魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 魔法少女警報発令中!な36話
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「ジュエルシード、見つからないね……」

「うん、どこにあるんだろう」

 

陽が沈み、夜になった海鳴の街でなのはとユーノは歩き回る。

大まかな探知を行った結果、一番近くにあるジュエルシードはここにあるということが分かったからだ。

 

「なんとなくはわかるんだけど、やっぱり発動しないと魔力で感知はできないか……」

「でも、こんなところで発動しちゃったら、周りの人たちも大変だよ」

「そうだね。地道に探していこう」

 

いくらジュエルシードが魔力の塊とはいえ、発動さえしなければおとなしいもの。

一応、こちらから魔力をぶつければ大きく反応を起こすのだが、発動してしまうし、最悪次元震が起きかねない。

危険物であることは変わりなく、なのは達にできることは足を使って捜索する他なかった。

 

「うー、やっぱりもうちょっと人手が欲しいかも……」

「確かに……ちょっとこれは無謀かもしれない……」

 

とはいえ、もう日は暮れた夜中、ビー玉より一回り大きい宝石を人々が行きかう雑踏の中で見つけ出すというのはなかなか骨の折れる作業であった。

先ほどから植木や排水溝をのぞいてみたりしているがジュエルシードどころかゴミ一つ見当たらない。

こんなことで本当に見つかるのだろうか、先に無関係な誰かが見つけてしまうのではないかと焦ってしまう。

 

「ま、まあもし発動しても僕に任せて。人除けの結界を張るから、巻き添えになる人はいなくなるよ」

「ありがとう。ユーノ君ってほんとすごいよね」

「いや、僕はこれくらいしか取柄が無いから……」

「そんなことないよ! ユーノ君が結界を張ってくれなかったら、私色んな人に魔法少女をやってることがばれちゃうし――――

〈魔法も思いっきりぶっ放せませんしね〉

「ごふっ」

「な、なのはー!?」

 

レイジングハートさんの不意打ちにより、なのは撃沈。

すずかとアリサのゴジラ発言からようやく回復したというのに、まだ許されてはいないようだった。

がっくりと膝をつくなのはに、通行人が心配そうな目を向けてくるのがわかる。

 

「なのは。ここから先は僕が探すよ。ほら、もうすぐ晩御飯の時間でしょ?」

「ふふ、ふふふふふふ……ごめんねユーノ君……なのは、ちょっとおなかすいちゃった……」

 

ふふふあははー、とふらふらしながら帰路につくなのは。

ほんとにちゃんと帰れるのかな……とユーノは気が気じゃなかったという。

 

 

「アルフ、このあたりだよ」

「確かに、ジュエルシードの気配がするね」

 

場所同じくして海鳴の街、高層ビルの屋上にフェイトとアルフがたたずんでいた。

彼女らもまた、なのは達と同じくジュエルシードの気配を察知している。

 

「大まかな位置しかわからないけど……」

「これだけごみごみした場所じゃあ、歩いて探すのは一苦労だねぇ」

 

しかし、探すための手段はちがった。

 

「ちょっと乱暴だけど、周辺に魔力流を打ち込んで強制発動させてみよう」

 

フェイトは自分のデバイス――――バルディッシュの先端を街に向ける。

ジュエルシードに魔力を直接当てての探知。

ユーノやなのはが避けた方法をフェイトたちは躊躇しない。

次元震が起きない可能性を考慮していないわけではない。

ただ、二人にとってそれは限りなく低い可能性でしかなく、一刻も早くジュエルシードを回収するという目的のほうが勝っただけだった。

 

「あー、ちょっと待った! それ、あたしがやる!」

「大丈夫? かなり疲れるよ?」

 

とここでアルフから交代の申し出が提案された。

しかしそれを聞いたフェイトは不安げな表情になる。

周辺に魔力流を打ち込む、というのはなんの作用もない素の魔力を、広範囲に垂れ流すだけの行為……所謂『魔力の無駄遣い』に過ぎない。

ただ、ジュエルシードがそれで反応を起こすからやるだけであって、やるからには当然魔力が多い人間がやるべきなのだ。

 

