東方百合事記2〜輝夜v影狼〜
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迷いの竹林に遠吠えが響く。それは犬とも違い狼とも少し違った不思議な

鳴き声。私はその声の元が気になって永琳に気付かれないようにこっそりと

屋敷から抜け出した。

 

夜、ちょうどいい風が竹林の葉を揺らし満月が星空から覗かせている。

さっきまで雲がかかっていたのが嘘かのように晴れ晴れとした

星空の下、私は飛びながらゆっくり遠吠えが聞こえる場所まで近づく。

 

道中、妖精たちが怯えながら竹林の傍で隠れていたのを目にする。

向かう先には何がいるのだろうか。

 

不安よりも好奇心の方が強い私は徐々に速度を上げて進んでいった。

 

私には失うものは何もない。命さえも。

だから怯えていたって仕方ないんだ。周りの知り合いさえいてくれれば。

 

___

 

ウォォォォォン…。

 

 私が現場について目にしたのは悲しげに満月を見ながら吠える

人型の狼の姿を見かけた。所謂、狼男といったところか。

 

「!」

 

 私の気配を察した狼男は興奮した様子で私を見るやものすごい勢いで

襲いかかってきた。私も思わず懐にしまっていた宝具を使って迎撃することに。

七色の珠の枝が光輝き複数の弾が飛び出して目の前にいる狼に

全弾命中して。たまらず呻きながらよろめくが倒れはしなかった。

 

「なんてタフなのかしら」

「グルルルル」

 

 護身用に持ってきてよかった。向こうも冷静じゃないようだし思い切り

ぶちのめしてみようか。幸い相手は妖怪、肉体的には頑丈なはずだから。

 

 私は想像して組み立てた弾幕を目の前の狼男に向かって放った。

相手は激昂しているのか避ける素振りはなくほとんどの弾を浴びて

いつしか地に伏したのを確認したら私は狼男の傍まで近寄った。

 

「いきなり襲ってきたあなたが悪いんだからね」

 

 気絶してるであろう相手に言い訳めいたことを呟いた私は月明かりに

照らされた姿を見て驚いた。

 

 狼男じゃなくて・・・狼女でした。

 

___

 

「ん…」

「起きた?」

 

 少し離れた場所に川があったから掬えるような形をしたのを拾って

水を汲んで狼女の顔に向かって思い切りかけた。

 

 いきなり冷水をかけられて目を覚まし、私と辺りを見回して軽くパニック状態に

陥っていた。

 

「え、私なんでこんな所に」

「記憶ないの?」

 

「えぇ、曇っていたからちょっと出かけようとしただけなんだけど」

「あぁ、今は満月が出てるものね」

 

「あぁ…また見ると変身しちゃうわ・・・」

 

 あからさまに嫌そうな顔をして満月を見ないように俯く狼女。

 

「変身すると何がそんなに嫌なのかしら?」

「だって理性が保てないし、何より毛深くなるのがたまらなく嫌なんだもの」

 

「あはは、嫌なところはそこなの?」

「当たり前でしょ!無駄毛処理するの大変なんだから!」

 

 こうやって部下や好敵手とは違う関係で会話するのはあまりない。

たまに人里に下りて子供やお年寄りと構うこともあるけれど。

妖怪やこの年頃の人間と触れるのは実に稀なことである。

 

 この人間のような妖怪と一緒にいてみたいと何となく思った。

けれどこの場でずっといるわけにはいかない。

彼女ももう少ししたら帰ろうとするだろうし。

 

「ねぇ、私の家この近くだから泊まっていかない?」

「でも…」

 

 いきなりの誘いに警戒する狼女。そんな彼女に私は笑いながら話しかける。

 

「だって服もぼろぼろだし、一度きちんとしたほうが気持ちいいでしょ」

「まぁ・・・」

 

「大丈夫、悪いようにはしないわ」

「じゃあ・・・お願いします」

 

 疲れて飛ぶことのできない狼女は私と一緒にしばらくの間、徒歩で

竹林の中を歩く。一定の距離には永遠亭の結界の名残が残っていて

それを頼りに戻ることができる。結界自体の効果は既に失ったけれど。

 

「貴女、人間なのに私が怖くないの?」

「んー、人間といえば人間だけど、私はもう人間ではないの」

 

「どういうこと?」

「蓬莱人って知ってる?」

 

「あー…。他の妖怪から聞きましたが…不老不死だとしか」

「それで十分」

 

「貴女が…そうなんですか」

「あら、貴女はそれを知って襲いかからないのね」

 

「興味ありませんし…それに今力残ってませんし」

「それもそうよね」

 

 二人で笑いながら歩いていると、私は振り返って狼女の

目を見ながらニコッと微笑みを浮かべて言った。

 

