レイドリフト・ドラゴンメイド 第34話 純情の致死量 |
ボルケーナは、自分はタフだと思っている。
そして周囲にも、そう思ってほしいと願っている。
それをするためには、まず行動だ。
それを見て誰が軍拡を志すとすれば、それは悲しむべきことだ。
でも、真実を知らない平和が、どうやって未知なる恐怖に立ち向かえるのか?
彼女はそのせいで、何度も傷をおった。
その傷のことを論ずる気はない。
気にするのは義妹の真脇 達美のことだ。
彼女は異世界移転という事態にあって、予想外のタフを見せた。
タフだったというより、なる力添えがあったからだ。
その源は鷲矢 武志。
彼も大事な友達。
だから、ほぼ正解の2人のイチャラブを想像できた。
「あー、いやらしい。あー、羨ましい! 」
自衛隊がMLRSから放った大型ミサイルが着弾する。
ドディたちが守った浄水場の近くまで続く、彼等も褒めた閑静な住宅街に。
住む人はもういない。庭木は勝手に伸び続け、森と見分けがつかないところさえある。
それを轟音と地響きがなぎ倒し、巨大なキノコ雲が立ち上った。
あとには平地しか残らず、そこはヘリポートとなる。
だがそれにしても小さい。1機しか止まれない。
それを補うため、離れた場所から次々にキノコ雲が立ち上る。
大小様々なヘリによる10機ほどの編隊。PP社のヘリコプター隊がやって来る。
橋頭堡を築くために必要な人や物を運ぶためだ。
それを空の向こうから、目ざとい地中竜の群れが一斉に襲いかかった。
編隊の先頭をいくAH-64Eアパッチ攻撃ヘリが対空ミサイルを放つ。
だが竜の翼から吹きでる炎は赤いオーロラのように空を覆い、ミサイルはその熱を探知してしまい、飲み込まれていく。
竜達は、明らかに人間の戦術を読んでいた。
つぎは口から火の玉が飛ぶ。連射する大砲のようだ。
その火の玉は、ヘリのまわりに現れた光る壁によって阻まれた。
衝撃波減衰システム。
機体側面についたレーザーとマイクロ波の発射口が、プラズマシールドを作る。
それでも、機体近くで爆発が起こることには変わりない。機体が、編隊が激しく揺れた。
アパッチ攻撃ヘリが飛び出した。
それを見ていたボルケーナが思わずうめいた。
アパッチの機首にある30ミリ機関砲は、みごとに竜の胴体を狙い撃っていた。
袈裟がけのように撃たれた竜は、空中に縫い付けられたように止まった。
その一瞬が、全てを変えた。
ボルケーナは高所から赤い光線を撃った。
それに包まれた地中竜の巨体は、光に溶かされるように見えなくなる。
ヘリ部隊は降下の態勢に入った。
最初に降下したのはハインド攻撃輸送ヘリ。
機首に機関銃を持ち、側面にはミサイルが積んである。
機体側面のドアが開いた。
飛びだしたのは鉄のアームに取り付けられた機関銃と操作手。
ハインドは3つ機関銃を、崩れなかった塀の一つに向けた。
たちまち放たれた銃弾が、その塀を蜂の巣にする。
塀から、人影が飛びだした。
転がるように逃げるそれは、たしかに人の形をしている。
だが、その全身が違う。
銀色の鱗で覆われおり、背中には同じ金属質の羽が生えていた。
地中竜をモチーフにした特撮怪人のようにも見える、鋭い口と牙。
ヒューマノイド。地球人に似た姿かたちを持つ生命。
見かねたような人影が、物陰からいくつも飛び出した。
木の幹のような足に、枝葉に覆われた上半身。
そして背中から生えた輝く結晶体。
海中樹の特徴を持つヒューマノイドだ。
黄金で作った天使像のようなものもいる。
皆ボルケーニウム光線を受けてヒューマノイドにされた三種族だ。
黄金像のような肉体は、天上人のガス状の体を粘土並みになるまで圧縮したものだ。
あの赤い光線はボルケーナの技。三種属族をボルケーニウム光線でヒューマノイドにする。
それ自体は成功した。
