涼州戦記 ”天翔る龍騎兵”3章6話
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第3章.過去と未来編 6話 董卓暗殺事件

 

一刀達が寿春に着いた頃、董卓は呂布と陳宮とともに長安に居た。

 

この2ヶ月で長安もかなりのにぎわいをみせるようになっており、また洛陽―長安間の治安も良くなっていた為視察に来ていたのである。

 

当初は賈駆も来るつもりだったがさすがに2人とも洛陽から離れるのはまずいということとずっと洛陽に閉じ込められたような状態だった董卓の気分転換も兼ねて董卓のみで行くことになりその護衛として呂布と陳宮が付いて来たのである。

 

長安の城門に着くと陳宮が衛兵に董卓が到着した旨告げる。

 

それを受けて衛兵は駆け足で中に走って行った。

 

董卓は馬車を降りると城門の前に立ち、呂布と陳宮がその両脇に並ぶ。

 

付き従って来た兵達もその後ろに並ぶ。

 

すると中から20代後半くらいの男が走って来た。

 

「董卓様、お待たせして申し訳ありません。今回お世話役を勤めさせて頂ます王允と申します。」

 

「董卓です。今回はお世話になります。」

 

互いに挨拶し合う董卓と王允の後で呂布は小首を傾げ、陳宮は一瞬表情を変えたが董卓も王允も気づかなかった。

 

その日は着いたばかりなので部下を慮って休養にし董卓は次の日より精力的に視察をこなした。

 

市を回ってはいい匂いがする度にフラフラと彷徨う呂布に苦笑いしながら住人から差し出された点心をいっしょにもきゅもきゅと食べ、辺り一帯の人々に癒しを施し、農地を訪れては農民達に親しげに話しかけ作物の出来や困ったことがないか聞いたりした。

 

いろいろと回って見た限りでは治世はうまくいっているようで、また住民の董卓への態度も袁紹の虚言の影響は抜けてるようで歓迎している様子が伺えた。

 

予定していた視察を終えた董卓達は城に戻ってきていた。

 

「へぅ〜、ちょっと疲れちゃったかな。」

 

「お疲れ様でございます。予定されていた視察は本日で終了でございます。明日は予定通り洛陽へということで宜しいでしょうか。」

 

「はい、特に問題もありませんでしたから。王允さんお世話になりました。」

 

「いえいえ、ようございました。それではおやすみなさいませ。」

 

董卓に向かって礼をすると回れ右をして王允は部屋を出て行く。

 

「それじゃあ、恋さん、ねねちゃん。休みましょう。」

 

「んっ」

 

「月殿、おやすみなさいなのです。」

 

というと呂布と陳宮も連れ立って部屋を出て行った。

 

少し離れた廊下で王允が呟く。

 

「予定通りか…確かに予定通りだな。ふふふ」

 

………

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深夜、音1つしない城内を音も立てず董卓の部屋へと歩いて来る影が1つ。

 

部屋まで来ると扉の取っ手を何やら弄って鍵を開けると静かに扉を開け中に入っていく。

 

後手に扉を閉めると忍足で董卓の寝る寝台へと近づいていく。

 

月明かりで薄っすらと見える寝台には董卓が寝ているようで寝具が膨らんでいた。

 

影は懐から短刀を取り出すと逆手に持ち、振り上げるとおもいっきり振り下ろした。

 

「うっ」

 

寝具に血らしきものが吸い込まれ広がっていく。

 

影は短刀はそのままに慌てた様子で部屋を出て行った。

 

扉を閉め、ぎこちない様子で鍵をかけると気持ちを落ち着かせる為大きく深呼吸をする。

 

「ふふふ、ははははは。ついに君側の奸、董卓を討ったぞ。ご老人ついにやりましたぞ。」

 

静かな城内に影の笑い声が響いていた。

 

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時間を遡り洛陽の城内にて

 

その日の深夜に董卓が謀略に巻き込まれようは露も知らない賈駆は丁度来ていた馬騰と雑談をしていた。

 

「ふふふ、月ちゃん今頃口煩い相棒がいないんで羽を伸ばせてるんじゃない?」

 

「口煩いって、菖蒲様酷い!!」

 

「ふふ、冗談よ。でも月ちゃんも長いことここに閉じこもっていたようなものだからいい気晴らしになってるんじゃない?」

 

