ゼロの使い魔 〜しんりゅう(神竜)となった男〜 第ニ十九話「決着、そしてワイバーン」 |
「くそ・・・、この『閃光』がよもや後れを取るとは・・・」
「・・・・・・・・・・」
才人の手によって、左腕を斬り落とされたワルドは、よろめきながらも立ち上がる。
才人は肩で息をしながら、横たわるルイズを守るようにデルフリンガーを構えてワルドを睨みつけている。
ここは先程までワルドとルイズの結婚式を執り行なおうとした礼拝堂だったところ。
しかし、今は壁に大きな穴が空いており、座椅子はすべて破壊され木屑となっていたりと、変わり果てた様相を呈していた。
また、祭壇があった場所には、血溜まりができており、その中にはうつ伏せの状態で倒れているウェールズがいた。
「ち・・・っ。傷口も開いてしまったようだ。まぁいい。目的の一つが果たせただけでよしとしよう。もはやお前らは助からないのだからな。愚かな主人ともども灰になるがいい! ガンダールヴ!」
外から大砲の音や、火の魔法が爆発する音、戦う貴族や兵士の怒号が、わずかに聞こえてきたのを確認したワルドは、痛みで顔を歪めながら、残った右腕で杖を振り、宙に浮く。
そして捨て台詞とともに壁の穴から飛び去っていった。
「・・・・・・・・・・・・」
才人はしばらく、その場から動かなかった。否、動けなかった。
ワルドとの戦闘で、かなりの体力を消耗してしまったからだ。
それでも、気力を振り絞って立ち上がると、ルイズに近づき抱え起こした。
ルイズは身体に多少のキズがあるものの、心臓はしっかりと脈打っていた。
才人は安堵のため息を吐き出す。
「・・・・・・生きていてくれて良かった・・・」
「しっかし相棒。どうするね? とっくに『イーグル』号は出港しちまったし、貴族の娘っこどもも助けにきちゃこないだろ?」
才人は引き止めるギーシュを振り切り、出港しようとしていた『イーグル』号から飛び降りてここまで来た。
デルフリンガーに言われなくとも、才人には分かっていた。
「それによう。皇太子がそこでくたばっちまってる状況。ああ、こいつは影武者だったっけか? まぁ、それはおいといて、皇太子がいねぇ王軍はあっという間に負けちまうぞ? そうなりゃ、すぐに敵がここまでやってくるだろうよ」
「分かってる。ルイズは守る」
「・・・そりゃそうするしかあるめぇな。なんせ相棒は『ガンダールヴ』で、この娘っ子は相棒の主人だしなぁ」
ルイズを比較的きれいな床に寝かせた才人は、ルイズを守るようにデルフリンガーを構える。
大きく息を吸って、柄を強く握りしめる。
才人の気持ちに応えるかのように左手のルーンが光り輝く。
その直後、淡い光が才人の身体を包み込み、消える。
「キズが治った? これもガンダールヴの力なのか?」
「いや。そんな力はなかったはすだが、忘れてるだけかもしれねぇな。そんなことより、これで少しはいけるんじゃねぇか?」
「たくいい加減なやつだ・・・・・・」
才人は苦笑するが、すぐに気を引き締めて立ち上がる。
怒号、爆発音はすでに城の内部まで迫っている。ここまで敵が来るのも時間の問題だ。
いずれ現れる敵を待ち構えるため、才人はデルフリンガーを握りしめて、礼拝堂の入り口を睨んだ。
そのとき・・・、ぼこっと、ルイズの隣の地面が盛り上がり、床石が割れる。
そして、そこから茶色の生き物が顔を出した。
「こいつは・・・・・・!」
才人は、モゾモゾと出てきた茶色の生き物、巨大モグラに見覚えがあり、目を見開いて驚く。
「ヴェルダンデ。どこまでお前は穴を掘る気なんだね? って、おや・・・。キミたちここにいたのかい?」
そして巨大モグラを持ち上げながら、ひょこっと穴から顔を出したのは『イーグル』号に乗っているはずのギーシュだった。
**********
〜数刻前〜
「・・・行ってしまったね・・・」
才人に腕を振りほどかれた体勢のまま呟くギーシュ。
「ねぇ、タバサ? もしかしてアレかしら?」
「おそらく」