だが、彼女の気持ちは落ち込んだままだ。
ヘリについたスピーカーが、がなり立てる。
降伏すれば命は助け、裁判もうけられる。
そういう権利の読み上げだ。
だが、帰ってくるのは地中竜火炎弾。海中樹の光線。天上人の稲妻。
ヘリのスピーカーを操る、PP社の放送係が、自分の声を最大までボリュームアップして叫ぶ。
『自分たちが特別だ、という考えを捨てろ! 』
今のボルケーナは、ボルケーニウム光線乱れ撃ち態。惑星中の分身が、この姿をとっている。
地面に撃ちこんだ柱を軸に、四方八方に光線発射機を向けている。
クリスマスツリーのような、光る円錐形の姿だ。高さは100メートルほど。
フセン市の周辺にいた分身態が合体してできている。
だがその体は、これまでの乱れ撃ちによって傷ついている。
ボルケーニウムを光速近くまで加速するための、膨大なエネルギー。
そのエネルギーが、発射機の放射化特性を変えた。
放射化特性とは、高エネルギー電子をぶつけられた原子が、放射線を出す元素に変わること。
地球の量子加速器などでも起こる現象で、そうなると設備を総入れ替えしなくてはならない。
もともとボルケーニウムにはエネルギーを吸収する性質がある。
しかし発射機にしたことで性質が変わり、吸収ができなくなっていた。
今できることは、発射機を解体し、元のままのボルケーニウムで包む、スクラム停止と呼ばれる作業。
放射性物質となったボルケーニウム元素のエネルギー、つまり放射線を吸収しつつ、時間をかけて元のボルケーニウムに戻すこと。
ボルケーニウム光線乱れ撃ち態の表面から、直径1メートルほどの丸いものが浮きでた。
今ボルケーナが自由に使える数少ないボルケーニウム。
いわばセーブ態。必要最低限の力しか使えない姿だ。
丸が開き、全長2メートルほどのワニのような姿になった。
ただし、全身に赤い毛が生え、猫のような耳がある。
達美の猫だった時のモフモフ。それが人間の姿になって失われたことを惜しみ、真似したのだ。
背中には白鳥のような白い羽が。神獣の証、天使の羽だ。
短い手足には鋭い爪が生えている。
丸くやわらかそうな腹にはカンガルーのようなポケット。
中からドラゴン型ランナフォンが現れた。
応隆から渡された最新型で最高の出力を持つらしいが、今のところ使う機会は無い。
爪で液晶画面を操作するボルケーナ。
操作は繊細であり、画面に傷はつかなかった。
そして、司令部に報告する。
「ボルケーナです。ボルケーニウム光線は完全に使い切りました。これからスクラム停止を開始します。同時に、能力もほとんど使えなくなりました。あとはよろしく」
ボルケーニウム光線乱れ撃ち態が、重々しい金属音を上げて畳まれる。
その表面を覆う液状のまだ無事なボルケーニウム。
やがてドームのような形に変形する。
彼女のランナフォンが達美の一番甘ったるい歌のインストアレンジを鳴らし、着信を知らせたのはその時だ。
『こちらレイドリフト・ディスパイン。ボルケーナ先輩、支援は必要ですか? 』
同時に爆音を凌ぐ、連続する音が近づいてくる。
瓦礫も、木々も蹴飛ばす、大きな足音だ。
「三種族は全てヒューマノイドにした。でもパワーは変わらないから、気をつけてね。そっちからは何が見える? 」
迫るのは、身長80メートルにも及ぶ灰色の、筋肉質に見える人型。
レジェンド・オブ・ディスパイズ。通称ディスパイズロボ。
レイドリフト・ディスパインが操る、巨大ロボット。
『ヒューマノイドの数は、102。こっちへ向かってきますね。それよりも』
さっきまで1200メートルの異様を見せつけていた、スーパーディスパイズの中心。
背中にある巨大なウイングで、短距離なら飛行が可能だ。
『やっぱり、その姿の方が先輩って感じがしますね』
言われるとボルケーナは、過去の無頓着さに恥ずかしさでいっぱいになる。
