真・恋姫無双〜魏・外史伝49
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第二十一章〜敵は涼州にあり・前編〜

 

 

 

  蜀にいた俺達の元に一人の魏軍兵がやって来た。兵士の報告によれば、涼州に五胡の大軍勢が雪崩込んで

 来ているようだ。涼州の留置軍はその数の暴力に屈し、涼州を撤退してしまったらしい。今、春蘭達が編成

 した五胡討伐軍が涼州へと洛陽を出たようで、俺達にはその道中で合流して欲しいとの事だ。一難去ってまた

 一難とはまさにこの事だ。当然、俺達は洛陽に戻るわけだが、その際、馬超と馬岱も同伴する事となった・・・。

 確かに涼州は彼女達の故郷だから、という理由だろうが、よりにもよって俺達と同伴させるのは果たしてどう

 なのだろう・・・?

 

  「翠!」

  「ん・・・?おう!小狼(シャオロン)じゃないか。見送りに来てくれたのか?」

  翠が馬に乗って成都の街門を出ようした時、その後ろから姜維(翠が彼を小狼と呼んだのは、それが彼の

 真名だからである。二人はいつの間にか真名で呼び合う仲になっていた。)が彼女の名前を叫びながら走って

 来た。

  「ああ・・・。それもあるが、どうしてお前が行くのだろうと思って。」

  「えっ?どうしてって・・・。」

  「だってそうだろ!事情の大体は俺も聞いた。そりゃ、自分の生まれ故郷が大変な事になっているの

  だから心配なのは分かる。でも・・・、その・・・、何と言うか。」

  肝心の事を聞こうにも気まずくて口に出せないせいか小狼は翠から目をそらす。

  「・・・・・・。」

  小狼が言わんとする事は翠も薄々と分かっていた。

  「・・・曹操は、涼州にけし掛けて来た。そのせいで、あたしと蒲公英は涼州を追われ、母上も死んで

  しまった・・・。だから、あたしは・・・曹操が許せない。」

  「ぅ・・・。」

  正直口に出したくないのだろう・・・、話している翠の唇がふるふると震えている。小狼は一層気まずさ

 に下を俯く。やっぱり聞くんじゃなかったな、と後悔する・・・。

  「・・・でも、さ。それじゃ駄目な気がしてさ。」

  「・・・?」

  「あれからもう二年も経つんだ・・・。乱世が終わった後、あたしはそういった想いをあやふやなままに

  して生きてきた。それじゃ駄目な気がするんだ。あんたと桃香様を見ていたら、余計に・・・。」

  「翠・・・。」

  「どんな事をしても曹操への怒りや憎しみが消えるわけじゃない。でもこのあやふな想いはちゃんと

  けりを着けて、ふっ切らないといけないと思うから、さ。・・・だから、あたしは行くって、自分で決めた

  んだ。」

  そう言う翠。いつの間にかその唇の震えは止まっていた。

  「・・・そっか。・・・じゃあ、あれか?蒲公英もお前みたいに・・・。」

  「ちょっと!何勝手にたんぽぽを真名で呼んでんのよ!!」

  そこに黄鵬に乗った蒲公英が前からやって来る。小狼は自分に対してプンスカと怒っている蒲公英の方を

 見る。

  「・・・悪かったな、自分の事をいつも真名で呼んでるから、つい俺も。」

  「ついって何よ、ついって!言っておくけど、たんぽぽはまだあんたに真名を預けた覚えは

  ないんだから!」

  蒲公英は小狼に指を突き立てながらそう叫ぶ。

  「はぁ・・・、お前達は仲が良いな、本当。」

  と溜息をつきながら、翠はそう呟く。

  「ちょっと姉様!?一体どこをどう見たらそう見えるのよ!?」

  「そうだぜ、翠。俺はこのちびっ子を弄んでいるだけなんだぞ!」

  「って、あんたもあんたでふざけた事を言ってるんじゃないわよっ!!今日と言う今日は、槍のさびに

  してやるんだから!」

  「ほう・・・!おもしれぇっ!!もう一度ぶっ飛ばされてぇんだな!」

  「・・・これを仲が良いとは、言わないのか?」

  と二人のやり取りを見ながら、首を傾げる翠だった・・・。

 

  その頃、涼州では・・・。

 

