孤高の御遣い 北郷流無刀術阿修羅伝 君の真名を呼ぶ 28
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刀誠が去って三日後、天角は慌ただしい雰囲気に包まれていた

 

桂花「華琳様、連中の本拠地が大分絞り込めてきました」

 

華琳「ご苦労様・・・・・それで、そこは何処なの?」

 

桂花「は・・・・・鶴鳴山、天台山、泰山、この三つの神殿です」

 

愛紗「ちょっと待ってくれ!どれもまったく方向が違うぞ!」

 

秋蘭「ああ、全部回ろうと思うと、戦力を分散せざるを得ない」

 

純夏「それは拙いわね、奴らと戦かう上では絶対にしてはならない事よ・・・・・」

 

これは、于吉の手によるものだった

 

白装束を別の山に分散させ、目標を絞り込ませない為の計略である

 

桃香「うぅ〜〜、朱里ちゃん、どうにか一つに絞れない?」

 

朱里「申し訳ありません、ここが限界でした・・・・・」

 

雛里「私達の力不足を、どうかお許しください・・・・・」

 

穏「三国の情報網を全て駆使してこれですからね〜・・・・・」

 

亞莎「はい、相手の方が一枚も二枚も上手です・・・・・」

 

稟「しかし、ここまで絞り込むことが出来たのです、ここは苦肉の策で戦力を分散してでも!」

 

風「稟ちゃん、それは愚策も愚作ですよ〜」

 

星「その通りだ、向こうはあの白装束をいくらでも呼び出せるのだ、戦力を分散させるなど磨滅必至だ」

 

凪「ならば、どうすればいいのですか?」

 

沙和「だったら、全員で一ヶ所ずつ回っていけばいいの〜」

 

真桜「アホ沙和、そんなん時間が掛かり過ぎるで!」

 

紫苑「ええ、もし一つ目と二つ目の山が外れだったら、目も当てられないわ」

 

祭「ああ、ただ無意味に時間を浪費するだけよ・・・・・」

 

桔梗「お館様の命が掛かっているのだ、博打など出来るものか!」

 

あと一歩というところだが、その一歩が果てしなく遠い

 

動くに動けないもどかしさを感じている所で、雪蓮が口を開く

 

雪蓮「私の勘では・・・・・泰山ね」

 

冥琳「雪蓮、お前の勘が鋭い事は知っているが、今回ばかりは状況が状況だ、絶対的な確証も無しに動く事は出来ん」

 

零「一応聞いておくけど、根拠は?」

 

雪蓮「私の瞼に焼き付いて離れないのよ、かつての一刀と雷刀の戦いが・・・・・それが根拠よ」

 

小蓮「お姉ちゃん、そんなの根拠じゃなくて主観だよ」

 

確かに、かつて一刀と雷刀が剣を交えたのは泰山であったし、あの戦いは一同も忘れ難いものである

 

しかしだからといって、それで泰山に左慈と于吉が潜伏しているという理由にはならない

 

だが

 

管輅「いいえ、正解よ」

 

龍奈「は、え!!?」

 

いきなりの正解発言に一同の視線が一挙に管輅に集中する

 

貂蝉「管輅ちゃん、もういいのね・・・・・」

 

管輅「ええ、もう刀誠もいないし、彼との約束は十分に果たしたわ」

 

卑弥呼「そうであるな・・・・・聞くがいい皆の衆、私達は最初から左慈と于吉の居場所を知っていた」

 

「・・・・・・・・・・」

 

卑弥呼「ん?何も言わないのか?」

 

てっきり罵詈雑言が飛び出してくるかと思われたが、無反応だったことに呆気にとられる

 

華琳「何となく分かっていたわ」

 

雪蓮「どうせ、おじい様に口止めされていたんでしょ」

 

春蘭「だな、あの御仁ならそうしてもおかしくない・・・・・」

 

霞「孫には、いんや、身内にはかなり厳しいじっちゃんみたいやったからな・・・・・」

 

