連載小説41?45 |
その日の夕方。
今日もまた、誘われるままに文芸部へ来ていた。
今日も新入生は私達二人。正直、そんなに人気内のかも、て心配になる。
「倉橋さん、今日も来てくれたのは嬉しいんだけど、今日はどうするの?」
「えぇっと…」
昨日はよかった、自分の行動レポートを小説風に、て感じだったから。でも…
「せっかくだから、昨日とは違う物を作ってみない?」
「う〜ん、そうしたいんですけど…何を作っていいのやら…」
右を見ると、木谷さんはもう昨日の続きを始めてる。すごいなぁ。
「ここで私がアイディアを出すのもありなんでしょうけど、せっかくだから、
倉橋さん自身が意見を出して、やってみましょうね」
「えぇっ、私自身が、ですか?」
ちょっと待って。なんのアイディアも持ってないよ、私。
「今、困った顔したでしょう。でも、困って困って、頭絞って、
そうやってアイディアを出すと、きっと納得できる物ができるわ」
「そういうもんなんですか?」
「ええ」
ほー。
「といっても、何を書いていいやら…」
「じゃ、今日はアイディアを出す実習って事でどう?」
アイディア出しの練習か…
「が、頑張ってみます」
「手助けだけは、するからね」
ほぅ、せめてもの救いだ…
「お、お願いします…」
こうして、今日の私はアイディア出しをする事になった。
〜つづく〜
今日の部活体験は、アイディア出し。
簡単なようで、難しい…
「う〜ん…」
「どう? 何か出た?」
う〜ん…私はずっと悩んでいた…アイディアなんて、そうそう出るもんじゃない。
「ごめんなさい、まだ何も…」
「そう、仕方ないわね。アイディア出しって難しいから…」
部長さんの言葉は優しい。それだけでも救われる。とはいえ、このままじゃ、
このままうんうん唸ってるだけじゃ、やっぱり心苦しい。
「あの…部長さんだったらどうやってアイディア出ししますか?」
「え、私? そうね…私は…」
ん? 考え込んでる様子。
「私は直感的にひらめいてしまうから…」
「えぇっ?」
そんなすごい人がこの世にいるなんて。
「じゃ、じゃあ…木谷さんは?」
「私? ごめんなさい、私も、どっちかって言ったら部長さんと同じかな」
うへぇ、超人が二人も。
「あら、木谷さんも湧き出てくるタイプ?」
「はい。自動書機のように浮かんでくるんです」
なんか、すごい次元で分かり合ってるよ、この二人。ど、どうしよう。
「あ、あの、他の先輩方は!」
「私達? そうね、例えば、今の私だったら倉橋さんを見つめていれば、
自然と物語は浮かんでくるわね」
「あ、分かる、私も」
「このあたふたしてる所も、アイディアを刺激されるのよね」
「うんうん!」
「真っ黒なさらさらヘアー、文学的だわっ!」
あ、開けてはいけない扉を開けてしまった。
「ごめんなさいね。でも、うちの部員達は基本的にこういう子ばっかりだから」
「そ、そうなんですか…」
な、なんだかなぁ…
「でも、そういうのもありだと思うわ。何から着想するかは、自由だもの」
ふむー。
「難しいですね」
「頑張って。私達はサポートするから」
こうして、私は思案の時を続けていた。
〜つづく〜
相変わらずアイディア出しをする私。
何もアイディアの出ない私。
「うぅ〜〜ん」
「あらら、これは重傷ね」
ぶ、部長さん…
「はい、何にも出ないんです〜」
「そう。やっぱり、アイディアの出し方を考える方がよさそうね」
おや、何かアイディアが…?
「身近な人を題材にするのって、結構効果的なのよ?」
「身近な人ですか…」
その対象が自分って、なかなか経験ないんだけどなぁ…
「身近な人…ちらり」
「んー? 私を題材にしてもなんにも出ないわよー?」
き、木谷さん…すごい…視線を向けただけで…
「じゃあ、他の人…」
「私はアイディアあるけど、何も言わないよー」
つ、冷たい…
「冷たいと思ったでしょ。でも、それが倉橋さんのためだから」
「わ、私のため?」
そ、そりゃ…自分でアイディアを出した方がいいんだろうけど…
「じゃあ!」
「じゃあ?」
書き物してるせいか、木谷さんの反応が素っ気ないなぁ…
「えぇと…楓! 楓をテーマに何かを書く事にする!」
「楓さんかぁ…」
ど、どうだろう…このアイディア。
「いいんじゃない? 難しいと思うけど、チャレンジする価値は、あると思う」
「ホント? やたっ!」
「あら、アイディア出た?」
部長さん…
「はいっ! 一応出ました!」
「そっか、おめでとう。頑張ってね」
部長さんに励まされて、私は楓をテーマに作品を作る事になった。
「さて」
原稿用紙に向かって…
「何を書こう…」
か、楓をテーマ?