  「事態は伏義が消滅した事で急転・・・。計画を大きく変更せざるを得なくなりました、か・・・。」

  伏義という、片割れを失った事で、外史削除に大きな支障をきたす事となった。北郷一刀・・・、彼と

 いう、最大のイレギュラーを早々に始末出来なかった結果が、このような形となって返ってくる事となった。

 もう一人の北郷一刀は女渦に任せるとして、私はこの外史の北郷一刀を始末するべくその対策に追われている。

  「そのために、様々な所に罠を設置しておく必要がありますね。女渦が寄こしてきたあれを使う良い機会

  ですし・・・。」

  「あ、こちらにいましたか。」 

  と、そこに彼女が現れる。

  「おや、やっと来てくれましたか?それで、例の物は?」

  「こちらに・・・。」

  そう言って、彼女は巻物を取り出し私に差し出す。私はそれを受け取ると、そのまま懐へと『鍵』を仕舞う。

  「ありがとうございます。」

  「いえいえ。・・・しかし、その巻物は一体何なのでしょうか?秋蘭でも、桂花さんですらも全く読め

  なかったようでしたが・・・。」

  「別に読めようが読めまいが、どうでも良いのですよ。」

  「はぁ・・・、その割には秋蘭を殺そうと躍起になっていたようですけど・・・?」

  「念のためですよ。・・・そうして置かないと、気が済まない性質でして。」

  「慎重派なのですね。」

  「臆病者とも言えます。」

  「まぁ・・・、自虐的ですね。」

  くすくすと笑う彼女・・・。彼女の様に違和感なく私の完全な操り人形と化してくれている

 人形(ひとかた)は私にとって大きな助けとなる。後は、この涼州の人間達を一刻も早く私の手中

 に収める必要がありますね・・・。

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  一刀達が洛陽へと向かうその道中・・・。

  「・・・やっぱり、五胡の裏には外史喰らいがいるんだろうな。」

  俺は横の華琳に話しかける。

  「その可能性は否定出来ないでしょうよ・・・。以前、洛陽を襲撃したのも外史喰らいの手の者達

  だったのだから、あながち無関係とも言えないでしょう。」

  華琳は前を向いたまま、俺の話に乗って来る。

  「もしそうなら、目的は俺の抹殺・・・。いや、もしそうならそんな大掛かりな事をせずとも

  刺客の一人二人を放って暗殺にかければいい・・・。」

  「そうね。あなた一人を殺すというのなら、今までに何度もその機会はあったでしょう。」

  「確かに・・・。でも実際にあったのは、伏義の時の一回きりだ。それ以降は全く無かった。」

  「・・・だとするのならば、向こうの目的はまだ他にあるって事になる。北郷一刀の抹殺と同等の

  別の目的が。」

  「その別の目的のために、魏に五胡をけし掛けるのか?」

  「五胡のおかげで、魏から平穏の日々が失われ、・・・代わりに民達の涙を見る日が増えてしまったわ。」

  「なら、取り戻そうよ。俺達の手で。」

  「ふふっ・・・、頼もしい事を言ってくれるわね。・・・後は、もう少し私の言う事が聞けるようになれば

  文句は無いのに・・・ねぇ。」

  と、語尾の所で、華琳の目が俺の方に向く。

  「・・・気を付けます。」 

  それだけを言って、俺は前を見る。

 外史喰らい・・・、伏義や女渦のような奴等を使って、外史を削除する存在。元々は並行外史の均衡を

 保たせるために露仁・・・、南華老仙が作ったもの。だが、ある時を境に南華老仙の意志とは無関係に暴走

 を始めた・・・。その暴走のせいで、今この外史は消滅の危機に立たされている。俺が死んでも、この外史

 は一緒に消えてしまうらしい。それを防ぐために、南華老仙は俺に、無双玉とかいうものを埋め込んで力を

 与えた。・・・力か。俺は手のひらを見る。戦う度にその力が大きくなっている事を最近気付き始めている。

 この力で・・・、俺は・・・。そして俺はギュッと握る。

  「・・・華琳様!」

  と、そこに前の方、行軍の反対方向から凪がこちらに走って来る。

  「何事かしら?」

  華琳は凪の様子からただごとで無い事を悟り、王として振る舞う。