刀誠とは10日という短い間の付き合いであったが、その印象はとてつもない物であった

 

それゆえに、それぞれが彼の性格をよく分かっていた

 

そして、それが自分達の為である事も理解していた

 

自分達の自立を促す為に一芝居打ってくれたこと

 

自分達の手で、この難局に打ち勝つ事を望んでいたこと

 

そのため、今になって全てを打ち明けた管理者達を攻める事など出来ようはずもなかった

 

管輅「分かっていたなら、それでいいわ・・・・・もう時間もなさそうだし」

 

鈴々「にゃ?時間がないって、どういう事なのだ?」

 

貂蝉「ご主人様も、泰山に向かっているのよ」

 

「!!!!???」

 

この言葉に、一同の態度が一変する

 

雫「どうしてそれを先に言わないんですか!!!??」

 

蓮華「そうよ、先に言いなさいよ!!!」

 

桃香「ご主人様より先に行かないといけないのに、もっと早く言って下さい!!!」

 

やはり一刀が絡むと、優先順位は変わるらしい

 

龍奈「それじゃあ管輅、今度は送って行って、またあんな事になるなんて懲り懲りだよ!!」

 

一刀と刀誠の死闘に間に合わなかった後に知った

 

管輅も転移の術を扱える事を

 

それにより追い越されてしまった事を

 

今度は同じ失敗をしない様に、管輅に頼み込むが

 

管輅「それはいいけど、それだと全員を連れていく事は出来ないわよ」

 

菖蒲「え、それはどういう事ですか!!?」

 

管輅「私達の転移の術は、どれだけの熟練術師でも、その術師を含めて定員四名までなのよ、おまけに一日に使える回数は四回まで」

 

貂蝉「つまり、一日に六人しか目的の場所に移動できないと言う事よ」

 

ここにいる将達は、五十名以上

 

それ以外も含めれば、六十人を超える

 

ここに居る全員を運ぼうと思えば十日は掛かると言う事である

 

斗詩「それなら、馬を使った方がマシです」

 

猪々子「おいおい、だとしても間に合わなかったら意味ないぞ!!」

 

麗羽「そうですわよ、一刀さんも向かっているのでしょう!!」

 

月「何とかならないの、詠ちゃん・・・・・」

 

詠「無茶言わないで、早馬を走らせれば三日ほどで着くけど、手勢を率いないといけないから、どう足掻いても七日は掛かるよ・・・・・」

 

葵「だな、俺達涼州の騎馬隊でもそれくらいは掛かっちまうな・・・・・」

 

翠「だとしても今すぐに行くべきだぞ!!」

 

蒲公英「そうだよ、呑気に話してる場合じゃないよ!!」

 

杏奈「ちなみに、ご主人様はあとどれくらいで泰山に着きますか?」

 

卑弥呼「そうよな・・・・・半日と言った所か」

 

柊「どう足掻いても間に合わないじゃないですか!!!」

 

雛罌粟「ああもう、どうしてこんな事になっちゃうのーーー!!!」

 

一同は今になって、どうして無理にでも管理者達から聞き出さなかったのかと後悔し始めていた

 

管輅「・・・・・一つ、手が無くもないわ」

 

思春「なんだと!!?」

 

管輅「ここに居る者だけなら、おそらく一日で着けるわ」

 

明命「はうあ!!?そんな事が可能なんですか!!?」

 

管輅「ただしその為には・・・・・龍奈、貴方に頑張ってもらうしかないのだけれど」

 

龍奈「え?・・・・・まさか・・・・・」

 

貂蝉「ええ、龍の姿に戻って、皆を泰山まで運ぶのよ♪」

 

龍奈「ちょっと、本気で言ってるわけ!!?」

 

管輅「他に手はないわ・・・・・貴方一人で行った所で、神農様がいらっしゃる以上、手も足も出ないでしょうし」

 

卑弥呼「そうよな・・・・・あ奴に掛かれば、龍の一匹や二匹など赤子の手を捻る様なものであるからな」

 

「・・・・・・・・・・」

 

