〜真・恋姫?無双 魏after to after〜sidestory新たな曹魏の王(後) |
after to after side story新たな曹魏の王(後)
ついに訪れた華琳と曹丕の決戦の日、二人以外の親たちも子供達も必要な仕事の全てを片付け今日という日を迎えた。
場所は練兵場――既に華琳は愛用の絶≠片手に、目を閉じ佇んでいる。
我が子の訪れを待ちながら、曹魏の覇王は立っていた。
――「来たわね」
閉じた目を開いて、我が子を視界に納めると華琳は少し虚を突かれてしまった。
「圭の仕業ね・・・細部に違いこそあるけれど、間違いなく意匠の基は一刀の服でしょう」
所々が女の子に合わせた作りになっていたが、白を基調とした服は御遣いの服≠ニさえ言われた一刀の着ていたものだ。
その服を纏い一歩一歩と歩を進める曹丕。
華琳が見た我が子の姿は、一刀ととても似通っていた。
――曹丕が華琳のもとを訪れる十分ほど前。
「さて、もうすぐ時間ですし・・・着替えるとしましょう」
自分の服に手をかけた時、慌ただしい声がその手を止めさせた。
「待って待ってーなのー!!」
「圭姉様?」
息を切らせて部屋に入ってきたのは、沙和の娘で姉の一人の圭だ。
相当急いだのだろう、息切れの音が非常に大きい。
「よかったの・・・間にあったの・・・曹丕ちゃん、これ着てほしいの」
「今ですか?」
その問いかけに圭はうんと頷いた。
「私が一生懸命意匠を凝らして作った服・・・これを着て華琳様に勝ってほしいの・・・私は、他の皆みたいに稽古で力にはなってあげられないから・・・」
そう言って圭は持っていた服を曹丕に手渡した。
「圭姉様・・・これは」
「えへへ〜、素敵でしょ。お父様の服を基にしてみたの」
「ありがとうございます姉様・・・私、頑張ります」
キュッと服を抱きしめながら圭に礼を言うと、圭は「頑張ってね〜」と言って部屋を出て行った。
「必ず勝ちます・・・皆と私自身のために」
決意を新たに、曹丕はもらった服に袖を通した。
距離を置き、二人は対峙していた。
「素敵な服ね」
「ありがとうございます・・・私も気に入ってるんですよ」
「そう・・・。それで?その腰に下げた二振り≠フ刀は何なのかしら」
「そうですね・・・強いて言うのであれば・・・答え≠フ一つです」
「・・・真似ごとは止めたのというわけね」
「ご存知でしたか・・・まぁ、別に良いですけど」
ふうっと一息ついた後には互いに笑みはなく、凛とした表情で睨みあっていた。
空気がピリピリと張り詰めて行く。
「いくわよ・・・・・・貴女の答え≠、見せてみなさい!!」
「曹丕子桓・・・参ります!」
互いの刃が激突した。
――だが、曹丕が腰に差しているもう一振りの刀は未だに鞘に納められたままだった。
始まった曹丕の試練を見届ける集団があった。
「秋蘭、曹丕様の腰にある一振りは何故抜かれておらんのだ?」
「ふむ、曹丕様にも何かお考えがあってのことだろうが・・・華琳様相手に出し惜しみは敗北を招くだけだろうな」
「それは違います母者」
「衡?どういうことだ」
「曹丕様は、まず華琳様とお話≠ウれるつもりなのです。それが済めば、すぐにでも抜かれることでしょう」
「そうか・・・姉者、そういうことらしいぞ」
「ん??どういうことだ?既に言葉を交わされていたではないか」
「母〜」
「どうしたというのだ、楙」
「気にしなくてもいいのです、母!気にしてもややこしくなるだけです!充もよく分かっておりませんから母も気にしないでください!」
「うむ、充がそういうのであれば気にすまい!」
「秋蘭様〜」
「楙よ、お前の苦労よくわかるぞ。だから言わせてもらうが、ああやって開き直ったら諦めるしかないぞ」
全く他人の気がしない姉の娘の立ち位置に、深く同情する秋蘭であった。
「春様も充姉様も頭の中がお花畑なのですね。幸せそうでなによりです」
秋蘭の次女、夏侯覇から痛烈なお言葉が繰り出されるのだった。