「私は輝夜。蓬莱山輝夜。貴女は?」

「影狼です。今泉影狼」

 

「影狼か・・・。ねぇ、もしよかったらまたいつか変身した姿見せてほしい。

いつでもいいから、ね」

「輝夜の寿命まで待てるのかしら…あ、でも貴女は蓬莱人だから

問題ないか」

 

「そういうこと」

 

 月の姫、蓬莱人。忌み嫌われる存在だけれど、その感情を彼女は

まだ植えつけていられなかった。それが何だかうれしくてつい連れてきて

しまった。

 

 永琳は怒るだろうか。黙って妖怪の友人を作ってしまったことに。

それとも呆れるだろうか。どっちにしても珍しいことには違いない。

しばらく、影狼が私から離れるまでの間。相手になりたかったのだ。

 

__

 

「輝夜!」

 

 時間をかけて帰った頃、まだ夜も明けていない時間帯なのに

屋敷に戻った直後に永琳の雷が落ちてビクッとなった。

 

「あの・・・これには訳が」

「ん?」

 

 私の後ろにいる影狼を見てからため息を吐いて呆れていた。

 

「ご、ごめんなさい・・・私帰ります」

 

 影狼が申し訳なさそうに言うと、永琳は彼女の手を取って引っ張った。

 

「そんな姿で帰すわけにはいかないわ。お風呂でも入って、着替えも

用意するから。落ち着いたら家へ戻りなさい」

「あ、ありがとう・・・」

 

「ふふっ」

 

 二人のやりとりに私は声を漏らすように笑った。

妖怪には珍しい消極的なタイプ。増々私は彼女が気にいってしまった。

お風呂に入りにいった影狼を見送ると、後ろから永琳に声をかけられた。

 

「戯れるのもいいけど、相手は妖怪よ。気をつけなさいよね」

「何を気を付けるの?」

 

「襲われたりとか血吸われたりとか」

「私は死なないし、どうせ血を得たって何にもならないのに?」

 

「それでも私は輝夜に危害を加えられるのは嫌なのよ」

「ふふっ、ほんと永琳は心配性ね」

 

 言われて早々、お風呂場にいる影狼で勝手がわからなくて

困っているかもと思って更衣室の中へと入っていった。

その時、永琳から大きなため息が漏れるのを聞いたが

構わず私は進んでいくのだった。

 

 ガラッ

 

「どう、大丈夫?」

「きゃあ!」

 

 私が入ってくるのを確認して思わず手で体を隠す影狼の姿。

 

「そんな悲鳴あげて。変質者じゃないんだから」

「ご、ごめん・・・」

 

「勝手がわからないと困るかなって思って来たんだけど」

「輝夜の言う通り、ちょっと困ってたところ・・・」

 

 慣れない環境の中一人で何かをするのは戸惑うものである。

私は影狼に一声かけてから服を脱いでもう一度風呂場へと入る。

影狼の肌は張りがあって綺麗でほどよく引き締まった肢体が

目に留まる。

 

「もう、どこ見てるの」

「ご、ごめん・・・」

 

 ハネのある黒髪はごわごわしているも艶があって犬耳のように

形作っているのが本当に犬の娘のようでかわいらしかった。

そういう気持ちになるのも少し怯えている様子が更に拍車をかけている

ことは間違いない。

 

 徐々に外の色が白けていくのを感じながらお湯をかけて温めながら

永遠亭で作られているシャンプーを影狼にかけて髪の毛が指に

引っかからないようにゆっくり丁寧に洗っていく。

 

「変わった香りね」

「ウチ特製のだからね」

 

「輝夜ってここのお姫様なの?」

「どうして?」

 

「この辺に歩いていた兎がそういう話をしていたから」

「そう」

 

 私はいつも通りのことだから気にしてはいなかったが、影狼のほうが

意識してしまっているのか私に問いかけてくる。

 

「私もしゃべり方直したほうがいいかな?」

「いいのよ、貴女はお客さんだし。無理に変える必要はないわ」

 

「・・・」

 

 それっきり黙り込んで私に髪と体を洗わせてくれた。

その後。一緒に湯船に浸かってまったりと体を休ませていく。

 

「ふはぁ・・・」

「そういえば影狼は狼なのにお風呂って大丈夫なの?」

 

「うん、大好き。というか、入らないと体臭が犬臭くて嫌なのよね」

「変わった妖怪ね、あなたは」

 

「あはは、よく言われる」

 

 広い湯船に足と腕を伸ばして気持ちよさそうに入る姿を見て

私は薄く微笑みを浮かべた。これだけ自分に素直に生きられたら

どれだけ気楽だろうかと。

 

「よかったら、またおいで」

 

