七夕さらさら |
七夕さらさら
さぁ〜さぁ〜の葉ぁ〜さ〜らさら〜♪
の〜きぃ〜ば〜に〜ゆ〜れる〜♪
お〜星さぁ〜まぁ〜キ〜ラキラ〜♪
金〜銀〜す〜なご〜♪
蜀の主君、北郷一刀は調子っ外れの歌を口ずさみながら、城外から取り寄せた立派な竹の手入れをしていた。
腰に手を当ててむにゃむにゃと考え事をし、時折ニヤリと破顔しつつ危なっかしい手付きでいらない枝を剪定していく。
珍妙な歌を歌いながら孟宗竹をわさわさ弄んでいる君主の姿を、蜀の武将・常山の趙子龍こと趙雲子龍(真名を星と言う)は、こそこそと物陰から観察していた。
…………?
……何やら、ひどく楽しそうなご様子……。あ、また鼻歌が始まった。
さ、さ、の、は……さらさら…?
ああ、笹の葉か。軒端に……揺れる……と。
お星様……きらきら?綺羅綺羅?輝く、煌く?と言う意味だろうか?
金、銀、すなご……砂子か。おお、なるほど。金砂、銀砂を指しているのか。
…………ふむ、我が主も中々に美しい唄を詠む。
『笹の葉が軒端に揺れ、金銀の砂子を撒いた様な美しい夜空』を詠っているのだな。
……はてしかし、何ゆえの笹の葉なのだろうか……?
星は再び主の姿に目を移す。一刀と言えば、剪定作業の終わった竹の木を満足げに眺めていた。
角度を変え、揺さぶってみたり振ってみたり。その一連の動作が終わると、はたと一刀は星の視線に気付いた。
「お、星。どうよこれ、立派な笹竹だろ?」
「いや、まぁ、はぁ。そうですなあ。……一体、その竹は何を?」
面妖な儀式か何かですかな?と呆れ顔で帰ってくる生返事を一刀は「儀式は酷いな」と否定する。
「天の国の行事でさ……ほら三日くらい前に、各人の願い事を書いて提出してーって短冊を渡したろ?」
「おお、そう言えばそんなものも書きましたな」
「その短冊を笹竹に飾り付けて、七夕の夜にそれを掲げて星に願いを祈るんだ」
「たなぼた?」
「たなばた」
「これは失礼。棚ぼたは主の必殺技でしたな」
「ひどくね!?それひどくね!?」
「詠に音々音、蒲公英、雛里……」
「ごめんなさい、俺の必殺技でした」
「ふむん、判れば宜しい。……と、話が逸れましたな。して、そのたなばたとは?」
「えぇと……七月七日の夜にやるその一連の行事の事を七夕って言うんだよ」
「……先月の七日の夜に、紫苑と桔梗殿が閨で行った様な夜討ち朝駆けですかな?」
「あれはどっちかって言うと明け方だったような……って違うわ!そんな色事行事じゃない!」
「これは失礼。我が主は毎夜毎晩のご所望でしたな。最早茶飯事でございました」
「最早日常茶飯事!?流石に毎日ではないけれども!……いや、ここんとこ毎日だけど!」
「流石に今朝は『桃香お姉ちゃんの部屋からおっきい声がしてびっくりしたのだ!どこかの刺客に襲われたのかと思ったのだ!(鈴々の声真似)』と鈴々がぼやいておりました」
「……スミマセン」
「まぁ、それは兎も角。その、たなばたとは、乞巧奠のような物……なのでしょうか」
「きっこうでん?」
「七本の針に五色の糸を通し、天への捧げ物を並べて女人の仕事であった手芸や裁縫……一様に言えば針仕事ですな。まぁ噛み砕いて言えば、その上達を願う行事です。古くは楚の国の方から伝わった風習の様ですが」
「へぇ、そんなのがあるんだ。……でも、何で針仕事?」
「さて……そこまでは存じませぬな」
「その針仕事というのは『古詩十九首』にある織姫さまの仕事になぞらえているのだと思われます」
短冊の入った箱を抱え、いつの間にか現れた朱里が説明を始めた。
「知っているのか、朱里」と、一刀と星が思わずハモる。この軍師殿は本当に何でも知っているなと二人は素直に感心した。
「説話による所の、西王母の娘である織姫さまと牛飼いの牛郎さんの伝承の事ですね。牛郎さんが、水浴びをしていた天女の織姫さまの羽衣を盗んで夫婦となるのですが、織姫さまはやがて天界へと帰ってしまいます。牛郎さんはそれを追って、盗んだ羽衣で天界に昇るものの、それを許さない西王母の怒りによって、二人は天の川の西と東へ引き裂かれてしまうのです……」
