フレームアームズ・ガール外伝〜その大きな手で私を抱いて〜 ep23 |
今回は少し時間を巻き戻して一回戦から見てみよう。
『battle start』
試合開始のアナウンスと共に、フレズは飛び上がりベリルショットランチャーを連射する。彼女の今の恰好は猫水着ではなく、いつものスク水と武装に戻っていた。そして照準の先は、
「真姫って言ったなぁ!スティレットの受けた屈辱をボクが晴らす!!」
マガツキの真姫だった。トーナメントでは一回戦で彼女と当たったわけだ。
「フン。頭に血が上って品性がないな」
真姫の冷淡な態度は変わっていなかった。しかもこの大会はFAG同士がペアで組むのが普通だったが、フィールドには真姫の相方は見当らない。後ろのセコンドにシュンはいるが、一人で出ているのだ。
「1人で出ているくせに!余裕か!?」
「その通りだ」
真姫の周囲に蒼色のエネルギーフィールドが発生する。フレズにも搭載されたバリア、TCSだ。そしてランチャーの弾丸を防御。
「フィールドが?!」
「私は防御特化だからな!」
真姫はそう言いながら巨大な火縄銃の様なライフルをフレズに向ける。『オオトリ』というベリルショットカノンだ。真紅の姫武者はそのままトリガーを弾く。
「照射」
オオトリから放たれた大型ビームはフレズを悠々と飲み込むほどに大きい。防御しようとフレズは悩むが、
「避けろフレズ!」
健の指示に素直に従うフレズ。回避した場所を光の濁流が飲み込む。しかしこれで終わりではない。オオトリを発射しっぱなしで真姫はフレズに狙いを付けつづける。
「追ってくる!?」
「照射と言った筈だ」
尚も執拗に追う真姫、その横からバイクに跨ったFAGが突っ込んでくる。
「もらったぁ!!」
バイク形態のナインだ。機体側面に取り付けられた刃『フィンガーマチェット』で速度の勢いで突破しようとする。
「主殿」
「もう送ったよ真姫」
顔を向けずに確認する真姫、それに答えるセコンドのシュンは、真姫に既に武器を送っていた。空いてる方の手に、軍配とも大剣ともつかない武器が収まる。それを真姫はナインの方に向け発射。オオトリより大型のビームがナインを飲み込む。
「なぁっ!?」
「消えろ」
連装式ベリルショットランチャー『キョウテン』である。そのまま爆発したナインは素体状態で投げ出されセコンドの場所に転送。
「ナ!ナイン!大丈夫か!?」
転送されたナインをマスターの長淑直哉が過保護の父親の様に心配する。
「わりぃオヤジ、いいとこ見せらんなかった……」
一発でやられた事にバツが悪そうに言うナインだが、直哉としてはそんな事はどうでもよかった。
「そんな事はどうでもいいんだよ!お前が無事なら!」
「やめとくれ!まだ健とフレズが戦ってんだろうが!」
ナインのその言葉に直哉はハッとした。自分より小さい子が必死になって戦ってるのに、自分はうちの子の心配ばかりだ。反省しながら直哉は健の方を見る。健は聞いておらず必死になってフレズに指示を出していた。
「くっそ!中々息切れしない!」
「マガツキ型は拠点防衛用だ!スピードは無いけど他が高い!だけど一人でなら限界は来るはずだ!」
消費を気にせずに真姫は撃ってTCSで防御を繰り返す。消費量が多いのは目に見えていた。
「侍みたいな恰好しといて砲撃機ってわけ?!アイツの性格同様滅茶苦茶だな!」
「ほざくな!」
そう言って真姫はキョウテンを変形させる。軍配の様なランチャーは弓の様な形状に開き、収束させていた先程とは違いビームを拡散させて放つ。
「なっ!」
「こっちもTCSだ!」
拡散ビームをかわしきれないと健は判断しTCSで防御、そんなこんなで二人の攻防は続く。真姫の射撃をかわし続けるフレズ、程無くして真姫の射撃が尽きた。
「撃たなくなった?!今がチャンスだフレズ!」
