Nursery White 〜 天使に触れる方法 7章 9節 |
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「えいっ!えいっ……!!わっ、わわっ、ついつい体まで動いちゃいますね……!」
かわいい。そりゃあもう、暴力的なほどにかわいらしくあらせられる。
なんというか、悠里の可愛さは「可愛い」というよりも「かわいい」と表した方がより正しいような気がする。
「悠里、焦らなくていいよ。私がサポートするから」
「は、はいっ……!」
そう言いつつ、回避方向に体を傾ける悠里。……かわいい。
なんというか、このままだとゲーム画面じゃなく、ずっと悠里の方を観察したい気持ちにさせられちゃうけど、あんまり手を抜いて失敗するのも面白くないし、きっちりとやらせてもらう。
――今プレイしているのは、複数人でプレイできる2Dアクションゲームだ。まあ、昔ながらのよくある感じの、ダンジョンを探索して最奥にいるボスを倒す感じの、オーソドックスなやつ。
ただ、割りと難易度は高めで、ハードなアクション性、更には協力プレイをしている場合は、チームワークも要求される、中々に奥が深いゲーム……!
まあ、今は最低難易度だし、私は相当プレイしてて、マップを完全に把握しているから、やるべきことをやるだけのゲームになっていて、だからこそ悠里観察が捗るんだけども。
「あ、あれ?この敵って無敵なんですか?」
「えっとねー、正面からの攻撃は盾で防がれちゃうよね。じゃあ、どうすればいいと思う?」
「盾ごと破壊するんですか?」
「うん、素敵な脳筋思考だけど、そういうのは無理だよ」
「わかりました。盾で防ぐ腕が疲れるまで、攻撃しまくるんですね!」
「うん、現実ならものすごく有効だろうけど、ゲームだから敵のスタミナは無限だよ……」
「じゃあ、ここで詰みですか!?」
「え、ええと、悠里さん。盾は正面しか防げてないということにお気づきではない?」
「あっ、そうだったんですか!?」
あかん、この子、可愛すぎる。本当に自分のキャラクターの辺りしか見れていないんだろうな。それがすごく愛おしい。……かわいい。
もうさっきからこれしか言ってない気がするけど、かわいい。絶対的に。
「わー、飛び越して後ろから攻撃すると倒せました!なんですぐに後ろを振り向けないんですかね?」
「ゲームだから、かな……」
「なるほど、ゲームだから攻略の糸口を残しておかないといけないんですね。絶対に倒せない敵を作っても、面白くないですから」
「そうそう。悠里、全然ゲームやってこなかったのに、もうゲームの楽しみ方を身に着けてきたね」
「はい!やらなかっただけで、やっていると楽しさがよくわかってきましたから!!」
なんというか、こうやって趣味を共有できるのは嬉しい反面、本当にこっちの世界に誘ってしまってよかったのかな、なんて思ってしまう。
でも、こういう友達って今まで全員いなかったから、すごく楽しい。
「さて、次はボス戦だけど、やれるかな?」
「多分、なんとなくわかりますよ!製作者の気持ちになって考えればいいんです!」
「ほほう、いきなり玄人目線ですな」
そう言う悠里の目の前に現れたのは、大きな一つ目を持ったモンスター。そして、まぶたが開閉を繰り返している。まあ、これは弱点がわかりやすい方だよね。これみよがしにあるし。
「ドライアイなんですかね……?」
「かわいすぎか!?」
まだ、ゲーマーとしての経験値は圧倒的に足りていないらしいです。
まあ、すぐに弱点については気付いてくれたし、そんなに強いボスでもなかったので、アクション面もほとんど問題はなく、さくっとステージクリア。
ただ、あんまり慣れていない悠里は長時間ゲームをしていると疲れてしまうというので、そこで切り上げた。
