愚者と聖者と 第一章 旅人 Part 3 |
「で、私と神殺しの旅に出てみようとは思わない? 私には私なりのかなえたい願いがある、あなたにはあなたなりの叶えたい願いもできたはずよ」
そうだ。今の私には何としても叶えたい、叶えなければならない願いが出来た。
「話には乗るが・・・・・・本当に俺達だけでいいのか?」
俺がそう言うと女は歩き始める。
私は慌てて追いかける。
「ちょっと待て・・・・・・、名前ぐらい教えてくれよ。君は私の名前を知っていて私が君の名前を私が知らないというのも何だか腑に落ちないし」
「そうだったわね。私の名前は『ローライム・フェリシア』。フェリシアで構わないわ」
「え・・・・・・ローライムってグレゴールでも有数の貴族のローライムか?」
「いつの話ししてんのよ。数年前に色々と裏に手を出しすぎて失脚してるわよ。今じゃただの下院議員の娘よ。まぁ、貴族院のお荷物なだけなんだけどね」
「どこかの誰かさんに似たような境遇だな」
「誰に似てるって言うの?」
「さぁね。それより儀式に出る前に装備を揃えようか」
装備を揃えるために繁華街に出てみたが、やはり活気あふれる街だ。
どこを見渡しても人、人、人、店、店、店。
やはりグレゴール帝国。この景色は他では中々見ることが出来ないだろう。
「で、フレイルは何を探しているの?」
隣で歩いているフェリシアが私に聞く。
よく見てみると身長が私ほどあるので女性では高い方。そして黒い髪を後ろで綺麗な紐で結ってあるのでどこかのモデルみたいな美女だ。でも喫茶店の栗色の髪の女性には及ばないか。
「・・・・・・聞いてるの?」
「・・・・・・ん。あ、あぁ。聞いてる、聞いてる」
「で、何を買いに行くのよ。貴方この辺りの店知らないんでしょう。私が教えてあげるから言いなさいよ」
もしかするとだ。
これは私の出身国のシュヴァイツァー連邦に伝わる女性の理想的な性格の代表。
「ツンデレーヌ」ならぬ物では・・・・・・。
「ツンデレーヌ」とは元々の意味では、最初はイライラとした態度を男性にとる。これが「ツン」だ。そして徐々に打ち解けていく中で女性が男性に対して本音の反応を見せていくこと。これが「デレーヌ」。しかし最近ではイライラした態度を取るなかで本音が表れてしまう性格のことを「ツンデレーヌ」という。更に最近では「ヤンデレーヌ」ならぬものまであるというのを、風の噂で聞いたことがある。あと、どちらかと言うと私は昔から伝わる意味の方が好みなのだが、最近ではシュヴァイツァー連邦でも「ツンデレーヌ」が好きな男性が増えた為か意味が徐々に曖昧になっていく中、私はあえて古い方の「ツンデレーヌ」を選択する。それが古くからのシュヴァイツァー連邦の男の生き様というものなのだ・・・・・・。
「・・・・・・さっきから何をニヤけてるのよ。気持ち悪い」
おっと、顔に出てしまっていたらしい。
「いや、なんでもない。そういえば、買うものだったな。神サマを殺すんだから、しっかりとした鎧を買わないといけないな」
「今まではどんな鎧を?」
「いや、つけてなかった」
「はぁ? つけてこなかった? じゃあ、どうやってシュヴァイツァー連邦からここまで・・・・・・」
フェリシアは奇妙というか不気味なモノを見る目で私をみつめる。
そんなに変か、私・・・・・・。
「普通に剣術とちょっとの魔術で」
「そういう事を聞いてるんじゃなくて、ここに来るまでにキタクロオオギツネとかブラッドデビルに、クリストファーなんて魔物もいるじゃない! どうやってそれを・・・・・・」
「いや、だから剣術と魔術で・・・・・・」
「じゃあどうやってキタクロオオギツネを?」
「確か・・・・・・。まずブレス(炎系魔術で火の玉を降らせる)で足止めをして、ひるんだ所を一気にズバン、と」
「でもブレスの持続効果は長くてその中に魔術鎧(魔術から身を守ることに長けた鎧)でもつけなければ、逆に命が無い・・・・・・」
「避けた」
「・・・・・・は?」
「避・け・た」
「あの火の中を走りぬけた?」
「まぁ、そうなるか」
今度はこいつ最高にバカ、って感じの目で私を見る。
綺麗な女性にこんな目線で見られるのも悪くはないな・・・・・・。
「・・・・・・ま、旅の心強い味方と分かったしいいでしょ。じゃあ、防具屋はこっちね」
そう言ってフェリシアは早足で人ごみの中に飛び込んでいく。
私は見失わないようにするのに必死だった。
説明 | ||
主人公フレイルは幼いころに国の圧力で両親を失いながらも、剣術等の師匠グミエルと共に強く生きる。 そして旅に出てしばらく。 立ち寄ったグレゴール帝国で見知らぬ女からグミエルの死を告げられる。 悲しみに打ち砕かれるグミエルだがその女が言う「神殺し」という儀式を行うと何でも願いがかなうというのだが・・・。 |
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