  「はっ!北西より我が軍に何者かが突撃して来ているようです!」

  「何者・・・、と言う事は一人なのかしら?」

  「今の所、一人のみしか確認できません。」

  一人単独で俺達に仕掛けてくる・・・。そんな事が出来る奴は・・・。

  「・・・五胡?いや、外史喰らいの分身か?」

  「ここで言っても仕方のない事でしょう。凪、全軍に行軍停止と迎撃準備命令を。」

  「はっ!」

  「一刀、あなたは稟、風を呼んできて頂戴。」

  「分かった。」

  そう言って、俺は後ろを振り返り、二人がいる列の所まで馬を進めた。

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  北西の方角より、広大な大地をその強靭な四本足で力強く踏みしめ、颯爽と風の様に駆け抜ける巨体が一つ。

 

 その身を白銀に輝かせ、二本の手には大の男一人が両手を使って扱う様な巨大な戟をそれぞれ一本ずつ・・・、

 

 さらに背中に二本、計四本の戟を携えて、血に飢えた獣の様に・・・、狙いを定めた獲物を捕らえるべく、

 

 そのご自慢の四本の牙を得物に刺し向けながら、ただ真っ直ぐに、最短距離で、駆け抜ける・・・。

 

  「霞!」

  「華琳!ちぃと来るのが遅かったで。」

  「どういう意味かしら?」

  「向こうさんは戦う気満々のようや!まだ向こう先やっていうに、殺気がこっちにまで来るで!」

  「そう。他の方面からは?」

  「真桜と沙和に周囲を見回らせているけど、今んとこは無いようや。本気で一人でうちらとやる気

  なんやろうな。」

  「そう・・・。相手が一人というのが気に掛かるけれど、まずは降りかかる火の粉を払いましょう。

  霞、あなたは自分の騎馬隊を率いて敵の撃退を。一人だからといって、油断しないよう部下に言い

  聞かせておきなさい。」

  「分かった。・・・んな!?何やと!!」

  「どうかしたの?」

  「あいつ・・・、急に進路を変えたで!」

  「あの方向は・・・、まさかっ!!」

 

  華琳に言われた通りに、俺は風と稟がいる列の所まで馬に乗って戻っていく。いつになっても、華琳達の

 様に手綱を操る事が出来ない俺は、振り落とされないよう、馬の背中の上で揺ら揺らと乗っている・・・。

  そんな事を考えていると、俺は向こうの方から風と稟が馬に乗ってこっちに近づいてくるのを見つけた。

 俺は自分がここにいる事を、右手を上げて横に振って見せる。それに気付いたのか、二人は俺の方に顔を向ける。だが俺を見た途端、目を丸くして慌てふためくきながら何かを叫んでいるのが見て分かるが、距離があるせいで良く聞こえない。風達だけでなく、その周りの兵士達も同様の反応を見せる・・・。何だ?社会の窓でも空いているわけではなさそうだし・・・。稟が俺に向かって指をさす。・・・後ろを見ろって事なのか?

  「っ?」

  とりあえず、俺は後ろを振り返る。すると、そこには俺に向かって突進してくる黒い影が見えた。 

  「うぉおっ!?」

  ブォウンッ!!!

  「・・・ぐっ!」

  ザシュゥゥウウッ!!!

  突然背後から襲いかかって来たそれの放った矢尻の形を模した大型の一本槍を寸前で横に避け、地面

 に転げ落ちる。

  ヒィイイイイイイイイイイインッ!!!

  そして俺が落馬したせいで、俺が乗っていた馬はその槍にその体を貫かれ、痛ましい悲鳴を上げる。

 ザシュッ!!!

  馬は力任せに地面に叩き伏せられ、ついに鳴くのを止めた。俺は目の前に立ち塞がる黒い影を見上げる。

 常人の倍以上の巨体、そして何よりその正体は上が人間、下が馬というまるでケンタウロスのような姿を

 模した半獣人だった。その身を白銀に輝く鎧で包み込み、両手に血の滴る槍と戟を一本ずつ、背中に二本の

 槍と戟を背負い、俺を見降ろしていた。顔は何か黒い膜の様なもので覆われているせいで表情が分からない。

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  「く・・・ッ!」

  俺が立ちあがろうとした瞬間、奴は俺にもう一方の戟で襲いかかる。

  ブゥオンッ!!!