この言葉には、一同も同意するしかない

 

なにせあの刀誠でさえも一蹴してみせた神農である

 

それくらいはお茶の子であろう

 

龍奈「はぁ、分かったわよ・・・・・ただし、乗り心地は期待しないで、振り落とされても絶対に助けないから、そのつもりでいて」

 

恋「(コク)・・・・・分かった」

 

音々音「起こりうることは、全て自分の責任なのです」

 

これから始まる未知の決戦に覚悟を決める一同だった

 

時雨「私も、私もぜひ行かせて下さい!!」

 

村長「儂もですじゃ!!足手纏いになれば見捨てていただいて結構ですじゃ!!」

 

天和「私も行くーーー!!」

 

地和「ちぃを置いていくなんて許さないんだから!!」

 

人和「私も連れて行って下さい!!」

 

みい「みいも行くにゃ〜〜〜!!」

 

ミケ「にいにいを助けに行くにゃ〜〜〜!!」

 

トラ「やってやるにゃ〜〜〜!!」

 

シャム「行くぞ〜〜」

 

龍奈「もぉ〜〜〜、増え過ぎよ・・・・・最初は一刀を乗せるつもりだったのに・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

于吉「・・・・・どうやら気付いたようですね」

 

神農「であるな、管輅達も大分甘いが、まぁ頃合いではあるか♪」

 

千里眼で天角を覗き込む管理者二人

 

于吉は若干の焦りを見せ、神農はこの状況を楽しんでいる様だ

 

神農「やはりあの龍を使うか、今日中には着くであろうな」

 

于吉「北郷一刀もすぐにでも来ますからね、左慈が出てくるまでは時間稼ぎをするべきでしょう・・・・・手筈通りにお願いします」

 

神農「承ろう」

 

端的な了承の言葉を残し、神農は消えていった

 

于吉「・・・・・さて、私は私で準備をいたしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一日後

 

 

無事に泰山に着いた一同

 

なんとか一人も欠ける事なく到着した

 

しかし

 

桃香「はふぅ〜〜〜、こ、怖かったぁ〜〜〜〜・・・・・」

 

華琳「ええ、これは二度と体験したくないわね・・・・・」

 

雪蓮「振り落とされないようにするので精一杯だったからね・・・・・」

 

殆どの者が、疲れ切った表情をしていた

 

なにせ、時速100キロ以上のスピードで何時間も飛行してきたのだ

 

窓も何もない状態で、その風圧を受け続けていれば目を開けることも出来ない

 

否が応でも体力を削られ、景色を楽しむ余裕も無かった

 

真桜「ウチは、そうでもないで♪」

 

首に掛けているゴーグルを弄りながら真桜が余裕の表情を見せていた

 

上空から景色を楽しむ余裕があった分、体力にも余裕があるようだ

 

沙和「も〜〜、真桜ちゃんだけズルいの〜〜」

 

凪「そうだぞ真桜、私達の分も作っておけ!」

 

真桜「無茶言うなや、こないな事が起るやなんて誰が想像できるかい!」

 

龍奈「はぁ、はぁ、はぁ!・・・・・つ、疲れたぁ〜〜〜!」

 

杏奈「大丈夫ですか、ヴリトラ様!?」

 

百合「休んでください!」

 

一同が疲れ切っているその横で、更に疲れ切っている龍奈が居た

 

そんな彼女を杏奈と百合が介抱していた

 

貂蝉「無理もないわね、私達全員を乗せてここまで飛んで来たんだもの」

 

卑弥呼「うむ、後は私達にまかせておけ」

 

季衣「ここはどの辺りなの?」

 

流琉「はい、目が疲れて良く見えません」

 

空を飛ぶという初体験なうえ、普段では考えられない風圧に晒され続け一時的に視力が低下している様だ

 

管輅「泰山まで、四里(2キロ)と言った所かしら」

 

雪蓮「そこまで来れば充分よ・・・・・ありがとう、ヴリトラ」

 

華琳「助力に感謝するわ」

 

