猫と雷
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 日付が変わるころに目が覚めて、夕方ごろに眠くなって横になったことを思い出すと、どうしても眠くなってしまったのは仕方がないとして、その寝過ごしてしまった時間に水を飲んだり明日の着替えを入れたり、いろんな事ができた筈だったけれども、自分はそのいずれもやらないでうとうととしていただけだったりするというのが何だか無性に腹立たしく、無駄に一日を過ごしてしまったなあと思ってがっかりする気持ちが強い。

 窓を叩いて動物が入ってこようとしているので、自分は動物が嫌いなので無視していると、動物は猫のようで私に言う、もうすぐ雷が鳴ってこの家は雷に打たれて燃えてしまうのだから、早く今のうちに外へ出て猫の集会でも観察している方が身のためだよ、と、私は猫の言うことは昔から信じないたちだったので、無視をして寝ころんでいると、猫はなおも窓を叩いて――どうせ中に入れてもらって、雨から身をしのぎたいだけだろう――私にせっかちに言うのだ。もうすぐ雷が鳴って、それは大きな雷で、雷獣が落ちてくるぐらいの規模の雷だよ、と。それで私は布団に入って眠り直そうとしても眠れずに、猫の言うことを聞く気になって、財布と携帯電話を持って、寝間着のまま外へ出ると、外は雨も降っておらないし、猫は餌をねだるでもなく出て来た私にこっちへ付いてこいというような身振りをしていて、もしかしたら猫の言っていたことは本当なのかも知れないと私は思う。私は常々、猫の言うことを信じないように生きてきたのだけれども、それというのも小さいころに猫にお菓子の家があるよと連れて行かれてだまされてひどい目にあったことが原因だったのだけれども、その時のことはもう忘れた方が良かったのだろうか。

 私は猫の後ろをついて夜の町を歩くと、津波の来る前の海のように何か空気の引いていくような音がし、前腕の産毛がちりちりと逆立っていくような気配がし、これはなんだろうと猫に聞くと雷がもうすぐ落ちてくるから、それはみんな真っ白になってしまって何も見えなくなるけれども、見えないのは一瞬だけで、すぐに息もできるようになるし、だから何にも心配はいらないよと言うので、私は嘘だろうと思ってふりかえると、はたせるかな、その時空から稲妻が落ちてきて私の家の避雷針を兼ねた水煙に吸い込まれるように流れていって、すぐ近くなのに音が聞えないなあと思ったら音というよりも腹に響くような震動がずんと来て、私はお腹を押さえようと思ったら衝撃で少し体を揺さぶられて尻餅をつき、辺りは真っ白になって、何にも見えなくなり、小さいころに私をお菓子の家に案内した猫が後ろの方からやって来て、お菓子の家に今度こそ案内してあげようと言う。でも私は猫の言うことをもう信じられるような気がしたから、猫の後に付いていって、途中で振り返ると、家は燃えていて真っ白な透明な火炎をあげており、あれを消さないといけないんじゃないのかなあと思って首をかしげるけれども、猫はいいんだよと言って放っておいていいんだよと言ってにゃあと鳴き、私は、それもそうかなと思ってまたその後ろを付いていって静かに猫みたいに歩いて行った。

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