「顔、真っ赤だね。そんなに熱中しちゃった?」
「はい……すっごく頭を使いますよね。体も熱くって熱くって」
「わかるわかる。特にアクションゲームはね」
そう言う悠里は、確かに顔も赤くて、汗も軽くかいていて……。いかん、これ、普通に色っぽいかも。
今まで、悠里に関しては可愛いとは思っても、エロいとは思ってこなかったつもりだけど、今はちょっと、いや、だいぶ……エロいかも。
「冷たいジュースでも飲む?」
「わー、嬉しいです!ちなみに、何のジュースですか?」
「梅ジュースしかないと思うけど、大丈夫?」
「好物です!!」
渋い好みの子でよかった。普通、若者は飲みませんよ、私は飲むけど。
「さあさ、飲みねぇ飲みねぇ」
「飲みます飲みます!」
グラスに注いだ傍から、ごくごく行く悠里。
なんて幸せな餌付け……じゃなくて、おやつ風景だろう。
本当に今日はなんていうか、ものすごく……幸せ度数が高いと思う。
常葉さんの家で会って遊ぶのも、かなり楽しい。声優としての二人の活動に関わらせてもらうのもすごく楽しく、やりがいがあることだし、悠里のテンションもいつもより高い気がする。
だけど、私の家で。そして、二人きりで会っている今日は……より特別で、甘くて、だけどちょっと酸っぱい。……そんな幸せに包まれた時間だと思った。
「――ね、悠里」
「はい?」
「今日、私の家に来て……楽しい?」
「うぅーっ…………」
「う?」
「楽しくない訳、ないじゃないですかー!!」
「そっか。……そっか」
悠里は飛びかからん勢いで、満面の笑顔を見せてくれる。
――私にとってはもう、信じられないことだけど、学校での悠里はクール系のキャラだと思われているらしい。
そう思われるだけあって、こんな笑顔を学校でクラスメイトに見せることは絶対にないのだろうし、他の誰も、こんな表情が“彼女の表情”のレパートリーにあるとは知らないだろう。
この笑顔は、私のためだけのもの。
なんて、自分でもなんだかなー、と思ってしまう独占欲だけど、すごくいいな、と思うのであった。
「これから、毎週来ちゃいたいぐらいですよ、ほんと」
「そ、それはさすがにアレだけど……。でも、そうだね。これからちょくちょく、お招きさせてもらおっかな」
「はい!ぜひ!!もちろん、ボクの家にも来てくださいね。またゆたかに聞かせたい曲をいっぱい練習しておきますから」
「ありがとう。……なんか、お互いの家で遊ぶのって、友達同士っぽいね。いや……ただの友達ってよりは、親友、っていうか」
「そうですね。ボクも、そんな友達は今までいなかったので……すごく、嬉しいです」
まだ出会って一ヶ月やそこら。年の差もあるし、あまりにも今まで経験してきた“人生”も違う、およそ友達にはなれそうにない二人。
だけど、中々どうしてこうやって仲良くやれている訳で。
「(やっぱり私、そういうことなんだろうな)」
私には昔からの親友に、莉沙がいる。莉沙になら、なんでも話せるし、莉沙だって私のなんでも受け止めてくれる、って確信している。
だけど、同じ親友だけど、莉沙に対して私が感じることと、悠里に対して感じることとは、明らかに違う。
悠里と一緒にいる時、私はなんていうか――ときめいている。
彼女がものすごく可愛くて、私好みだというのも、大きな理由なんだろう。だけど、それ以上に――。
でも、そこまで言うのは……こんなことを言ってしまうのは、さすがに……今の関係を、壊してしまうんじゃないだろうか。
そんな、恐れがある。だって、私だって一応、異性愛者のつもりだし、悠里はまだよくわかってないかもしれないけど、積極的にそういうのを奨める訳にはいかないだろうし。
でも。それでも。――胸の中の衝動が、少しだけ理性を上回ってしまいそうになる。
「悠里。前にさ、話したよね。百合とかどうとかって話」
