英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜 |
レグラムに到着したアリサ達はロジーヌと共にレグラムの聖堂に向かい、聖堂の中へと入って祭壇に近づくと聖堂内に設置されている長椅子に座っている人物が立ち上がってアリサ達に声をかけた。
〜七耀教会・レグラム聖堂〜
「やあ、お待ちしていましたよ。この時点を持って事態は”封聖省”へと移管しました。こちらの聖堂に勤めている神父やシスターの皆さんには外してもらった次第です。」
「へ…………」
「…………貴方は…………」
「ハアッ!?」
「…………なるほど。そういう事だったのね。」
立ち上がった人物――――――自分達にとってあまりにも見覚えがある人物を見たマキアスは呆け、ユーシスは真剣な表情をし、セリーヌは驚きの声を上げ、サラは疲れた表情で溜息を吐いた。そして件の人物は祭壇の前に移動してアリサ達と対峙した。
「えええええっ!?ト、トトト、トマス教官!?」
「という事はオレ達と会って話したいというロジーヌの”上司”である星杯騎士団の副長はトマス教官だったのか…………」
「ハハ…………道理でワジ君がZ組の諸君の事についてよく知っていた訳だ。」
「まさか生徒ばかりでなく、教官にまで”星杯騎士団”の関係者が紛れ込んでいたとはな。」
件の人物――――――トールズ士官学院で歴史を教えていたトマス・ライサンダーを見たエリオットは信じられない表情で声を上げ、ガイウスは呆け、オリヴァルト皇子は苦笑し、ミュラーは重々しい様子を纏って呟いた。
「ふふっ…………ロジーヌ君。お疲れさまでした。念のため玄関をお願いします。」
「はい、副長。――――――それではごゆっくり。」
トマスの指示に頷いたロジーヌはその場から立ち去った。
「…………ホントにトマス教官が”星杯騎士団”の”副長”だったんだね。正直、今でも信じられないけど。」
「ハア…………完全に一杯食わされたわね。」
ロジーヌが立ち去るとフィーは苦笑しながらトマスを見つめ、セリーヌは疲れた表情で溜息を吐いた。
「それでは改めまして――――――封聖省、星杯騎士団の副長を務める守護騎士(ドミニオン)第二位、”匣使い”トマス・ライサンダーと申します。改めて、お見知り置き願います。」
「フム、ならば次は妾の番かの。」
「え…………」
「ハ…………?」
トマスが名乗った後に突如辺りに少女の声が響き渡り、声を聞いた仲間達が驚いてそれぞれ周囲を見回している中声に聞き覚えがあるエマとセリーヌが呆けると金髪の少女が突如転移魔術で空中に現れ、トマスの隣に着地した!
「あ、貴女は一体…………」
「”転移”の類で現れ、そして”彼女達”の反応を考えると”魔女”の一族の者か?」
突如現れた謎の少女の存在にアリサが困惑している中少女の正体を察したアルゼイド子爵は真剣な表情で少女に訊ね
「ふふっ、さすがは”理”に至った帝国最高の剣士――――――”光の剣匠”じゃの。お初にお目にかかる。”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”が長、ローゼリア・ミルスティンじゃ。エマの祖母にしてセリーヌの創り手、ヴィータの師でもある。ロゼと呼んでもよいぞ。」
「なあっ!?”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”の”長”…………しかもエマ君の祖母で、クロチルダさんの師匠!?」
「もしかしてロジーヌが言っていたトマス教官がオレ達に紹介したい人物というのは…………」
「ええ、彼女の事です。」
少女――――――”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”の長にしてエマの祖母である”緋”のローゼリア・ミルスティンはアルゼイド子爵の鋭さに感心した後自己紹介をし、ローゼリアの事を知ったマキアスは驚き、目を丸くしたガイウスの言葉にトマスは頷いた。
「エマのおばあちゃんって…………幾ら何でも若すぎない!?」
「正直”祖母”ではなく”母”と言われても信じられない程若い――――――いや、幼い容姿だぞ。」
「ア、アハハ…………」
「言っておくけど見た目は幼くても、ロゼは数百年は生きているわよ。」
ローゼリアの容姿を見て驚いているアリサや困惑しているユーシスの言葉にエマが苦笑している中、セリーヌはジト目で答え
「数百年…………という事はまさか貴女は”獅子戦役”の生き証人なのですか!?」
「うむ。ちなみに当時のドライケルスとリアンヌが”騎神”を手に入れられるように導いたのも妾じゃ。」
「という事は貴女はドライケルス大帝達ともお知り合いだったのですか…………」
「しかもかの”槍の聖女”たるサンドロット卿まで”騎神”の”起動者”であったとはな…………」
「フム…………”星杯騎士団”の副長と”魔女”の長というそれぞれ異なる勢力のトップクラスの人物が揃って私達に何らかの”事情”を教えてくれるようだが…………貴女達は一体”何を”私達に教えてくれるんだい?」
ローゼリアが数百年生きている事を知ってある事実に気づいて信じられない表情をしているラウラの問いかけに答えたローゼリアの答えにアリサ達がそれぞれ血相を変えている中ミュラーとアルゼイド子爵は真剣な表情でローゼリアを見つめ、オリヴァルト皇子は真剣な表情でローゼリアとトマスに訊ねた。