その隣で、霞とその娘トラが華琳と曹丕から視線を逸らすことなく話している
「なんか気の毒な話が横から聞こえてくんねんけど・・・トラ、お前から見て曹丕はいけそうなんか?」
「おかん、まさかいけるなんてホンマに思うてるんとちゃうやろな?」
「んなわけあるかい・・・華琳、全然本気だしとらへんしな。そっか、届くかどうかは曹丕次第っちゅうわけやな」
「そういうこっちゃな。ま、特訓の時のあの根性やったら・・・なんとかなるって」
「なら、静かに見守るとしようか」
「応や・・・ああ、一つだけ言うとくけどな・・・腰に下げとるもう一振りを抜いて二刀流になった曹丕は別人やで。楽しみにしとき」
娘の不敵な笑みに、ニヤッと笑って「そうさせてもらうわ」と言った後、霞は口を閉ざした。
そしてトラもまた、それ以上何も言うことはなく曹丕の戦いを見据える。
視線の先には、完成された舞いのごとき戦いが繰り広げられていた。
――キンッ、ギッ、キィィィンッ。
繰り広げられる剣戟、だが、二人は揃って力を抑えて戦っていた。
「お母様・・・私は、お父様に菊花≠頂いた日にこう言いました。お母様を超える良い王になる≠ニ」
「ええ、そう言ってたわね。それがどうかしたのかしら?」
「まだ続きがありますよ・・・・フッ!」
横薙ぎの切り払いもたやすく止められる。華琳は何も言わずに続きを待った。
「人としてはお父様を超える良い人に=E・・そう言っていたのに、私は何もしてなかった。お父様やお母様が作ってくれた道≠フ上だけをただ歩いていただけでした」
「子がある程度は親が作った道を歩くのは普通ではないのかしら」
不敵に笑いながら華琳は言葉を綴る。
――からかわれていますね私は。
それがわかっていたからこそ、曹丕は華琳に向けて言葉を紡ぐ。
「意地悪を仰るんですね。生憎と、普通≠ナは覇王の娘は務まりません」
「フフっ、少しは分かってきたようね」
華琳は楽しくなっていく自分の心を抑えられなかったし、抑える気もなかった。
そして、それは曹丕も同じだった。
「準備運動に付き合っていただいてありがとうございました。私もここからは一切手抜きせずに往かせていただきます」
距離をとった曹丕は腰に下げたもう一振りを抜き放ち、無体の構えをとる。
(・・・雰囲気が変わったわね)
「ここから、私は一歩を踏み出します=v
曹丕の体の内から、氣≠ェ膨れ上がり放出される。
刀身からは、一刀の紅蓮桜華≠フように花弁が舞う。
――その光景は、さながら桜吹雪のようだった。
離れた所からそれを見ていた一刀は驚いて息を呑んだ。
「紅蓮桜華≠ニ・・・違うな。焔≠ニ言うよりは嵐≠チて感じだな」
「流石は父上、良いところに目を付けられましたね」
「鎮?」
今や警備隊の一隊を預かる立場になっている我が子が誇らしげに妹を自慢する。
「曹丕様は、以前からあの技を磨かれていたんです。あの二刀も、決して付け焼刃ではありません」
淡々と妹の事を語る鎮に、今度は母である凪が尋ねた。
「つまり、以前から研鑽を積まれていたということか?」
「はい、その通りです母上。かつて、私が母上になりたがっていた℃桙ニ同じです。曹丕様は・・・父上になりたがっていた≠セから、自分自身を押し殺していた」
「「・・・・・・」」
想う節がある二人は何も言わなかった。
「母上と大喧嘩した後に私が望む私になる℃魔選んだのと同じように、曹丕様も華琳様≠竍お父様≠ナはなく、曹丕様自身≠ノなることを選んだんですよ・・・・その答えの現れが、今の曹丕様の戦い方です」
「そっか、曹丕は・・・そうなるためにどうしたらいいのか≠見つけたんだ」
互いの刃を交える妻と子を見守る一刀の瞳にはとても温かな光があった。
「禎、ええ仕事しとるやんか」
「おかんの子やからな、アレくらい当然のことや。ま、おかんが鍛えた桜華≠謔閧ヲえ出来やとウチは思うとるんやけどな」
へへっと鼻をこすりながら胸を張る我が子の頭を軽く真桜は小突いた。