「楓をテーマに、何を書けばいいんだ?」
困った。
〜つづく〜
楓をテーマに作品を創る事にした私。
でも、何を書けばいいのやら。
「うーん、まずは…」
主人公を楓にするんだから、自己紹介的なところからか。
『彼女の名前は楓。いわゆる、運動万能少女である』
よし、それっぽい!
『この日、彼女はバレー部の応援に駆り出されていた。
「楓さん、今日は試合だけど、大丈夫?」
「大丈夫。テンションはばっちり、体調もばっちり」
楓にとって、その日の活躍は全てテンションと体調で決められていた。
体調が良くても、テンションが乗らなければ、活躍できないのだ。
「体調とテンションが揃ってるなら、大丈夫ね」
「もちろん!」
バレー部の部長は、楓の肩を叩いた。
「じゃ、行くわよ。倒すは』
えっと…
「ライバル校の名前、何にしよう」
困った。些細な事だけど、こんな事くらいぱぱっとイメージできなくて、
どうするんだ。
「えーっと…」
高校生って設定だから…私立にでもするか。私立の強豪校!
『倒すは私立英才高校バレー部!」
「オー!」
部員達と楓は、拳を突き上げた。』
ふぅ。私はここでペンを置いた。鉛筆だけど。
「こ、こんな出だしでいいかな」
英才高校なんて、我ながらよく思いついたもんだ。
「倉橋さん、降って来たみたいね」
「木谷さん。降って来たって?」
なんの事じゃ?
「アイディアの神、ネタの神がって事」
「そういう事か。まぁねー。拙いなりに頑張ってるよ」
一息ついて、そして立ち上がって、私は今日も運動部で頑張ってはずの、
そして、テーマに使ってしまった楓を想いながら、窓の外を見た。
「あ…雨…」
ガーン! 傘、持ってないんだよなぁ…
「え?」
私のつぶやきに、みんなが窓の方を向く。
「雨?」
「うそー。傘持ってないんだけど…」
「ありえへん! どないして帰れっちゅうねん!」
ん? 関西弁? 関西人の先輩がいるの? まぁいいか。
「はーい、みんな、急な雨で気が沈むのは分かるけど、今はまだ部活時間中よ、
部活に集中してー!」
部長さんの言葉は適切だ。
「それに比べると、貴女達二人は落ち着いてるわね」
「作業中ですから」
とは木谷さんの弁。やっぱ、言う事が違うなぁ。
「私、内心焦りまくりですよ?」
とは、私の弁。だって、傘持ってないし。
「焦るのは当然かもね。でも、それを外に出さないのは、優秀よ」
「へ。そんなもんなんですか?」
私にはよく分からないけど…
「そんなもんなのよ」
「そうなんですか」
じゃあ、私素質あるかも! は言い過ぎか。
「倉橋さんも、いい部員になりそうね」
「っ!」
なんという…!
私は、今の一言に頭を悩ませる事となった。
〜つづく〜
外は雨。
私は机に向かう。
今日の物語は、意外と行けそうだ。
スポ根モノになりそうだから、ちと課題はあるけど。
ちなみに主人公の名前は楓。問題あるかもしれないから、名字は出さない。
『「それじゃあ楓、それにみんな、行きましょう」
「はいっ!」
部長のかけ声に併せて、部員達が答える。そしてコートに向かう!』
「それでは、英才高校対…」』
えぇと…この学校の名前そのまま使っちゃマズいか。いくら生徒でも。
「う〜ん、どうしようかな」
悩む。うちの学校の名前をもじるか。よし!
『「それでは、英才高校対聖林学園の試合を始めます!」
審判の声で、ボールが飛び交い始める。先攻は英才高校だ。
「楓さん!」
前列ポジショニングされた楓は、持ち前の身体能力を活かし、相手からの
サーブをブロックする。
「よし!」
まずは相手のチャンスをつぶす。
「よーし、このままこっちのチャンスを広げるわよ!」
部長は号令をかけ、生徒を元気づける。
「負けられないっ!」
楓も、強く思った。あくまで助っ人だったが、負けられないという思いは、
どの部員よりも強かった。それは、楓のスポーツウーマン魂であり、
助っ人として選んでくれたみんなへの、恩返しだった』
おぉぉぉ…
「いい感じじゃない? 私」
このペンの進み具合に、私は手応えを感じていた。
〜つづく〜