ちゃかす馬騰に抗議する賈駆。雑談はその後も続いたがお茶を飲み一息吐いた賈駆は本題を切り出す。

 

「ところで菖蒲様。曹操からこのような書状が届いているのですが。」

 

馬騰は賈駆から書状を受け取ると中身を読み出した。

 

曹操からの書状は最近その活動を活発化させている青州黄巾党討伐の為、軍を青州まで動かす許可を求めてきたものだった。

 

「確かに青州黄巾党が最近勢力を増して?州との境で暴れているのは僕の方にも報告が入っているけど、何か引っかかるんです。」

 

「曹操が青州黄巾党を取り込もうとしているかもしれない?」

 

「菖蒲様、それは無理でしょう。曹操は奴らの党首を討ってるんですよ?青州黄巾党が降るとはとても思えません。」

 

断言する賈駆に馬騰は賈駆の顔の前でちっちっちと指を左右に振る。

 

「駄目よ、詠ちゃん。軍師たるものあらゆる可能性を考慮しておかないと。」

 

「菖蒲様、いくらなんでもこれは無理です。朱里や雛里だって無理と……何か知ってるんですか?」

 

「う〜ん、そうだ。私が千騎ほど率いて援軍という名目で監視に行きましょう。それなら彼女もへんなまねはできないでしょう?」

 

賈駆の問いをスルーして馬騰は話しを進める。

 

「菖蒲様…分かりました。今は問いません。でも後で話してくださいよ。ところで千騎でって大丈夫ですか?」

 

「大丈夫よ。あの子も鮑信への援軍という名目だもの、同じ援軍という名目で来る私をどうこうなんてできないわよ。それにやるなら正面から正々堂々とやってくるわよ、あの女の娘なら。」

 

結局のところ賈駆は馬騰に押し切られ青州へ行くことを許可することになる。

 

 

 

この外史は史実と異なる歴史を歩み出そうとしているはずなのだが、王允による董卓暗殺等、史実と似たようなことが起きようとしている。

 

これは歴史の修正力の発動なのか?

 

歴史の改変は不可能なのか?

 

その答えを知る者はまだいない。

 

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さて、部屋を出てきた一刀達は周泰の案内で華佗の元へ向かうべく街を歩いていた。

 

「へえ〜、袁術の圧政で疲弊していたという話しだったけど、けっこう活気があるな。」

 

威勢のいい声が聞こえてくる市を見ながら一刀は感心したように呟く。

 

「はい!冥琳様や穏様ががんばっていらっしゃるし、江東の民はやわじゃありません。」

 

周泰が周瑜や自国民のことを誇らしげに語るその横で馬超がぽつりと呟く。

 

「いいな〜、ここは温暖だし土地も肥えてるし傍に大きな川もある……」

 

「どうした、翠?」

 

「うらやましいと思ったんだ。涼州は寒いし土地も痩せてるから……」

 

問いかける一刀に市をうらやましそうに眺めていた馬超が呟くが一刀は馬超の肩に手をかけながら、

 

「大丈夫だよ。確かに涼州は寒いし土地も痩せてるけど栄える方法はいろいろあるさ。でもそれには今の戦乱の世を治め、五胡と和平を結ばないとな。」

 

というと手を馬超の頭へと持っていき、くしゃくしゃと撫でていた。

 

「こらっ、子供扱いするな!ところで明命、華佗のところってまだなのか?」

 

「この先です。……でも今日いるかな?」

 

と周泰が言った時、先の方から

 

「うおおおおおおおおっ」

 

と雄たけびらしきものが聞こえてきた。

 

「な、なんだ?」

 

「隊長、馬超様。あの先からです!」

 

「賊か?ともかく皆急げ!」

 

馬超達は雄たけびのした方へと駆け出していく。

 

1人残った周泰がぽつりと

 

「あっ、居た。」

 

と呟いた。

 

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雄たけびがしたと思われる家に着いた一刀達は中の様子を伺う。

 

「うおっ!一刀、中からすげー氣を感じるぞ。」

 

「ということはかなり腕の立つ奴か?」

 

馬超は中から感じる氣に警戒し、一刀は難しい顔をしながらどうするか考えていると中からなにやら断片的に聞こえてくる。

 

「違う……こい……じゃ…い………こ…つか……?いや、…いつで…ない………」

 