「生意気言うようになったやないか・・・ま、自分の仕事に自信と誇りを持つのはええことや」
「おかんがウチの事褒めんのは久しぶりや・・・頑張ったかいがあったで」
ぐりぐりと頭を撫でられて禎は嬉しそうに笑う。一方の母親は、どことなく頬が赤い。
「うっさいわ、ボケ」
結局軽く頭を小突く真桜だった。
「・・・んで?あの刀、銘はなんていうんや?」
「あの刀はな、曹丕の想い≠運ぶ風や」
みわたし
――「その名も神渡=v
――「神様さえ運ぶ風の名前や!」
曹丕が巻き起こす風の中で二人は互いを見つめあう。
「一刀の紅蓮桜華≠ノ似ているわね。どうしてあの時使わなかったのかしら?アレと同じならばどうにでもなったでしょうに」
そう言い放った華琳に対し、曹丕はただただ苦笑した。
「同じではないんですけどね・・・それに、あの時は気が動転していましたから」
尚も苦笑を続け。
「ましてや、あの時の私はお父様≠ノなりたかったんです。まったく、お父様を超える良い人に≠ネんて自分で言っておきながらお恥ずかしい限りなんですけどね」
改めて表情を引き締める曹丕。
華琳には、目の前にいる我が子が急に大きくなったかのように映っていた。
(色々と吹っ切れたみたいね・・・これでようやく半人前≠ニいったころかしら)
華琳はもう、楽しくて仕方がなかった。
まるで、この世界に来たばかりの一刀が成長していく様を今一度見ているかのような錯覚を覚えてどんどん気分が高揚していく。
「さぁ、来なさい曹丕。もっと私に貴女≠見せて頂戴!」
「そのつもりです」
風が嵐に変わる。
――「双華大嵐=E・・いざっ!!」
曹丕は、一陣の風の様に駆けた。
そのほんの少し前に、紗耶は娘に色々と話を聞かされていた。
「旦那様の紅蓮桜華≠ニどう違うの?」
「父さんの紅蓮桜華≠ニ違って全体の強化まではいかないの。義姉さんはある一点のみをひたすら強化することにこだわった。・・・で、その結果が今見ているアレ」
今日の日までずっと手合わせしてきた蓋は、その時の事を思い返している様子だった。
「義姉さんは、疾さ≠ひたすら磨いていたの」
「なるほど・・・だから、紅蓮≠ナはなく大嵐≠ネのね?」
「その通り。ま、疾さについていける程度には体の強化もされてるんですけどね」
――その直後、曹丕は一陣の風となった。
(疾いっ!!)
距離をとっていたはずの華琳は、一瞬感じた悪寒と己の本能に身を任せた体を動かした。
だが、距離をとることは叶わずに風となった曹丕の刀を防ぐこととなる。
「!」
左手に握られた神渡≠フ一振りを防いだ華琳だったが、次の瞬間には右手に握られていたもう 一振りの刃が迫ってくる。
咄嗟に飛びのいて距離を取ったが、再び圧倒的な速さで距離を詰めてきた。
(一撃一撃は、さほど重くはない・・・けど、手数が多すぎる!)
「はあっ!」
キイィィンっ!!
軽い音が響いたが、氣≠フ込められた一撃は重さがあり華琳の体を絶≠イと、僅かに弾き飛ばした。
だが、華琳はそこでさらに驚くこととなる。
「空閃・燕!!」
なんと、曹丕は氣≠フ斬撃を放ってきたのだ。
「はっ!!」
絶≠フ一振りでそれを掻き消したものの、華琳はただただ驚いていた。
(考えてみたら、鎮や蓋がいるのだから・・・氣≠フ放出も習得していたとしても不思議はないか・・・まったく、憑き物が落ちた途端に別人じゃない)
自分≠ニ一刀≠ノこだわり続けていた曹丕の変化に、覇王として・・・そして親として喜び、そして楽しんでいた。
(雛鳥は、どこまで羽ばたくのかしらね)
「お母様」
「?」
打ち合いの最中、曹丕が話を切り出してきた。
「私は既に目標は定めていたわけなのですが、そのためにどうすればいいのかが未だにハッキリしていません・・・ですが、お母様のお陰でとりあえずそれは解決しました」
「何がとりあえずなのかしら・・・是非聞かせてもらいたいわね」
「今この状況なんですけど・・・幸か不幸か、目の前にお母様≠ニいう壁があります」
