Under Of World ZERO 第18話-探求-
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「さて、どこから語るべきか」

 白衣の男。Dr.ラヴァと名乗ったその男が口を開く。

「恐らく君達の史実は、第三次世界大戦と、その渦中に現れた黒い化け物が居た、とそんな所だろうと思うが」

「その通り。だからあなた達の様な存在も、私達にとってはイレギュラーだよ」

「そうだろうね。核戦争で環境が著しく悪化したのは確かだ。全国各地で一定数生き延びた人間も、環境や怪物の影響でごく少数になったことだろう。だがね、人間という生き物は生を諦めはしなかったんだよ。頭を使い、技術を用い、進歩し、適応した。君達も外は見て来たんだろう? 自然はもう回復している。人間以外の動物も少しずつだが戻りつつある。となれば、怪物さえやり過ごせれば生きていけない環境ではない」

「なるほど。でもどうやって奴らと渡り合ったんだい? 地上にもセルを打倒しうる技術があるのかな?」

「セル? 怪物を地下ではそう呼ぶのか。なるほど、的を得た名称だ」

 彼は愉快そうに笑みを浮かべ更に続けた。

「えっとそうだな、そんな技術は私の知る限り、地上にはない」

「じゃ、じゃあどうやって、今まで戦ってきたんですか?」

 俺は我慢できずに尋ねた。父やジャックさん達でさえ、命懸けだっていうのに。エイクァの様な装備もなく、今まで……。

「私も疑問だよ。ハイロが乗ってた機体でも奴らは倒せないだろうし」

「ええ、そうだ。そもそも考え方が違うと言えばいいのか。私が作ったファントムも怪物を倒す目的じゃあないんだ。文字通り、私達は適応したんだよ。怪物を環境の一部としてね。つまり、自然災害の様に捉えているんだ。ファントムも奴らをやり過ごす為のものなんだよ。とは言え、私の様に奴らに興味を持つものや、躍起になって駆逐しようとする者も少なからずいる訳だが」

「納得したわ。あの白いのを足止めしたのも、そのやり過ごす術の集大成って訳ね」

「ん? 君達、シラクチとやりあったのかい?」

「うん。やむを得ずね」

「僕もビックリしたよ。黒樹の確認に行ったら、小さいのをあっという間に倒しちゃってさ。その上シラクチと真っ向から殴り合い始めるんだぜ?」

 ハイロの言葉を聞き、彼は声を上げて笑った。

「いやいや、すまない。余りに想像以上だったものでね」

 シラクチ。彼らがそう呼ぶセル。会敵した時のジャックさん達の反応を見るに、きっと奴が父を……。

「シラクチについて教えてくれませんか?」

 僕は真っすぐDr.ラヴァを見つめ、訊く。

「そうだね。次はシラクチ、と言うか君達がセルと呼ぶ存在について話そう。っとその前に君達はどれくらい奴らの事を知っているんだい?」

「確か、生き物で細胞みたいなつくりをしてて、内臓諸々がない、だったわよね?」

「私達が知っているのは概ねそんな所だね」

「ふむ、そうか。奴らが地中からやって来るというのは見たと思うが」

「あの棘みたいな奴ですよね」

「ああ、私達は黒樹と呼んでいる。通常その黒樹から奴らは生まれ、数週間から長いもので数か月間活動した後、絶命する」

「寿命があるって事よね」

「それなら尚更、あの白いセルが気になるね」

「私達がシラクチと呼ぶ個体は少々特異なんだ。ご存知、名の通り口がある。それはつまり生命を維持する器官が備わっている可能性を示唆する訳だ。現にあれは既に約二年ほど生きているんだよ」

「Dr.ラヴァ。あなた達が奴を見つけた時から奴の身体に傷跡はあったのかい?」

「ああ、そうだね。切り傷の様な傷跡が見受けられていた。それが奴ら同士によるものなのか、或いは生れつきの模様なのかは知らないがね」

「やっぱり、そうか。実はね、私達は五年前、奴と戦っているんだよ。しかもその時には口は無かった」

「それは本当か!?」

「うん、本当だよ」

「そうか……素晴らしい。私達が発見するまでの二年の間に目まぐるしい速度で進化したと言うことか。んふふ、はははは」

「あぁあ、始まったよ、ドクターの発作」

「あ、あの。ドクター? Dr.ラヴァ?」

「あ、すまない。えっと。シラクチの話だったね。私達がこの二年で調べが付いたのはほんの僅かだ。食事をするという事。同種の死体や動植物などを喰らう姿を確認している。どう言った方法でエネルギーに変換しているかまでは分かっていない。それと活動には限界があるという事。これは奴の身体に熱を逃がす器官がないことが原因による、オーバーヒートの様な現象だと思われる。だから普段は湖の中で眠っているんだ。活動は食事の為に週に1度か二度、出てくる程度だよ」