「…………そなたらにこの場に集まってもらったのは他でもない。”魔女”と”教会”の協力関係とその背景について教えるためじゃ。」
「なるほど、そういうことか…………」
「フム…………だが、確か魔女は教会と対立してるんじゃなかったのかい?」
ローゼリアの答えを聞いたサラは表情を引き締め、アンゼリカは真剣な表情でエマに訊ねた。
「ふふっ、私達も別に女神を信じていないわけではありません。スタンスの違いはありますが、過去、何度も協力してきたそうです。」
「例えば250年前の獅子戦役や200年前の吸血鬼事件…………A班の皆さんがかつて帝都の地下で戦った骨の竜の大元である暗黒竜の事件である800年前の事件も教会と魔女は協力して解決したそうです。」
「といっても全部そこのロゼがしゃしゃり出ただけだけど。」
「え――――――」
「そ、その全てに貴女が関わっていたんですか…………!?」
エマとトマス、セリーヌの説明を聞いた仲間達がそれぞれ血相を変えている中アリサは呆けた声を出し、トワは驚きの表情で訊ねた。
「先程彼女自身も軽く説明しましたが、伝承によるとドライケルス陣営には聖女の他に”善き魔女”がいたそうです。そして『赤い月のロゼ』においては教会に所属するシスターにして、吸血鬼の真祖として描かれていた…………」
トマスが説明するとその証拠を見せるかのようにローゼリアは不敵な笑みを浮かべて自身の口に生えている牙をアリサ達に見せた。
「――――――全て”彼女”ですよ。まあ、見た目は少々違いますが。」
「……………………」
「ロ、ローゼリアさんって一体何歳なんですか!?」
トマスが説明を終えるとマキアスは驚きのあまり口をパクパクさせ、エリオットは信じられない表情で訊ねた。
「およそ800歳といった所じゃ。――――――まあ、妾だけが特別で他の魔女たちは普通の人間じゃ。”焔の至宝”を受け継いだ一派の末裔であるという以外には。」
「”焔”の至宝だと…………!?」
「リベル=アークや、クロスベルに現れたという”碧の大樹”の元となった”幻の至宝”と同じ、かつて女神(エイドス)が授けたという、七つの至宝(セプト=テリオン)か。」
「どうやらここからが本題みたいですね。」
ローゼリアの説明を聞いたミュラーは驚き、オリヴァルト皇子は静かな表情で呟き、サラは真剣な表情でローゼリアを見つめた。
「…………本来なら、今からする話をヌシ達にも話すのはもっと後の予定だった上ヌシ達だけでなく現代の”灰”の”起動者(ライザー)”にも説明しておきたかったのじゃがな…………」
「あ……………………」
「おばあちゃん…………その…………リィンさんの事なんだけど…………」
疲れた表情で溜息を吐いたローゼリアの言葉を聞いたアリサは呆けた声を出した後辛そうな表情をし、エマは辛そうな表情でローゼリアを見つめ
「現代の”灰”の”起動者”の状況もそこの星杯騎士団の副長からも聞かされておるから、灰の小僧がヌシ達から離れて異世界の大国の軍に所属している件も既に知っておる。」
「…………リィン君達の事については、何の御力にもなれず、本当に申し訳ございませんでした。元々七耀教会もメンフィル帝国政府の動きに詳しい伝手がない上、メンフィル帝国自身も七耀教会とは距離を置いた関係を保ち続けていた為、リィン君達の件について完全に後手に回ってしまったのです…………内戦の最中にメンフィル帝国がユミルの件でエレボニア帝国に2度も賠償を求めた事を考えると、内戦が終結した後にエレボニア帝国に対して何らかの行動を起こす事までは想定していたのですが、まさか内戦終結から僅か数日以内にリィン君達をエレボニア帝国から離すとは想定外でした…………」
ローゼリアは重々しい様子を纏って呟き、トマスは申し訳なさそうな表情で謝罪した後複雑そうな表情を浮かべた。
「その件に関してはエレボニア帝国政府やエレボニア皇帝である父上の責任だから、貴方まで責任を感じる必要はないよ。――――――それよりも、どうか教えて欲しい。星杯騎士団(あなたたち)や魔女の一族の事や、それが今のエレボニアの状況とどう関係しているのかを。」
静かな表情でトマスに慰めの言葉をかけたオリヴァルト皇子は表情を引き締めて二人を見つめた。
「――――――さて、どこから整理して話したものか。」
「…………おばあちゃん。ここからは私達も知らないわ。」
「端折ったりしないでちゃんと説明しなさいよね。」
「そうですね…………ではローゼリアさん、交互に話していくとしましょうか。」
「うむ、そうしてくれると助かる。」
トマスの提案にローゼリアが頷くとトマスが説明を始めた。
「君達も気づいているようですが…………現在、このエレボニアにおいては”表”と”裏”が連動しています。政治の乱れ、戦乱の兆しのようなものを霊脈がダイレクトに受けている訳ですね。それが幻獣といった亜次元に属する高位魔獣を出現させているのでしょう。」
「やはりそうだったのですか…………」
「ちなみに魔煌兵というのはどういう事情で現れたんですか…………?」
トマスの説明を聞いたエマが納得している中新たな疑問が出たマキアスは質問し
「魔煌兵が暗黒時代のゴーレムという事は聞いていると思うが…………当時のエレボニアの魔導師どもが”騎神”に対抗するために造った亜次元兵装と言える存在でな。内戦時、何らかの影響を受けて蘇って顕れたものと考えておる。」
