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 高太郎(*1)は西日に照らされていた。トンボの一群はフラフラと海中の小魚のように流れていた。一番星は見えていた。

 高太郎の赤き巨城は来る者を待つように横に広がり、それが島の様子らと相まって、趣深いものとなっていた。

 宗一は家の近くを佇んでいた。

 甘蔗畑への坂を登り切り、空を裂くような赤い高太郎が彼の目に映った時も、彼はその一連の風景すらをも平生の空しきものと、虚心に感じていた。海からの潮風も彼にとっては、裾を乱すばかりの煩わしいものと感じられて仕方がなかった。

 実に宗一は、人間関係のことで悩んでいた。彼がこの単衣を着用するのはいつもこのような気持ちのときだけだ。己のこれからとるべき態度や、この事態をどう受けとめるべきかと、眉間に縦皺作り、考え込んでいた。

 彼はどうすべきか夢中に考えていた。

 畑の中から赤褐色の鼬が彼を見ていた。宗一が気づくと、細長き体を翻し畑の中へと潜って行った。

 彼ははっとして立ち竦んだ。

 一瞬の内に全体あかい風景たちは彼の眼の衷へと復讐劇と謂わんばかりの勢いで飛び込んだ。

 彼は落ち着き払おうと、歩を進めようと、また思議に落ちようとした。だが、目の中に入り込んだ高太郎たちは彼の邪魔をする。

 堪えきれず、うつむき、下唇を咬んだ。彼には、皮一枚剥いたところの自分が見えてしまった。

 急ぎ回れ右をした。

「あ」

「……ああ」

 彼の熱は消え失せた。

 坂の下には唯が居た。少女は宗一を見上げる形で、

「そろそろお夕食の時間ですので。」

「……ああ」

 分かっている。分かっているんだ。

 

 

[注釈]

*1 この地域の方言で、入道雲のこと。

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