名も無い物語
[全1ページ]

名も無い物語

 

 

 

夜によく目が覚める。

気付けばまだ部屋は暗やみに包まれていて、寂寥感(せきりょうかん)が漂っている。

 

 

「……は」

 

 

理由もなく、一言、声を漏らし、素早く自分の腕で目元を覆って、苦しんだ。

 

 

一一突然の、悲しみが襲ってきた。

 

 

ただ一人の真っ暗な部屋で。

 

 

音は時計の針が刻む音だけ。

 

 

かち、かち、かち、

と。

 

 

一人で寝る夜は、寂しい。

わかってる。そんな事、当たり前のことなんだって。だけど、言わせて欲しいんだ。

 

 

誰にも、言えないんだから。

 

 

家族にも

 

 

友達にも

 

 

誰にも

 

 

だから、お願い。

 

 

「……助けて」

 

 

暗い静かな部屋で、自分の声が信じられないぐらい大きく、そして寂しく響いた。誰も返事をしてくれることはない。

 

 

苦しみながらの夜。

 

 

誰も返事をしてくれなくて、また悲しくなった。

 

 

「…なんで」

 

 

孤独

 

 

苦しい

 

 

孤独

 

 

悲しい

 

 

「誰も、助けてくれないの…」

 

 

もし、この世に神様が居るなら、僕は憎みたい。

 

 

あははは、と

 

 

どこかで笑った声が聞こえた気がした。

 

 

ねえ、答えて

 

 

どうして、僕は苦しんでるんだろう?

 

 

一人だから?

 

 

僕が嫌いだから?

 

 

違う。

 

 

自分が、いけないんだ。

 

 

だから、せめて懺悔として、泣かせて下さい。

 

 

「……っ…く…」

 

 

誰も見ていないはずだ。

 

誰もいない部屋だから。

 

それなのに、誰かが見ている気がして。

 

 

 

テレビが

 

 

机が

 

 

いすが

 

 

僕を見ていて。

 

 

それがなんだか、とても憎たらしく思えて、我慢できなくなって、泣いた。

 

 

 

 

かち、かち、かち、と

時計の針が動く。

 

 

夜はまだ明けそうにない。

 

 

説明
たった一人の男の経験を綴った物語。

ノンフィクションです。

超掌編になってます。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
544 539 0
タグ
名も無い物語 オリジナル 

haruさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com