琳様の心すら包み込もうとしている。
「秋蘭」
「・・なんだ?」
「俺は、幸せだから」
優しく笑顔で話す北郷。
「大事な思い出がある、これは俺の宝物なんだ。もう、充分に報われてるんだよ」
何も言えなかった。
それはきっと幾度も自問自答を繰り返し、自分の心と向き合ってきたからこその言葉。
だからこそ、私の胸を締め付ける。
無力な自分が情け無くて、込み上げてくる気持ちが抑えられず北郷の胸に顔を埋める。
すまない、本当にすまない。
私は、私達はお前に甘えてばかりだ。
そんな資格は無いのに、あるとしたら夢の中での私達だけだろうに。
自己嫌悪に陥っている私を、北郷は何も言わずに抱き締めてくれた。
私は更に甘え身を委ねる。
今だけ、今だけは全てを忘れて北郷を愛し、愛されたかったから。
昼間でも人気の無い外れの庭。
そこには既に待ち人がいる。
仲国躍進の立役者の一人、軍師干吉。
「待たせたかな」
「いえいえ、お忙しい所にお時間を頂けて大変感謝しております」
華の王である俺が仲の軍師と会談するにはありえない場所と時刻。
何より公式での会談は既に終えてる。
人目を避けた理由、それは今から行なわれる話はおそらく俺の想像が及ばない事だから。
「何を聞かせてくれるのか、楽しみにしてたよ」
「私も貴方との対話を楽しみにしておりましたよ。 ・・北郷一刀」
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あとがき
小次郎です。
遅ればせながら明けましておめでとうございます。
今年も頑張って続きを書きますので読んで頂けたら嬉しく思います。
説明 | ||
建国祭を楽しむ桃香たち。 反面、他国の使者たちは |
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