指輪小話 |
「女領主と自警団長」
その指輪は、エゼルアート家領主が代々身に付けてきたものだった。先代領主、つまり、父親の遺品として残っていたもの。それは今、娘であるプリムロゼの細い指に納まっていた。
旅を終えたプリムロゼはノーブルコートの領主となっていた。変わり果てた故郷をもう一度立ち直らせたかったのだ。
彼女が領主になってから随分治安は良くなってきていた。だがそれでも不届き者が現れてしまう。女の治める町など容易いとでも言いたげに。
しかし彼女は屈することなく、彼らから町を守って見せた。 それは父と、父のために過ごした厳しい復讐の日々に鍛えられたからこそ成し得たことだった。
けれども、成し得た理由はもうひとつある。
─目の前にいる彼がその理由そのものだった。
今、彼女はこの町の新しい自警団長となった彼と、意見を交わしていたところだった。
二人でこの町に戻ってきてから何度彼に助けられたことだろうか。豊富な経験に助けられ、度量の広さに助けられてきた。今の自分があるのは彼の存在あってこそ。彼女はそう思っている。
プリムロゼは、密かに自身の指輪を撫でながら、彼の指で光る指輪を一瞥した。そして会話の中で彼にこう言葉を返した。
「さすがは元騎士様ね」
「安住の地、コブルストンにて」
剣の手入れの最中、ふとオルベリクは自分の手元に視線をやった。指で何かが光を反射する。
それは指輪だった。飾り気もなく、趣向を凝らしたわけでもない、極めて簡素なものだった。彼がつけているのは2対のうちの1つ。
─よくもまあこんなに質素なものを、彼女に贈れたものだな。
思わず彼は苦笑した。相手の背景を思えば思うほどその指輪は質素だった。
貴族だった頃には、それはそれは高貴な品々に囲まれていたに違いない。その中には唯一無二の代物もあっただろう。
酒場にいた頃には、男達に相当高価なものを貢がれたに違いない。彼女は酒場一の踊り子だった。貢がれる品も随分なものだったろう。
それらに比べたら、この指輪は随分とみすぼらしいものに見えたはずだ。
それでも、彼女は。
その瞬間を思い返していると小屋の扉が開く音がした。見ると彼女が戻ってきていた。質素な服の彼女が、旅をしていた時はくくり上げていた髪を下ろして。そして、手には膨らんだ麻袋を抱えていた。
おかえり、と声をかけると、ただいま、と返ってくる。
麻袋が目についたので、それはどうしたのかと聞くと、彼女は袋の紐を解いて中身を見せた。それはなんの変哲もない芋だった。村長から貰ったそうだ。今晩の夕食の1品になるのだろうなと思った。どこにでもある、ありふれた食卓の1品に。
それでも自分達は、そんな食卓を二人で笑い合いながら囲むのだろう。いつものように。彼はそう思った。
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オルベリク×プリムロゼ で指輪をテーマにした小話です 2パターン書いていたもの |
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