  俺はその一撃を無双玉の力を使ってその場より数m後ろへと避ける。端から見れば、俺が瞬間移動した

 ように見えるだろう。伏義との戦いで身につけた力の利用法の一つだ。俺はまず奴との距離を取るべくそこ

 から奴に背中を向け、後ろへと駆け出す。だが、奴はそれを許さず、俺の後を追って来る。数mもあったはず

 のリーチは奴のその巨体からは想像もできない速さであっという間に無くなる。

  ブォウンッ!!!

  「ぬぉっ!!」

  俺の背後に放った奴の一撃を、俺は咄嗟に前に飛び込み様に受け身を取ると、俺の頭上をその一撃が素通り

 していく。俺より先をいってしまった奴は再び俺との距離を作る。俺は刃を鞘から抜き取り、構える。

 向こうも俺の様子をうかがう様に、その周りをぐるぐると回っている。俺から仕掛けたいが、初めて戦う相手

 にどう立ち向かえば良いのか分からない・・・。 そんな俺の心中を見抜くかの様に俺に向こうは前面を向け、

 前身を低くして後ろ足で地面を何度も抉り、俺に突進を仕掛ける体勢を整える。

  「くそ・・・!どうしたらいいんだよ!?」  

  「一刀殿っ!馬上の将を射んと欲すればまずは馬を射るべき!今回もそれと同様!馬の脚を叩くのです!」

  「分かった!」

  稟の助言を聞いた俺は奴をもう一度見る。そして奴は地面を後ろ足で蹴り飛ばし、全体重を乗せた突進を

 仕掛けて来る。

  ガッゴォオオンッ!!!

  奴が放つ戟の重い一撃を刃の腹で受け流すと、ある程度先を行った所で方向転換し、もう一度俺に突進

 してくる。

  ガギィイイイッ!!

  奴が右手の戟が放った突きの一撃を、戟と俺の間に刃を挟むようにして戟の下をくぐり抜ける。

 そして刃を構え直す。

  「はぁあッ!!」

  戟の間合いの内側に入った俺はすれ違い様に、その馬の部分の後ろ足に斬撃を振り下ろす。

  ブゥオンッ!!!

  だが、その斬撃は空を切る。

  「なッ!?」

  そこにあったはずの後ろ足は俺の斬撃を膝を曲げる事で難なくかわした。斬撃をかわされ、もう一度攻撃に

 転じようと俺は後ろを振り返った。

  ドガアッ!!!  

  「がふッ・・・!?」

  そして浮きだったその後足から放たれた蹴りの先が俺の喉元を抉り、そのまま吹き飛ばされ、受け身を

 取る事が出来ず地面を転がる。呼吸がままならない俺は横たえたまま喉を押さえる。

  「ゴホッゴホ・・・!」

  あの太いつま先で喉蹴りをまともに喰らった俺の口から血が咳と共に吐き出される。

  「一刀殿っ!!」

  「お兄さんっ!!」

  向こうの方から稟と風の声が聞こえる・・・。俺は気が遠のきそうになりかけながらも、歯を食い縛って

 意識を保とうとする。

  「お前等!北郷殿を助けるぞ!!」

  「「「応っ!!!」」」

  「・・・!?」

  武器を持って、奴に立ち向かっていく兵士達。それに気が付いた奴は・・・。

  「ま、待て・・・。そいつは・・・。」

  俺は喉を押さえながら、彼等に向かって声を出そうとするが、息が苦しく、血反吐が喉の奥で絡まって、

 上手く喋る事が出来ない。そんな俺を余所に、奴は・・・兵士達に駆け出していった。

  「うおおおおおっ!!!」

  「でしゃあああっ!!!」

  「をおおおおおっ!!!」

  自分達に向かって来る奴を見ても、兵士達は足を止めず、果敢に立ち向かう。それを見た奴は、両手の得物

 を引っ下げ・・・。

  「や、やめ・・・ッ!!」

  ザシュゥウウウッ!!!