「ふふん、このあたしを一体誰の使い魔だと?」

 

それに対してアルフは得意げに返す。

使い魔の力量は主によって左右される。

魔法の才能に溢れるフェイトの使い魔であるアルフもまた、そこらの使い魔より魔力量ははるかに多い。

それに、フェイトがアルフを心配するように、アルフもまたフェイトを心配していた。

 

(フェイトは、ここ最近ずっとまともにご飯も食べちゃいない。寝る間も惜しんでジュエルシードを探してる。そんな状態で負担のかかる魔法なんて、つかわせたくないよ……)

 

そう、気丈にふるまってはいるものの、フェイトは無茶ばかりで、体もボロボロなのだ。

疲労度でいえばアルフのほうがよっぽど疲れていない。

魔力流を打ち込むのも、自分が適任だと素直に思えるほどに。

 

 

「……うん、それじゃお願い」

「そんじゃ! アイツらに先を越されないうち……に……」

 

フェイトからも了承を得た直後、まさに魔力流を打ち込もうとした瞬間――――アルフは固まる。

 

「……ね、ねえフェイト。『アイツら』流石にこんな人間がいっぱいいるところで……暴れまわったりは、しないよね?」

「…………う、うん……たぶん」

 

アルフのいう『アイツら』とは、なのはとユーノのことである。

自分たちがここでジュエルシードを探しているということは、おそらく向こうもそうなのだろうというのは予測できている。

そして、魔力流を打ち込むという行為は、魔法を知っているものに自分の位置を教えるも同然の行為でもある。

もし、お互いが同じジュエルシードを探していたとして、こちらの位置がばれれば戦闘になるだろう。

そんなことは誰にだってわかることだ。

 

しかし、『ここで』?

 

フェイトとアルフは真下を見る。

街の明かりに照らされた、多くの人々が行き交うのが良く見えた。

 

次にフェイトとアルフは思い出す。

かの魔法少女の暴虐を。

 

〈どこまで逃げようと無駄ァ! わたしの魔法で全部撃ちぬくっ!!!〉

 

「「………………」」

 

あの光景が、ここで繰り返されればどうなるか――――

逃げ惑う人々、地盤をひっくり返し、建物を貫通する桃色ビーム、倒壊するビル群。

そしてその地獄絵図の中心に浮かぶ白い魔法少女……。

 

まあ実際はなのはの砲撃に地盤をひっくり返すほどの威力はない(建物を貫通しないとは言ってない)のだが、どんな惨状が引き起こされているかはありありと目に浮かんだ。

 

「「…………ジュエルシードを見つけたら早く逃げよう」」

 

アルフが魔力流を打ち込む時間が、原作と比べて5分程度遅れた瞬間であった。

 

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「花子さん、リニスさん、もうそろそろです」

 

原作では、フェイトちゃんとなのはちゃんのバトルが始まるのが、高町家で晩御飯を食べる辺りの時間だった。

俺たちは夕暮れ辺りからボランティアを切り上げて、ジュエルシードを囲むように浮かんでいる。

原作通りに物語が進まなかった場合に備えていたのだが、杞憂に終わったみたいだ。

 

「……そうですね、フェイトも近くにいるのを感じれます」

「いよいよかい。ここまでジュエルシードに何もなかったってことは、今回は上手くいきそうだね。アタイ的にはレギオンの連中が出てきたほうが腕が鳴るんだけどさ」

 

リニスさんはフェイトちゃんがいるであろう方向に目を向け、花子さんは拍子抜けしたように息をつく。

今回は上手くいきそう、という言葉に、普段なら俺は油断は禁物ですとでもいうのだが……。

 

「ティー、上から見て怪しい奴はいなかったか?」

「イヤ、フツウノニンゲンシカミナカッタ」

「そうか……。本当に今回は何も起きそうにないな……」

 