桃香「本当にありがとうございます」

 

管輅「のんびりしている暇はないわよ、もう北郷一刀は来ているわ」

 

貂蝉「ええ、于吉ちゃんの白装束と戦っているわね」

 

悠「なんだと!!!?それを先に言え!!!」

 

嵐「お前達は肝心な事を、いつもいつも!!!」

 

焔耶「くそっ!!!休んでいる暇なんてないぞ!!!」

 

華佗「一刀、今行くぞ!!!」

 

その言葉に、目に生気が戻った一同は一目散に泰山へと疾走していった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その5分後

 

龍奈「ふぅ〜〜〜・・・・・よし、ふっか〜〜〜つ!」

 

杏奈「え、ヴリトラ様!?」

 

百合「もう大丈夫なんですか〜!?」

 

龍奈「龍族の回復力を侮ってもらったら困るわね、これくらいの疲労ならすぐに回復するわよ♪」

 

背筋を伸ばし、絶好調をアピールする龍奈だったが、直に龍の姿へ戻り泰山へと飛び立った

 

杏奈「あ、ヴリトラ様、私達も連れて行ってください!!」

 

百合「置いてかないで〜〜!!」

 

二人の声は耳に入らず、龍奈は急ぎ先行した者達を上空から抜き去り泰山へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きええええええええええ!!!」

 

一刀「まったく、数だけは一人前だなっと!」

 

向い来る白装束達を次々と殴り飛ばしていく

 

しかし、何もない空間から続々と現れる白装束にいい加減嫌気が差してくる

 

左慈や于吉と一戦交える為に氣と体力の消耗を出来るだけ抑えたいが、ここに来て2時間の足止めを喰らっていた

 

このままではジリ貧にしかならないため、一気に氣を解放し突破を仕掛けた方がいいかと考えていると

 

ゴアアアアアアアアアアアア!!!

 

「「「「「ぐぎゃああああああああああ!!!!!」」」」」

 

一刀「うおっ!!?」

 

いきなり上空から火炎が降り注ぎ白装束達が火達磨になっていく

 

その火炎の発生元が何か一瞬で分かり、両手を空に広げる

 

龍奈「一刀ーーーーー!!!」

 

次の瞬間に自分の胸の中に飛び込んでくる愛しい存在

 

龍奈「ああ、一刀ぉ、会いたかった、会いたかったよぉ〜〜〜!////////」

 

胸板に顔を擦り付け、尻尾を腰に巻き付けてくる

 

これが龍族最高の愛情表現である事を知っている一刀は、彼女を抱き締め頭を撫でてあげた

 

しかし

 

一刀「龍奈・・・・・来てしまったのか」

 

龍奈「え?」

 

そっけない態度に、龍奈は戸惑う

 

一刀「全てが終わってから、会いに行こうと思っていたのに」

 

龍奈「ああ、そういうこと・・・・・も〜〜、水臭いじゃない、私も一緒に行くわ♪」

 

一刀「一緒に行くのは構わないけど、絶対に手は出さないでくれよ」

 

龍奈「え、どういうこと?」

 

尻尾を解き、踵を返し泰山へ足を向ける一刀を追いかけようとするが

 

一刀「俺は左慈を・・・・・っ!!?」

 

言葉を紡ごうとしたその時、独特な空気の乱れを感じる

 

しかしそれは、自分の周りで起きたものではない

 

起きたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍奈「あぐう!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍奈の真後ろだった

 

一刀「龍奈!!!!」

 

振り返った瞬間、これまで見た事の無い老人が龍奈の背後に現れ、彼女の背中に鋭い貫手を突き刺す

 

その貫手は、いとも簡単に龍奈の皮膚を突き破り手首まで埋まらせる

 

そして

 

ブシュアアアアアアアアア!!!