  俺が叫んだ時、彼等は奴の一振りによって体を引き裂かれ、肉塊と変貌した。

  「・・・・・ッ!!」

  そして、他の兵士達も俺の目の前で次々と、為す術もなく奴に肉塊にされていく・・・。

  「・・・・・・・・・ッ!!!」

  その瞬間、俺の中で・・・何かが弾ける感覚に襲われ、頭が真っ白になる。

  「・・・、・・・ぅぅ、・・・ぅう!・・・うううッ!!・・・うぅおおおおおおおおおおおおッ!!!」

  さっきまで出せなかったはずの声が喉の奥から出てくる。その叫びにも似た声を吐き出しながら、今度は

 俺が奴に仕掛けるために、駆け出した。それに気が付いた奴は俺の方に振り返り、戟の一撃を俺に放つ。

  ブゥオンッ!!!

  気が付いた時には、俺は奴の頭上より上に飛び上がっていた。俺に放たれた戟は地面を砕き、突き刺さる。

  「・・・ふっ!」

  俺は咄嗟に体をひねり、そのまま奴の背後に降りる。普通ならばそのまま足が地面に着くが、今回は違う。

 俺は奴の下半身、馬の背中に乗りかかる形になっている。刃を鞘に戻した後、腰のベルトを外し、それを馬の首の部分にまわす事で簡易的な手綱にした。

  「・・・ッ!!!」

  だが、奴はそれを嫌がる様に、俺を振り落とそうと暴れる。

  「うおぉ!!何てじゃじゃ馬っぷりだ!!・・・だけど!!」

  俺は振り落とされない様に、手綱にしたベルトに力を込め握り締める・・・。

  「俺だって!じゃじゃ馬の扱いには慣れているんだっ!!!ハアァッ!!」

  俺は暴れる奴を手綱で力任せに操る。

  「うおおおッ!!」

  奴は俺を背中に乗せたまま、走り出すと俺を振り落とそうと、左右に動き、急停止したり、飛び跳ねたり

 と、まるで暴れまわるが、俺はロデオボーイなった感じで振り落とされないよう、がっしりと奴に捕まる。

 この手だけは絶対にはなしてやるものかッ!!

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  「一刀ぉおおおおおおっ!!!」

  「ちょっと姐さん!そんな速く行かれたら、うちらやと追いつけへんでぇ!!」

  「あほかぁっ!お前等に合わせとったら一刀があいつにやられてまうやろう!!」

  「ああん!霞お姉様、待ってなの〜!!」

  ガゴッ!ガゴッ!ガゴッ!!ガゴッ!!ガゴッ!!!ガゴッ!!!

  「あ、あいつは!!」

  「げぇ!こっちに来るでぇえっ!!」

  「み、皆!早く横に逃げるの〜!!」

  「ってこら、逃げてどないすんねん!!」

  ブォアアッ!!!

  「何やっ!?また急に方向を変えたで!!」

  「あ、姐さん!あれっ!!」

  「うおぅっ!!!」

  「一刀っ!?」

  「「隊長っ!!」」

  ガゴッ!!!ガゴッ!!!ガゴッ!!ガゴッ!!ガゴッ!ガゴッ!

  さっき、霞達の姿が見えた・・・。きっとこいつを追いかけて来たんだな。・・・だが、こいつ、

 疲れを知らないのか。・・・まずい、そろそろ腕も限界に近づいている。

  「・・・なら・・・!」

  俺は手綱代わりにしていたベルトを右手に取って、空いた左手で鞘から刃を抜き取ると、そのままこいつの左前足の付け根の部分に突き刺した。

ガギィイイイッ!!!

  刃の切っ先は白銀の鎧を貫く。そしてすぐに引き抜くと、刃によって出来た鎧の穴から黒い液体が外に

吹き出す。

 「・・・・・・!!」

 思わぬ攻撃に、果敢に走っていたこいつの体勢が前足から崩れる。

 「・・・ふッ!」

 俺はこいつの背中から飛び降り、受け身をとって地面に降りる。一方で、体勢を崩した奴はそのまま地面に横倒れになった・・・。あれだけの上下でバランスの悪い巨体で一度倒れたら、そう簡単には立ち上がる事は出来ないはずだ。

 「・・・、・・・ッ!!」

 思ったとおり、奴は立ち上がろうにもその巨体のせいで立ち上がれない。おまけに左前足の付け根を負傷しているせいで上手く動かす事が出来なくなっている。ケリを着けるならば、今が絶好のチャンスだ。そう思って、

俺は刃を構えて奴に近づいて行く。

  ザッ!!!ザッ!!