そう言ってフレズは転送されたガンブレードランスを構えて突っ込んでいく。
「うぉぉっ!」
「チッ!短期決戦にするはずが!」
そう言って真姫は背中の日本刀『テンカイ』を二刀流で抜き、交差させてランスを受ける。
「観念しろ!一人だけでボクとマスターに勝てると思うな!」
ブースターの推力を加味してランスの勢いを増すフレズ、押され始めてる真姫の表情に焦りが出てきた。
「へん!焦ってるみたいだな!大口叩いておいてこれかよ!」
「……ちっ!」
そんな様子に健は違和感を感じていた。真姫の方のセコンド、シュンが一人で佇んでいた。こんな状況なのに落ち着き過ぎてる。静かすぎる。……と、ようやく隻眼の少年は口を開いて真姫に通信を入れる。
『真姫、我慢の限界だ。ぼくも出る』
「主殿?!いけません!まだ予定では!」
そんな真姫の意見を聞かずにシュンが備え付けのコンソールを操作し始めるのが見えた。健はこの体勢のままでは不味いと判断。
「っ!フレズ!離れろ!」
「え?何……っ!」
次の瞬間だった。左右から機銃を吊り下げたドローンがフレズの左右から飛んでくる。すぐさまフレズに向けて発砲し、不意打ちによって小破のダメージを受けるフレズ、
「ぐぁっ!!」
「はぁぁっ!」
そのまま真姫は隙を見せたフレズを二刀流で両断。防御力の低いフレズはその一撃によって破壊される。とはいっても表示されたHPのバーが空になり敗北判定として爆発の演出がついただけだ。
「わぁぁっ!!!」
『winner マガツキ』
抑揚のないアナウンスによって、真姫の勝利は告げられた。
「フレズ!大丈夫?!」
転送されてきたフレズに健は心配そうに寄り添う。フレズの衣装は猫水着に戻っていた。
「マスター……ゴメンね。ボクがもっとうまくマスターの言う事聞いてれば……」
「気にするなよ。怪我はないみたいでよかった」
「あくまで演出だからね。現実の方に影響はないよ」
そしてフレズとナインはそれぞれのマスターに連れられ、セコンド席から伸びた橋を伝い砂浜の方に戻っていく。出迎えてくれたのはヒカルやスティレット達だった。
「フレズ!大丈夫でしたか?!」と轟雷がいの一番に聞いてくる。
「轟雷。格好悪い所見せちゃったな。ご覧の通りさ」
「何言ってるんですか!真姫の方は、あのマスターの横やりがなかったら勝ってた筈です!」
フレズを心配する轟雷とのやり取りに、スティレットは以前の轟雷を思い出していた。開発班の違いからか対抗意識や拒絶する様な所があった2人だったが、今はもうすっかり仲良しだ。
「でもあのドローン2機がシュン君のサポートメカかしら?」
「……違うと思うよ。チームを組まずにマガツキを1人で出してきたんだ。本気になったら多分もっと凄い切り札があると思う……」
勘ではあるが健が予想を言う。シュンはオドオドしてるように見えて、ただそれだけの男じゃないと健は思っていた。
『次の試合を始めます。出場チームの轟雷さんと輝鎚さん、そして対戦チームの……』
と、次の試合が自分達だという事に気付く、
「轟雷、次はあたし達だよぉ」
「あぁっと、じゃあ行きましょうか。フレズ、仇は打ちますよ。轟雷改装備の力を見せてあげますよ」
そう言って轟雷と輝鎚はバトルフィールドへと上がっていく。対戦相手は……
「轟雷改10式か。相手にするには面白そうだな」
黒い轟雷がそう言った。両肩にサブアームを2本ずつ接続し、ミサイルポッドとロングレンジキャノン、グレネードランチャーと重武装を盛った機種『ウェアウルフスペクター』だ。
「しかも相方は輝鎚。陸戦用のプライドをかけた戦いってなりそうねぇ」
相方のマントを羽織った白い轟雷が言った。バズーカ砲を2丁持ってバーニアを追加、胸と腕の装甲が変化したその機体は『漸雷・強襲装備型』。近接戦闘用に調整された轟雷のバリエーションだ。