 

龍奈「ごふあ・・・・・」

 

貫手を引き抜くと、背中から大量の青い血を吹き出し、龍奈は膝から崩れ落ちた

 

一刀「おい!!!!」

 

一瞬で間合いを詰め龍奈を抱き止める

 

しかし、糸が切れた操り人形の様に龍奈は一刀の胸にもたれかかった

 

一刀「っ!・・・・・っ!・・・・・・っっっ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

まともに声を出すことも出来ない、声にもならない声

 

血塗れとなった龍奈を抱き締め、限界まで目を見開いて、その老人に目を向ける

 

その老人の手には、龍奈から抜き取った心臓が握られていた

 

一刀「か、返せ!!!!龍奈の心臓を、返せ!!!!」

 

神農「返したところでどうなる?鍼も持っていない、五斗米道も使えないお主に何が出来る?」

 

ブシュアア!!

 

手の中の心臓を握り潰し、まるでゴミをポイ捨てするかの如くその辺の地面に投げ捨てた

 

一刀「あ、ぐ!・・・・・ぐううううううううう!!!」

 

神農「そ奴は最早助からん・・・・・じゃが、流石は龍族と言うべきか、まだ息があるようじゃな」

 

一刀「あ・・・・・りゅ、龍奈、龍奈!!!」

 

龍奈「ひゅ〜〜〜、ひゅ〜〜〜、ひゅ〜〜〜・・・・・」

 

確かに息はあるが、この息の仕方は拙い

 

いかに龍族でも生命の源である心臓を抉り出されれば只では済まない

 

抱き抱えた龍奈の体から、みるみる生気が抜けていく

 

神農「これが最後の会話になるじゃろう、思い残す事の無い様にな」

 

一刀「あ、待て!!!お前!!!」

 

踵を返し立ち去ろうとする老人に手を伸ばすが

 

神農「儂の名は神農、逃げも隠れもせん、この先で待っておるぞ」

 

この言葉を最後に神農は消えていった

 

一刀「く、く・・・・・クソおおおおおおおおおお!!!!!」

 

伸ばした手を地面に叩き付け、絶叫する

 

龍奈「あ、ぅぅ・・・・・か、かず・・・・・とぉ・・・・・」

 

一刀「っ!!・・・・・龍奈、喋るな、龍奈!!」

 

龍奈「ぅぅ、う・・・・・ぅぅ・・・・・しに、たく・・・・・ない・・・・・」

 

一刀「大丈夫だ、俺が死なせない、龍奈は生きるんだ!!」

 

回天丹田を発動させ、ありったけの氣を龍奈に注ぎ込む

 

だが、背中からの血が止まらず、もともと青い肌が、ますます青くなっていく

 

こんなものは応急処置にもならない

 

やはり五斗米道しか助ける術はないが、神農の言う通り鍼を取り上げられてしまっている以上手も足も出ない

 

鍼の代わりになりそうなものが無いかと辺りを見回すが、白装束が持っている武器の中に代用出来そうなものは無かった

 

龍奈「や、っと・・・・・幸せに・・・・・なれ、ると・・・・・思った・・・・・のに・・・・・」

 

一刀「龍奈、しっかりしろ、龍奈!!」

 

彼女の目から大粒の泪が溢れ出す

 

悔しさと、悲しみと、無念が流線となって頬を伝う

 

龍奈「ねぇ・・・・・一刀ぉ・・・・・りゅ、な・・・・・幸せ、だった、よ・・・・・」

 

一刀「や、やめろ・・・・・」

 

龍奈「一刀と・・・・・くら、した・・・・・あの、三日、間は・・・・・龍奈に、とって・・・・・夢の、ような・・・・・時間、だった・・・・・よ・・・・・」

 

まるで今生の別れの様に龍奈は必死で声を出す

 

龍奈「あり、がとう・・・・・本当に、ありが、とう・・・・・」

 

一刀「やめろ、やめてくれ・・・・・」

 

命の灯が、小さくなっていく

 

龍奈「だから・・・・・一刀は、生きて・・・・・りゅ、なの、分まで・・・・・」

 

一刀「そんな馬鹿な、俺は最低最悪な人間だ!!多くの命を奪って、のうのうと生きている下種野郎だ!!俺なんかが生き残って、龍奈が死ぬなんて、あって良い訳がない!!」

 