「そんな事が…………」
「だが、エレボニアに幻獣が顕れたことも含め、辻褄は合っていそうだな。」
マキアスの質問に答えたローゼリアの説明を聞いたエリオットは不安そうな表情をし、ユーシスは重々しい様子を纏って呟いた。
「結社はどうなのかしら?『幻焔計画』とやらと何か関係があるのだと思うのだけど。」
「――――――どうやら結社は数年前、エレボニアに何らかの変化をもたらすためにクロスベルに協力したようですね。ちなみにクロスベルの”幻の至宝”は人によって再現された”別物”――――オリジナルよりも強力だったそうですが結社は興味を示さなかったようです。」
「――――――恐らく彼らの狙いはオリジナルの二つの至宝じゃろう。かつてこの暗黒の地(エレボス)に存在した”焔”と”大地”のな。」
「”焔”と”大地”…………」
「リベールの”空”、クロスベルの”幻”に対してエレボニアでは二つも至宝が…………」
「ハハ…………エレボニアに二つも至宝が存在するのだったら、エレボニアとほぼ同じ規模だったカルバードにも至宝が二つ以上あるかもしれないね。」
「…………洒落になっていないぞ。」
ローゼリアが口にした新たな驚愕の事実にフィーとサラは真剣な表情で呟き、疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子の推測を聞いたミュラーは複雑そうな表情で指摘した。
「ま、待ってください…………!エマたち魔女が”焔の至宝”を授かった人々の末裔だというなら…………」
「”大地の至宝”を授かりし者たちの末裔も存在するはずだが…………」
「その”大地の至宝”を授かりし末裔は何者なんですか?」
ある事に気づいたエリオットの言葉に続くようにガイウスは静かな表情で呟き、アンゼリカはローゼリアに訊ねた。
「”大地の至宝を授かりし末裔”は”地精”という者達じゃが…………今は”黒の工房”と名乗っているようじゃの。」
「ええっ!?く、”黒の工房”が…………!?」
「まさかここで”黒の工房”が出てくるとはね…………」
ローゼリアの答えを聞いた仲間達がそれぞれ血相を変えている中アリサは信じられない表情で声を上げ、サラは厳しい表情で考え込んでいた。
「ちなみに女神の至宝には見届けのために”聖獣”が遣わされているという共通点がある。リベールでは古竜、クロスベルでは神狼、…………エレボニアでも二柱の聖獣がいたのじゃ。1200年前の”大崩壊”の後、二つの至宝と共に消えてしまったが。」
「…………まさに核心部分か。」
「二つの至宝、それを受け継ぐ人々、そして二柱の聖獣…………至宝と聖獣は消え、人間達はそれぞれ名を変えた…………」
「一体――――――1200年前のエレボニアで何があったのだ?」
「ならば語るとしよう――――――1200年前の神話にして真実を。」
「ここからは私達にとっても若干、憶測交じりの話となります。そのつもりで聞いてください。」
そしてトマスとローゼリアは1200年前の真実と憶測を始めた。
――――――始めに二つの至宝があった。猛き力を秘めし至宝、”アークルージュ”。靭(つよ)き力を秘めし大地の至宝、”ロストゼウム”。共に巨大な”守護神”の形を取り、人の子に奇蹟と恩恵をもたらした。数百年の間、エレボニアの地においてそれぞれ繁栄を謳歌していたが…………ある時期から、授かった人間同士が相争うようになってしまったのじゃ。
二つの至宝は人の望みを聞き届けてついに直接、ぶつかり合う事となった。齎(もたら)されたのは大災厄――――――大地が震え、天が引き裂かれるほどの天変地異だったそうじゃ。人間達が後悔しても最早止まらず、千日におよぶ戦いは地上を暗黒の焦土と化し、最後に至宝同士の争いは終焉を迎えた。――――――ただし相討ちという形で。力尽きた至宝の抜け殻はそれぞれ遠くへ飛ばされ、暗黒の大地にようやく静寂と光が戻ったのじゃ。…………じゃが、話はそれで終わりではなかった。
二つの至宝の”力”が最後の衝突で融合…………全く新たな”存在”がこの世に生まれてしまったのです。それこそが”巨イナル一”と呼ばれる”鋼”。”焔”と”大地”が錬成されることで誕生してしまった超越的な存在でした。すぐに暴走はしなかったものの、内部で無限の自己相克を永劫に繰り返す、究極にして不安定な”力の源”…………生き延びた人々は悟ったそうです。これは人の手に負えるものではないと。
――――――それぞれの聖獣の力も借り、”焔”と”大地”の眷属たちは協力して”巨イナル一”を封じる事にした。しかし試みは悉く失敗し、最後に試されたのがある方法じゃった。上位次元において”巨イナル一”としての本質を保ったまま、現実世界では複数の”個”として存在する。そんな仕組みで災厄を卸そうとしたのじゃ。
結論から言うと、試みは成功し――――――大地の眷属が七つの器を用意し、焔の眷属が力を分割して宿すことで”彼ら”は造り出されました。
すなわち七体の騎士人形――――――”騎神(デウス=エクセリオン)”を。
「な、何という…………」
「想像を絶する話ね…………」
「…………私も断片的には聞かされていましたが…………」
「よもやそこまでの事が1200年前に起きていたとは…………」