「轟雷型のバリエーションですか……」
「いっぱいいるにぇ」
『battle start』
アナウンスと共に相手の2機が一斉に撃ってくる。武装量として向こうの弾幕にうまく近寄れない。
「くっ!いきなり飛ばして!!」
「轟雷!動き回って相手の弾切れを狙え!」
黄一が指示を出すが、そこを加賀彦が提案する。
「大丈夫だ。ここは輝鎚に任せて。輝鎚!」
「わかったゆぉマスター」
そう言って輝鎚に追加装備が転送される。身の丈もある大砲だ。超長距離砲『叢雲』。
「狙撃で援護するからその隙に近づいてにぇ」
「え?輝鎚?そのサイズで狙撃って……」
「よいせっと」
お構いなしに輝鎚は叢雲をぶっ放す。狙撃と言ってるが叢雲は対要塞用の電磁加速砲である。それが限られたスペースのフィールドで撃ったもんだから……。
『へ?わぁぁっ!!!』
スペクターと漸雷、二人の悲鳴が響いた。着弾と同時に大爆発を起こした砲撃は、相手のペアを爆発と余波で簡単に吹き飛ばした。
『winner 轟雷&輝鎚』
「あ、終わっちゃったにぇ?轟雷大丈夫?」
横で腹這いに倒れていた轟雷に輝鎚は聞く。衝撃が来るととっさに伏せていたのだ。
「うぅ……頼むから次はもっと大人しめの装備で援護してください……」
衝撃が来るととっさに伏せていた轟雷だったが、輝鎚は撃った態勢のままで衝撃波を物ともしていない。輝鎚のマイペースさと型破りっぷりに轟雷は呆れるばかりだった。
「よ・よくやった輝鎚!」
「……加賀彦さん。どの辺が援護だったんですか……」
「いやー……俺達の方も使うの初めてだったからさ……。ま、まぁ勝てたんだからいいじゃないか!」
後方で黄一はそんなツッコミを入れていた。
――
「さて!次は私達の番ね!いくわよ!グライフェン!」
そして次はスティレットとグライフェンの番になる。
「任せて下さい!グライフェン!頑張ります!」
敵のペアはこれまた高火力の機体。バーゼラルドの砲撃戦仕様。両肩にビームバズーカ『イオンレーザーカノン』を装備したFAGだ。そしてもう片方はカトラス。バーゼラルドのバリエーションで非常にバランスよく纏まっている。
「空中戦用のスティレットxf-3とグライフェンだねー。対照的なFAGだけどどんな連携するかなー」
「どっちにしても倒すのみだわ!やる事はいつも通りよ!」
のんびりした口調のバーゼラルド砲撃仕様と、せっかちな印象のカトラスだ。セオリーとしてはカトラスの方が前衛でバーゼが援護役といった所だろうか。
『スティレット……その、必要な装備あったら言ってくれよ』
「……いいわよ別に、私一人で出来るんだから……」
ヒカルがどうにかコミュニケーションを取ろうとするが、スティレットの反応はそっけない。ヒカルに胸を揉まれた事と、朱音の一件により、スティレットは壁を作ってしまった様だ。
「スティレットさん……何か一言位は……」
「いいのよ!特訓の成果を見せるんだから!マスターの力は借りないわ!」
グライフェンの言葉も突っぱねる。スティレットは意地になっていた。
『battle start』
アナウンスが始まると共にカトラスはライフルで突っ込んでくる。バーゼと比べて小ぶりで取り回しは改善されていた。
「どっちが強いか!どっちが速いかも勝負!」
カトラスの狙いはスティレットの方だった。
「丁度いいわ!特訓の成果を見せてあげる!」
白虎へのリベンジの特訓をバーゼとしていたわけだ。ここを乗り越えなければ白虎へのリベンジは話にならないとスティレットは考える。右手のガトリングガンを握り、左手のブレードを展開、高機動の二人は即座にぶつかり合う。
「それじゃあ私はカトラスの援護……といいたいけどねー」