この言葉は詭弁だった、龍奈を助けるための呼び掛け、なけなしの方便である

 

一刀「それに龍奈は最後の龍族なんだろ!!?だったら生きなきゃ駄目だ!!生きて、子孫を残すんだ!!」

 

龍奈「そう、だね・・・・・わた、しと・・・・・かず、と、の子供・・・・・きっと・・・・・可愛い、んだ・・・・・ろうなぁ・・・・・」

 

一刀「そうだ、俺の子供を産むんだろ!!?それまで死ぬな!!」

 

龍奈「・・・・・もう・・・・・だめ、みた、い・・・・・ごめん、ね・・・・・」

 

一刀「おい、龍奈、しっかりするんだ、龍奈!!!」

 

龍奈「りゅ・・・・・なの事・・・・・忘れ、ないで、ね・・・・・かず・・・・・とぉ・・・・・」

 

この言葉を最後に、龍奈は一刀の腕の中で、息絶えた

 

一刀「・・・・・りゅ・・・・・な・・・・・龍・・・・・奈・・・・・」

 

冷たくなっていく龍奈の体温と比例するかのように、回天丹田も消えていく

 

その間に、龍奈が放った火炎による炎が弱まって来た

 

「きえあああああああああああ!!!」

 

その消えゆく炎の間を縫って、白装束が背後から一刀に斬りかかって来た

 

一刀「・・・・・・・・・・っ」

 

ドカアアアアアアア!!!

 

その白装束を、微塵の気合も感じさせないまま、裏拳で殴り飛ばした

 

ドカドカドカドカドカ!!!

 

次々と向かい来る白装束達を、最低限度の力で吹っ飛ばしていく

 

龍奈の遺体をその場に放置し、泰山へ向かっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管輅「っ!!!??・・・・・そんな・・・・・」

 

桃香「え、どうしたんですか!?なにかあったんですか!?」

 

泰山へとひた走る一同

 

そんな中、いきなり管輅の足が止まった事に戸惑った

 

管輅「龍奈が・・・・・死んだ・・・・・」

 

桃香「ええ!!!??」

 

雪蓮「ちょっと、どういうこと!!??」

 

華琳「さっきヴリトラが追い抜いて行ったけど、一体何があったの!!??」

 

管輅「・・・・・っ!」

 

そして、何も言わずに管輅は転移の術を発動し、消えた

 

白蓮「おい、どういう事か説明してから行けよ!!」

 

星「とにかく急ぐぞ!!!」

 

そして、更に足を加速させる一同だった

 

貂蝉「卑弥呼・・・・・これって・・・・・」

 

卑弥呼「ああ、神農め・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

于吉「・・・・・神農様、貴方もエグいお人ですね」

 

一部始終を見ていた于吉は、神農の所作に軽く戦慄していた

 

自分達も多くの外史を行き来してきて、多くの人の死に様を照覧し、自分達の手で死を生み出してきた

 

しかし、そんな自分達でもあれほどの事はなかなか出来ない

 

やはり、神農は神仙の中でも究極のベテランとしか言いようがない

 

あの領域に達するには、まだまだ道半ばとしか言いようがない

 

于吉「さて、邪魔な龍は排除出来た訳で、後は左慈が出てくるのを待つだけですが・・・・・」

 

左慈「俺がどうかしたか?」

 

于吉「っ!!?・・・・・これはこれは、全く気付きませんでした・・・・・」

 

振り向くとそこには、自らの相棒が立っていた

 

しかし、その様子は以前とはまるで違った

 

体の大きさは以前と殆ど変わらないが、大きくなっている

 

何がとは具体的に言えないが、何かが大きくなっている

 

それも飛躍的に、目の前に巨人が居るような錯覚に陥ってしまいそうなほどだ

 

于吉「・・・・・そのご様子だと、修行は上手く行ったようですね」

 

左慈「ああ、きついなんて生易しいものじゃなかったぞ、あの短い間に数年の拷問を受けたような気分だ」

 