「羽衣を盗んだ挙句結婚を迫ると言うのも、牛郎凄まじきと言う話だが。……そう言えば旅の途中、湖南の都で観劇をやっていたような憶えもあるな。えぇと、……確か『天河配』とか、なんとか」
「そう、天河配です。いわゆる羽衣伝説という物ですね」
朱里は一刀の持っている大きな笹竹を「おおきな竹ですねー」と、背伸びして見上げた。
「羽衣伝説かー。話の掴みは似てるけどこっちで伝わってるのはちょっと違うかな?」
一刀は短冊の入った箱を朱里から受け取ってから「ありがと朱里」と、労うように頭を撫でた。
大人しい犬の様になすがままになでなでされている朱里は、はわはわとその幸せを堪能している。
それを見た星は「む」と静かに嫉妬の火を点した。
「こっち……いや、天の国の方だと、織姫の名前は変わらないんだけど、牛郎って人の名前は牽牛とか、まぁ、一般的には夏彦って名前になってるね。あと、西王母は出てこないかな。天の国の伝承を違う天の国の人間が説明するのも変な話だけど」
「はわわ、どんな話になっているんですか?」
「えーっと、確か……織姫は天帝の娘で、機織の上手な働き者。対して、身分は低いけれども夏彦も良く働く人だった。織姫と夏彦はお互い好き合ってたんだけど、如何せん身分が違いすぎる。けどまぁ、その良く働く姿を見て天帝は織姫と夏彦の結婚を認めたんだ」
「愚直な愛が身分という垣根を越える……素晴らしき恋物語ですな」
「はわ、憧れます……」
「だけど……」ふぅと息をついて一刀は続ける
「悲しきかな、二人は結婚生活が楽しくて仕事をしなくなってしまったんだ。織姫は機を織らなくなって、夏彦は牛を追わなくなってしまった」
「むぅ……。判る気もするが、与えられた使命を省みぬのは愚かしき事ですな」
「これに怒った天帝は、二人を天の川を隔てて引き離してしまったんだ」
「罰を、お与えになったんですね……?」
「うん。これによって二人は悲しみに暮れた。以前のように仕事をするようになったんだけど、織姫の織る機は悲しい色ばかりになり、夏彦の追う牛は元気の無い牛ばかりになってしまった」
「はわわ……」
「でも、流石にこれはまずいと思ったのか、天帝は二人に年に一度だけだったら合ってもいいよ、と許可したんだ。それが七月七日、七夕になったんだよ」
「年に一度とは……。罰とはいえ天帝も度量が狭い」
「で、でも!私は……私だったら、ずっと会えないよりも一年に一度でも会いたいと思います!」
朱里は両拳を強く握り締めて一刀を見る。星は目を伏せ、小さく笑った。
「私でしたら、そうですな……。如何程の距離があろうとも、如何程の困難があろうとも、一直線に主の下へ駆けて参ります。例えそれが雲霞の如き敵軍の只中を駆ける事になっても」
星はすすすと一刀へ擦り寄り、身を預けるようにしな垂れかかる。
そしてニヤリと朱里を挑発するように意地の悪い笑顔を見せた。
「はわわ、星さん!?……むー!私だって、どんな策を使ってでもご主人様の所へ参じます!絶対に勝てない戦が目の前にあったとしても、恒河沙の如き敵軍船団が攻めて来ても、必ずひっくり返してご主人様の下へ参ります!」
そう言って、朱里も負けじと一刀の腕を抱いて対抗した。
「お、おいおい二人とも……」
美女二人に両脇を固められ、困った顔をしている一刀に星は悪戯っぽい笑みをたたえ向き直った。
「おやおや。我が国は織姫がそれこそ星の数ほどおりますなぁ。さて牛郎は、今宵の七夕はどの姫をお選びになる事やら」
くつくつと、本当に楽しそうに星は笑っている。朱里も意図を察したのか、釣られて笑った。
一刀は一瞬の悩みもなく、星と朱里を二人まとめて抱きしめた。
可愛いなぁ、うちの姫たちは、全くもう!
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数年前に書いたものが出てきました。 七夕のお話です。 |
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