「やめてよ! 」
確かに彼女は、この姿で学生時代を過ごしてきた。
だがそれは、人間で言えば着心地が良いからイモジャージで過ごした。というようなものだ。
ディスパイズロボの後ろでは、全長600メートルほどの巨大な台形が、地面に横たわっている。
レイドリフト・マイスターが駆る、宇宙空母インテグレート・ウインドウ。
スーパーディスパイズの下半身を構成していた。
今はその甲板に、目玉の浮き出した不思議なビル、マトリックス海南エリアの方面隊司令部を乗せている。
青だけだった壁の目は更に増え、黒や赤、昆虫のような複眼もある。
盛り上がった肌色の肉の塊は、鼻だ。
チェ連人科学者が大勢の異星人や三種族、さらに自分たちの仲間のはずの異能力者を閉じ込めて一つのネットワークとしたという、黒いビルだ。
ビルと甲板をテント状に囲むのは、星や星間ガスがきらめく宇宙。
レイドリフト・メタトロン。
何が出るかわからないビルを封印している。
「まあ、あのくらいならなんとかなりそうだね」
あたり一面に、三種族ヒューマノイドがいる。
それが何事かを叫びながら、一斉にボルケーナに向かって跳びかかった。いや、その後ろの黒いビルに向かっている。
黒いビルが何なのか、それはボルケーナたちにもわからない。
それにもかかわらず襲い掛かるという事は……。
「おーい! 見慣れない物を! 破壊すれば! 起死回生の何かが! 生まれると! そう信じているんですか!? 」
ボルケーナは大声で訪ねたが、返事はなかった。
彼女は呆れてしまった。
慌てず騒がず、三種族を変形させているボルケーニウムに呼びかけた。
「浮かんでろ! 」
三種族ヒューマノイドは突如動きを止め、浮かされた。
体にまとわりついたボルケーニウムが、反重力を放ったからだ。
ボルケーナは自分のそばに引き寄せた。
つまり直径50メートルほどの放射性物質が詰まったドームの、てっぺんのまわりに。
三種族の突撃の雄叫びは号泣の声に変わる。
その時、ボルケーナは彼らに貸したボルケーニウムから、ある反応を感じた。
人間の感覚で言えば、目に飛び込んだ。と言った感じだ。
ある天上人ヒューマノイド。
その足に、太い鉄棒が突き刺さっていた。そいつを引き寄せる。
「おい止めろ! たのむ! 」
怯えきった表情で、天上人は懇願した。
こんなことも得体が知れないのか?
「今の天上人は、固体や液体で構成されています。構造は人間きわめて近いんですよ」
ボルケーナはゆっくり、はっきり話すよう心がけた。
「それに傷が入り、血液にあたる組織が失われれば、確実に死にます」
ボルケーナは彼に微動さ獲さえ許さず、鉄棒を引き抜いた!
「後の処置は、ボルケーニウムで傷口を圧迫して出血を止めます。
私は時空をちょっと曲げてます。時間の流れを早くします。
そうすれば、ご自身の再生力で傷は治ります」
治療が住むと、すぐさま電話を司令部にかけ直す。
「ボルケーナです。私の能力低下は予想以上でした。幸運強化結界が使えなくなってます! 」
普段の彼女なら、付近にある不幸は全て偶然の形を持って消しされる。意識さえせずに。
それが幸運強化結界。
燃える家があれば、燃え広がる前に勝手に崩れ去る。
銃を向けて撃っても、その弾は製造過程の欠陥があり、勝手に外れる。
それができないということは、ボルケーナの能力が限界に近いことの現れだ。
惑星規模で不幸が、ここのような戦いが満ちている。
ディスパイズロボの頭部がうごいた。
台形で、その中心から大口径レールガンが伸びている。
さらに、その右腕が変形する。
少し間を置いて、機械音がひびく。巨大なレーザー砲が飛びだした。
もともと全長300メートルの戦艦を正面から真っ二つにできる。
あれで撃たれれば、三種族など跡形もなく消え去ってしまう!