「ハハ…………まさかエレボニアにそのような真実が隠されていたとはね…………”騎神”誕生の経緯をエイドス様が知れば、恐らく自身の望みとは違う結果――――――それも悪い意味の結果を出した人々である私達エレボニアの人々に対して”怒り”を抱くかもしれないね…………」
「オリビエ…………」
「……………………」
二人が話した壮絶な歴史にラウラは信じられない表情をし、サラは重々しい様子を纏い、エマは不安そうな表情で呟き、ガイウスは静かな表情で呟いき、疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子の言葉を聞いたミュラーは辛そうな表情でオリヴァルト皇子を見つめ、アルゼイド子爵は目を伏せて黙り込んでいた。
「…………そ、それでその後どうなったんですか!?」
「どうしてヴァリマールや他の騎神が戦う事になったんですか…………?」
一方エリオットは血相を変え、トワは不安そうな表情で訊ねた。
「うむ――――――ここまではあくまで伝承として残った部分じゃ。そして焔の眷属は”魔女”と、大地の眷属は”地精”と名前を変えた。不安的な究極の力を7つに分割し、管理することに決めた両者は、協力して大崩壊後の復興を見守った。ちなみに、両派の大部分の者達は眷属としての役目を捨ててな…………互いに融合し、周辺民も受け入れ、エレボニアの基礎が作られていった。」
「エレボニアに七耀教会が布教されたのもこの頃からになりますね。――――――そして300年が過ぎ、ヘイムダルの地でアルノール家の祖先がささやかな都を築いた頃…………突如として帝都に暗黒竜の災厄が発生したのです。」
トマスが口にした新たなる驚愕の事実にアリサ達が再び血相を変えて驚いている中トマスとローゼリアは話を続けた。
900年前の帝都ヘイムダル――――――当時わずか五万人の小都市でしたが文明復興の重要な拠点のひとつでした。七耀教会の聖堂も築かれ、更なる発展を遂げようとしたその時。突如として暗黒竜が出現することで帝都は瘴気に包まれ、死都と化しました。時の皇帝アストリウスは民を率いて南に落ち延び、セントアークの地に仮の都を築くことになります。
その災厄による混乱の中――――――脱出を助ける為、魔女と地精たちは互いに深刻な痛手を受けた。魔女は先代の”長”が命を落とし、地精はこの時”聖獣”を喪ったのじゃ。こうして両者の交流は完全に断たれ、最後に接触があったのは百年後――――――”緋の騎神”を起動したヘクトル帝が暗黒竜を倒して帝都を取り戻した時じゃった。促したのは地精の長で、導いたのは新たな魔女の長――すなわち妾であった。
しかし暗黒竜の瘴気で皇帝は命を落とし、”緋”は呪われた騎神となり―――世継ぎの皇子の立会いの下、最後に妾と地精の長によって皇城地下に封印されることになった。――――――しかしそれが最後じゃった。如何なる理由か、地精たちは魔女(われら)に決別を宣言して完全に姿を消してしまう。それから800年間―――エレボニアで戦が起きるたびに騎神は姿を現し、超越的な力を振るって姿を消していった。地精たちの関与は間違いなかったが我らに阻止する術はなく、起動者を正しく導くという対処に徹するしかなかった。
―――それが極まったのは250年前の”獅子戦役”じゃ。偽帝オルトロスが甦らせた”緋”にルキウス皇子の傭兵が起動した”紫”。そしてドライケルス皇子の”灰”―――――聖女リアンヌが隠し持っていた”銀”。4体の騎神が出現した大戦じゃったのじゃ。
「つ、突っ込みたい所だらけですがそもそもの前提として…………」
「やっぱりエマのおばあちゃん、獅子戦役の時にもいたんだ。」
「うむ、皇子の導き手としてドライケルス陣営に同行しておった。ちなみにその頃の妾は相当ないすばでーじゃったからな。後世の絵画などでの描写が偽りだったということではないぞ?」
「コホン…………先程言ったように”魔女の長”は普通の人間ではありません。」
「とある理由で”不死”の存在になって一族を見守り続けているのよね?」
マキアスとフィーの質問に答えた後余計な情報を口にしたローゼリアの言葉に仲間達が冷や汗をかいて脱力している中エマは気を取り直して説明を続け、セリーヌはローゼリアに確認した。
「うむ――――――といっても妾という存在が生まれたのは800年前の事。先代が消滅した後じゃからそれ以前の記憶はもっておらぬ。知らぬことも当然あるわけじゃ。――――――例えば現代のゼムリア大陸に降臨した”空の女神”本人やその一族の事等もの。」
「あ……………………」
「”魔女”の一族は”空の女神”より”焔の至宝”を託された一族だった上魔女の”長”は”不死”との事だから、ロゼさんよりも前の”長”ならば”空の女神”と顔見知りだった可能性は考えられるな。」
「ちなみに今までの話を”空の女神”やその一族には既に説明したのですか?」
「いえ…………お恥ずかしい話、私やロジーヌ君を含めたエレボニア方面で動いている星杯騎士団の関係者も人手不足で、リベールに滞在しておられる”空の女神”達がいらっしゃるところまで出向いて説明するような時間は取れなかったのです。七耀教会の本拠地であるアルテリア法国はそれらの話を把握していますが…………その件を”空の女神”達にまで教えてはいないと思います。それに内容が内容ですので、”地精”の方々もそうですが”魔女”の方々に加えてエレボニア帝国自身が”空の女神”の”逆鱗”に触れる恐れも考えられますから、むしろ”空の女神”とその一族の方々には知られない方がいいかもしれません。」