砲撃仕様のバーゼはグライフェンに向き直るとレーザーカノンをグライフェンに向けて発射。グライフェンの方は腕に連装砲を複数装備しており、長距離に対応した装備だった。
「あの二人への無粋な真似はさせません!」
レーザーカノンを横に回避するとグライフェンは撃ち返す。
「パワー自慢のグライフェンを砲撃仕様とはね!私も変わんないけどさー!」
相変わらずの間延びした口調だが、力が籠った声になるバーゼ、その上空では二体がブレードとダガーで何度もぶつかっていく。
「このっ!」
ガトリングガンを連射するスティレット。カトラスは腕に装備した、連結ダガーをプロペラの様に高速回転させ防御、回転により軽量の盾にしたわけだ。ディフェンスロッドという物だ。
「速いね!でも両手しか手数がないんじゃこっちの方が有利ね!」
カトラスが距離を詰めながら蹴りを入れてくる。つま先にベリルダガーを取り付けている為に、蹴りも強力な武器となっていた。
「確かに両手しか使えないならね!でもこっちだって!」
そう言ってスティレットは両肩のブースターを分離させる。これらはブースターであると同時に遠隔操作の出来るドローンだ。それぞれが高速で飛びながら周りをかく乱し備え付けられた機関砲でカトラスを襲う。
「くそっ!こっちのバーニアを狙って!」
バーゼラルド型は高機動ではあるが防御力が低い。当たり所によっては機関砲も致命傷になりかねない。カトラスはドローンをかわしつつ操作してるスティレットに対応しようとするが、スティレットは容赦なくガトリングガンで襲う。背中のブースターがまだあるのでスティレットはまだ問題なく飛べる。
「無駄よ!隙を作るのが目的なんだから!」
「!!」
目論見通りだ。スティレットはカトラスの隙を見抜くと即座にガトリングガンで連射する。
「わぁぁっ!!」
ガリガリとHPを削られ、ブースターを損傷したカトラスはそのまま墜落する。同じバーゼラルド型が師匠だから。共通したパーツの癖はよく知っている。
「カトラスが!?」
「よそ見とは油断が過ぎますよ!」
バーゼラルドの気が削がれた隙をグライフェンは逃さなかった。連装砲を一斉射撃。射撃にさらされたバーゼラルドはボロボロになっていく。
「ぐぁぁっ!!」
二体とも瀕死の状態だった。それを追い詰めようとするスティレットとグライフェン。
「くっ!思ったよりやるわね!」
「こりゃあれしかないねー」
『!マスター!あの装備をお願い!(頼むねー!)』
バーゼ系列の二体はそう叫ぶ。切り札があるとスティレットは判断すると近づいてガトリングガンを放つ。
『おいスティレット!スマートガンで狙撃した方が速いからそっちを!』
「うおぉっ!」
ヒカルの言葉を無視してスティレットはわざわざ近づいてガトリングガンを連射する。着弾による黒煙が相手の二人を包み込んだ。
「やった?!」
「バカ!離れろ!」
「バカとは何よ!……っ?!」
直後、黒煙を突き破って大型のビームが上空のスティレットに放たれる。よけきれず右腕に当たりドローンは破壊。
「あぁっ!」
「スティレットさん!っ!あれは……!」
グライフェンがスティレットを気に掛けるも、姿を表した二人の武装に閉口する。全身に装備されたブースター内臓アーマーのそれは……。
「ゼ!ゼルフィカール……!」
バーゼラルドの強化アーマー、ゼルフィカールだ。フルアーマーバーゼラルドと言っていいそれは、高機動と重装甲を両立させるそれは脅威と言っていい装備だった。
「こんな早くこの装備を使う事になるとはねー、まぁ気を抜けないって事だねー」
「こうなったら仕方ない!本気でいくわよ!」
まず撃ったのはカトラスの方だった。サブアームに剣にもライフルにもなる緑色の武器、『ベリルマチェット』を向けており、射撃モードから斬撃モードへと畳む。そのまま追撃として、それぞれが相手をしていたFAGに向かった。
「くっ!!」