「あかねちゃん、支援は必要ないよ」
成沢 あかね。一般中学校に通う2年生の女の子。
ディスパイズロボのパイロットについて、ボルケーナが重要視しているのはそのことだけだ。
「それより、徹夜組はそろそろ寝なさい。私も彼らを送り届けたらすぐ寝ます」
あかねからの返事。
『こう見えても強化人間ですよ? 』
言われて思いだした。あかねは高度なサイボーグや遺伝子操作技術を持つ犯罪組織が、ゼロから作り上げた人造人間だった。
成沢 あかねという名は、組織の一斉検挙後に引き取られた養父母によってつけられた。
「そう言えば、あなたの仲間の戦艦の……。はすみ ももや君? はどこに行ったの? 」
スーパーディスパイズの上半身を構成していた宇宙戦艦がいない。
『戦艦の名前はフェッルム・レックスです。
パイロットはレイドリフト・バイトの蓮見 百矢であってます。
現在、自動運転にて上空で待機中。ルルディ騎士団もいっしょのはずです。それと、1号も』
ボルケーナは、周りに浮くヒューマノイドを改めてみてみた。
不思議と、チェ連人はいない。
そうか、と気付いた。
森に変わりつつある都市は、彼らにとって占領した土地なのだ。
「うわアアアアあ! 消し去れぇ!! 」
目の前にいたのは、そう叫びながら炎を吐く、地中竜ヒューマノイド。
ボルケーナに当たりはしたが、彼女は涼しい顔だ。
「あいにく、熱には強いんだよ」
両腕で抱き込んだランナフォンも燃えない。
引き続き、ヒューマノイドたちがそれぞれの技でボルケーナを撃つ。
「わかってる! わかってるからぁ! 」
わかっているそうだ。
さっきまで、平身低頭していた女神だと。
ボルケーナはそんな彼等の態度に呆れた。
だが同時に、そんなものだろう。という考えも浮かぶ。
新種ヒューマノイドからの攻撃はさらにひどくなる。
堪忍袋の緒が切れた。再び彼らに貸し与えたボルケーニウムに呼びかける。
「浮くのをやめろ」
たちまちヒューマノイドが落ちだした。
だが下にあるのは巨大なボルケーニウムのドーム。
ベチャッという粘土のような音を上げたから、しばらくはくっつくはずだ。
ようやくボルケーナの視界が開けた。
臨時のヘリポートに、MV-22オスプレイが降り立った。
ティルトローター特有の2枚の巨大なローターを飛行機のような羽に持ち、ローターを上下に向きを変えることで高速でも垂直でも飛行できる。
中から装甲のない軽トラックが降りてきた。
ドアや屋根さえない。フレームだけの車体だ。
一応機関銃が搭載されている。
オスプレイが立ち去ると、次は大型のCH-53Eスーパースタリオンが下りるはずだ。
機体下には重さ11トンのオーバオックスを吊り下げている。
地上で誘導するのは応繁のドラゴンドレス。
陣地の設営は着々と進んでいた。
「あかねちゃん、暇なら捕虜に朝ごはんを用意してほしいな。今、設営中のPP社の陣地にあると思うから」
ランナフォンに言いながら、ドームを滑り降りる。
『それは、勝手な公私混同ではありませんか? 』
あかねが案ずるのも無理はない。
だがボルケーナにはわかっていた。
「大学を卒業してからも時々助けに来てたから。その時は大丈夫だった。食後はあったかい紅茶がいいでしょう」
自分も降りながら、反重力でヒューマノイドたちを浮かせる。
貸し与えるボルケーニウムは、ドームからたっぷり増加させた。
『分かりました。甘さは強めがいいと思います。ジャムも用意します』
「ありがとう」
そう言って電話を切った。
後から、銀色の巨人が追い抜いていく。
瓦礫を蹴らないように、膝を上げ気味にして。
ボルケーナが地上に下りると、新種ヒューマノイドもそれに続いてきた。
首から下を赤い寝袋のようなボルケーニウムで覆われていたのが、切れ込みが入り、手足ができた。
それだけ。尻尾も翼もない、プレーンな人型だ。
彼女にしか作れない拘束具。
「さてと、人間体型体験は楽しかったですか? 」
彼女はできる限りの甘い声と、笑顔で彼らを迎えた。
「楽しいものか! こんな禁じ手だらけの姿で、何をさせようというのだ! 」