ローゼリアの答えを聞いたアリサは呆けた声を出し、ガイウスは真剣な表情で呟き、アンゼリカの質問にトマスは複雑そうな表情で答えた。
「それは…………」
「ハハ…………エイドス様は私達が”至宝”や”神”のような奇蹟に頼らず、自分達の力だけで幸せを見つける為の”繋ぎ”として”至宝”を与えたという話なのに、その”至宝”を争いの道具として利用した挙句、その争いによってゼムリア大陸を暗黒の焦土と化させたとの事なのだからね…………」
トマスの推測を聞いたミュラーが複雑そうな表情をしている中、オリヴァルト皇子は疲れた表情で呟いた。
「話を戻しますが…………ローゼリア殿でしたらご存知なのですね?先程仰っていた、聖女リアンヌが”銀の騎神”の乗り手だったという件。そして結社の”鉄機隊”の”主”である”鋼の聖女”と呼ばれる”蛇の使徒”との関係を。」
「…………”鉄騎隊”と”鉄機隊”。そして”槍の聖女”と”鋼の聖女”。どう考えても何らかの関係性があるようにしか思えないわね。」
ラウラの質問を聞いたサラは真剣な表情で呟いた。
「――――関係も何も”鋼の聖女”は紛う方なきリアンヌ本人じゃ。
流浪の皇子と邂逅し、共に魔王に挑み、彼をかばって命を落とした伯爵家の娘…………それ以前、神童と謳われたリアンヌが”銀”を起動するのを導いたのも妾じゃ。だがリアンヌはその力を大きすぎるものとして最後まで封印した。
そして魔王との戦いで禁を解き、致命傷を負い、終戦後に命を落とした。そして――――――妾は彼女が半年後に蘇ったのも見届けている。そなたとそなたの父君の祖先、鉄騎隊のアルゼイド副長と共にな。」
「あ……………………」
「……………………」
ローゼリアがかつての出来事を話し終えるとラウラは呆け、アルゼイド子爵は目を伏せて黙り込んでいた。
「よ、蘇ったというのは、おばあちゃんがやったの…………?」
「そうそう、それが知りたいと思ったんですよ。」
「命を落とした時、リアンヌの遺体は腐敗の気配がない奇妙な状態にあった。ゆえに妾が里へ遺体を持ち帰り、その半年後に目を覚ましたのじゃ。おそらく”不死者”となったのじゃろう―――原因は皆目見当もつかなかったが。リアンヌは己の状況を悟った後――――愛する男、ドライケルスに伝えることなくエレボニアを離れて流浪の旅に出た。右腕たる副長に、領地のレグラムを任せてな。…………たまに帰ってきた時に会っていたが、その絆も20年前から途切れておる。彼女が”蛇”の盟主とやらと邂逅し、己の主として認めてからはな。」
「話を聞いた時から何となくそのような気はしていたが、やはり”鋼の聖女”は聖女リアンヌ本人だったのか…………」
「…………教えて頂き感謝します、ローゼリア殿。」
エマとトマスの質問に答えたローゼリアの説明を聞いたラウラは重々しい様子を纏って呟き、アルゼイド子爵はローゼリアに会釈した。
「あれ…………?でも確か”鋼の聖女”って”蛇の使徒”はメンフィル帝国の現皇帝のお母さんに当たる人物の転生者だって話をクローディア王太女殿下が言っていたよね?」
「そういえば”鋼の聖女”関連でそんな話もあったよな…………?」
「ええ…………その件があるから、”鋼の聖女”は結社を裏切って”鉄機隊”と共にメンフィル帝国に寝返ったという話だけど…………」
「…………何じゃと?それは一体どういう事なのじゃ?」
エリオットとマキアス、アリサの話を聞いて眉を顰めたローゼリアはアリサ達に問いかけ
「その、おばあちゃん。実は私達がリベール王国に向かった時に判明した事実なのだけど――――――」
ローゼリアの疑問にエマがローゼリアの心情を考え、気まずそうな表情でリアンヌの現状について説明した。
「”鋼の聖女”が結社を裏切り、メンフィルの”英雄王”達と共に”盟主”を討ち、メンフィルに寝返った話は報告にありましたが、まさか聖女リアンヌがかつて”メンフィルの守護神”とまで称えられた聖騎士にして現メンフィル皇帝であるシルヴァン皇帝の母君の生まれ変わりだったとは…………確かにその話通り、今の聖女リアンヌが聖騎士シルフィアの生まれ変わりであるなら、結社を裏切りメンフィルに寝返った件も納得できるのですが…………」
「…………リアンヌが異世界の聖騎士の生まれ変わりであるのならば、もはや今のリアンヌは妾が知るリアンヌではないという事じゃな…………少なくても妾が知るリアンヌはどのような事情があろうと一度仕えると決めた主を裏切るような器用な性格はしておらん…………」
「ロゼ…………」
事情を聞き終えたトマスは複雑そうな表情を浮かべてローゼリアに視線を向け、辛そうな表情で呟いたローゼリアの様子をセリーヌは心配そうな表情で見つめた。
「…………だが、新たな疑問が出てきたな。もし、本当にサンドロット卿が異世界の聖騎士の生まれ変わりであるというならば、サンドロット卿は”不死者”の身であるとはいえ、”生き続けている状態で他人の生まれ変わりになったという状況になった事”になるという矛盾が発生するが…………」
「あ………っ!」
「聖女リアンヌは250年前から生きている人物に対して、ゼムリア大陸が異世界と繋がったのは”百日戦役”時――――――つまり、12年前。ロゼさんと聖女リアンヌとの絆が途切れた20年前よりも遅いのだから、様々な疑問が発生しますね。」