 お風呂に時間をたっぷり使い、髪を乾かしたり、食事の時間をとったり

してもあっという間に経ったような気がした、昼少し前の時間帯。

 

 ほかに彼女を引き留める理由もないから名残惜しいけれど私は

外まで彼女を見送ることにしたのだ。

 

「・・・」

「どうしたの?」

 

 黙って俯く影狼に声をかけると、顔を上げるのと同時に腕を引っ張り

影狼は走っていく。引っ張られている私は彼女の後を追うような形で

走り続ける。

 

 飛ぶのは慣れてるけど、走るのは苦手なのだ。

・・・長いこと運動らしい運動をしていないから。

 

「ハァハァ、どこへ行くの?」

「この辺彷徨ってた時にいいとこ見つけたんだ。輝夜になら教えてあげる」」

 

 狼の時とは違うような吠え方をしているのを見てテンションが

高くなってることが窺えた。

 

 知らない道順を辿った先には、竹林の中にあるとは思えない

花たちが咲いている。小さな花畑といった感じである。

 周りに竹林が囲むようにしており、不思議な光景を目の当たりにした。

 

 楽しそうに笑って、私もつられて同じような表情を浮かべる。

花畑の上に二人で横たわると儚く飛び散る花びらが美しかった。

だが、それまで楽しそうにしていた影狼から笑顔が消えて

話を始めた。

 

「私こんなんだから、同族からはあまり好かれてなくて。

これだけ仲の良い相手ができたのは初めてだから・・・」

「影狼・・・」

 

「私でよければ友人になってくれませんか?」

「何言ってるの」

 

 伸ばしてくる影狼の手を私はしっかり両手で掴んで強めの言葉で

返した。

 

「私達、もう友達でしょ」

「輝夜・・・」

 

 育む時間なんて関係ない。短い間でもどれだけ触れ合って互いのことを

思い、考えることが重要なのだ。

 

「輝夜・・・」

 

 何度も私の名前を呼んで少し目に涙が浮かんでくるのを見たら

私は思わず彼女を抱きしめていた。

 

 綺麗好きの彼女からしたら同族の妖怪たちはさぞ無精なんだろうと

想像できた。彼女の固い髪質をした髪の毛を撫でながら言った。

 

「また遊びにおいで。なんだったら私から遊びにいくから」

「かぐやぁ・・・」

 

 友達を通り越して別の感情も芽生えそうだったから一度離す。

結果どういう関係に収まるかはわからないけれど私は影狼を

大事にしたかった。

 

 強がるところはあっても繊細で臆病で一人で生き抜くには厳しいだろうから。

竹林で起こった不思議な出会いは永遠を生きる私に一つの楽しみをくれた。

友、家族だけではなく。敵もすべて。私に関わるものは大事にしていきたい。

そして思い出にしていきたいのだ。

 

 月や罰として落とされた場所ではできなかったことを。

私はしていきたいから・・・。

 

「またね」

 

 どっちからかその言葉を発して私の目の前から影狼は消えた。

笑顔で・・・。結局影狼の居場所は聞けなかったが大したことはない。

またいつかどこかで会えるだろう。

 

 お互いにその気持ちがあれば。それでいい。

さわやかな風に乗って花の香りが私の鼻を刺激する。

 

「いい風ね」

 

 香りを吸って深呼吸をしてからゆっくりと私は永遠亭へと戻っていった。

永琳、自由って素敵ね。

 

 そう隣には誰もいないけれどそう思った。生まれた頃から何一つ

不自由はないけれど、行動の自由も一切なかった。

 

 大変だったけれど、永琳が私に自由を教えてくれた。

巫女たちから幻想郷のことを教わってから私の人生が始まったようなものだ。

 

 2000年以上の歳月を得て私は生まれ変わったようになった。

最初は何をすればいいのかわからず引き篭もっていたけど、

周りからの道標のおかげで少しずつ前へ踏み出せる。

 

 最近の私の行動力に妹紅もびっくりしていると聞く。

知り合い友人もいっぱいできた。まるで夢のように嬉しい日々。

 

ガラッ

 

 考えているうちに永遠亭の前にたどり着き兎たちが私を見て

嬉しそうに声をかけてくれている中、私は扉を開いて。

 

「ただいま、永琳」

 

 中にいる愛しい人たちの名前を呼んだ。

愛しい人、その中にあなたも入っているのよ。影狼・・・。

 

説明
ブログで書いてたもの。本文のちに自分自身おしゃれの意識に欠ける
輝夜とそれを世話する影狼の姿があったりなかったり。
百合というか友情に近いものが…ここからの百合もいいですよね(必死
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東方project 今泉影狼 蓬莱山輝夜 

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