【万山】機械人形のひとりごと
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星が綺麗だ。

ヘルメットを脱いで仰向けに転がり眺めた夏の夜空は、高くて広いくせに吸い込まれていきそうだ。

義眼の奥の視覚認識装置が働いて、夜空のそこかしこに星座の名前を書き込んでいく。それが煩わしくて俺は胸のボタンを操作して機能を遮断した。

 

解ったことがある。

アイツは死んでいた。

高杉と万事屋の旦那を追っかける為にアクセスした手配書のデータベースの中に見つけたアイツの写真には、≪Deceased≫の文字が覆い被さっていた。

遺体は発見されていないし、詳しい理由もわからない。だけど何となく解る。

アイツは鬼兵隊として、憂国の志士として、そして高杉晋助の盟友としてその矜持を持って死んだんだろう。

そうでなけりゃ、アイツが死ぬわけがない。そうで、なけりゃ。

 

ふと左胸に触れてみた。排熱でうっすらぬくもった硬い体。もう、あの日の刀傷など何処にも無い。

ボスキャラに頸を落とされかけた俺がこうして生きていて、どうしてアイツが死んだのだろう。

アイツにお情けで生かされた俺よりも先に、どうしてアイツが死ななきゃならなかったのだろう。

生きていて欲しかった?なんて聞かれたら、正直どう答えていいのか解らない。けれどアイツが俺より先に死んでしまったことが今はただ、息苦しい。

機械の掌はあの日よりもずっと逞しくなった。けれどもう血は流れないし、きっと涙も上手く流せない。

それでも俺は、≪あの日の俺≫のままなのだろうか。

 

銀色の指輪が掌に触れて、こつんと音を立てる。

指が絡まり、ぎゅっと握られる。大きな手。長くて綺麗な指。幻を視ている?それとも視覚認識装置の誤作動?

深い翡翠色の髪が夜風に薙がれて乱れている。こんなに近くで顔を見たのは、あの日以来かもしれない。

「こんな体になっても、お前俺のこと解るんだな」

『勿論でござるよ、拙者一度聴き惚れた歌は忘れぬ故』

「今でも聴こえるか、俺の歌」

『ああ、とても心地良い、拙者の一番好きな歌が』

ピントの合わないカメラが頭の中でカシャカシャと音を立てている。その所為か夜空の星まで滲んで見えるから、俺は掴んだアイツの手をよすがにするしかない。

片方の手で左胸をさすると、サングラスの奥のアイツの眼がじっと俺を見ていることに気が付く。

俺は不格好に笑って、そして言ってやった。

「もう、お前に付けられた傷も無いんだ」

『幾らでも付けて差し上げるが?』

「ばーか」

指がほどける。掌が離れていく。夜風が幕を引いたように二人を隔てる。

「もう、俺に傷なんて付けられるわけないだろ」

河上万斉は、死んだんだから。

 

アイツは消えた。いや、そもそも此処に現れてなどいなかったんだと思う。

急激に過去の記憶を思い出した反動か何かだろう。きっとそうだ。俺は滲んだまま戻らない視野を、壊れたテレビを治すみたいにして数度頭を叩いて調整する。

そしてもう一度、アイツのデータを参照しようとヘルメットに手を伸ばしかけて……やっぱり、止めた。

何の意味も無い。事実は書き変わらない。時間は進んでいく。俺はアイツの居ない世界でこれからも生きていくのだから。

 

「なぁにブツブツ言ってやがる」

「土方さん」

俺のひとりごと≠ノ苛立った土方さんが頭を小突いてくるから、せっかく整った視野がまたブレてしまう。

起き上がって頭を擦り、歩みを進める土方さんの後ろを付いていく。

崖下には復興しつつある江戸の街の明かりが見えた。

それは夜空の星くらい綺麗で、アイツはきっと空の星灯りの中じゃなく、この街灯りの中にいるんだと、俺は思った。

説明
実写新規なので初投稿です。
ハマりたてなので細部が色々わかってないことが多いんですが、とりあえず最新の状況に至るまでの流れを履修したところ色々あって山崎がモブコップになっててびっくりしたのでそういう話です。
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