アルゼイド子爵の指摘を聞いたトワは声をあげ、アンゼリカは真剣な表情で呟いた。
「――――――その件については聖女リアンヌ以外の”実例”を知る私やミュラーには心当たりがある。」
「へ…………オリヴァルト殿下やミュラー少佐が?」
「しかも”実例”って言っていたけど、まさかヴァイスハイト皇帝達や”鋼の聖女”以外にもアンタ達の知り合いに異世界の連中の生まれ変わりでもいるのかしら?」
静かな表情で申し出たオリヴァルト皇子の話を聞いたアリサは困惑し、セリーヌは戸惑いの表情で訊ねた。
「ああ……………メンフィル帝国のプリネ皇女殿下とイリーナ皇妃陛下。そしてカシウス中将の娘であるエステル君の3人は異世界もそうだが、”ハーメルの惨劇”で亡くなった人物の”転生者”でもある。」
「な――――――リウイ陛下の正妃であるイリーナ皇妃陛下だけでなく、リウイ陛下のご息女の一人であるプリネ皇女殿下がですか!?」
「しかもエステルまで転生者って一体どういう事なんですか?」
ミュラーの答えを聞いたユーシスは一瞬絶句した後信じられない表情で訊ね、サラは困惑の表情で訊ね、オリヴァルト皇子とミュラーはエステル達の事について説明した。
「まさかイリーナ皇妃陛下が今よりも遥か昔に存在したリウイ陛下の正妃――――――”イリーナ皇妃”の生まれ変わりにして、名前や容姿等もヴァイスハイト陛下達のように全く同じとは…………」
「しかもエステルは”英雄王”の側妃の二人の生まれ変わりで、プリネ皇女は”ハーメルの惨劇”で亡くなったヨシュアの姉の生まれ変わりとか、色々な意味で滅茶苦茶ね。――――――あら?ちょっと待って…………異世界と繋がったのは12年前だから、エステル達の年齢も考えると”槍の聖女”のような矛盾が発生しますが…………」
事情を聞き終えたラウラは信じられない表情で呟き、疲れた表情で溜息を吐いたサラはある事に気づくと困惑の表情を浮かべた。
「私の異世界の知り合いで”転生”や”魂”に詳しい冥界の門番達の話によると、”転生”は何も赤子として生まれ変わるだけでなく、現在も生きている人物の中に本来転生すべき”魂”が融合し、その人物が融合した”魂”の生まれ変わりとしてなる事もあるらしい。」
「異世界とはいえ、冥界の門番達と知り合いって、冗談抜きでアンタの人脈はどうなってんのよ…………」
「セ、セリーヌ。」
オリヴァルト皇子の話を聞いて呆れた表情で溜息を吐いたセリーヌにエマは冷や汗をかいた。
「ハハ…………ちなみにその冥界の門番の一人は”ナベリウス”という名前の”魔神”だから、ひょっとしたら守護騎士のトマス教官もそうだが、魔女の一族であるエマ君達も知っているかもしれないね。」
「”ナベリウス”という名前の魔神――――――いえ、”魔王”でそれも”冥界”が関係しているという事はまさか、その門番は…………!?」
「”ナベリウス”…………――――――まさかソロモン72柱の一柱、”冥門侯”の事か?」
「ええ、私と同じ守護騎士の一人が従騎士やオリヴァルト殿下達と共に巻き込まれた”影の国”事件で”冥門侯”も巻き込まれ、脱出の為に共闘した話は巻き込まれた守護騎士と従騎士の報告に挙がっています。――――――まあ、”影の国”でその守護騎士達が共闘した仲間はソロモンの大悪魔に留まらず、”空の女神”の両親やその先祖、異世界の女神、果てはオリンポスの星女神の一柱という神々の中でもとんでもない”大物”まで共闘したとの事ですからね…………いや〜、私はその件を知った際、聖職者の一人として伝承上だけの存在とも共闘するという貴重な体験をしたその守護騎士達を羨ましいと思いましたよ。」
「その”影の国”とやらで集結した非常識な連中の事を考えると、様々な意味でカオスだったんでしょうね…………」
オリヴァルト皇子の話を聞いてある事を察したエマは血相を変え、ローゼリアの推測にトマスは頷いた後ある事を苦笑しながら説明し、トマスの説明にアリサ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中セリーヌは疲れた表情で溜息を吐いた。
「話が逸れたが…………どうやら転生にも色々とパターンがあるようでね。例えばエステル君は転生したラピス姫とリン姫の魂が覚醒して融合してもラピス姫とリン姫の”記憶”を受け継いだだけで、人格はエステル君本人のままという例もあれば、プリネ皇女の場合はプリネ皇女本人の人格とカリンさんの人格の両方の人格がある人物という例もある。イリーナ皇妃陛下に関しては私やミュラーもイリーナ皇妃陛下の魂が覚醒する前のプリネ皇女の侍女を務めていた”イリーナ・マクダエル”という人物の事に関して詳しくないが…………イリーナ皇妃陛下の場合はリウイ陛下達の様子からすると転生前のイリーナ皇妃陛下の人格のようだからエステル君とは逆で、”イリーナ・マクダエル”という人物の記憶を受け継いだイリーナ皇妃陛下だと思うから、幾ら聖女リアンヌがシルフィアさんの生まれ変わりとはいえ、聖女リアンヌ本人が消えた訳ではないと私は思うよ。」
「…………貴重な話を聞かせてくれて感謝する、放蕩皇子。」
オリヴァルト皇子の説明と指摘を聞いたローゼリアは静かな表情で感謝の言葉を述べた。
