ガイシイレブン 第四話 |
「さぁ!関羽選手の突然の負傷!だがそれに代わり新たな選手の登場です!その名は……北郷 一刀選手だぁああああああ!」
と、解説者でもある陳琳が言う中一刀は入場する。久し振りの感覚だ。体が熱を持ったような心が高ぶる緊張感に一刀は自然と頬が緩む。そんな一刀の様子に劉備も嬉しそうに目を細めた。
「一刀さん嬉しそうだね」
「かもな……」
と一刀は劉備の言葉に答えてから彼女の顔を見た。
「出たからには必ず決める。だがその前に相手からボールを奪わないとな……だから劉備」
と一刀はそこで一旦切ってから、劉備の目を見て言う。
「ゴールは任せたぞ」
一刀のその言葉にあったのは信頼。理由はなく、ただ信じていた。そんな彼の言葉に劉備は頷いて答えた。
「任せて」
そんなやり取りのあと、後半戦再開の笛が鳴り、相手チームがボールを蹴りだして試合を再開する。
現在同点。だが相手は必殺技を持っており、勢いは完全に向こうにある。そして相手はその勢いのまま一気にこちらの陣地に入り込んで、攻撃の体勢に移る。
「行くぜぇ!」
細かくパスを回し、こちらのマークをすり抜けてこちらの懐にが入り込む。だが、
「今度こそ通さないのだ!」
そう言って前に立ちふさがったのは張飛!だが、
「っ!」
横を一瞬見ただけでその方向にパスをし、後ろからかけ上がってきた男がそれを受け取りそのまま張飛の横を走っていく。
「にゃにゃ!?」
張飛が驚きつつその背中を目で追うしかできない中パスを受け取った男はボールを蹴りあげと同時に飛び上がりシュート体勢に入り、同時にオーラが男を包み込む。
先程撃ったと思われるシュート技なのは明らかで、それを見ていたものは皆もうダメだと思った。
いや、皆と言うのは正しくない。この状況でも全く絶望してない者がいた。それは……
「まだまだ……終わってないよ!」
劉備の闘志はまだ燃え尽きていない。まだその瞳は燃え盛っている!
「何が来ようと関係ない……全部止めて見せるんだからぁ!」
そう劉備が咆哮すると、それに合わせ彼女の体から金色のオーラが溢れ出す!するとオーラは劉備の右手に集まり……
「ハァアアアアアア!」
その光景にシュート体勢に入った男は目を見開いたが関係ないと言わんばかりにボールを蹴る!
「すいせいシュート!」
しかし、劉備は飛んでくるボールを見ながらオーラを纏った右手を開きを天に掲げる。
「破らせてたまるかぁああああああ!」
更なる劉備の咆哮に呼応するかのように右手に集まったオーラがバリバリと雷のように光り、巨大な力を発したかと思うと、突如それは巨大な黄金の手に変わった。
「ウォオオオオオリァアアア!」
それを劉備は飛んできたボールを掴むように向ける。その巨大な手はボールとぶつかるとバチバチと音を立てる。
だが明らかにボールの勢いが無くなっていく。そんな光景を見ながら劉備は驚いていた。これはまさしく先祖の劉邦が用いた必殺技……その名も!
「ゴッドハンド」
そう呟くと同時に黄金の手が弾けると同時にボールの勢いは完全に消え、劉備の手に収まっていた。
そんな光景に先程までの騒ぎはなくなり、シン……とした空気が流れる。だが劉備は止まらずそのままボールを軽く投げると蹴ってパスを出す。その先にいたのは先程のシュートの時劉備を信じ、唯一前に出ていた男……
「ナイス!劉備!」
一刀である!彼だけは信じた。だからこそ前線で待った。そしてそのままボールを受け取りカウンターに持ち込めるポジションにいたのだ!
「てめぇ!」
だがディフェンスもバカじゃない。一刀止めようとスライディングを狙う。先程の関羽の足を狙ったように……だが、
「なにっ!?」
そんなスライディングは屁でもないと言うように一刀は素早くボールを軽く上に蹴って一緒に自身も上に跳んで避けるとそのまま一気にドリブルで切り込む。勿論ディフェンスは一人じゃない。そいつらも襲いかかるが一刀に触れることすらできずに流れるように……それでいて苛烈なドリブルだ。しかもそれだけ派手に動いているのにボールがまるで体の一部のように扱い、見ていた者達は皆信じられないものを見ている気分だった。
そんな中あっという間にディフェンスの残りが後一人となり一刀を止めるべく突っ込んでくる。だが一刀は止まる様子はなく、そのまま突っ込む。
ディフェンスはどう来るのかと思案した中、突如一刀は体に炎を纏った。
「なっ!」
ディフェンスが目を見開く中、一刀はそのまま突っ込みディフェンスを吹き飛ばす!