「そうね。それで?私という壁を貴女はどうするのかしら?」
「申し訳ありませんが、越える気はありません」
刹那、がっかりした華琳だったが、それが間違いだということにすぐに気付く。
――この子は、私の期待以上の答えを聞かせてくれそうね。
そして、その期待は見事に応えらた。
「お母様に本気を出していただきます。そして――」
「壁≠真正面から壊させていただきます!!」
曹丕は、怒涛の勢いで華琳へと肉薄する。
彼女は、今まさに嵐≠ニなっていた。
曹丕の表情の輝きをしっかりと見守る少女が、母親に告げる。
「母様、曹丕様は・・・父様や華琳様を越える≠アとれはなく、お二人になる≠アとらけに囚われたから・・・ろこか芯≠ェなかったのれす」
「ツ、貴女・・・」
「ツは、最初から曹丕様のお役に立つことらけを目指して、御勉強していたから、曹丕様のように苦しんらりはしていません」
「・・・・・・」
「れも、母様や父様より智に富んらひとになりたいという気持ちは・・・よくわかるのれす」
「あの変態よりアンタは頭いいでしょうに・・・ま、私にまだまだ及ばないようだけど」
「次の軍事演習・・・首を洗って待っているがいいれす」
桂花とツが突然火花を散らせ始めた。
その横では、稟親子と風親子が華琳と曹丕の剣戟を眺めていた。
まぁ、真面目に観戦しているのは稟と奕の二人だけで、風と武、延はのんびりと茶を啜っていた。
「お母上、風様たちはまったりし過ぎではないのでしょうか?」
「貴女は人の事は言えないでしょう・・・読んでる本を閉じなさい」
「いえ、私はお父上と同じく大団円≠ノなることを疑っておりませんのでこれくらいで丁度いいのです」
もう溜息しかでない母・稟であった。
「延ちゃん、稟さんが溜息をついているのです」
「そのようなのですよ。稟さんに比べてお母さんはのんびりさんなのですよ〜」
「風たちが騒いでも仕方がありませんからね〜。のんびりといくのが一番なのです・・・ところで稟ちゃん」
「なんですか?眠たいのなら勝手に寝ればよいでしょう」
「いえいえ、桂花ちゃんとツちゃんは・・・ほったらかしたままでいいのでしょうか〜?」
「ええ、流しましょう」
すっぱりと断じる稟だった。
その後ろで、お盆に茶を乗せ運ぶ人影が二つと茶菓子を運ぶ影が二つが動き回っていた。
「わはぁ、華琳様と曹丕様・・・楽しそうだな〜。ね、流琉」
「本当ね、満?どうかしたの?」
「儀も、何か不安そうな顔してるけど・・・どうしたのさ?」
「んーと・・・ねぇ満」
「うん・・・儀も同じ心配しているんでしょ?」
はぁ、と深く溜息をついた儀と満であった。
その事が気になり聞いてみると。
「あのね、母ちゃん・・・曹丕様の双華大嵐≠ヘ一撃一撃が軽いということ以外にもう一つ欠点があるんだよ」
「欠点?」
首をかしげる流琉に応えるのは娘の満である。
「あの技、疾さ≠フ強化に氣≠つぎ込んでいるせいで防御面が凄く脆いんです。だから、 絶≠フ柄による突きや手足の打撃の威力を氣≠ナ軽減できないと思います」
「あれで蓋がいなかったら、今頃大怪我で華琳様と戦うどころじゃなかったと思うよ」
「そんなに脆いんだ?」
「うん、紙とかと何にも変わんないかな?」
儀と満の言葉に、季衣と流琉も微かに不安になるのだった。
丁度その頃、華琳は曹丕の弱点を看破しつつあった。
(・・・この技の正体は疾さ≠フ一点強化ね。防御なんてまるで考えていないわ)
「ええ、その通りです。この技は防御には全くと言っていいほどに氣≠使っていません。相手から攻撃を受けない≠フが大前提ですから」
「大した自信・・・ねっ!」
――ドゴッ。
交差する曹丕の一撃を交わした華琳は曹丕の腹部に蹴りを見舞った。
「痛・・・この程度、まだまだ行けます!!」
「そうこなくてはね!さぁ、貴女の大層な自信が虚言でないことを示しなさい!!」
(もう、本当にこの子は・・・私たちの娘よ、一刀!!)
