月見菓子
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 西獅(せいし)という薙刀士がこの世を去ったのは、一月の寒い日のことだった。

 彼に可愛がられて育った双子の茨(いばら)と縁(えにし)は、度々彼のことを思い出しては語ることがある。

 それは子供っぽい内容であったり、子供なりに真剣だったりした。

 彼が亡くなって半年。

 今は六月の終わり、そろそろ気温が本格的に上がってくる頃である。

「おい縁、こっちこっち」

 茨はこっそりくすねて来た茶菓子を持って、後ろを行く縁を呼んだ。

 声はなるべく響かないように。なにせ今の時間は皆が寝静まっている頃なのだ。この家の就寝時間は早い。

「ここに雨戸が無くて良かった。よく見える」

「そだね」

 二人は縁側に並んで座り、雲のない空に浮かんだ月を見上げた。

 しかし茶菓子を口に運ぶのは忘れない。

「西獅さんがさ」

「うん」

「死んだのって、今日と同じ日付の日だったよな」

「もう日付は変わってるから、昨日」

「……とにかく、もう半年かぁ」

 茨は好物のもなかを口に入れたが、好きなこし餡ではなくつぶ餡だったため、少し顔をしかめた。

「茨は死ぬの怖い?」

「ん?んー……」

「はっきり言う」

「そういうお前はどーなんだ」

 縁は無表情なまま言った。

「茨よりは先には死なない」

「……なんで?」

「俺の方が素質高いし、無鉄砲じゃないし」

「お前な」

 こほんと咳払いをし、茨は質問を変えた。

「俺が死んだらさ、縁は泣くか?西獅さん時みたいに」

「泣かない」

「じゃあ俺も縁が死んでも泣かない」

「だから、そういう可能性はないって」

 すっぱりと言い切る縁。そんな弟に茨は小さくため息をついた。

 茨と縁の双子はよく似ている。外見もそうだが、中身も。

 茨が縁のように無感情に喋る時もあれば、縁が茨のように活発な時もあるのだ。

 そんな相手なので、他の人と話すより楽しかった。

 たまにこうしてお菓子を持ち出して、延々と語ることがある。無意味な内容の時の方が多いが、大半は西獅関連のことだった。

 それ程二人にとって彼は特別だったのかと、自分たちで分析したこともある。

 最近のお気に入りが、この縁側だ。

「……じゃあさ」

 しばらくもそもそとお菓子を食べていた茨が口を開くと、縁は手に二つも飴を持った状態で振り向いた。

「俺が今こうして話し合っている時が一番楽しい……、とか、言ったら……どうする?」

「蹴る」

「け」

 る?と言い終わる前に、縁は並べて垂らしていた茨の足を蹴った。ふくらはぎに思い切り足跡がつく。

「ほ、ほんとに蹴った……」

 恥をしのんで思いついた質問を口にしたというのに、蹴られてしまった。

 茨がふくらはぎを擦っていると、縁が足をこちらに向けてきた。

「ん」

「……なに」

「俺も同じ。だから蹴るべし」

 縁は茨のようにどもる事なく言い放つ。

 ぽかんとした後、茨は微笑を浮かべた。

「蹴らない。俺は自分と同意見の奴は蹴らないよ」

 普段では考えられないくらいにっこりと笑い……、

 茨は縁の頭を殴った。

「………」

「………」

「……楽しいよな」

「うん」

 静かに頷き合い、双子は残ったお菓子を全て胃に入れ、いつものように証拠隠滅をした。

 この時を思い出して。

 この時と同じことを繰り返す時が、一番落ち着く。

 それを続けるために、それを少しでも長く続けるために。

 二人は西獅と同じように戦っていた。

 戦うのは全然楽しくないけれど……、

 それをいつか話題に出来たらとても良い。

 茨は縁に、縁は茨に悟られぬよう、二人してそんなことを思っていた。

                           

                                       《了》

説明
サイトの方に上がっている俺屍の二次創作小説です。
書いたのは結構前ですが、今でもこの双子が大好きなのでUP。
またいつか新しいものを書けたらなぁ、と企んでおります(笑)
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俺の屍を越えてゆけ 俺屍 一族男児 

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