スティレットの方にゼルフィカールとなったカトラスが向かう。内側の両腕には銃剣付きのセグメントライフルが握られており容赦なく撃ってくる。
「それくらい!マスター!スマートガンを!」
セグメントライフルのかわし方は、バーゼとの特訓で培ってきた。相手のカトラスの射撃スキルは特訓相手のバーゼ程ではない。損傷してる状態でもどうにかかわせる。
『スティレット!でもあんな早く動く相手に!』
「さっさとしてよ!」
『あぁもう知らねぇぞ!』
ヒカルがスマートガンをスティレットに転送する。受け取るスティレットは左腕に装着するとそのままカトラスに撃つ。しかし高速で動くカトラスには難なくかわされる。
「愚かだね!所詮は単発!」
懐に入るとカトラスはライフルの銃剣でスティレットを切り裂く。対応しようにも左腕のブレードはスマートガンを装備するために外してしまった為にモロに受ける。
「きゃっ!」
一方で地上の方でもグライフェンは圧倒されつつある。
「速い!」
連装砲で対応しようとするが、ゼルフィカールは高速でグライフェンの周囲をグルグル回りながら射撃で追い詰めていく。
「形勢は逆転したねー!」
そういってバーゼラルド砲撃仕様は左のサブアームに取り付けられた盾、いや、ワイヤーアンカーを射出。せり出したクローがグライフェンを掴むとバーゼラルドは上空にぶん回して放り投げる。
「っ!うわっ!」
「観念しなよー!」
そのまま上空のグライフェン目掛けてベリルマチェットの射撃モードで狙い撃ちにした。撃たれて爆発を起こしたグライフェンはそのまま墜落。パワードスーツはボロボロとなってしまいもう満身創痍だ。
『グライフェン!』
蓮が悲痛な声を上げる。いつもと違って等身大のFAGがボロボロになるのはかなり痛々しく見えた。
「あうっ!」
スティレットの方も落ちてくる。それから悠々とゼルフィカール2人が降りてくる。まるで断罪する天使の様だった。
「負けてもクヨクヨするなよー。私達の装備じゃ仕方ないってー」
「そうそう。マスターとの愛が詰まったこの装備だもの―」
「代わりに私達が優勝してあげるから、ゆっくり観戦でもしてなよ」
そう言って2人はベリルマチェットを射撃モードを向ける。その時だった……。
「そうはいくかよ!!」
突如戦闘機が2機乱入してくる。片方はハチドリの様なライフルを備えた高速戦闘機、『キラービーク』、もう一機は左右に大型ブースターを備えた『レイジングブースター』。武器として左右にエクスキャノンという艦砲を備えていた。乱入する2機に戸惑う二人。
「!?」
2機と射撃でゼルフィカールの注意を逸らす。
『立てよ!スティレット!』
「!?マスター?!じゃあもう一機は蓮さん?!」
キラービークを操作してるのはヒカルだった。そしてレイジングブースターを操縦していたのは蓮だ。
「マスター!余計なことはしないでよ!」
『意固地になるな!最初に言ったじゃないか!一緒に戦おうって!』
「!!それは……」
最初に自分が言った事だ。ヒカルが聞いてたかどうか不安だったが聞いていた様だ。
『お前が大事なのは俺だって同じだよ!そんなお前がこんなボロボロになって!黙ってみてられるか?!俺は出来ない!』
「マスター……」
『答えてあげたいのは俺達だって同じなんだよ!』
「っこの!」
鬱陶しいと言わんばかりにゼルフィカール2機はキラービークを、レイジングブースターを撃とうとする。しかしそれをスティレットとグライフェンは許さない。スマートガンで、パワードスーツを分離させたロケットランチャーで、それぞれの相手を撃った。
『っ!?』
すんでの所でかわす2人。仕留められなかったのを悔しがる暇はない。スティレットはそのまま上昇。カトラスと決着をつけるべく空中戦にもつれ込む。
『俺達も行くぞグライフェン!』