空から監視しているティーたちでさえ、怪しい奴、特に幽霊なんて見かけていないと言う。

俺たちも一日中パトロールをしていたのだが、いたって平和だった。

とうとうなのはちゃんたちの戦う時間になっても、いまだアクションが起きていないとなると、今回ばかりはと思わざるを得なかった。

 

「ありがとうティー、監視もやめて、カラスたちをここから遠ざけてくれ」

「ワカッタ、……タタカウナラオレモテヲカスツモリダッタガ、キユウダッタナ」

「大丈夫だって、それにあんまりでしゃばるとなのはちゃんに撃ち落とされる危険性がある」

「ソレモソウダナ、ブカタチヲ、ハヤクヒナンサセヨウ」

「田中……とてもじゃないけど、自分のご主人様に対して言うセリフじゃないねぇ」

 

いやーだって本当の事ですし。

わざわざこの面子できたのは、生きている人間には見ることのできないレベルまで霊格が低いからである。

間違ってなのはちゃんの目に留まって、いつぞやの温泉旅館みたいなことにならないようにという配慮なのだ。

 

役目が終わったことを伝えると、ティーは空高く舞い上がって行った。

 

さて、俺たちもそろそろ避難しないとな。

この後なのはちゃんとフェイトちゃんが、まさにこのジュエルシードを中心に戦うのだから……っと?

 

バシュゥ!!!

 

「な、なんだいあれはっ!?」

「あれは……アルフの魔力です!」

 

リニスさんが向いてた方向から、黄色い光が天へ伸びていくのが見えた。

その光が上がった瞬間、空はたちまち黒い雲に覆われて、ゴラゴロと雷が鳴り出す。

明らかに自然が引き起こした光景には見えなかった。

そしてそれとほぼ同時に、辺りから人の気配がなくなっていく。

アルフちゃんの魔法に反応して、ユーノ君が結界を張ったらしい。

始まったのだ、原作通りの決戦が。

 

「この魔力流……まさか、ジュエルシードに直接魔力を当てて、逆探知を!?」

「随分と物騒だね。田中! これは想定内だろう!?」

 

ただならぬ雰囲気に、花子さんとリニスさんも臨戦態勢をとる。

 

「大丈夫です! 今回は、ジュエルシードは発動しますけど、暴走体は出現しません!」

 

二人を安心させるため、予定通りの事態だと伝える。

そう、この魔法でジュエルシードが暴走することはない。

 

あの暗雲から発生した雷が、今俺たちが見張っているジュエルシードにぶつかることで、戦いの幕が開ける。

 

カッ! と空から稲光が差し、天から落ちた光が今まさにジュエルシードを貫かんとして――――

 

 

 

「そうそう、よく覚えてるねー。今回は、確かに暴走体は出現しないよー」

 

その光は、間延びした声とともに、橙色の炎によって打ち消された。

 

「「!?」」

「ちいっ!?」

 

突然聞こえた、聞こえるはずのない第三者の声に俺とリニスさんは一瞬固まってしまった。

しかし、花子さんだけはジュエルシード――――の『下から生える』手に向かって人魂レーザーを飛ばす。

 

「うわわわ、あぶないなー」

 

だが、一歩間に合わないっ!

ジュエルシードとその手は瞬く間に橙色の火柱に包まれ、花子さんの攻撃も防がれる。

そのまま火柱ははじけ飛び、複数の火の玉となって俺たち三人に向かってくる。

 

「くそっ! 花子さん危ないっ!」

「そんな、下に潜んでいたなんて……!?」

 

リニスさんは人魂で作った剣で、俺はポルターガイストで浮かした土で花子さんの分まで壁を作って攻撃を防ぐ。

はじけ飛んだ火柱から出てきたのは――――

 

「ふー、焦った焦ったー。でもまあージュエルシードはゲット完了ー」

「アンタっ……こないだの!」

 

花子さんが目の前の少女をにらみつける。

そいつはパジャマを着た、いかにも寝起き直後のような雰囲気の女だった。

以前きいた、レギオンの片割れか!