相手の年齢や性別に合わせて、声を合わせるようにしてある。
老いたオスだから、男の老人らしいしわがれた声を。
ボルケーナはできるだけ落ち着いた声で答えるつもりだった。
「あなた達に人間に近い姿になっていただくことで、人間の気持ちをわかっていただこうと思ったのです」
だが、それは失敗した。
無機質な声にしかならない。
「三日たてば元に戻ると言ったはずですが、なぜわざわざ傷ついて、元に戻ろうとするのです? 」
「これは屈辱だからだ! 」
すぐさま声が突きだす。
「人間の姿など何の役にも立たないじゃないか! 」
「それに我々は怠け者ではない! 自力で、すぐに戻って見せる! 」
そう答えるのは分かっていた。
三種族はボルケーニウム光線を撃っても撃っても現れた。
老いた者も、若い子供も、こぞって人類と異星人に襲いかかった。
それを確信した時、ボルケーナが考えたのは、それを利用することだ。
このまま三種族をヒューマノイドに変えていけば、彼等は自分を攻撃してくる。
自分が戦略目標になれば、その分他への負担が減ると考えた。
その間に達美たちを休ませることができる。
三種族にしても、こんなことが続けば諦めるだろう。
自分ならやれない無理ではない、と思ったのだが。
予想の甘さに、思わず舌打ちしそうになる。
それをぐっとこらえて。
「とりあえず、朝ごはんに行きましょう」
そう言って、歩きだす。
「後ろからも見張ってますからね」
ドームから、もう一体のセーブ態が滲みだしていた。
目指すのはPP社の陣地。
だが、突然上がった一言が、歩みを止めた。
「人間だ! 人間がいるぞ!! 」
始まったのは大乱闘だ。
三種族ヒューマノイドが、圧倒的に数で劣るチェ連人に襲いかかる。
「お前が悪いんだぁ! 」
彼女はもう、泣きたくなってきた。
「「止まりなさい! 」」
ボルケーナの2つの体が、前後から叫ぶ。
「うわっ! 」
子供のような、甲高い声。
「きゃあ! 」
女の声も交じる。
100人近い赤い人々が、さっきのチェ連人をめがける姿のまま、止まっている。
彼らを押しのけ、圧しのけ、見つけた。
ただ一人のチェ連人はしゃがみ、頭を抱えた姿のまま、縮こまっている。
ボルケーニウムの服はそのままだが、その奥、肉体には切り傷がたくさんでき、血が滲んでいた。
「かかれ! 火や光線で一斉にやれば怖くないわ! 」
女の海中樹が煽動する。
ボルケーナは、その正面に駆け寄ると、体重と勢いをくわえたパンチを顔面にぶち込む。
そしてもう一つの体でチェ連人を抱きかかえるようにしてかばう。
殴られた方は、一発で気を失っていた。
いくつもの悲鳴が上がる。
よほどショックだったのだろう。今まで自分たちの鍛えてきた異能力より、ただのパンチのほうが効果あるなんて。
それでも、周囲の殺気はとどまることを知らない。
彼らの目には、燃え上がる怒りがはっきり写っていた。
だが、この瞬間はチャンスだ。ボルケーナは、これまで疑問に思っていたことを質問しようと決めた。
「あなた達、人間がこの星を汚し、生き物を絶滅させるのを怒ってるくせに、他の絶滅については話題にもしませんね。どうやって星を守る気なんですか!? 」
その言葉を聴いた途端、たちどころに騒然とした周囲が静まり、自分の言葉に耳を傾ける。
ボルケーナはそんなことを期待した。
だが、そんなことは起こらなかった。
それでも、神獣hあ叫び続ける。
「隕石の落下! 超新星爆発! 大規模な火山の噴火! はい、他には? 」
投げかけた質問に、答える三種族ヒューマノイドはおらず、帰ってくるのは。
「一体何の話だ!? 」
「いかなる障害も、我らの力で打ち砕いてくれる! 」
結局、それしか思いつかないのか。
全然動けてないけど。
その事実に悲しさのどん底を感じたボルケーナだった。
「惑星全凍結……」
つぶやき声で、答えが聞こえた。
あのしゃがみこんでいたチェ連人の青年だ。
頭を抱えるのはやめて、しゃがんだ自分の座高と同じくらいの背のボルケーナを見ている。