 「えっ!?」

 俺は足を止める。突然、目の前に現れた黒ずくめの武装兵が二人、俺を阻むように現れたからだ。

 「こいつ等・・・、やっぱり外史喰らいか・・・。」

 奴を見た時から、もしかしたらとは思っていた・・・。そして外史喰らいの兵士が俺に襲いかかって来る。

 「くっ・・・!」

 ブゥオンッ!!!

 ガッゴォオオッ!!!

 「はぁッ!!」

 ブォウンッ!!!

 向こうの攻撃を刃で受け止めると、そのまま刃で反撃するが、もう一方の敵兵士にそれを防がれる。

 「くそッ!」

 ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!

 二人同時の攻撃を後ろに下がって避ける。顔をあげると、向こう先で横に倒れていたはずのあいつがいない。

俺がこいつ等に注意を逸らした間に、逃げたのか・・・。そして途中から現れた二人の敵兵士もその場から姿を消す・・・。結局逃げられてしまった・・・。

  「一刀―――っ!!!」

  「「隊長〜〜〜っ!!!」」

 待ちぼうけをくらった様に立ち尽くしていた俺の後ろから霞達の俺を呼ぶ声が聞こえて来る・・・。

とりあえず、危機を脱する事が出来た俺は華琳に事情を説明する事にした。

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  「そう・・・。あなたもよく無事だったわね。」

  事の顛末を華琳に話すと、華琳は俺に労いの言葉を贈る。

  「・・・済まない。俺のせいで兵の皆が・・・。」

  「それはあなたの責では無いわ、気に病む事はないわ・・・。」

  「にしてもホンマ変わった奴やったなぁ・・・。あんな姿した奴を見るんは、ウチ始めてやで。」

  と、重くなりかけた空気を変えようと、真桜が横から口を挟む。

  「まるでケンタウロスだったな・・・。」

  だから俺もそれに乗る。

  「けん、たう・・・ろす?」

  聞き慣れない単語に、沙和は頭の上に?を浮かべた様な顔をしながら俺を見る。

  「簡単に言えば、上半身が人間で、下半身が馬の伝説の生き物の事だ。」

  と、本当に簡単に説明すると、沙和と真桜は揃ってへ〜と言いながら感心する。

  「成程、なら今後はあれを『けんたうろす』と呼ぶ事にしましょう。一刀、けんたうろすの狙いはあなた

  であるようね。先程の戦いで負傷してこの場を撤退したようだけど、今後また現れないとも限らないのだ

  から。用心して置きなさい。」

  「あぁ、そうするよ。・・・だけど、どうして今頃になって?」

  「それだけあなたが向こうにとって邪魔な存在なのでしょうよ。成都で、伏義という男を倒したのが

  向こうには痛手だったようね。」

  「痛手・・・か。そうだといいけどな。」

  「・・・・・・。」

  「あれ?姐さん、どないしたん?何か煮え切らん顔しとるけど?」

  と、さっきから黙っている何かを考えていた霞に真桜が話し掛ける。

  「何か気になる事でもあったのか?」

  俺も彼女に尋ねてみる。

  「ん〜、いや・・・そんな大した事や無いんやけどな。あの・・・、けんたなんとか、背中に何本か獲物を

  しょっとったやろ?」

  確かにケンタウロスは両手、背中に何本か槍や戟を持っていたな・・・。

  「それがどうかしたのか?」

  そう聞くと、霞の表情に影が入り込む。

  「あの中に、恋の方天画戟(ほうてんがげき)があったんや・・・。」

  「・・・・・・。」

  俺の側にいた風の眉がピクンと動かし、霞の話を聞き続ける。

  「単に似ているだけじゃなくて・・・?」

  「かもしれへん・・・。でもな〜・・・。」

  何か釈然としないという顔をしながら、霞は後頭部をかく。

  「あれと戦っている時・・・、何か・・・恋と戦っている時の事を思い出して・・・。何か懐かしい

  っちゅうのか?・・・そんな感じがしたんや。」

  「でも、彼女は確か趙う・・・、行方不明になったって聞いているけど・・・。」

  俺は、咄嗟に口ずさみ、言い直す。

  「お兄さん、今・・・趙雲さんと一緒に、と言いかけましたよね?」

  だが、風はそれを見逃さなかった。これは完全に俺のミスだ・・・。

  「・・・すまん。」

