連載小説46?50
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駅へと向かう帰り道。

結局、傘を持ってない私は折りたたみ傘を持ってた木谷さんと一緒に、

仲睦まじく駅へ向かっていた。

 

ていうか、木谷さん、なんでこんなに準備がいいんだ?

 

「雨、いつまで降るのかしら」

「さあねぇ」

 正直、相合い傘状態はちと恥ずかしい。木谷さんにはとっても感謝してるけど。

「倉橋さん、大丈夫?」

「何が?」

 私は元気だ。心も体も。

「駅から家まで、どうするの?」

「それは考え中。車で迎えに来てもらうか、傘を持って来てもらうか、

コンビニでビニ傘買うか…」

 ふぅむ、悩み中なんだよな…

「そうなんだ。呼びの折り畳み傘があれば、貸してあげられるんだけどね」

「えぇっ! それは悪いよ。もし持ってないとしても、それは遠慮するなぁ」

 というか、それで貸してくれるくらいなら、今相合い傘なんてしてないはず。

というよりは、木谷さん、そこまでしてくれるつもりだなんて。

「さすがに自分で対処するから、どっちにしろ」

「そう?」

 サービス精神旺盛っていうよりは、好かれ過ぎ、なのかな?

「じゃあ、風邪引かないように気をつけてね」

「うん、ありがとね」

 

 駅へ着いて、私は木谷さんと別れた。

 

「さて、どうしよっかな」

 まずはケータイを開いた。

 

 

「連絡からか」

 

 

〜つづく〜

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電車を降りて、ケータイを見る。

車内で打ったメールは、まだ返事が来ない。

 

『傘を忘れたんだけど、迎えに来てくれるかな』

 

ていう内容。

このメールに返事が来ないと、身動き取れない。

 

 改札を抜けて、すぐさま屋根のあるベンチに居座る。こういう時、

駅前ロータリーの存在はありがたい。

「ふぅ、困ったもんだ」

 返事が来て、「一人で帰って来なさい」と拒否られたら待ち損だし、

かといって諦めて家に向かってる最中に「駅到着」とか言われても、

これまた切ない。

「ぬ〜ん…」

 そもそも、我が母はメールを見てくれてるんだろうか。メールまめ、

てわけではないけど、四六時中チェックしてるわけでもない。

 少なくとも、今はメールをチェックできる時間帯のはずだから、

不可抗力的にチェックしてないって事はないと思う。

 もし、見てるのに返事をくれないんだとすると、これは悲しい。当然、

そんな事はあり得ないと思うんだけど、万に一つってことはある。

「どっか出かけるとか、言ってたっけなぁ…」

 朝の様子を思い出してみるけど、それは大丈夫だ。予定表にもなんにもなかった。

「それにしても…」

 雨脚は結構強い。春、雨の夕暮れ。行き交う人々、迎えの車が放つ、

エンジン音とヘッドライトの光、そして、水を跳ねる音。

 バスも、どんどん人を吸い込んで行く。普段なら歩きや自転車の人も、

今日はバスだろう。天気予報でも雨とは言ってなかったんだから。

「困ったな…」

 行き交う色とりどりの傘を見ながら、準備のよさに心で舌打ちをしつつ、

私はただひたすら、メールの返事を待った。

「来ないなぁ。どうしようかな…」

 ただ刻々と、時間だけが過ぎて行く。

 

「もう六時か。困ったな…真っ暗じゃん」

 別に日が沈もうと怖い事はない。ただ、ちょっと切ないだけだ。そう、

ちぃっとだけ、空気感が切ないだけだ。

「はぁ、帰っちゃおうかな」

 それが一つの選択である事は間違いない。ただ、行き違う事を恐れてる、

それだけ。

「よし、後十分待ってなんもなかったら帰ろう!」

 こういう時、自分でルールを設けるのって、結構効果的かも。

「よし!」

 現在時刻、六時五分。

「…」

 六時七分、ケータイは沈黙を守っている。

「……」

 六時十分、五分経った物の、ケータイは沈黙を貫いている。

「………」

 六時十二分、お?

「メールだ!」

 ケータイは、ブルブル震えている。決して寒いわけではなく、マナーモードだ。

「よし!」

 期待MAXで開いてみると、

「き、木谷さんか…」

 メールをくれる事は嬉しい事だけど、今ばっかりは…

「何々?」

 そこには、雨の中無事たどり着けたかどうかを心配する内容が打たれていた。

「よし」

 私は、詳しくは明日話すとしつつも、まだ駅で足止めになっている事だけを、

簡潔に打ち、そして送った。

「さて、待つか」

 今のメールで、時間を使ってしまった。もちろん、その間にもメールはない。

「…………」

 六時十五分。返事はない。

「よし、帰るか!」

 私は待つのを諦めた。一応母には「返事がないから歩いて帰る」旨のメールを送り、

行き違い対策をする。

「にしても、びしょ濡れになっちゃうなぁ…」

 今の私は、なぜだかコンビニで傘を買う気にはなれなかった。

 

「ま、たまにはいいか」

 

 

〜つづく〜

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雨の中を歩く事数十分。

私は、ずぶ濡れになりながらも、なんとか帰り着いた。

 

「ただいまぁ〜」

 

 

 靴を脱ぐのももどかしく、まずはシャワーだ! 体をあっためなきゃ。

「よいしょ」

 一目散に洗面所に向かって、衣類一式を洗濯カゴに放り込む。

「よーし」

 安全確保。一目散にお風呂場に突入!