「戦闘中に確かに奴の身体から蒸気のようなものが上がっていました」

「それも体温の上昇を御せていない兆候だろうね。そして私は奴らに対してひとつの仮説を立てた。聞くかね?」

「うん、是非」

「私は奴らの母体が地中に存在すると考えている。女王蟻の様にね。地上に出てくるセル達は差し詰め働き蟻と言った所かな。つまり、母体の意図や習性に沿って動いていると思うんだ。或いはセル自体がそもそも母体の一部であるか、だ」

それって……セルは細胞の様なつくりなんじゃなくて細胞そのものってことですか?」

「でもそれなら確かに個々で生命維持をしない理由の説明にはなるわね」

「それならあの白い個体の存在はどういうものになるのかな?」

「癌だよ」

「癌?」

「ああ、そうだ。一個体の存続や意図に構わず、全く別の個体として同種すら喰らい、進化する。癌細胞に近いと思わないかい?

「言われてみれば確かに……そうね」

「全て辻褄はあってるね」

「仮説を立てた所で、立証のしようはないがね。母体があったとしても、どれ程の深さに生息しているのか、どの程度の個体数かも調べようがない。すまないね。私が語れるのはこんなところだ」

「いえ。有益な情報をありがとうございます」

「例には及ばない。私も面白い話が聞けたことだしね。お仲間が動ける様になるまで、ゆっくりして行くと良い。何かあればハイロに言ってくれ」

 彼はそう言うと再び部屋の奥の暗がりに戻って行った。

「まあ、そう言うことみたいだから、空いてる教室とか好きに使ってよ。僕はちょっとファントムのメンテがあるから。また後でねー」

 ハイロも俺達を置いて部屋を出て行ってしまった。

「今はご厚意に甘えるとしよう。キングの様子を見に行こうか」

 俺達も次いで部屋を後にし、キングさんとレンジの居る医務室に向かった。

「やあ、レンジ。キングはどうだい?」

「あ、ジャックの兄貴。取り敢えずあるもので出来るだけのことはしましたけど」

「ありがとね」

「いいんすよ。それより、話はもう終わったんすか?」

「うん。一応ね」

 胸部から腹部に掛けてギブスと包帯が巻かれ、ベッドに眠るキングさんは、やはり息苦しそうに見える。

「早いとこ戻らないとね。ちゃんとした治療を受けさせないと」

「そうね。肋骨は確実に折れてるでしょうし」

「大事に至らなければ良いんですけど」

「大丈夫だよ。そう簡単にくたばる馬鹿じゃないよ、キングは。私達も少し休もう。明日の朝、キングが目覚めたら都市に戻ろう。流石にあれだけ戦ったんだ。皆も疲れたろう」

「っすね。ヤキモキしてても仕方ねぇっすから。ひと眠りさせて貰います」

 言うが早いか地べたに寝っ転がったレンジは、ものの数秒で眠りについた。

「ったく、どういう神経してるのかしらこいつは」

「ははは。まあ、今回ばかりはレンジを見習うとしようか」

「ですね。明日もしセルに遭遇したらキングさんの分も戦わないとですし」

「これ以上無理はさせたくないのは同感ね」

「じゃあ二人とも、寝床の準備を頼むよ。私は非常用の食料と水を機体からおろして来るよ」

「分かりました」

「了解」

 こうして今までの人生で最も長く感じられた一日は終わりを告げる。悔いも課題も有り余るほどある。Dr.ラヴァの話を聞いて、より鮮明に思う。何が起こってもおかしくは無いのだと。あの白いセルに黒樹と呼ばれる棘。これからもあんなものと対峙していかなくてはならないんだ。それに、地上の人々のセルに対する考え方を聞いた時、俺は問われている気になった。奴らと戦う理由は何処にあるのか、と。父はどうだったのだろう。何が為にセルと戦う道を選んだんだろう。陽は暮れ、夜は更けていく。この世界は俺達を待ってはくれないのだ。

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地上に生きる探求者が語る歴史とは―――?

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