 

「そっちの花子ちゃんはまた会ったねー。田中くんとリニスちゃんは初めましてー、ネムノキ優羽っていいまーす」

 

ネムノキ優羽、そう名乗ったそいつの右手には、発動していないジュエルシードが浮かんでいた。

やられた、よりによって、三人で見張ってるときに堂々と……!

 

「ティーたちの監視を潜り抜けたなんて……まさか、ずっと地面の中に潜っていたのか……!?」

「ピンポーン、正解ー。昨日の夜からずーっとモグラみたいにジュエルシードの真下にいましたー。いやーきつかったー」

 

呆気からんと種明かしをされる、昨日の夜ってことは、俺たちが監視を始めるずっと前から向こうは行動していたってことか。

完全に頭から抜けていた、俺たち幽霊は都市伝説級じゃない限り物質をすり抜ける、とはいえ地中じゃあ何も見ることができないから地面に埋まる意味なんて無いと思い込んでしまっていた。

 

「さてー、それじゃあちょっとお話でも――――

「話はあとだっ! 田中! リニス! とっちめるよ!」

「え、ちょっとまっ!?」

 

「「はい!」」

 

だけど、反省はあとだ。

花子さんの声とともに俺たちは一気に攻撃に移る。

ネムノキが何か言いたげだが、そんなものは捕まえてから聞けばいい!

 

「ちょっとー!? こっちはジュエルシード持ってるんですけどー!?」

 

リニスさんの手のひらからフォトンランサーが撃ち出される。

まさか攻撃してくるとは思わなかったのか、ネムノキは驚いて飛び上がった。

その拍子で攻撃はかわされたけど、まだだっ。

 

「逃がすか! 『ポルタ―バインド』!!」

 

意識を地面、コンクリートの道路のあちこちにある植え込みの土に集中する。

宙へと浮かんだ土の塊は、変化し、人間の手の形に変化してネムノキにとびかかる!

 

「うわー! なにこれ気持ち悪いー!」

 

迫る5つの土の手に対し、人魂で迎撃するネムノキ。

撃ちだされた橙色の人魂はどれも正確に狙いを定めていた、速さもある。

だけど、俺のポルターガイストはそれじゃあ撃ち落とせないぞ!

 

「はや、はやいよー!」

「捕まえたっ!」

 

人魂をすべて掻い潜った土の手は、ネムノキの足をがっちり掴む。

そのまま逃げださないよう、こっちに引っ張り続ける。

どうだ! 幽霊なりにバインドを使おうと編み出したこの新技は!

 

「うぅ、はなしてー」

「でかした田中! 今度こそくらいなっ!」

「もう一度っ!」

 

動けなくなったところに、花子さんのレーザーとリニスさんの雷がぶち込まれた。

レーザーはネムノキの肩を貫通し、雷は背中を打ち抜く。

 

「痛い痛いいたーいー!!!」

 

本気で痛そうに泣き叫ぶネムノキ。

その声に罪悪感を覚えるが、ポルターガイストの力を弱めるわけにはいかない。

容赦なく引きずり降ろそうとしたその時だった。

 

「うあああーっ!!!」

 

悲鳴か雄たけびか、大きな声を上げるネムノキ。

それと同時に人魂を作り出していたので、反撃してくるのかと身構える。

 

チュドン! とネムノキの足元で人魂が爆発する。

 

「こいつ! バインドを剥がすために自分諸共……ぐっ!」

 

攻撃ではない、脱出のための人魂と気づいた時には遅かった。

俺のポルターバインドは吹き飛ばすイメージの人魂によって粉々にされる。

粉々にされたところでもう一度集めて作ることもできるが、ネムノキは爆風の衝撃を利用してさらに上へと飛んでいる。

 

「リニスさん! 花子さん! 追いかけましょう!」

 

ポルタ―バインドでもう一度捕まえるよりも、直接追ったほうが早いと判断し、俺たちは空中へと飛び上がった。

 

 