もう、楽しくて仕方がない華琳だった。
「は!・・・せぇっやっ!!」
――ブンッ、ギィィンっ、ガッ、キィィンッ。
最初はほぼ全てを防御していた華琳だったが、徐々に徐々に回避を織り交ぜ始めた。
(お母様が疾くなった?・・・違う、これは)
――私が遅くなっているんだ。
それを自覚した途端、体に痛みが走り始めた。
(しまった!限界時間を完全に失念していた。体中が悲鳴を・・・痛ぅあ・・・)
痛みが辛かった。
諦めてしまいたくなった。
もういいんじゃないかと思った。
そんな良くない気持ちがたくさん顔を出したのだが、そこで。
――曹丕ちゃん、私たちは応援の歌を贈ってあげることぐらいしかできないけど。
――曹丕様が頑張れるような歌を作ったわ!
――当日は、公演でママたち共々見届けることができませんけど、せめてこの歌を曹丕様に贈りたいんです。
(天々、地々、人々!)
今この場にいない、年の一番近い姉妹たちの事を思い出した。――否、それだけじゃない・・・今日という日までずっと付き合ってくれた皆の事が鮮明に蘇ってくる。
今の自分はそれに支えられているんだということを改めて思い出した途端、不思議と力が湧いてきた。
――確かに、諦めてしまえば楽なのかもしれない。
でも、そんなのは――。
「ごめんです!!」
一歩を踏みこむ。
――前へ、前へ、前へ!!
ただひたすらに楽しかった。
だからこそ、こんなところで諦めたくはなった。
――私は壁≠真正面から壊すと宣言したのだから!!
限界に至っている体にも関わらず、曹丕の瞳の輝きは決して褪せることはなく、むしろその輝きを増している様子だった。
曹丕の輝きを見守る父の瞳には、いつかの情景が浮かんでいた。
(なんか、あの時の俺と左慈のやり取りを見ているみたいだな・・・、曹丕を見ているとなんか自分を見ているみたいな気になるよ・・・)
――あの時の自分も、諦めて楽になるのなんか御免だった。
(いやはや、曹丕は俺に似たみたいだな・・・だけど、流石は華琳の血をひいているだけの事はある。激しく打ち合っているみたいに見えるけど、凄く冷静だ)
この短期間での娘の成長が楽しくて仕方ない一刀だった。
本当はこんなのはフェアじゃないことぐらいは重々に承知しているし、後で華琳に怒られるのも分かっていた。
――だけど伝えたかった。
――だから伝えた。
「頑張れ、曹丕!!」
そして、その声は確かに娘に届いた。
「はい、お父様!!」
力強く、曹丕は一刀の声に応えた。
一刀に応えた曹丕は、左手に握っていた神渡≠フ一振りを鞘に戻し、右手に握ったもう一振りを両手で持ち、深く腰を落とす。
刃先を右下に下げる。
対峙する華琳は、我が子の気迫の変化に気が付きこちらもまた構えをとる。
「折角のもう一振りは使わないのかしら?」
「ご期待に添えなくて申し訳ないんですけど・・・・・・少なくとも、がっかりはさせませんよ」
上体を捻り、ありったけの氣≠神渡≠ノ注ぐ。
華琳もまた、絶≠ノ氣≠込め、迎え撃つ用意をする。
(まったく、一刀のお陰であの子ったら余計に強くなってしまったわね・・・横槍を入れた罰は、後でたっぷりお仕置きしてあげる・・・今は、目の前の我が子を!)
「来なさい、曹丕!!」
「はい、お母様!」
圧倒的な気のうねりが辺りを包む。
そこにいたすべての者が、次が最後であることを悟った。
――「双華大嵐・一輪大華=v
曹丕の全身全霊の想い≠乗せた鮮烈な風の斬撃が神渡≠謔阨たれた。
「はぁっ!!」
ギ、ギィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!!!
華琳はその一撃を、避けずに正面から迎え撃った。
放たれた斬撃と絶≠フ刃がせめぎ合う。
ゴォォォォォォォォォォォ!!!
斬撃から風が溢れ唸りを上げている。
(これは・・・嵐を受け止めているのと何も違わないじゃない!!まったく、どこまでも素晴らしくいい方に期待を裏切ってくれる子だわ!!)
「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
――ズズッ
「!?」
(私が押されている?・・・まさかあの子、斬撃にまだ氣≠注ぎ続けているの!?)
「私は・・・はぁ、はぁ・・・お父様にも、お母様にも・・・絶対に・・・負けたくない!!」
「!?ぐぅぅぅぅぅぅ!!」
斬撃を通し伝わってくる曹丕の想い≠フ強さに徐々に押されて始める華琳。だが、決してその想い≠ゥら目を背けずに彼女は受け止め続ける。
――ビキッ!