「…えた!貴様……魔など、この……一撃で蹴散らし…やる!はあああああああっ!」

 

扉の隙間から中を覗いていた部下が中の状況を告げてくる。

 

「どうやら女性らしき人が1人布団の上に寝ており、その前にこちらに背を向けて男らしき人物が立っています。あっ!手になにかを持って振り下ろそうとしてます!!」

 

部下の報告を聞いた馬超は扉に手をかけ、

 

「やばい!!行くぞ!」

 

と言うと扉を開け、立っている男らしき人物目掛けて突撃する。

 

「えっ?ち、ちょっと待てよ、翠!」

 

なにかに気が付いた一刀が馬超を止めようとするが遅かった。

 

「我が身、我が鍼と一つなり!一鍼同体!全力全快!必察必治癒…病魔覆滅!」

 

「うおおおおおおおっ」

 

「げ・ん・き・に・なぶべらぁ!」

 

次の瞬間、男は吹っ飛んで行った。

 

そこに周泰がやってきた。

 

「先生いましたか………?」

 

中をきょろきょろと覗いていた周泰は

 

「あれ?先生?患者さんほっておいてどこに行ったんだ・ろ・う……はぅあ!先生―」

 

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結局のところ、馬超がぶっ飛ばした男が華佗だった。

 

周泰に話しを聞いたところではあの雄たけびやなにやらしていたのは治療行為の一環で、まあ初めて見た人は皆驚くらしいがぶっ飛ばされたのは初めてとのことだった。

 

今、一刀は気が付いた華佗に盛大に頭を下げ謝りまくりであった。

 

因みに馬超は部屋の隅っこで後ろを向いてなにやらブツブツ言っていた。

 

「本当に申し訳ありませんでした。」

 

「いやいや、わかってもらえたならもういいさ。ところで君達は?」

 

再び頭を下げて謝る一刀に華佗は手を振るが一刀達に見覚えがないことに気づき誰何してくる。

 

「先生、こちらは北郷一刀様、あちらは馬超様とその他です。」

 

「北郷一刀です。宜しくお願いします。」

 

「馬超です。……ごめん。」

 

「「「その他って…周泰殿、ひどっ!」」」

 

なにげにひどい紹介をする周泰に改めて挨拶する一刀と謝罪しつつ挨拶する馬超、そして憤慨する部下達。

 

「俺は華佗だ。こちらこそ宜しく。」

 

華佗の差し出す手を見て一刀も手を差し出し握手する。

 

「ところで、先ほど先生が行っていたのは鍼を使って経絡を刺激する鍼治療ですか?」

 

「なに!北郷は医術の心得があるのか?間違ってはいないが俺の五斗米道は高めた氣を鍼を使って相手に送り込み効果を高めるのだ。」

 

一刀の問いにうんちくを語り出す華佗の傍で馬超が頭をひねりながら

 

「…ごっと?…べ…」

 

と呟くと

 

「違う!五斗米道だ!」

 

と華佗。

 

「馬超様、ごとべいどうですよ。」

 

と部下が馬超に言うと

 

「違う!!五斗米道だ!!」

 

とまたもや華佗。

 

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なにか長くなりそうな予感がした一刀が割り込む。

 

「ところで先生。先生に診てもらいたい人がいるのですがお願いできないでしょうか?」

 

「俺は医者だ、患者がいればどこでもいくぞ。」

 

「一刀、劉gを診てもらうのか?」

 

一刀の依頼に即答する華佗と病弱な劉gを思い出す馬超。

 

「ああ、劉gも診てもらいたいけど、先ずは冥、周瑜を診てもらいたい。」

 

「んんっ、周瑜と言えばこの国のお偉いさんじゃなかったか?」

 

「はぅあ!冥琳様どこか御悪いんですか!」

 

一刀の口から出てきた名に驚く華佗と周泰。

 

「いや、まだ自覚症状は出てないと思うけど、でも出た時には手遅れということもあるから早めに診てもらいたいんだ。」

 

史実にせよ演義にせよ周瑜は病により早死にしている。

 

一刀は周瑜を大陸の平和の為に必要不可欠な人物とみている。

 

ましてや真名を預けられるほどの相手だ、病などで倒れてほしくない、なんとしても助けたかった。

 

唯、病が表に出てきたのはまだまだ先の話で今はまだ病にかかっていないかもしれない。

 