「ううー痛いよー。ホントに攻撃してくるなんてー……ひっく」

 

空では、ネムノキが泣きながら花子さんたちにやられた傷を修復していた。

確かに二人の攻撃は容赦がない。

特に花子さんなんてレーザーである、自分の体に穴が開くなんて想像するだけで身震いが止まらない。

 

「こないだは出し抜かれたけど、今回はそうはいかないよ。諦めてつかまりな、それとも三人相手にするつもりかい?」

「追いつきました。……貴女が抵抗しないなら、これ以上危害を加えません」

 

ネムノキの周りを俺たち三人で囲む。

空中だから逃げ道はないとはいい難いが、俺はともかくリニスさんや花子さんを無視して振り切るなんてことは不可能だろう。

二人は本当に強い、奇襲されたにもかかわらず状況はこっちに傾いている。

 

「さあ、これ以上痛い目に遭いたくなかったら大人しく投降しろ!」

 

ちなみに俺だったら迷わず投降する!

人魂の威力から察するに、ネムノキ自身の霊格は俺と同じ程度、この場の全員が同じくらいの強さだから、実力的にも3対1だぞ。

 

「んもー投降なんてしないよー! ていうか、ジ ュ エ ル シードっ! これに攻撃当たっちゃったら危ないでしょー! なんでそんなに容赦なく攻撃できるかなー!?」

 

ネムノキは自分が持っているジュエルシードを指さす。

まあ確かにジュエルシードに人魂が当たってしまったら大変なことになってしまうだろう。

前にフェイトちゃんにも同じことをして、俺は彼女の攻撃を封じたことがある。

俺だって同じことをされたら、人魂で攻撃することは不可能だろう。

 

「要は『ジュエルシードに人魂を当てなきゃいい』んだろう? アタイには楽勝だね」

「はい。太郎さんが足止めしてくれたおかげでだいぶ当てやすかったですし」

 

「残念ながら、この二人にはそんなこと関係ない」

「うそー!?」

 

花子さんもリニスさんも、人魂を正確に操ることができる。

花子さんは言わずもがな、リニスさんはあのフェイトちゃんの先生なのだ。

当然、フェイトちゃん以上に魔法の扱いが上手い訳で、その精度は花子さんに匹敵している。

そんな二人だから、ジュエルシードを避けて攻撃なんて簡単なのである。

あ、俺は無理だよ? ポルターガイストで手出しするぐらいしかできない。

 

「とにかく。そのジュエルシードを返して、詳しく事情を聞かせてくれれば酷い事はしない」

 

ジュエルシードが発動しなかった、というイレギュラーな事態は発生したものの、まだ原作の通りの展開に持っていくように修正できる筈だ。

現にさっきの探知魔法を察知して、なのはちゃんがフェイトちゃんのいる方へ向かう気配がしている。

これなら、ジュエルシードを元の場所に置いておけばいつかどっちかが見つけてくれるだろう。

 

それに、ネムノキが……レギオンが何故今回ジュエルシードを狙ったのか、なぜ俺を狙うのか、今までのイレギュラーに関係しているのか、それも聞かなければいけない。

 

「む、むむむー……!」

 

思惑が外れ、万事休すといった表情のネムノキ。

ここから逆転は不可能だろう。

確かに地面に潜むというのは予想外だったが、逆に言えば『地面以外の場所にはイレギュラーは存在しなかった』ということだ。

つまり、援軍が来るならとっくに地面から出てきている状況で、それがないということなら、今この場にいるのはネムノキ一人だけということなのだから。

 

「じゃあ……仕方ないかー」

 

そう、思っていた。

花子さんがいて、リニスさんまでいて、すっかり油断していた俺は、また気づけなかった。

 

 

 

「使っちゃおー」

 

ネムノキは、右手に浮かしているジュエルシードに、白い人魂のようなものをぶつける事に。

 

瞬間、目も眩むような眩い閃光が辺りをつつむ。

凄まじい力の奔流がジュエルシードから発生しているのか、台風の暴風域にでもいるかのような風が吹き荒れ、幽霊の俺でさえ吹き飛ばされそうになる。

これはもしかして、ジュエルシードを、自分から発動させたのか!?