于吉「あの部屋は、熟練の神仙でさえも発狂して逃げ出す様な代物ですからね・・・・・お休みにならなくても?」

 

左慈「休みなら取った、あの北郷に疲労しきった体で挑むほど愚かじゃない」

 

于吉「ならよかったです、もう北郷はそこまで来ていますよ」

 

左慈「分かっている、もう足止めは必要ないぞ」

 

于吉「しかし、神農様や他の方々も動いていらっしゃいますよ」

 

左慈「構わん、奴を殺せるのは俺だけだ」

 

于吉「分かりました・・・・・では私は、もう一人の客人をもてなしに参りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠「よし、あともう少しだ!!」

 

葵「あれを見ろ、一刀だ!!」

 

恋「ご主人様、今行く!!」

 

凪「隊長、加勢します!!」

 

足の速い者が先行し、遠目に白装束と戦う一刀の姿を確認した

 

さらに速度を上げ、あと50メートルといった所で

 

悠「うお!!?何だ!!?」

 

葵「こいつは!!?」

 

恋「っ!!!??」

 

凪「まさか、これはあの時の!!?」

 

突然、目前に赤い壁が出現する

 

その壁に阻まれ、停滞を余儀なくされる

 

そして、続々と後続も追い付いてきた

 

春蘭「おい、貴様ら何故止まっている!!?」

 

秋蘭「姉者、あれを見ろ!!」

 

華琳「っ!!??これは、まさか・・・・・」

 

雪蓮「これって、前に雷刀が使っていた、あれよね・・・・・」

 

桃香「そんな、そんな・・・・・」

 

かつて、雷刀が一刀を殺そうとした時に使った千刀戮功、それと同じ赤い壁が一同の行く手を阻んでいた

 

ただし、かつてのそれとは規模が違う

 

あの時は泰山の麓の一部だけであったが、今回のこれは泰山全体をすっぽりと覆い尽くしていた

 

おまけに雷刀が使ったものより赤みが濃く、質までもが上であった

 

恋「・・・・・ふっ!!!」

 

龍滅金剛刀を両手で持ち、その赤い壁に全力で振り降ろす

 

バチイイイイイイイイイイイイイ!!!!

 

恋「っ!!??」

 

しかし、その手応えに違和感を感じる

 

この龍滅金剛刀はエネルギーに関連するものなら何であろうと打ち消す力を持つ

 

それはたとえ神仙の技であったとしても例外ではない

 

確かに打ち消している感触はある、だが赤い壁はいっこうに消えない

 

葵「こいつは・・・・・打ち消した直後に復活しているのか!!?」

 

これではいかに龍滅金剛刀であろうと破ることはできない

 

ガキイイイイイイイイイイイン!!!!!

 

恋「ぐっ!!」

 

そして、あっさりとはね返されてしまった

 

音々音「そんな、恋殿が一刀の剣を使っても駄目なんて・・・・・」

 

それが何を意味するのか、否が応でも思い知らされてしまう

 

これが通用しなければ、他の者が何をしたところで結果は同じという事である

 

貂蝉「もしかしてこれも・・・・・」

 

卑弥呼「ああ、神農の仕業であるな・・・・・」

 

雫「あ、ああ!!一刀様、一刀様ああああああああああ!!!!!」

 

蓮華「こっちよ、こっちを見て!!!!一刀!!!!」

 

霞「一刀!!!!ウチら記憶戻ったで!!!!」

 

時雨「どうか、どうか謝らせて下さい、旦那様ああああああああ!!!!!」

 

声を張り上げ、力の限り壁を殴打し、こちらの存在を伝えようとする一同だった

 

しかし、その声も、音も、一切届かない

 

壁の中の一刀は、白装束を薙ぎ倒すのみだった

 

届かない、あと一歩という所で届かない

 

空しく響くだけの呼び掛けの中、管輅が戻って来た

 

純夏「あ、管輅!!ヴリトラはどうなったの!!?」

 