でもこの世界は元々一刀の知る歴史と少し異なっていた。

 

その上連合軍に勝ち歴史を変えてしまった。

 

だからひょっとするともう周瑜は病にかかっているかもしれない。

 

そう思うと居ても立ってもいられず一刀が知る中で今最高の医者である華佗に診てもらいたかった。

 

これが今回華佗を探した1番の理由だった。

 

「よし、ならさっそく行こう。」

 

一刀は華佗を連れて城へと戻っていった。

 

しかし城に戻った処、周瑜はすでに出かけており1週間は戻ってこないということだった。

 

止むを得ず1週間待つことになったが、周瑜の帰宅とともに一刀を驚かせる情報が入ってきた。

 

董卓暗殺未遂事件と江夏太守黄祖に対する情報で曰く

 

「董卓暗殺未遂事件発生。犯人は王允である。」

 

「江夏太守黄祖に不穏な動きあり」

 

であった。

 

 

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<あとがき>

 

どうも、hiroyukiです。

 

今回、董卓暗殺事件が発生しました。

 

まあ、伏線引いてますので結末は大体察しが付くと思いますが。

 

史実での王允は呂布をそそのかして董卓を暗殺した訳ですが本作というか恋姫世界での呂布=恋はそんなことをする子ではなく、またその理由もありません。

 

という訳で王允は自力でやろうとするのですが…

 

後、華佗でましたね〜。

 

華佗を出した理由は周瑜救済の為です。

 

呉√における周瑜の悲劇は話しをドラマチックにする上で必要だったのかもしれません。

 

ですが無印でも周瑜は悲しい運命を辿っています。

 

真でも本人は納得しての死かもしれませんがやはり悲しい運命を辿っています。

 

ですので本作では周瑜には長生きしてもらって幸せになってもらいます。

 

尚、あの2人(わかりますよね、漢○です)は今の処出すつもりはありません。

 

もしかして期待された方がいらっしゃったらごめんなさいです。

 

最後にこれからの更新についてですが・・・

 

ストックがついに尽きてしまいました。

 

十分に用意してたつもりだったんですがやはり遅筆がネックでした。

 

週一が2週に一回になるかもしれませんが出来次第投稿していこうと思っておりますのでお見捨て無きようお願いします。

 

では、あとがきはこのくらいにしてまた来週?お会いできたらいいな〜。

説明
3章6話です。
今回は月ちゃんに危機が迫ります。
さてどうなるのでしょうか?
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コメント
ブックマン様:先ずは孫策のところで・・・(hiroyuki)
事態が大きく動きますね。(ブックマン)
jackry様:どれが正しいんでしょうか?(hiroyuki)
クォーツ様:続きです。ですので暗部にだまされて利用されてる訳です。史実の王允はこの頃はもっと老齢でしっかりした人物だったのでそんなことはなかったかもしれません。ですがそこは物語ということでカンベンしてください。(hiroyuki)
クォーツ様:本作の王允は銀英伝のフォーク准将をイメージしています。(hiroyuki)
とらいえっじ様:本作ではマッチョではないです。文官ですので普通体型です。(hiroyuki)
ヒトヤ様:一応、真恋姫のssですので大小は出てきません。すみません。(hiroyuki)
ルーデル様:失敗してもいいと思ってますので(hiroyuki)
ジョン五郎様:中国ではこういう発音というか言い方ってしづらいんでしょうかね?(hiroyuki)
nanashiの人様:いろいろ動き出しています。(hiroyuki)
王允は董卓の暴政を受ける民と蔑ろにされる帝を思って美女連環の計(呂布を釣って呂布に董卓を殺させる策)を画策するが、恋姫の董卓は暴政してないので、”王允”に殺される謂れは無い様な・・・ 次作期待(クォーツ)
王允って演義だと貂蝉を養女にしてるんだが・・・やっぱ恋姫では本人もマッチョかい?(とらいえっじ)
あの二人って呉の姉妹の方かとばっかり(ヒトヤ)
今まで表に出てこなかった奴らがやるには不思議なくらいなばればれな暗殺事件ですなw(ルーデル)
ゴッドヴェイドゥww(ジョン五郎)
そして歴史は動き出す・・って感じの回だなw(nanashiの人)
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真恋姫無双 オリキャラ 馬超 

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