「聖女リアンヌの話を聞いてから思ったんだけど…………もしかして団長やクロウも聖女と同じように…………?」
「――――――先程言ったように理由については皆目見当もつかぬ。鍵となるのは”騎神”かもしれぬが、蒼の起動者はともかく、猟兵の長は生前そうだったわけでもあるまい。そしてドライケルスも起動者だったが不死とはならず、天寿を全うしておる。」
フィーの推測に対してローゼリアは首を横に振って答えた。
「そ、そういえば…………」
「リィンは”鬼の力”があるとはいえ、普通に成長しているでしょうし…………」
「何か理由でもあるのか…………?」
ローゼリアの答えを聞いたエリオットとアリサは不安そうな表情をし、ガイウスは考え込んだ。
「真実を知る者がいるとすれば二人しかおらぬじゃろう。現宰相、ギリアス・オズボーン。そして地精の長――――――”黒のアルベリヒ”以外は。」
「ヴァイスハイト皇帝の話にあった”黒の工房”の親玉ね…………!」
ローゼリアの推測を聞いたアリサ達がそれぞれ血相を変えている中サラは真剣な表情で指摘した。
「うむ、妾のように不老不死ではなさそうじゃが…………何らかの方法で長としての使命を受け継ぐ存在のようじゃ。――――――彼らの悲願である”巨イナル黄昏”を導くために。」
「”巨イナル黄昏”…………」
「は、初耳だけどひょっとして…………」
「”怪盗紳士”が言っていた、姉さんにとって始まるのがあまりにも早すぎる”終焉の物語”…………?」
ローゼリアの推測を聞いたトワが不安そうな表情をしている中察しがついたセリーヌは目を細め、エマは不安そうな表情で訊ねた。
「うむ…………800年前の決別時、地精の長が妾と皇子に伝えた言葉でな。エレボニアのみならず全世界を巻き込むような”終末の予言”めいた言い方じゃった。」
「ま、待ってください…………!それじゃあ、あまりにも――――」
「あまりにもエレボニアが突き進もうとしている道に似ている…………か。」
「…………っ!」
ローゼリアの話を聞いたマキアスは不安そうな表情で声を上げ、ユーシスは重々しい様子を纏って呟き、エリオットは息を呑んだ。
「…………そこから先は私の方から補足しましょう。現在エレボニアには私以外にも”第八位”の守護騎士がエレボニア入りしているのですが…………そもそも私や”第八位”が数年前からエレボニア入りをしていたのはとある異常が発見されたからでした。大陸全土の霊脈が、エレボニア方面から少しずつ、しかし無視できない規模で歪んでいたのです。それはまるで細波のようでした。
リベールの異変、クロスベルの異変、エレボニアの内戦を受けてそれは更に高まり…………その後、今も歪みは更に大きくなりつつあります。もし”巨イナル黄昏”というのが真実、起きようとしているのなら…………どう考えても”前兆”としか思えないのです。」
「フム…………その”アルベリヒ”とやらは結局何者なんだい?」
「亡くなったはずの猟兵王を雇い、アルスターの民達を滅ぼす為に猟兵達にアルスターを襲撃させた人物…………」
「そしてジョルジュもその”地精”とやらの一員で、クロウの人格を変えて”蒼のジークフリード”とやらの人物として自身の手駒として使っているようだが…………他にも”地精”の関係者に心当たりはないのですか?」
オリヴァルト皇子の質問に続くようにアルゼイド子爵と共に重々しい様子を纏って呟いたアンゼリカは真剣な表情で訊ねた。
「ふむ、そなたらの仲間である白兎や貴族連合軍に協力していた黒兎は別にして…………そのジークフリードとやら以外にも、長の右腕となっている者はいるようじゃな。妾も尻尾は掴んでおらぬが恐らく職人として有能な者じゃろう。ああ、有能と言ってもシュミットという小僧は違うぞ?気になって調べた事があるがアレはただの突然変異的な天才じゃな。そしてお主達からの様子からするとその”ジョルジュ”とやらが長の右腕として働いている人物なのじゃろうな。」
「……………………」
ローゼリアの話を聞いたアリサ達は何も答えられず、黙り込んでいた。
「――――――いずれにせよ、そのアルベリヒなる人物が宰相と繋がっているのは確実でしょう。情報局や”子供達”も介さず独自の繋がりがあるようですが…………昨日の事件を持って本格的に動き始める可能性は高そうですね。」
「え…………」
「ど、どうしてそんな事が…………?」
トマスの推測を聞いたトワは呆けた声を出し、エマは不安そうな表情で訊ねた。
「…………内戦の最中リィン君が集めてくれた”黒の史書”が昨夜の時点でようやく解読できたんです。ああ、『黒の史書』というのはエレボニアでたまに発見される古代遺物(アーティファクト)の一種でしてね。実はその件に関してだけはロジーヌ君を介して彼が内戦の最中に発見したものを回収していたんです。」
「そ、そうだったんですか…………」
「アイツ、いつの間にそんなことを…………」
トマスの話を聞いたエマは驚き、セリーヌは目を細めた。
「まったく…………どうせリィンの義務感に付け込んで無理矢理迫らせたんじゃないですか?」
「アハハ、信用ないですねぇ。否定はしませんけど。――――――それはともかく、解読できた”黒の史書”にこんな一節が記されていたんです。『―――贄により古の血が流されし刻、”黒キ星杯”への道が開かれん。穢れし聖獣が終末の剣に貫かれ、その血が星杯を充たす刻、”巨イナル黄昏”は始まらん。』」