「?」
何かがひび割れるような音が確かに聞こえた。
最初こそ何かと思ったが、すぐに華琳はその正体に気付く。
「絶=I?まさか曹丕、貴女は最初から!」
音の正体は、絶≠ノヒビが入る音だった。
「ええ、その通りです。お母様に気付かれずに事を運ぶのには随分と神経を使いましたが・・・成功して良かったです」
――そう、最初から曹丕は華琳の武器の無力化を狙っていた。
最初の剣戟、そして二刀を使った双華大嵐≠ノよる超高速の連撃は穂の威力のほとんどを絶≠フ刃に集中させていたのだ。
だが、一点に集中している以上は少しでも打撃の箇所をずらされてしまってはすべて台無しになってしまう。だからこそ、微塵も気取らせないためにありとあらゆる方向から斬撃を繰り出し、狙いを隠蔽したのだ。
同じ場所に落ち続けていった雫が磐を穿つように。
――ただ一点を。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇl!!!!!」
「く!ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・あ」
――パキィンッ!
一気に手ごたえが無くなった途端に音が鳴り響く。
絶≠フ折れた刃が、地面に突き刺さる。そして、華琳の頬から一筋の血が流れた。
「やっ・・・た。私の想い=E・・お母様に・・・届いた」
そこで張りつめていた緊張の糸が途切れたのか、曹丕はそのまま倒れた。
「・・・・・・」
突き刺さっていた絶の刃を抜き、我が子のもとに一歩一歩と歩を進めていく。
「たかがかすり傷一つ負わせた程度で気絶するなんて・・・」
しゃがみ込み、手に握った折れた刃を首筋に立てる。このまま引いたなら、頸動脈を裂き命を奪うことも容易いだろう。
「まぁ、命を奪うとで勝敗を決するなんて一言もいってないわけだし・・・今回は見逃してあげるわ」
――「華琳!曹丕!」
駆け寄ってくる一刀を視界に納め、華琳は溜息を吐いた。
「やれやれ、本当に子煩悩な父親ね・・・私の夫は」
「はい、世界で一番素敵なお父様です」
「あら?もう目が覚めたの、流石は私と一刀の娘ね」
「流石に体は言うことを聞いてくれそうにありませんけどね・・・(ポスン)お母様?」
「日々小さな壁を見つけ、そしてそれを越え更なる高みを目指しなさい・・・貴女の目指そうとしている頂きは・・・高いわよ?」
胸に投げられた菊花≠抱きしめながら曹丕は、嬉しくて涙を流した。
母は、それをあえて見逃した。
(――まぁ、これくらいの涙なら見逃してもいいでしょう)
「これからも、私自身と皆と共に・・・精進します」
「そうしなさい」
華琳と曹丕は揃って笑った。
――こうして、華琳が曹丕に課した試練はお互いに笑っていられる結果で終わった。
〜epilogue〜
――それから暫くして。
「はぁ・・・今思い返してみれば、あの時お母様は全然本気を出してなかったんですよね」
実力ではなく、精神を試す試練だった。
あれで覚悟も中途半端だったなら、今頃こうしてはいなかっただろう。
「・・・・・・凪様に心から感謝ですね」
冗談抜きで背筋が寒くなる。あの時出会えた幸運を忘れないようにしなければ。
――お母様でしたら、運を引き寄せ掴むのも実力≠ニ仰るのでしょうね。
「・・・・・・」
空に浮かぶ満月にそっと手を伸ばす。
届く筈なんてない事は充分承知していたが、今日は何となく掴めそうな気がしたのだ。
「掴めるはずは・・・ないですよね」
握った手を開いたが、当然だが何もない。当たり前すぎて苦笑してしまう。
「この手は月は掴めない・・・だけど、自身の願いは掴むことが出来る」
自分にそう言い聞かせるが、自分は未だに掴めていないことを、彼女は理解していた。
――大陸の覇王と太平の世を導いた天の御遣い。
この二人を越えることが、彼女の願いだ。
「本当に・・・大変な夢を持ってしまったものですね」
溜息をこぼすものの、彼女の瞳には一切の揺らぎはなかった。
その凛とした横顔は、かつて三国の覇者を目指した母親のそれと寸分の違いもない。
「曹丕様ー?ろこれすかー?」
ふと自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ツ姉様・・・そっか、そろそろ宴が始まる頃でしたね」
折角の満月ではあったが、それはまた次の機会にでも可能だ。今日は年に一度しかない三国の祭りの日、どちらが優先事項であるかなど一目瞭然だ。
「曹丕様〜〜?」
そろそろ拙い、ツ姉様の声が涙声になりつつある。
「さて、と・・・・・・ツ姉様!すぐにそちらに参りますから待ってて下さい!」
城内へと踵を返す。
月明かりが照らす、曹丕の背中は・・・もう、一刀と華琳の娘≠ナはなかった。
――これからの魏を背負う、新たな曹魏の王≠セった。
〜あとがき〜
さて、そんなこんなで後編を送り届けさせていただきました。
いかがでした?