「ちょうどいい。惑星全凍結について、知ってることを全て話しなさい」
声をかけられた青年は、ガタガタ震えながらも話しだした。
「よく言うよ! 僕らの街を砲撃したくせに! 」
男の明白な拒絶。
その時、三種族ヒューマノイドの雰囲気が変わった。
喜び、そして好奇の感情が渦巻いている。
男は殺される。ボルケーナに無礼を働いたから。
そんな確信が渦巻いている。
それは間違いだ。
「わかってる。私達も同じことで心を痛めている。その責任を取るために、まずあなた達に何ができるかを話してちょうだい」
男も、どうなるかについては三種族と同じ意見だったようだ。
心底意外そうな顔をした。
そして、話し出す。
「この星を全て、氷が覆っていた時代がある。
その時代が惑星全凍結。
証拠はある。北極や南極から流れてきた氷河が削った谷や、赤道近くまで運んできた大きな岩が見つかっている」
そこで、彼の話が途切れた。
何か話したくない理由でもあるのか。
「大丈夫だよ。君、名前は? 」
ボルケーナが訪ねた。
「キュクロ・カイモノブクロン……です」
そう言っても、説明は続けない。
「君、結構詳しそうだね。どこで覚えたの? 」
この質問には答えた。
「叔父が、ヤンフス大学気象学部の気象学者なんです。カーゴ・カイモノブクロンと言って、古代の気象なんかも、詳しくて」
少しづつ、キュクロの声にハリが戻ってきた。
その気象学者は、甥っ子に勇気も与えてくれたようだ。
「あの、話を戻していいですか? 」
ボルケーナは「どうぞ」と答えた。
「惑星全凍結の原因について。それは、海中に住む植物が光合成を活性化しすぎて、地球の温暖化を奪ったから、という説があります」
せせら笑う声がする。
「異なことを。そのようなことが起こったことはない! 」
予想道理、海中樹の一団だ。
それでも、キュクロは話をやめない。
「他にも、何らかの理由で海の水が減ったから、という説もあります。
その分陸地が増え、その陸地が風化する。
風化した陸地から流れ出たカルシウムイオンが海にたまります。
それに空気中の二酸化炭素が結びつくと炭酸カルシウムに変わります。
空気中から二酸化炭素がなくなれば、温室効果もなくなり、気温はどんどん寒くなる」
周囲からのせせら笑いは、すでに大爆笑に変わっていた。
「か、海中樹は……」
そんな周囲に、キュクロは一矢報いることにしたらしい。
「ずっと海にいたのに、気づかないんですか……」
彼が消え入るような声ながら反抗の意思を示すとと、周囲が怒りを爆発させた。
「最後の言葉が、世迷い言とは」
そしてエネルギー攻撃が貯められる。
「その愚かな首、焼いてくれる! 」
発射する口が、結晶が、拘束具から伸びたボルケーニウムによって縛り上げられた。
結果は、不発。
そして誰もかも、微動だにできなくなった。
「カイモノブクロン君。あなたの説明はあってるよ」
今話し合えるのは、ボルケーナとキュクロだけだ。
「私、ポケモンみたいな見た目だけど46億歳でね。いろんな世界を見てきたんだ」
キュクロに肩、ではなく尻尾を貸し、立たせる。
エンジン音が近づいてくる。
フレームで覆われた軽トラックが、人員を満載してやってきた。
その先頭にいるのは、応繁のドラゴンドレスだ。
「おーい。応繁さ〜ん」
ボルケーナが甘い声を上げて手を振る。
更にその頭上に分身がのり、手を降った。
三種族ヒューマノイドは全身をボルケーニウムに覆われた。
その姿は直立不動で立つ、荒い粘土人形にしか見えない。
あごの間には、口が閉じないように挟まれたボルケーニウムの棒が。サルぐつわだ。
それでも口元と目にはちゃんとメッシュ状の穴が開けられ、息はできる。
『拘束し続けなければならないようだね。俺達が運ぶよ』
応繁はそう言うと、ほかのPP社員とともに三種族ヒューマノイドを軽トラの荷台に乗せていく。
新たな、狂った笑い声が聞こえるまでは。
「やっぱり! ゲホッ。 この星を守れるのは人類だけだ!! 」
笑っていたのは、キュクロだった。
そして、倒れた三種族を蹴り続けていた!