「はい!司令官!」
下から撃つグライフェンに蓮のレイジングブースターは合体、飛んでゼルフィカールに対応しようというわけだ。
「させないね!」
ベリルマチェットの射撃モードで狙い撃つゼルフィカール。着弾と同時に起こる爆発。だが直後、爆風を突っ切って。背中にレイジングブースターと合体したグライフェンが飛び上がってきた。
「あっ!」
直後、エクスキャノンがゼルフィカールが狙い撃つ。大口径のそれは連射出来ないがかなりの高威力だ。不意を突いたそれがゼルフィカールに命中する。
「駄目押しっ!」
そしてグライフェンがロケットランチャーで追撃をかける。それを受けたゼルフィカールはそれが致命傷となった。そのまま爆発、真っ逆さまに落ちていく。
「装備にあぐらを……かきすぎたねぇぇ……」
反省の言葉を上げながらバーゼラルド砲撃仕様は爆発。HP表記は0になり、敗北判定を受けた。そして上空のスティレットの方も連携により形勢は逆転しつつあった。
『スティレット!コイツを使え!』
そう言ってヒカルはキラービークの側面に搭載されたサムライマスターソードを切り離し、スティレットに手渡した。スマートガンを手放したスティレットはソードを受け取る。
「OK!」
阻止しようとするカトラスだが、キラービークが撹乱し邪魔をする。ベリルマチェットで狙い撃とうとするが……。
「カトラス!」
大剣を抱えたスティレットが突っ込んでくる。
「くぅっ!負けない!大好きなマスターが見てるんだから!」
そう言ってカトラスは銃剣を振り上げた。すれ違いざまに斬り合う二人、そして……。
「うっ……!」
スティレットの方が渋い顔をしてよろける。カトラスの方は自分の勝ちと確信するが……。
「やった……あれ?」
カトラスはマチェットを取り落とし、真っ逆さに落ちていった。そして地面に落ちる前に爆発。負けたのはカトラスの方だった。
「装備は強くても……経験と実力は私の方が上だったみたいね!」
『強力な武装が逆に慢心を招いたかなありゃ……』
『winner スティレット&グライフェン』
アナウンスの直後に観客席から歓声が響いた。武装差のある2人が逆転での勝利は観客を大興奮させるという物だ。更にマスターとの連携というのはドラマチックさを上げていた。
「……少しはやる様だな……」
観客席に座りながら待機していた真姫はスティレットの様子を見ながら呟いた。今の服装は鎧を脱いだ黒いインナースーツだ。
「スティレット。やったな」
観客席の方へ戻るFAGとマスター達、ヒカルはどうにか仲直りがしたくてスティレットの方に話しかけるが彼女は無言のままだ。ヒカルの前を背を向けて歩くスティレット。
――……やっぱ謝ったほうがいいかな――
胸を揉んだ事がスティレットにとって、そこまで心を傷付けてしまったんだろうな。こちらが謝るべきかとヒカルは思う。ビンタされてこっちが謝るのは理不尽ではあるが、今はスティレットの笑顔が見たかったから。
「なぁスティレット……胸の事だけど……ゴメン」
砂浜についた時にヒカルは謝るが……、
「ストップよ。マスターは悪くないじゃない……」
スティレットは振り向きながら言う。その顔はさっきまでの不機嫌な表情ではなかった。
「お前……でもさ」
「マスターは私が恥ずかしい想いをするのを助けようとしたんでしょ?……結果的にあんなんなっちゃったけどさ。マスターの優しさは解ってるつもりだから……」
「スティレット……」
「その……、ゴメンなさい。……私の方が謝るべきだったのに……」
頭を下げるスティレットにヒカルは安心する。
「気にすんなよ。こうして勝つ事も出来たんだしさ」
「うん!……でもさー、いきなり掴んでくるんだもん。……そんなに私の裸、人に見られるの嫌だった?」