キュルケは才人が消えた方向を見ながら、寝ているシルフィードの身体にもたれかかって読書をしているタバサに話しかける。
タバサは視線をそのままにキュルケの質問に答える。
その言葉が聞こたのか、ギーシュがタバサの方を振り返り首を傾げた。
「どういうことだね?」
「使い魔と主人は、視界を共有できる。彼は何かを見て飛び出した」
「何かとは?」
「分からない。ただあの二人に何かがあったのは確か」
「むぅ? 手負いとはいえ、魔法衛士隊隊長であらせられるワルド子爵が、遅れをとるとは思え(せ、船長!! 大変です!!)・・・?」
ギーシュが首を傾げながら疑問を口にしたとき、見張り台にいた船員が大声を上げた。
三人がそちらに目を向けると、船員は前方を指差しながら『り、竜です! 竜が近づいてきます!』と、叫んでいた。
甲板に武器を持った船員たちが集まってくる。船員以外の者たちはパニックになりながら甲板の後方へ逃げていく。
「よく見えないわね。あれってどんな竜かしら?」
「もしかしてモンモンランシーの使い魔かい?」
「・・・・・・違う。あれはワイバーン」
その喧騒の中、三人は至って普通に会話をしていた。
タバサの言葉通り、見張りが見つけた竜はワイバーンだった。船首で一列に並んだ船員たちが武器を、この船に近づくワイバーンに狙いを定める。
『があああっ!!』
そのとき、ワイバーンが一際大きな叫び声をあげる。その叫び声でシルフィードが目を覚まし、身体を起こした。
「キュイ」
「シルフィード・・・・・・?」
しばらく周囲をキョロキョロとしていたシルフィードだったが、船に近づく竜に気づくと、一声鳴く。
そして、首を傾げるタバサを背中に乗せて大空へと飛び出して、ワイバーンの方へ飛んでいってしまった。
その行動に武器を構えていた船員たちは目を見開いて驚き、ギーシュとキュルケの二人は呆気にとられる。
「ちょっとタバサ!?」
「な、何をやってるかね!?」
我に返るのは二人の方が早かった。
二人は慌ててシルフィードを追いかけるが、これ以上進まないところで立ち止まった。
ただ困惑げにシルフィードを見つめるしかない二人だった。
「ガアアア」
「キュイ」
ワイバーンがその場で止まり、敵意がないことを示すためか一声鳴いた。
呼応するようにシルフィードも一声鳴き、ワイバーンとの距離が数十メートルのところで止まった。
背中に乗ったタバサはいつでも魔法が放てるように杖を構えている。
「あたしを呼んだのはあんたなのね?」
「ああ。神竜さまに『渡してほしい』と頼まれたものを持ってきた」
「神竜さま? ああ、シェンさんなのね」
「そうだ。渡したいものというのはコレだ」
ワイバーンはそう言うと、右足に持っていたものをシルフィードに投げる。
シルフィードは器用にそれを右手で掴み取る。
「確かに届けた」
「ありがとうなのね」
「では、さらば」
「バイバイなのね」
ワイバーンは最後に一声空に向かって鳴くと、Uターンして飛び去っていった。
「・・・・・・船に帰る」
「キュイ」
杖をおろしたタバサは、シルフィードが掴んでいるものにチラッと目線を送ったが、それには触れず帰船することを告げ、懐に仕舞っていた本『トリステインの書』を取り出す。
「これ食べたいのね」
「・・・・・・だめ」
そして、ヨダレを垂れ流しながら発したシルフィードの呟きに答えつつも、『トリステインの書』を読み始めたのだった。
説明 | ||
死神のうっかりミスによって死亡した主人公。 その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。 第二十九話、始まります。 迷走しているかも・・・ |
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続きを楽しみにしてます。(秀介) | ||
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