お父さんと僕 |
僕はお父さんと会ったあの時の事を忘れられないだろう……もし忘れたいと思ったとしても。
あれは幼稚園年長生の夏休み、お母さんの仕事の都合で、お母さんの知り合いの家に泊まってた頃の話。
他人のお家に入るなんて滅多に無いものだから、探検とかしてたっけ。
調子に乗って迷子になって、気が付けば暗くてじめっとした場所にいた。
じゃらり…じゃらり…鎖が擦れる音が不気味に響く。恐くて恐くて泣き出しながら、奥へ奥へと走っていったっけ。
そこに居たのは鎖に繋がれ、手足はがちがちに止められて動けなくなっていたガリガリでボサボサなおじさんだった。
「おや?てっきり飽きられたと思ったんだが…って君は……そっか」
おじさんは僕を見たところで何かを納得し、「せっかくだからお話でもしよう」とある男の話を語り始めた。
その昔、とってもとっても控えめで暗い男の子がいたという。
その少年は周りから「前を向け」だの「ポジティブシンキング」だの「勇気を出せ」だのと前向きであるよう強要されていた。
親から親戚から先生から、大人たちからそんな事を延々と言われ続け、それしか生き方を知らなかった男の子は、言われたとおり前向きに生きようと頑張った。
しかしそれは前向きではなく自暴自棄であり、それは決意ではなく投げやりであり、それは勇気ではなく向こう見ずであった。
自分から死のうとした子を偶然目にしたので大怪我してでも助け、病気で満足に歌えない子の歌を聴きたくて募金活動に尽力した。
どんなに殴っても蹴ってもびくともしない子と喧嘩になった際には、やらなきゃやられると二階から外に放り投げて病院送りにした。
イジメの対象になったらなったで静かに歌を聴きたいからと首謀者二人を逆に嵌めて標的にした。
それでも煩いので首謀者を隠れ蓑にしていた元凶を探し続け追い続け捕まえ続け説得し続けた。すると男の子のイジメを仕向けた元凶は精神病院に運ばれて、そこでやっと騒ぎは治まった。
これら全てはネガティブ…つまり暗い性格が空元気を起こしてやった事であり、それぞれ最終的に「どうでも良いや」という一言から行動を起こしていた。
それは男の子が大人の男になっても変わらず、自暴自棄と勇気を、無謀と勇敢を履き違えて行動した。
次第に男は様々な眼差しを向けられた。尊敬…憧れ、畏怖…畏れ、それから愛憎というのもあった。
しかし男は他人に向けられている気持ちを理解できず、それどころか周りに向けられている想いを恐れた……それはそうだ。これまでやって来た事は誰かを思ってやったわけではなく、自分の為にやったからだ。
男は逃げた。それでも追いかけてくる者達は離れてもらうよう敢えて周囲の気持ちを裏切った……すると国が一つ滅んでしまった。何時の間にか根付いてしまった印象との食い違いが原因で暴走してしまった人達は、男よりも遥かに力があったからだ。
「……で、結局根付いた印象に沿うよう頑張ってみたんだけどボロが出ちまってな…男は社会的にも実質的にも世の中から消されちまったとさ。」
おじさんはそう言った後、今は何が一番楽しいか聞いてきた。今ハマっているゲームの名前を言うと「何それ楽しそう!」と目を輝かせた。
それからハッとなって「これがプラス思考と言う奴か」と呟いた後、手足や首に付いていた枷をバキバキっと壊して自由の身となった。
「あんがとな〜おめーのお陰でこれから楽しく生きれるかもしれん!」
「何処へ行くの?」
「さーな。けども〜ここにいる意味はねーや、女共には飽きられちゃったみてーだし?ここ数日前から水すらくれずにほったらかしだし?それよか今聞いたゲームがしたいから、お金稼がないと!」
「え、何にも食べてないの?飲んでも無いの?そんなに元気なのに?」
「それは気功とかスピリテュアルとかで何とかしてるだけであって……その内教えるよ。またな息子よ、俺に会ったのは内緒な?」
それからおじさん…お父さんが飛び出してから何日か後、ニュースでお父さんの事が取り上げられていた。
見つけた人には懸賞金というものをもらえるらしい…その事をお母さんが出かけている間にこっそり忍び込んだお父さんに聞いてみた。
「あれは『あの人あそこに居ましたよー』とかそーゆー事を知らせるとお金がもらえる事があるんだ」
「じゃあここにお父さんが居た事を話したら、お金がもらえるのかな?」
「あいつらの事だから…俺の息子だって理由で共犯者、つまり悪い事した扱いにして揉み消すんじゃねーかな?女は男よりも一足先に((幻想|ユメ))から冷めてる分、変なトコで頭が回るんだよね〜」
「女の人って男の人より賢いの?」
「そーかもな〜……けど賢い分恐がりでもある。だから発明とか発見とかいう未知…つまり分からない事や知られてない事に関しちゃ男に遅れを取っちまうのさ。」
「だからエジソンやノーベル、それとライト兄妹にからくりイエモンとか言う男の発明家が多いんだね。」
「そうそう。キュリー夫人とかいった人も居るから一概には言えんけど…それでも男は仕事をして、女は家事をするのが実は一番理想的なんだよ。女が支えてくれるから男は進んでいけるし、男が切り開いてくれるから女は安心できるってもんだが、今はこの程度の区別にまで過敏なんだよナ〜」
あれからこんな風に色々と雑談をしながら、空白だった家族の時間を埋めつつある。最近お母さんが何処かに出かけてて暫く家を空けているけど…もしかしたらお父さんを捜しているからかもしれない。
お父さん曰く他の子達は随分前から自分の事を知っていて、捕まえるのに協力的だそうだ……その話から、僕には何人も姉弟やお母さんが居る事を知った……お母さんの知り合いもお母さんらしく、一番ヤンデレでメンヘラで病弱なお母さんだとお父さんは言っていた。
「((一夫多妻|ハーレム))ってマジしんどいから、お前は一人に絞っとけよ?」と真剣な目で語っていたっけ。
僕はお父さんと会ったあの時の事を忘れられないだろう……もし忘れたいと思ったとしても、隙を見てはちょくちょくお父さんが会いに来るから。
そして僕では味わう事は無いであろう経験談を、色々と教えてくれるのだから。
一週間の間は飲まず食わずでも生きられるという実体験や、一週間に一度だけお父さんに食事を与えるのが当番制になっていたという話なんて、きっと他では聞けない事だろう。
説明 | ||
この物語は以前通っていたセイチャットのなりきりからのネタを元に書いてみたものです 男女差別、及び区別があるのでご注意ください。 |
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