「はい……?確か、あんまり学校でボクらが仲良くしちゃうと、男性陣相手には刺激が強いかも、って話でしたね」
「しっかり覚えてるんだ……割りと忘れてもらっててもよかったかも、なんて思って話したんだけど」
「ゆたかとの会話を、忘れる訳ないじゃないですか!!」
――こういう子でした。なんか、こういうセリフだけ切り取ると、病みすら感じちゃうけど。
「悠里ってさ。本当に、その……これ、冗談のつもりで聞いてね?……私が友達としてじゃなくて、もっとこう、生々しい感じで悠里のこと好き、なんて言ったら、どう思う?」
「え、えっと……生々しいって、どういうことですか?」
こういう反応が返ってくるのもわかっていた。
悠里相手に「察して」とか「わかるでしょ?」なんていうのは通じない。一から十まで説明して、やっと気持ちが伝わる。
それはわかってる。だから、言い出すのが怖いんだ。
自分の気持ちを事細かに説明するなんて。しかも、愛おしいと思っている人に。
ほんと、拷問みたいなものだ。自分から胸を掻っ捌いて、説明をするようなこと――。
「悠里のこと、すごく可愛いな、って思ってるってこと。――男の子が女の子に恋するみたいに、私は悠里のことを好きだと思ってる。――そう言ったら、悠里はどう思う?変って、思うかな」
ああ、言ってしまった。
そうは思ったけど、後悔はなかった。少し前に胸の中に芽生えてから、ずっと抱え続けていたことだから。
むしろ、ようやく言えてすっきりした、という気持ちが強くて。
それに、私の部屋を受け入れてくれた悠里なら、たとえこの気持ちを受け止めきれなくても、私を嫌いにならないと、そう確信できていたから。
「えっと――ボクは正直、ゆたかに対してどういう気持ちを持っているのか、いまひとつわかってません。だって、男の人に恋したこともないですし、女の子とも、ゆたかとほど仲良くなったことはありません。全く初めてで。だから、ボク自身よくわからなくって。――でも、ゆたかの気持ちは、嬉しいです。
あの、逆に聞いちゃうんですけど、ゆたかは男の子に恋したことって、あるんですか?」
「えっ?」
「え、えっと。ボクはまだそういうことわからなくって。でも、ゆたかなら、あるのかなって。その上で、ボクを男の子に対してそう思うぐらい、好きでいてくれるのかな、と」
「――私も、ないよ。実はね、ちょっと前、男の子からラブレターをもらったんだけど、それが初めて異性から向けられた好意だった。……私、中学からずっと浮いてる方だったからね。男子に好かれたことはなかったし、男子を好きになることもなかった。――でも、初めてそういう気持ちを向けられて、すごく困ったんだ。どうすればいいんだろう。受け入れてしまってもいいのかな、とか」
「はい――」
「でもね。私には悠里がいる、って思ったから。だから、彼にはごめんなさいさせてもらったよ。――それが、答えにならないかな」
ラブレターのこと、悠里には話すまいと思っていたんだけどね。
でも、もう隠し事はなしだ。それに、あそこでラブレターをもらったからこそ、ここまでの決心ができたのかもしれない。
残念ながら、今の私に男子を受け入れる余地はない。私の心の中は、悠里でいっぱいだから。
「そうですか。……ゆたかは、そこまでボクのこと、好きでいてくれるんですね。ならきっと、ボクも同じ気持ちなんだと思います」
「えっ!?そ、そういう感じでいいの?」
「だって。ボクの中には基準がないので、ゆたかを基準にさせてもらいます。それで、ゆたかがそのラブレターをくれた人より、ボクを好きだと言ってくれるのなら、きっとボクもこれから先、好きになるかもしれない男の子よりも、ゆたかのことが好きなんだと思います。――そもそも、アレですね。ボクにとっての初恋はゆたかなので、これから先、男の子を好きにはならないかもしれません」