ジト目のサラの指摘に苦笑しながら答えたトマスは表情を引き締めてアリサ達にとって驚愕となる事実を答えた。
「…………!?」
「な…………」
「それは…………」
トマスの話を聞いたエマは驚き、オリヴァルト皇子は絶句し、ミュラーは厳しい表情を浮かべ
「あ、あまりにもタイムリーすぎるというか…………」
「まるで今の状況を予言しているようだよね…………」
マキアスとエリオットは不安そうな表情で呟いた。
「…………仮に”古の血”というのが皇帝陛下だとしたら…………」
「”贄”は皇帝陛下を銃撃したアッシュとやらの事になるな。」
ラウラとアルゼイド子爵はそれぞれ真剣な表情で推測し
「…………だったら”星杯”に”剣”っていうのは…………?」
「星杯――――――七耀教会に関係する何かとしか思えないが…………」
「それと穢れし聖獣もそうだよね…………」
フィーとユーシス、トワはそれぞれ考え込んでいた。
「…………かつてこの大聖堂の地下には、”聖なる空間”がありました。”始まりの地”――――――大崩壊後に、重要な役割を果たすために築かれた施設だったのですが…………900年前に帝都が闇に閉ざされた時、”この地下から消えてしまったんです。”」
「消えた…………?」
「…………そういう施設についての噂はリベール組から聞いたことがあるけど。」
トマスの話を聞いて仲間達と共に驚いたアンゼリカは眉を顰め、サラは静かな表情でトマスを見つめて呟いた。
「ええ、リベール王都のグランセル大聖堂にも存在します。しかし帝都を取り戻した時、この真下にあったその大空間が完全に岩盤に呑み込まれていましてね。ですが消えたのではなく――――”別の場所”へ転位したとしたら?」
「あ……………………」
「今もどこかに存在する…………?」
「そして穢れし聖獣とは恐らく”大地の聖獣”じゃろう。――――――900年前の災厄の時に姿を消した女神の聖獣の一方…………妾の見立てによれば、暗黒竜もその”眷属”に過ぎぬ。」
「ちょ、ちょっと待ってください!?」
「あの骨の竜の元となった暗黒竜ですらも”眷属”なんですか!?」
ローゼリアの推測を聞いたエリオットは血相を変え、マキアスは信じられない表情で訊ねた。
「うむ、確かに暗黒竜は強大な幻獣じゃが、当時の魔女と地精の双方で太刀打ちできぬほどとは思えぬ。その暗黒竜を産み出したのが他ならぬ消えた聖獣で、それが今でも何処かに生き延びているとしたら――――――…………そしてそれが潜んでいるのが消えた”始まりの地”だとしたら?」
「さっきの予言の、全ての条件が整いつつあるってことだよね…………?」
「…………冗談じゃないわ。」
ローゼリアの推測を聞いたトワは不安そうな表情をし、サラは厳しい表情を浮かべた。
「――――――ちなみに聖獣を貫くという”終末の剣”ですが…………同じ史書の一節によれば”根源たる虚無の剣”という別の呼ばれ方もしています。恐らく黒の工房によって造られた特別製の武具なのでしょうが…………」
「い、一体どういう…………?」
「少なくとも団長たちが使うような特殊武装じゃなさそうだけど…………」
「だったら騎神にも使われているゼムリアストーン製の武具…………?」
「確かにそれが一番ありえそうだね…………まてよ、”根源たる虚無の剣”…………――――――!まさか。」
トマスの推測を聞いたアリサは不安そうな表情をし、フィーは真剣な表情で呟き、マキアスの推測を聞いたアンゼリカは頷いて考え込んだ後ある事に気づき表情を厳しくした。
「アンちゃんは何か気づいたの…………?」
「ああ…………根源たる虚無――――――”Originator Zero”…………――――すなわち”Oz"じゃないのかい?」
「な――――――」
「”黒の工房”がミリアムやあのアルティナって娘に付けていた形式番号…………!」
トワの質問に答えたアンゼリカの推測を聞いた仲間達が血相を変えている中ユーシスは絶句し、アリサは不安そうな表情で呟いた。
「フフ…………幾ら婆様と”匣使い”による説明があったとはいえ、現時点の貴方達まで”そこに辿り着く”とは、これも想定外ね。」
するとその時アリサ達にとって聞き覚えのある女性の声が辺りに響いた――――――
次回は閃Vラストダンジョン登場、ひょっとしたら閃Vラストイベントの話かもしれません。………まあ、戦闘はさっさと先の話に進めたいので省略するつもりですが。ちなみにその後はリィン達にリアンヌ達鉄機隊とプリネ達が加勢したメンフィル陣営&ジェダル達グラセスタ陣営による無双戦、その後に軌跡シリーズの最強キャラの一人をリィンが使い魔達と共に反撃すらも許さない圧倒的な戦い方で滅殺し、そのイベント後2以降の閃シリーズの話の区切り(つまり章の最後)にある恒例の騎神戦を予定し、その騎神戦の終了後のイベントでこの物語の序章の終了を予定しています(序章なのに話が長すぎる(汗)))。なお、騎神戦には敵一体に対してヴァリマール、ヴァイスリッター、エル・プラドー、アルグレオンという超過剰戦力による騎神戦という名の虐殺戦になると思います(ぇ)
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第34話 | ||
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