 

「くうっ!?」

「きゃあっ!?」

「花子さん! リニスさん!」

 

この場の全員が、その場に留まることで精一杯で、何も手出しが出来ない。

 

またしてもやられた。

でも、いくら追い詰められたからって暴走体になってまで抵抗するつもりなのか!?

 

風も光も時間が経つにつれて収まっていく。

そして、その中から現れたネムノキの姿は……。

 

 

「おー。ハカセの言う通りだー。すごいすごいー」

 

『何も変わっていなかった』。

ジュエルシードに何かする前と寸分変わりない姿で、ネムノキはそこにいた。

 

どういうことだ?

ジュエルシードを発動させたんじゃなかったのか?

今まで、ジュエルシードは発動させた生き物は、みんな例外なく異形の暴走体になっていた。

そこには、イレギュラーの暴走体……つまり幽霊のケースもあって、例外はなかった筈だ。

 

「ただの目眩しだった……のか?」

 

ジュエルシードを使うと見せかけて、人魂を爆発させた……?

いや、人魂は爆風は起こせても、さっきみたいな自然風を出すことは不可能な筈だ。

それに、もし目眩しだったとしたら、何故今の間に逃げるなり攻撃するなりしなかったんだ?

 

「随分と余裕だね!」

「何かする前に取り押さえますっ! サンダーレイジ!」

 

俺が考えている一瞬の間に、花子さんとリニスさんはすでに動いていた。

雷撃とレーザーが、躱しようの無い速度でネムノキへと向かって、着弾する。

 

ボシュゥッ! と炸裂音が響き、煙があがった。

 

「ふふーん。きかないよー」

「そんな、さっきまでは効いたはず……!?」

 

しかし、現れたのは無傷のままのネムノキだった。

二人が手加減するなんてことはあり得ない、だとするとこれは……!

 

「じゃあお返しだよー!」

 

今度はネムノキが人魂を撃ちだす。

その人魂は、花子さんやリニスさんに遠く及ばないごく普通の火の玉の形状をしている。

弾速も、撃ち落とせないほど早くはなかった。

それが二つ、それぞれ花子さんとリニスさんに向かっていく。

 

「こんなものっ!」

 

花子さんは人魂で迎撃する気だ。

それを見てリニスさんも同じように雷撃で撃ち落とそうとしている。

まずい、かもしれない。

なんとなくだけど、俺の予測が当たっていればそれはマズイ!

 

「二人とも避けてくださいっ!」

 

とっさに俺は、二人に向かって人魂を撃ちだした。

迎撃に協力するわけではない、二人を突き飛ばすための人魂だ。

 

「田中!? なにをっ……!?」

「きゃあっ!?」

 

ネムノキの人魂が着弾する前に、二人にぶつけることができた。

迎撃態勢に入っていた二人を見事に吹きとばし、位置をずらすことに成功する。

そうしてそれた人魂は、地面へと落下していって――――

 

――――地面へと着弾した瞬間、大気が震えた。

カッ、という音がした後は何も聞こえなかった。

それと同時に耳に痛烈な痛みが走る。

余りの音量に鼓膜が破れるイメージを勝手にしてしまったのだと、理解するのに数秒かかった。

それでも下を見なかっただけよかったのかもしれない、さっきの光が暗く思ってしまうほどの光が、足元で輝くのがわかったからだ。

 

 

「……っ、ぐうあ……!!!」

 

くらくらする頭に鞭をうって、聴力を回復させることに努める。

これで光を見てたら視力まで回復させないといけなかった。

とにかく、早く立て直さないと……!