  俺は手で自分の顔を隠して風に謝る。

  「いいのです。お兄さんなりの風達への気遣いであるのは、ちゃんと分かっていますからぁ。」

  「ぅ・・・。」

  何でもお見通しと言う様に、風は俺に不敵な笑みを見せる・・・。

  「ですが確かに、恋ちゃんは星ちゃん、音々ちゃんと一緒にその行方をくらましています。そんな

  恋ちゃんの武器をあのけんたうろすさんが持っていたというのは、あながち偶然ではないと、風は

  思うのですよ。」

  確かに、風の言うとおり単なる偶然にしては出来過ぎな話だと思う・・・。

  「それにあのけんたうろすさん、見た所女性のようですし・・・。」

  と、風は最後の方で含みある言い方をする。

  「何や、その含みのある言い方!まるであれが恋やって言うてるみたいやないか!?」

  「先に言ったのは、霞ちゃんじゃないですかぁ〜?」

  「そ、それは・・・そうやけど・・・。」

  正論を言われ、ショボーンとする霞。

  「まぁ、何にしても。ここで話し合った所で、仕方の無い事でしょう。今は先を急ぐ事を第一に考えましょう。凪と稟が兵達の亡骸の埋葬を済ませ次第、春蘭達が待っている場所へと向かいましょう。」

  と、最後は華琳がまとめ、その場は解散となった。俺も元の場所に戻ろうと華琳の後ろを追いかけようとした・・・。

  ドクンッ―――!!!

  「・・・・・・ッ!?!?!?」

  突然の胸の苦しさに、俺はめまいを起こす。俺は両足を踏ん張って、倒れそうになる体のバランスをとる。

  「どうしたの、一刀?」

  突然立ち止まった俺を見る華琳。

  「・・・いや、何でもない。さっきの戦いの疲れが今になって来てさ。」

  俺は咄嗟に笑って胸の痛みを悟られないように誤魔化す。

  「・・・・・・。」

  「・・・・・・。」

  疑いの眼差しで俺を見る華琳・・・。

  「・・・そう。まぁ、力を得たからと言って、あまり無茶は控えなさいな。」

  「・・・気を付けます。」

  そう言って、華琳は歩きだす。すでに胸の痛みは無くなり、俺は華琳の後を追いかけた。

 

説明
 こんばんわ、アンドレカンドレです。
今週は忙しく、学校に夜の9時までいる日が続き投稿が遅くなってしまいました。はたして、僕はちゃんと最後まで書き斬る事が出来るのか・・・不安で仕方のない今日この頃。
 話は変わりますが、アニメ真・恋姫無双もすでに2話が放送されたようですが、実際内容は如何なのでしょうか?アニメを見たという人、教えて頂けないでしょうか?
 さて、第十九章、第二十章で膨大な物語を書いたせいで、正直半分燃え尽きてしまった僕。ですが、まだまだ終わりではありません。今回からやっと物語の主人公(笑)僕らの一刀が大活躍します!お話は大十九章〜第二十章と同時進行で描かれます。
 それでは、真・恋姫無双 魏・外史伝 第二十一章〜敵は涼州にあり・前編〜をどうぞ!!
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コメント
背中に方天背負ってるジャマイカw  あきらかに○んだな(リアルG)
触覚かくれてねー!(ヒトヤ)
スターダストさん、報告感謝します。一刀君は第12章で力の制御ができています。ですので、この胸の痛みはそこから来るものでは無いと思います。(アンドレカンドレ)
胸の痛み・・・・・・・・力が制御が出来てないからの無双玉の副作用か何かか?(スターダスト)
3p「俺は向こう先の方」 5p「喉蹴りをまとも喰らった」 (スターダスト)
jackryさん、どうでしょうかね〜www。(アンドレカンドレ)
キラ・リョウさん、そうですねー。星は助けられたのですから・・・。こっちの一刀君に期待しましょう。(アンドレカンドレ)
一刀、恋を助けてあげてくれ!!(キラ・リョウ)
乱さん、アニメのお話ありがとうございます。(アンドレカンドレ)
そういえば一刀の無双玉ってもしかして呉の……アニメは前半はギャグで後半がシリアスになりそうな感じです。(乱)
リュートさん、報告感謝致します!(アンドレカンドレ)
6ページ目、誤字発見 「1刀っ!?」…どう見ても変換ミスですw(リュート)
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