管輅「・・・・・・・・・・」

 

美羽「おい、答えるのじゃ!!」

 

彩「そうです、どうしたのかと聞いているのです!!」

 

七乃「ヴリトラさん、どうしちゃったんですかーー!!?」

 

管輅「・・・・・・・・・・」

 

眉間に皺を作るだけで、管輅は何も答えなかった

 

杏奈「・・・・・あの、ヴリトラ様が、いったい」

 

百合「はぁ、はぁ・・・・・何がどうなってるんですか〜?」

 

たった今追い付いてきた杏奈と百合は、状況が飲み込めていなかった

 

貂蝉「龍奈ちゃんが・・・・・死んだのよ・・・・・」

 

百合「ええええ!!!??」

 

卑弥呼「むぅ・・・・・神農に殺された・・・・・」

 

杏奈「そんな・・・・・ヴリトラ様が・・・・・」

 

自らの先祖の余りにあっけない最後に、杏奈は呆然自失だった

 

貂蝉「管路ちゃん、この結界、貴方の力で破れないかしら?」

 

管輅「・・・・・無理よ、これは神農様が張った結界、あのお方と同等かそれ以上の力を持つ者にしか破れないし、転移の術でも突破出来ないわ」

 

そして、そうこうしている間にも、一刀は泰山へと突き進んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「・・・・・ごめんな、じいちゃん・・・・・俺はじいちゃんとの約束を守れそうにない・・・・・」

 

ドカ!!バキ!!ドゴ!!ガス!!

 

気が抜けたかのような表情のまま、向かい来る白装束を薙ぎ倒していく

 

一刀「龍奈、すまない・・・・・俺もすぐそっちに行くことになりそうだ・・・・・」

 

ガキ!!ガキャ!!ガキャーーーーン!!!

 

白装束が持っている武器を全て素手で破壊していく

 

龍奈を死なせてしまった事

 

彼女の遺体を埋める事も叶わなかった事

 

その事実が、一刀の心の傷をより一層深くしていく

 

フシュウウウウウウウウウ

 

一刀「・・・・・・・・・・?」

 

そして、目の前の白装束に左回し蹴りを決めた所で、白装束達は音を立てて消えていく

 

左慈「久しいな、北郷」

 

一刀「・・・・・左慈?」

 

すると、泰山から左慈の声が響いてくる

 

左慈「俺を倒しに来たんだろう?いいだろう、受けて立ってやる」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

泰山から響いてくる左慈の声は、以前と違って落ち着いたものだった

 

しかし、その左慈の声にさえ、一刀は殆ど反応を示さなかった

 

左慈「俺はこの上の神殿にて待つ、登って来い北郷、決着を付けてやる」

 

そして、声は聞こえなくなった

 

一刀「違うな・・・・・俺はお前を倒しに来たんじゃない・・・・・」

 

泰山の頂上を眺める一刀の目は、死んだ魚のような目をしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                          お前に殺されに来たんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
失意、絶望、希死念慮
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コメント
またまた誤字報告ありがとうございます(Seigou)
(誤字) 地和「私も連れて行って下さい!!」恐らく人和の台詞かと(恋姫大好き)
そうですか。気長に待ちますがもし再開されるのでしたら阿修羅伝の完結をよろしくお願いいたします。果たしてどんな最後を迎えるのか凄く気になります。でもやっぱり最後は一刀が死ぬのかな?(恋姫大好き)
申し訳ありません、最近執筆時間が削られまくりでどうしようもありません、投稿出来るにしてもおそらく2か月は経たないと何ともならないのが現状です・・・・・(Seigou)
令和一発目の投稿はまだですか?(恋姫大好き)
追いついた 続きを楽しみにしています(長井碧哉)
孤高の御使い、復活超嬉しいけど、、、、龍奈・・・・。(堕天使レム)
流石に戦意喪失してんなー無理ないけど問題はそこではないが(未奈兎)
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孤高の御遣い 阿修羅伝 恋姫無双 恋姫†無双 北郷一刀 ファンタジー 

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