「所詮こいつらにとって、星の歴史なんか雑事なんだ! 僕らはこいつらの気まぐれに付き合わされたんだ!」
ボルケーナの顔が、恐怖で引きつる。
引きつりは全身に伝わり、毛が逆立った。
「な、何やってんだ! カイモノブクロン君! 」
止めに入ったとき、キュクロは鉄棒で地中竜の口を、こじ開けようとしていた。
ボルケーニウムとは違う赤いものが、血が滲み出す。
慌てた声を聞いて、PP社員も集まってきた。
一緒にキュクロを引き離し、ボルケーナは本気で訴えた。
「こんなの許さない! これ以上、お互いに被害を出さないためにね! 」
だが、肝心のキュクロは、なんの関心も払っていない。
嬉しそうな笑みだけを浮かべて、こう言った。
「そうか。じゃあ、確実に死ねたんだ」
社員が彼の手から鉄棒を取りあげようとする。
キュクロは人が変わったように、鉄棒を握りしめ、牙を向く!
ボルケーナは気が進まなかったが、一緒に拘束していた社員に離れてもらい、キュクロを地面に投げつけた。
まだ彼の拘束具は外れていない。三種族に施した処置をそのまま使い、押さえ込む。
「こんな世界からおさらばしたい、と言うんだね。死んでまで」
キュクロは唯一覗く目を見開き、真っ赤な顔で怒りを顕にしている。
ボルケーナは、彼に何か一言かけようとした。
こんな恨みを抱えたままなのが、許せなかった。
その時だ。
地球人の持つ各種端末、トランシーバーも、携帯電話も、一斉に同じ警告音を流し始めた。
いくつもの電子音が重なり、耳障りなほどの大音響になる。
「これって私のせい? 」
ボルケーナが聴いた。
『いや違う。異星人の宇宙艦隊が降下し始めたんだ! 』
応繁の言うとおり、画面の付いた端末にはそれが書かれている。
警告音に続いてナレーションが流れる。
『宇宙戦艦フェッルム・レックスからの連絡です。地球船籍です』
役場の放送のように、間を区切る言い方だ。
『惑星スイッチア全土に、旧宇宙帝国の、艦隊が降下しています』
緊急なのに、落ち着いて話している。
良いオペレーターだ。
『可能な限り、大気圏降下する艦隊から逃げてください。それができない場合は、建物の地下などに、隠れてください。あきらめてはいけません……』
緊急放送は繰り返し続いていく。
「じゃあみんな。彼等を連れていきましょう」
ボルケーナはそう言うと2つの体の動きを器用に合わせながら、軽トラの荷台にキュクロを乗せた。
「そんな! ここの赤いの、全部ですか? 」
社員達の不満そうな声には、こう答えた。
「彼等がここにいたこと。何をしていたか、ウヤムヤにしたくないんだ」
その一言で、全員での積み込みが始まった。
PP社員は、元を正せば景観や自衛官。他国の軍人。怪しげな傭兵や、自分にもわからない秘密部隊から来た人もいる。
すなわち、街の犯罪から、あらゆるタイプの戦争。世の中に知られているものも、巧妙に隠されたものでも、見て知っている。
その原因の一つが、過去に起こったことがウヤムヤな故に、当事者のイメージと恨みだけが肥大することだ。
皆、それが身にしみているのだ。
「よし、積み終えた」
ボルケーナはそれを確認すると、2つの体を1つにまとめた。
全長3メートルのワニ体型ができ上がると、応繁のドラゴンドレスの肩に飛び乗った。
ドラゴンドレスの腕には、4人のヒューマノイドが抱かれている。
「それにしても、何で今ごろ宇宙艦隊が下りてくるのかな。ずっと私達を怖がってるのかと思った」
走り出す隊列の中でも、ドラゴンドレスには高性能のマイクとスピーカーがある。
普通の会話ができる。
『君の力が衰えているのが、わかったからだろう。この機会にスイッチアも協力しそうな勢力も、全て叩き潰すつもりだ。だが疑問もある 』
「どういうこと? 」
『ただ攻撃するだけなら、宇宙から砲撃する方が安全なはずだ。危険を犯してまで降下するということは、地上部隊をだしたいのか? なにかスイッチアに、手に入れたいものでもあるのか……? 』
「でも、この星には資源なんかないって、達美たちが――」
この対話は、2つ目の放送によって断ち切られた。
最初の砲撃が、大陸南海岸にある惑星首都を襲った。
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惑星全領域を支配下に置くボルケーナのパワー! しかしそれにもついに限界の時が。 そこで出会った一人の青年。 そして今のスキをつく、宇宙正義。 史上最大規模のイチャラブ小説! 久しぶりの1万字超え更新! |
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