 

「ふにゃぁ〜、ち、力加減まちがえたぁ〜……ぐわんぐわんする〜……」

「ってお前も平気じゃないんかい!?」

 

態勢を立て直して真っ先に確認できたのが、なぜか自分の攻撃の被害を受けたネムノキだった。

ぐるぐると目を回す姿はあまりにも隙だらけである。

……正直急いで回復しなくてもよかったかもしれない。

 

「い、いったい何が……?」

「助かったよ。ったく、なんて威力だい……!」

 

真下を見てみると、道路や植木などがまとめて更地になってしまっていた。

周囲のビルもひびが入ってボロボロに、まるでなのはちゃんの砲撃が撃たれたかのような惨状である。

 

爆心地から離れてたから良かったけど、あのまま迎撃していればこの場の全員が爆発に巻き込まれてしまっていただろう。

 

最初の人魂は、俺のポルターガイストで操った土で防げた、しかし今回のは次元が違う威力だ。

 

「多分、ジュエルシードでパワーアップしてます。やっぱりさっきのはジュエルシードを使ったんですよ」

 

これまでのイレギュラーがジュエルシードによって強化された悪霊だったという前例もあるし、おそらく間違いない。

ただ、これまでとは決定的に違う点がある。

 

「ジュエルシードって……でも、あれを使うと暴走するんじゃないのかい!?」

 

花子さんの言う通りだ。

そう、ネムノキはジュエルシードを使っているのにもかかわらず、理性を失った化け物に変貌してはいなかった。

見た目はそのままにただ単純に強くなっている……それも、都市伝説級の幽霊クラスにまで。

これは一体どういうことなんだ?

 

「ふいー、やっと収まったー。やっぱりすごいねー田中君。初見であの威力を見抜くなんて、本当に厄介だー」

 

ネムノキが俺を評価している間に、持っていたはずのジュエルシードを探してみる。

……やっぱり、ない。

今までの暴走体同様、ジュエルシードは取り込まれている可能性が高い。

だとすると、俺たちだけで対処するのは難しいかもしれない。

強さも都市伝説級みたいだし、ここはもう異次元さんに救援を――――

 

「太郎さんっ!前っ!」

 

はやてちゃんの家にラップ音で連絡しようとしたが、リニスさんの声で我に返った。

しかし、一歩遅かった。

 

「『コレ』も本当は説得できなかった時に使うつもりだったんだよー。でもこのままじゃあ説得すらさせてもらえそうにないからー」

「は、はやっ……!?」

 

気づいた時には、既にネムノキが懐に飛び込んできた。

その手には橙色に輝く人魂がつくられている。

まずい、これじゃ躱しようが……!

 

「田中君だけちょっと吹き飛んでてねー」

 

ボン! という爆発音とともに、俺はなすすべなく吹き飛ばされるしかなかった。

 

「うわあぁぁぁ!?」

「田中あぁぁぁぁぁ!!!」

 

花子さんの叫び声がどんどん遠のいていく。

くそっ! 都市伝説級の力で叩き込まれた『吹き飛ばすイメージ』が強すぎて、踏みとどまれない!

花子さんとリニスさんをその場に残して、俺は強制的に戦線離脱させられてしまった。

 

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ちょっと おまけ 一方そのころ魔法少女は……

 

 

「ジュエルシード……反応ないみたいだね?」

「あっれー? おかしいなぁ……確かにここに気配はするんだけど」

 

ジュエルシードを探すため、町中に魔力流を打ち込んだアルフ。

だがしかし、肝心のジュエルシードの反応がどこにも無く、フェイトとともに首をかしげていた。

街を覆う暗雲から、魔法自体は発動していることは明白だ。

ジュエルシードの気配も感じ取れる。

ならば、なぜ魔力に反応しなかったのだろうか?