「うほーい!」

 シャワーのお湯は、冷えた私の体を温めてくれる。

「生き返るわ〜」

 しばしの間、打ち付けるお湯に身を委ねていた。

 

 

「ただいま〜」

 シャワーから出て、部屋着に着替えると、ようやく居間へと向かう。

さあ、母に事の審議を確かめねば。

「遅かったのね。て、シャワー入ったでしょ」

「だって、ずぶ濡れだったんだもん」

 全く、誰のせいでこんな…

「メール送ったんだよ? 返事が来ないから、仕方なく歩いて帰ったんじゃん」

「メール? えぇ?」

 驚いた声を上げ、ケータイを探し出す母。え、探す? ちょっと待て。

「あぁホント! 気付かなかった! 今日は携帯触ってないから」

「ちょ、ちょっと! こっちは風邪引くところだったんだよ?」

 どうやら、母のケータイはソファの上で、マナーモードのまま、

タオルケットの下に鎮座していたらしい。

「あ、高木さんからもメールが」

 丸一日放置してたって事か。

「あっはっは! あんたの待ちぼうけてる様子が伝わって来るわ〜」

「笑い事じゃないよ!」

 ったく、娘がどんな思いをしたと…

「ごめんごめん。ほら、中年って事で許してよ」

「何、その理由」

 全く理由になってないじゃん!

「ムキ〜〜〜ッ!」

 ムキ〜〜〜ッ!

 

 

〜つづく〜

-4ページ-

雨にぬれた私は、シャワーを浴びて体を温めてから居間へと向かった。

母から返って来た言葉は、「携帯を見てなかった」というもの。

 

私にとっては風邪をひきかねない一大事。

それに、なんのための「携帯電話」なのか。

 

私は当然のように、とある袋の緒を緩めた。

 

「ムキーーーッ!」

「落ち着きなさいよ。も〜。そんなに怒るなら、コンビニで傘買えばいいじゃない」

 ムキャ?

「それはそうだけど〜、傘増えても困るじゃん〜」

「風邪をひかれるよりはマシ。家族みんなで使えるんだし、傘立てだって、

余裕あるんだから」

 い、いかん、私の主張が弾かれそうになってる。

「それに、コンビニのビニール傘は私の美意識が!」

「そんなくだらない物で風邪を引かれても困るのはこっちなんだから。

もしかして、お金なかったの?」

 ぬがっ!

「断じて違います〜。お金はあります〜っ」

「じゃあなんで買ってこなかったの」

 やべー、どんどん形勢不利になってるじゃん、私。もはや美意識なんて、

くだらない嘘は通じないな。

 もちろん、本心とはいえ「そんな気分だった」なんていう言葉も。

「だから、それは…」

「どんな理由だろうと、お金があるなら傘を買いなさい」

 むぅぅ…自分がケータイ見てなかった事、棚上げじゃん! はっ、そうだ!

「ちょっと! 私を怒る前に自分はどーなのさっ!」

「自分? お母さんがどうしたっていうの」

 がっ!

「そもそも、ケータイ見忘れたのが問題なんじゃん!」

「それを言い出す気?」

 言い出すとも、言い出すともさっ!

「だってそうじゃん! ケータイ見てくれてたらぬれずに済んだのに!」

「でも、晩ご飯の支度してたんだから、迎えに行けなかったかもしれない…」

 え? なんですと?

「じゃない! そしたらあんた、どうしてたの?」

「そ、それはそれ、コレはコレだよ!」

 迎えに来てくれないなら濡れて帰るつもりだったなんて、とても言えない…

「そ、その時はその時でまた考えてたよ! そういうメールが来たら、

気分も違うだろうしさ」

「ふ〜ん」

 うきーっ!

「そうやって、娘の揚げ足取るの、やめてよね!」

「そっちこそ、人の揚げ足取ってるじゃない!」

 

 

バトルは、まだまだ続いていた。

 

 

〜つづく〜

-5ページ-

バトルは続いていた。

しかも、話は堂々巡りだ。

 

 

「だから、メールに気付いてたらこんな事にはならなかったんじゃん!」

「傘がなかったら買って帰る。それくらい当然でしょ!」

 それがお互いの主張だ。私としては、自分に分があると思ってるんだけど、

多分それはお互い様なんだろうな。

「ムキーーーッ!」

「ウキーーーッ!」

 絶対、譲るもんか!

 

「おいおい、何にらみ合ってるんだ?」

 ん?

「ちょっと、話し合い中! 邪魔しないで!」

「そう!」

 て…

「いたの? 父よ…」

「今帰ったんだ。全く、帰って来てみれば親子喧嘩とは、情けない」

「情けないとは何! 情けないとは! これは尊厳を賭けた闘いなの!」

  その言い分には賛成だけど…今、何時? 父はそんな早い時間には帰ってこないはず。

「はっ、九時!」

「九時? ちょ、ちょっと…」

「そう。九時だよ。二人とも、何時からそうやってにらみ合ってたの」

 ひえぇ〜〜〜。女の闘い恐るべし。

「なんでもいいけど、ご飯の支度をしてくれない?」

「今支度するから。えりか、今日みたいな日は傘を買ってくる事」

「そっちこそ、ちゃんとメールを見てよねっ!」

 お互い、最後の一矢で主張をし合う。でも、ここでバトルは終了だ。

「あ〜、バトルしたらお腹減っちゃった…」

「ちょっとえりか。いい?」

 母が台所に消えたのを見計らって、父に呼び止められた。

「夕方から今までって、何があったの」

「えぇ? あのさ〜」

 

 

〜つづく〜

説明
第46回から第50回
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コメント
コメントありがとうございます。お父さんは、私も今後も出したいと考えているキャラクターです。次の更新をお待ちくださいませ。(水希)
お父さん登場ですね。お父さんはどっちの味方かな。もしくは板挟み?(華詩)
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