これは中学時代に使っていた二つの必殺技の一つ。
「ヒートタックル!」
炎を纏い、相手を吹き飛ばすこの技は久しぶりだと言うのにも関わらずしっかりと発動できた事に安心しつつ、一刀はついにゴールキーパーと一対一になった。
「来やがれ!」
そう言って構える相手ゴールキーパーに一刀は萎縮することはなく、そのままボールをヒールで蹴り上げ、一瞬しゃがむと炎が巻き起こる。
そしてボールに向かって飛び上がると同時に回転シュート!ボールは炎に包まれ、まるで竜巻のように高速回転しながらゴールに突っ込んでいく。
この技こそ一刀の代名詞。先程の「ヒートタックル」とこの技をもって全国の中学サッカー界を湧かせた。
「ファイヤートルネード!」
相手ゴールキーパーは止めるべく手を伸ばす。だがそれは無駄な抵抗にしかならず、多少ゴールに入るのが遅れた程度で、そのままボールはゴールに決まったのだった……
「うぅん……」
一刀は寝台から降りると伸びをする。
試合から早くも一週間。その後試合は常に有利に進み、一刀が二点ほど追加点を入れたところで終了。勿論相手からの反撃も何回かあったが張飛が出鼻を挫く形で止めたり、持ち込めても劉備の「ゴッドハンド」は最後まで破られることはなく、圧倒することができた。
あれ以降劉備は自分の意思でゴッドハンドを使えており、本人いわく一回発動したらコツをつかんだらしい。
なので他にも色々覚えようと昨日も、先祖伝来の特訓ノートとか言う本を片手に必殺技の練習をしていた。因みに一応見せてもらったのだがそのノートはものすごい汚い字で掛かれており、イラストと思われる部分もあったが全く読めなかった。最初は中国だからかと思ったが関羽達も汚くて読めないらしく、読めるのは劉備だけらしい。
まあそんなことは横においておくとして……この三日は久々にサッカー漬けの日々を過ごした。
毎日のよう劉備や張飛とボールを追いかけ、やはり楽しいなと思い直す毎日だ。
だが関羽の怪我も歩く程度であれば問題がない程度には回復し、次はどうするのかと話し合ったのが昨晩。
そんな中劉備が知り合いがいるのでそいつに会いに行ってみたいと言い出しどうせ決まってないならと決め、今は荷物を纏めて出発の準備を行う。元々そんなに物を持ってないので準備と言っても今や使えない携帯電話と財布くらいなもので、すぐに部屋を出ると丁度部屋の前には劉備が立っていて、なにか用事があって訪ねてこようとしてた彼女はタイミング良く開いたのに驚いたのか眼を見開いて立っている。
「どうしたんだ?もしかして待たせてたか?」
「ううん。ちょっと出る前に一緒に来てほしいところがあって」
女の子から一緒に……という状況に少なからず一刀は動揺する。見た目は冷静そのものを装っているが。
まさか告白イベント……はないよな?幾らなんでも無理がある。じゃあどう言うことだ?と悩む一刀を見て劉備が首をかしげる。それに気づいた一刀は慌てて背筋を伸ばしてどこにいくのかを尋ねたのだった。
「おぉ〜」
劉備に案内され、一刀が向かった先には満開に花が咲き誇る木があり、そこには既に関羽と張飛が立っている。
「どう?凄いよね?」
劉備に聞かれ、一刀は頷きを返す。だがこれを見せに来たのか?と聞くと劉備は首を振る。
「ここでね。誓いを立てようと思うの」
「誓い?」
一刀が聞き返すと、今度は劉備が頷いて返した。
「うん。最後まで諦めないぞってね」
そう言って劉備は振り替えって一刀を見る。
「今この大陸は荒れてる。この間みたいなことは珍しくないの。だから決めたんだ。私が大陸を統一して見せるって。そうすれば国を荒れさせたりなんかしないって。そうすれば……サッカーを奪い合いの道具にさせないかなって」
「劉備……」
「分かってるの。私のやろうとしてることも結局はサッカーを奪い合いの道具にしてるって。でもね?誰かがやんないとずっとそうなの。だったら私が泥を被る。その代わり他の人にはそんなことさせないって」
劉備の眼は真剣だった。どれだけの覚悟があるのか……それは一刀でもある程度は推し量れる。
「ま、まあサッカーって一人じゃできないんだけどね……」
ヘニャっと困ったような顔をして劉備が言うと一刀も釣られたように笑う。そして、
「だから一刀さん。今更だけど改めて……私に力貸してくれませんか?」
ここから先は厳しい戦いばかりになると劉備は言う。言葉には出さないが、そう訴えてくる。それに一刀は、
「俺はもうサッカーはやらないと決めていた。でもお前の姿を見て熱くなった……メラメラ燃えてくるあの感じ……大好きだったあの感覚を思い出しちまったら何があったとしてもお前と一緒にサッカーやらずにはいられないさ」
そう一刀が言うと劉備の顔がパァっと明るくなり、
「ありがとうございます!これからよろしくお願いしますね!一刀さん!」
「あぁ、よろしく劉備」
と、一刀が返すと劉備が「あっ!」と声をだし、
「私のことは真名で桃香って呼んでくださいね?」
「真名?」
と一刀が聞くと、劉備こと桃香が教えてくれた。
「真名っていうのはその人の真の名前。許可なく呼ぶと殺されても文句言えないんだよ?」
あっぶねぇ……と一刀が冷や汗を掻く中、関羽と張飛がやってくる。
「でしたら私も関羽ではなく愛紗とお呼びください」
「じゃあ鈴々も鈴々で良いのだ!」
という二人に一刀は、そう言えば張飛こと鈴々も張飛と名乗りつつ一人称は鈴々だったなぁ……と納得した。
「それじゃ一刀さん!行こっか!」
そう桃香はいうと一刀の手を引きながら木に向かって走り出す。
こうして、後にこの大陸に名を轟かせる二人は出会い、仲間となった。
因みにこれは余談なのだが、それはこの四人で木の下で誓いあったあと思ったこと、もしかしてこれが桃園の誓いと言うやつじゃないのか?
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