「……そっか」
「それで、ゆたか」
「うん?」
「――ボクに今、そんなお話をして、どうしちゃいたいんですか?」
「えっ――――」
悠里は、赤く上気した顔で――そう聞いてきた。
その声色、表情はぞっとするほど色っぽくて。なんでこの子は、こんな顔ができるんだろう、と本気で疑問に思うぐらいで――。
「悠里がいいのなら、こういうこと、しちゃおっかな?」
据え膳食わぬはなんとやら。
私は、悠里の顎をくいっ、と持ち上げて、まっすぐに見つめる。もちろん、こんなことしながらも、精神的には色々と爆発しそうです。何してるんや、私は。
「いいですよ、ボクは」
「……冗談言ってるつもりはないよ?ほんとに、しちゃうよ?」
「いいですよ。むしろ、ゆたかがしないのなら、ボクからってぐらい――」
「もうっ、いつの間にこんなにエロく育っちゃったんだか、私のお姫様は」
「ボクの王子様のせいじゃないですか?……ふふっ」
「私は王子様じゃなくて、お姫様を助ける魔法使いのお姉さんだよ」
「――じゃあ、ボクに魔法をかけてください。もう本当に、ゆたかのことしか見えなくなるような魔法を――」
「うん、いいよ」
自然と、悠里の背中に腕を回して、ぎゅうっと引き寄せ、抱きしめながら……顔を近づける。
まるで吸い寄せられるかのように、悠里の唇へと、自分のそれを重ねて。
「んぅっ……んちゅぅっ、ちゅぅぅっ…………」
「んふっ、んふぁぁっ……んぷちゅぅっ……」
重なり合った唇を、食み合うように動かして、その柔らかさを感じる。
初めて感じた悠里の唇は、柔らかく、ぷるぷるしていて……だけど、さっき飲んだ梅ジュースの味がするから、少し甘酸っぱかった。
――ファーストキスの味は甘酸っぱい、なんてね。
「んふぅっ……んっ、んんっ…………」
そうして、いつまで唇を重ねていたんだろう。
わからないぐらい長い時間かもしれない。傍から見ていれば、ほんの一瞬の短い時間かもしれない。
だけど、今この部屋には――ううん、私たちの世界には、私たち二人しかいない。
だから、絶対的な時間の長い短いなんて、どうでもいい。
私たちが納得できるまで、ずっとそうしていて――。
「んぅっ……ふっ、はぁぁっ…………」
キスの間、ずっと息が止まっていた気がする。だから、唇を離した時、一気に空気を吸い込む。……口の中に改めて、悠里の味が広がった気がした。
「……しちゃい、ましたね」
「そうだね。しちゃった……」
悠里の目は、少し潤んでいた。……私は、どうなんだろう。悠里の目をしっかりと見つめれば、その瞳に映ってわかるのかな、なんて。
「どうだった?」
「え、えっと……ゆたかから言ってくださいよ」
「じゃあ……悠里の唇、すごく柔らかかった」
「はわっ!?ゆ、ゆたかも、すっごく柔らかかったですよ!!」
「そっか。……でも、なんかすぐに感触忘れちゃったから、もう一度、いいかな?」
「もうっ……ゆたかって、意外とスケベですね」
「あーんな発情した顔を見せてくれた悠里が言いますかね、それ」
「だって、仕方ないじゃないですか……。ゆたかのこと、好きなんですから」
「……そっか。んっ、ふぅぅっ…………」
「んふぅっ、んんぅっ…………」
そうして、何度も何度も、私たちは唇を重ね合わせた。
もう、唇がふやけて、頭もぼーっとしてしまうぐらい続けて……気がつけばもう、窓の外は薄暗くなってきていた。
「今日、もしよければお泊りさせてもらってもいいですか?」
「えっ?――――ええっ!?」
ふやけきった顔でそう言う悠里は、今まで見たことがないぐらい可愛く、それでいて、艶やかだった。
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