今作は作者的には色々真面目なテーマを考えてはいましたが、正直なところ・・・。
――保護者VS子供
このテーマが一番わかりやすくていい気がします。
そのテーマの中で、曹丕と華琳の戦いはそれらの代表戦なのです。
保護者代表の華琳に対するは子供代表の曹丕といった感じですね。
結果として曹丕は華琳や一刀に僅かばかり近づいて終わりました。他の子供達もそんな感じです
そして、kanadeが紡ぐ外史・魏伝≠燻氓ナ最後です。
皆さまにとっていい作品だった≠ニ言っていただけるように全霊をもって書かせていただきますのでよろしくお願いします。
――ええと、本来ならもう〆るところなのですが、もう少しお付き合いください。
今シリーズが終わったら新しい外史の物語を書き綴る予定なのですが・・・
ちょっとここらで一つ、皆様にアンケートみたいなものを取りたいと思います
アンケート通りにするかは正直なところわかりませんが、参考にしたいので御協力を・・・
選択肢は以下の二つです。
1. After to afterシリーズお疲れさまでした。次の外史の物語に全力を注いでください。
2. 次の外史の物語の合間に、ホントにたまにでもいいのでAfter to afterシリーズの作品を読みたい!
この二つから選んで、感想等に添えてコメント欄にお願いします。
それでは次の作品でまた――。
Kanadeでした。
説明 | ||
さて、前作の続きをお送りさせていただきます。 このシリーズもいよいよ終盤、今回は初めてアンケートっぽいものを用意しておりますのでどうぞご協力ください。 それではどうぞ |
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良かったです。(readman ) 5p 曹言い放った そう言い放ったかな?(2828) 両方で!!!(リンドウ) わがままに両方の選択肢を・・・www。(ポーザン) 1でお願いします。少数意見ですみません。(ブックマン) 1に注力していただいた上で、無理のない範囲で2を希望です!わかりにくいw(だめぱんだ♪) 2でお願いします。楽しみにしてます。(カイト) 全力で2です!!! それとすみませんが子供‘sのプロフィール(誰の子供かや性格等)を書いていただけませんか? 時々こんがらがります(猫螺舞) 2以外に選ぶものなど無いのですよ、ダンナ(闇羽) 2かな(tomato) 完全に2で!!!!(motomaru) そりゃもう2です!(21世紀) 2(真) 多分2が多いと思うけど自分は1だな。終わったものをダラダラと書くより新しいものに全力を尽くして欲しい。(libra) 楽しく読ませていただきました。ガラにもなくすこし感動している俺が居る・・・次回も楽しみにしてます。 2(黒猫) 2でお願いします!(タンデム) すごく良かったです^^アンケは2でお願いしますw(刀) 2 納得のいくネタができたときでも(nanashiの人) 2でおねがいします。これで終わりはとても寂しいであります!(st205gt4) 2でお願いしまーす!!(kotobuki) 2で。偉大な両親をもつ二世の宿命が良く書けてたと思います。(yosi) 曹丕の歩みの先には高き頂・・偉大な親たちを超えようとする姿に感動しました。アンケートは2でお願いします。この外史はほんとドツボにくる暖かさなので・・(kayui) アンケは2で^^それぞれの家族の日常的な感じを希望しますw(まめ) 感動しました!! まだ届かずとも、しかし歩み続ける曹丕の姿が良かったです。 アンケートについては2ですね。これについては本当にたまにで良いので。(よしひろ) まさしく大団円=I!とても良かったです。アンケは2で。(roki) 2でお願いします!!がんばってください!!(neoken) |
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