と、いたずらっぽく笑うスティレットにヒカルは赤面する。少年の脳裏に浮かぶのは一瞬見えたおわん型のスティレットの……。
「な!んなこと!」
と、そんなやり取りを轟雷達は遠巻きに見ていた。祝福の言葉でもかけようとしたが、これでは水を差す様な物だった。
「スティレット……。のろけちゃってますねー」
「同意。げっぷ。ご馳走様」と見ていたアーキテクトが言う。彼女はもう回復していた。そしてほぼ全員が同じ様な感想だった。
「えぇ?!なになにぃ?!何か食べ物あるのぉ?!」
「そういう意味じゃないよ輝鎚」と加賀彦。
――ヒカル……?大きさの所為かな。あれじゃまるで恋人じゃないか……――
唯一、見ていた黄一は、そんな2人のやり取りに違和感を感じていた。マスターとFAGで大きさが同じだという理由で結論つけたが……
そして……その後もバトルは続いていった。勝手に実況解説を始めた二人を加えて更に大会は白熱していく。
『さぁ!準決勝も決着はつきそうです!果たして勝者は誰の手に!そして番狂わせはあるか!』
スティレットの方の準決勝はもう決着はつきつつあった。
「これで!」
「ぐぁぁっ!」
スティレットの撃ったガトリングが相手の黒いスティレット型に命中。準決勝の相手は同じスティレット型だった。足が特徴的な『クファンジャル』という陸戦用のスティレットだ。
『あぁっとクファンジャル撃破!同じスティレット型同士のバリエーション対決!果たしてスーパースティレットはxf-3に勝てるのか!?』
「よくもクファンジャルを!もらったわ!」
その真後ろからもう一機のスティレットが両腕のダガーを振りかぶって襲う。両腕にACSクレイドルという複合兵装を装備している。重武装型の『スーパースティレット』というバリエーションだ。ちなみに色は白がかったグレー。
「なんの!」
スティレットは相手の腕を掴むとブースターの勢いを利用して、一本背負いを仕掛けた。
『おぉっと!これは柔道だ!』
「なぁっ!」
投げられたスーパースティレットに対し、スティレットは離脱ついでに左腕の2連装ミサイルをお見舞いする。その爆発にスーパースティレットはHPを0にされて敗北する。
「そんなぁっ!」
「同じスティレットなら負けられないのよ!」
『winner スティレット&グライフェン』
『これは見事です!決勝進出はスティレットとグライフェンチームだ!』
ゼルフィカールの後は割とスムーズに試合は進んだ。準決勝は同じスティレット同士の対決となり、結果は御覧の通りだ。
「凄いなスティレット!バーゼから柔道の技まで習ったのか!」
「まぁね。バーゼの奴色んな事知ってるわ」
驚くヒカルにスティレットは上機嫌に答える。
「凄いですねスティレット!同型相手を圧倒して」
「同型対決だったからね。ついムキになっちゃったわ。……それより轟雷、次はアンタがあのマガツキと戦うんでしょ?……頑張ってね」
心配するスティレットに対し、轟雷はこう答える。
「大丈夫ですよ。彼女には言いたい事が沢山ありますから、それに私はスティレットのライバルですからね、決勝は私が相手でなければ盛り上がりません」
「轟雷、気を付けてね。アイツの手の内はまだ全部見せてないよ」
フレズが心配する。自分が大敗を決した。その相手と轟雷が戦う。それ以降、真姫はほぼ単体で駒を進めていた。
「フレズ、でもフレズがある程度手の内を見せてくれましたから、やり易くなってる筈です。行きましょう!輝鎚!加賀彦さん!マスター!」
そう言って轟雷はフィールドへと向かう……。
――そう……もし私が負けたら、向こうの手の内は全部暴かないと……スティレットが少しでも戦いやすくなる為に……、って、何弱気になってるんでしょうかね私は――
こう思いながらも何かしら戦う結果を残すと誓う轟雷だった。
対峙する3人……。轟雷と輝鎚、そして真姫。