 

「たまたま反応しなかった……てのは考えにくいしねぇ」

「地面に埋まっちゃってるとか?」

「ええっ!? それだといちいち掘り起こさないといけないじゃん!?」

 

フェイトがぽつりと言った可能性に、アルフはげんなりする。

確かにアルフが打ち込んだ魔力流は、上空の雲に反応して、魔力をまとった雷が落ちるようになっている。

魔力の塊であるジュエルシードは、避雷針のようにその雷を吸い寄せて発動する、という仕組みなのだが、地面に埋まっていては確かに反応はできない。

実際のところは全く違うのだが、結局は魔力の無駄遣いをしてしまう結果になってしまった。

 

「みつけたっ!」

「危ないじゃないか! ジュエルシードに魔力を当てるなんて!」

「うわああ!? もう来た!?」

 

しかも、状況はますますフェイトたちにとって悪い方向に傾いていく。

探知魔法の発生源を逆探知して、なのはとユーノがやってきたのだ。

肝心のジュエルシードは反応せず、逆に来てほしくない相手だけ反応してしまう始末。

アルフが嫌そうな声をあげたのも無理はなかった。

 

「今度こそ、ちゃんとお話ししよう!」

 

一方のなのはと、フェレット状態のユーノはやる気満々である。

この二人も、ジュエルシードが発動していないことに疑問を持ってはいる。

しかし、フェイト達に接触できるチャンスが巡ってきたのだ、特にフェイトと話し合いたいと思っていたなのはは、この機会を逃したくなかった。

ジュエルシードはあとで探せばいい、発動していないならなおさら――それがなのは達の選択だった。

 

「聞かせてほしいんだ、貴女の名前と、どうしてジュエルシードが欲しいのか!」

〈セットアップ〉

 

レイジングハートを勇ましく構え、自分の決意のもとフェイトをまっすぐ見つめるなのは。

自分の目的はただ一つ、この寂しい目をした少女と、友達になりたい。

そのために全力でぶつかって、へとへとになるまでお互い戦って、その末に話し合う。

かつて、アリサとすずかとそうして親友になったように。

 

そんな全力全開ななのはに対する、フェイトの回答は――――

 

 

 

 

「お、おちついて……ちょっと場所を移そう……!」

 

なぜか冷や汗をダラッダラと流しながら、全力で制止していた。

 

「……へ?」

 

まさかの回答に、なのははぽかんとする。

今まさに二人の魔法少女は激突する、みたいな雰囲気のはずではないのか。

もしかして戦わずにお話しに応じるつもりなのかと、一瞬期待したのだが……。

 

「ここは町中だから、きっ、『君が』戦うとたくさんの人が大変なことになると思う……。 戦いには応じるから、人気のない場所に移動しよう」

「そうだよっ! 無関係な人間を巻き込むつもりかい!?」

「アルフ! 無暗に刺激しちゃだめだよ!」

 

普通に危険人物に対する説得のそれであった。

残念ながら、フェイトとアルフがなのはに抱く印象は、あの温泉旅館にいた魔砲少女のイメージしかないのである。

つまり、そう、また怪獣扱いされたのだ、一応敵であるはずのフェイトにさえ、その被害を心配させるほどに。

 

「大丈夫! 僕が人払いの結界を張ってるから、人的被害は一切出ないよ!」

 

ユーノがフォローのつもりで発言したものの、それは暗に『結界が無かったら人的被害が出る』と言っているようなものだった。

 

「ほっ……それなら安心だね」

「建物が壊れるのはかわいそうだけど……ここで戦おうか」

 

「…………ひぐっ、えぐっ、……もうこわしません……なのはもうなにもこわさないからぁぁ……。おねがいだからみんななのはをゴジラ扱いしないでぇぇぇぇ……うえぇぇぇぇん……」

 

とうとう泣き出してしまったなのは。

魔法少女の明日はどっちだ。

 

〈自業自得ですね〉

 

レイジングハートさんの無慈悲なつぶやきが、夜の街に虚しく響くのであった……。

 

説明
ここから戦闘回になります。
結構長くなりました、具体的には三話くらい。
戦闘描写は体力を使いますね、あとタイトル考えるのも。
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コメント
ノッポガキ様、感想ありがとうございます!田中が展開を良くしようとした結果なのはちゃんが暴走してますからね……。(タミタミ6)
結局周り巡ってなのはに被害が来るのね(笑)(ノッポガキ)
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