「準決勝まで来るとはな、お前たちがこれ程の力を秘めていたとは思わなかったぞ」
「どうしても倒したい相手がいましてね。そして……あなたには言いたい事も聞きたい事も山ほどある」
さっきまでとは打って変わってだ。轟雷の表情は真剣そのものだ。
『battle start』
「戦いの時に余計なお喋りなどする気はない!」
そう言って真姫はオオトリを転送し撃つ。
「輝鎚!」
「よいせっと」
輝鎚の後方に隠れる轟雷、輝鎚はボディからキラキラした物を散布。直後、オオトリのビームを輝鎚は直撃を受ける。が、ダメージを受けてる様子はない。
「効いてない?!」
『あのキラキラ……金属粉だ!』
シュンの指摘に真姫はハッとする。輝鎚の装備『試作三式対光学障壁』だ。散布した金属粉をトサカの磁場で障壁を作る疑似的なバリア。
「疲れさせますよ!輝鎚!」
飛び出した轟雷は真姫に向かって右腕の大型レールガンを撃つ。真姫はTCSで防御。
「轟雷、あたしに任せてぇ」
1回戦同様に叢雲で撃とうとする輝鎚、敵もそれを阻止しようと輝鎚の左右にドローンが飛び出した。
「来ると思ってましたよ!」
すかさず轟雷はキャタピラを使いターンをかける。反転と同時にロックオンをかけると背中のキャノンとレールガンを発射しドローンを破壊。真姫は背を向けた轟雷を撃とうとTCSを解除。
「いや待ってたよぉ!」
そこをすかさず輝鎚が真姫を叢雲を発射する。反転した轟雷は巻き込まれまいと一目散に輝鎚の方向へダッシュ。
「!不覚!」
TCSを今貼ろうにも間に合わない。あれを受けたら自分もただでは済まない。直後、巨大な影が真姫の前に飛び出した気がした。そのすぐ後に叢雲は着弾し大爆発。
「わわっ!」
衝撃で飛ばされた轟雷は後頭部を抱えて伏せた。そしてすぐさま立ち上がると着弾地点にレールガンを構えて警戒。
「やったんでしょうか?」
「うぅん?何か変な影が見えたよぉ。何か来ると思うよぉ」
同じタイミングで、轟雷側の全員が何かに気づいた。黒煙からさっきの影が上空に飛び出す。太陽を背にしてハッキリと姿は見えないが、上空で静止して攻撃しようとしてるのは見えた。
『っ!離れろ!2人とも!』
加賀彦の慌てた声が響いた直後。上空にいたそれは、巨大な炎を吐き出す。炎は轟雷達をフィールドごと包み込んだ。
「なっ!うわぁぁっ!!」
「きゃぁぁっ!」
突然の攻撃に防御らしい防御も出来ずに攻撃にさらされる2人。
「ビームじゃない……火炎放射?!……ドローンと火炎放射……まさか敵は……」
撃ってきたそれは真姫の前に降り立ち正体を現した。まるで守る様に、姫武者の前に龍がいた。機械で出来た真っ赤なワイバーン。高さはFAGとそう変わらない。しかし横幅は巨大な翼により寝そべったFAGの3倍はあるだろう。真姫に合わせるかのような色の深紅の龍……それは……。
「あれは……アグニレイジ!!?」
『あぁっとこれは大きい!ヘキサギアのアグニレイジだぁ!!解説のクローディアさん!FAGではない機種ですがこれはレギュレーションとして大丈夫なんでしょうか?』
『そうですねー。メーカー的には大丈夫でしょう』
ヘキサギアと呼ばれる機種のアグニレイジと呼ばれる大型機。それがシュンの使用するサポートメカだった。アグニレイジは機械にも関わらず「グルルル……」と獣の様なうめき声をあげる。
「レイジを引っ張り出すとは流石ですね。でもぼくだって男なんだ。……怯えてる場合じゃないから覚悟してもらいます」
それを操縦する、オドオドした印象のないシュンが呟く。直後アグニレイジは戦える事に歓喜するように、巨大な咆哮を上げた……。
グライフェンの写真はもう少しお待ちください。
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