「放たれた矢は、想いを乗せて時をも越える」
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「ヒマそうね」

「は?」

「どう?これからちょっと付き合わない?」

「……」

「そんな警戒しないでよ。何も取って食おうなんて思っちゃいないから」

「……キミ」

「ん?」

「誰?」

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「まったく、信じられないなぁ。まさかクラスメイトの顔も知らないなんて」

「ごめんごめん」

「全然申し訳なさそうに聞こえないんだけど……」

「精一杯の謝罪なのだが……」

「ふぅん……まぁ、いいわ。はい、着いたわよ」

「ここって……」

「そ、弓道場。来た事は……ないようね?」

「あぁ……でも」

「『何でオレを連れてきたのか』って?」

「ん〜……まぁ」

「正直言うと、なんとなく、かな?」

「何となくで、たいして話した事も無いクラスメイトを、しかも男を連れてくるもんなのか?」

「さぁ……」

「さぁって……(呆)」

「ま。いいじゃない。結局来たんだし。それに何? もしかして『愛の告白かも〜♪』とか勘違いしちゃった?」

「別にそんなんじゃないが……まぁ、ここまで来ちまったんだから仕方が無い。折角だから、練習風景くらい見学させてもらうよ」

「ふむふむ、なかなか見所があるじゃない」

「何の見所だよ」

「こっちの事よ。それより弓をやった事は……なさそうね」

「何でそう思う?」

「そんな物珍しそうな目で道場を見ていたら、誰だってそう思うわよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんよ。さて……」

「何するんだ?」

「着替えるのよ」

「何に?」

「袴」

「ふぅん。で、オレはどうすれば?」

「ま、その辺で待ってて」

「いいのか? オレ、部外者だぜ」

「私の連れだって言えば、問題無いわよ。あぁ、勘違いしないでよ。別に勧誘しようなんて思っちゃいないから」

「あぁ」

「じゃ、着替えてくるわね」

「早くしてくれよ」

「急かさないでよ」

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「………遅いな」

手持ち無沙汰になって、特に他意はなく立て掛けてあった弓を取り、引いてみる。

与一に貰った弓が、いかにオレの手に馴染んでいたのかがわかる。それほど、ここの弓がオレには「部外者」であることを感じさせた。

そう思うと、与一に貰った弓こそが、オレの手に馴染む、オレだけの弓だったって事がまざまざと思い出された。

 

(そういえば、あの弓は何処と無く「暖かかった」ような思いがした)

 

非現実的な事をオレは考えている。

だが、これが自惚れでなければ、あの弓に込められた想いは、与一の、オレに対する……。

知らず知らずオレは、弓と共にあった矢を一本手に持ち、的に向かって構えてみる。

 

『的に当てるのではなく、その先へと至る心。その境地こそが弓の極意だ』

 

眼鏡を掛けた、手厳しくも愛しい少女を思い出す。

いつしかオレは、鎧を纏い浜辺に立っていた。

弓を構える視線の先には、広大な海と、その上に揺られる小船に立てられた一枚の扇。

ゆらゆらと、ゆらゆらと、惑わせるようにその身を波に躍らせる。

集中、集中、集中……。

風が……止んだ……。

 

ターン

 

放たれた矢は、一直線に的のど真ん中に突き刺さっていた。

それを確認すると、「ふぅ」と肩の力を抜く。

 

「見事だ」

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「え……?」

 

振り返った視線の先には、着替えてきた彼女が立っていた。

その姿は、在りし日の「師匠」の姿を思い出させる。その雰囲気さえも……。

 

「見事、的中。腕は衰えておらぬようだな」

「キミは……」

「む、私が分からんのか? けしからん奴だ」

 

微笑みながら構える。

その姿は、記憶の中にある少女、そのものだった。

 

ターン

 

見事的中。

それも、オレの当てた矢と、寸分の狂いもない場所へ。

 

「与一……」

「ようやく思い出したか」

 

掻き消えそうなほど小さく呟いたオレの声に、あの頃の笑顔で少女が微笑む。

 

「どう、して……」

「私にも分らん。ただ……」

「ただ……?」

「お前が扇の的を打つ姿を見たら、ここに居た」

「だ、だって彼女は……」

「釈迦の言う事が本当ならば、私の魂が宿っていると言う事になるのかもしれんな」

「そ、そんな……」

「私だって信じられんさ。だが、こうして私たちは再び出会う事が出来た。ならば、難しいことは考えず、素直に喜べばいい」

「………」

「それとも、もう逢いたいとは思っていなかったか?」

「そんなわけないだろう!!」

 

クスッ

 

「お前なら、きっとそう言ってくれるだろうと思っていたよ」

「ったく、人が悪いぜ」

「フッ、すまんな。だが……」

「ん?」

「逢えて嬉しかった」

「オレもさ」

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「そろそろ逝かねばならん」

「え、もう?」

「本来ならば見果てぬ夢だったのだ。再会できただけでも、神に感謝せんとな」

「そんな……」

「そんな顔をするな、弁慶よ。例え生まれた時代は違えども、共に育んできた絆は永遠だ。違うか?」

「……いや。そうだよな。オレ達は今までも、そしてこれからもずっと一緒だよな」

「ああ。だから、笑ってくれ、弁慶よ」

「お前もな、与一」

 

「弁慶」

「ん?」

「一つ、頼みがある」

「何だ?言ってみろよ」

「う、うむ……」

 

「……………………」

「は?」

「だ、だからっ、……………………れんか」

「だから、何だって?」

「貴様、もしやわざとやってはおらんか?」

「何をだよ。聞こえないからはっきり言えって。何?」

「だから、その……だ、抱き締めてくれと言っておるのだ!!」

 

 

「…………………は?」

「だっ、だから!!」

「い、いや、聞こえたけどさ(笑)」

「わ、笑うなっ!!もういいっ!!」

 

ふわっ

 

「!」

「これで、いいのか?」

「聞くな、バカモノ……(照)」

「ごめん」

「謝りもするな」

「うん」

「このまま、逝かせてくれ」

「………」

「お前の温もりを、感じたまま」

「………あぁ」

 

 

 

「またな、与一」

 

 

 

「また逢おう、弁慶」

 

 

 

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「私、一体……?」

「……………」

「へっ?」

「……………」

「!! キャアアアアアア!!」

 

バキィッ!!

 

「うがぁっ!!」

「ちょっ、あああああなた、いいいいいい一体何やってるのよ!?」

当然の如く抗議の声を挙げる彼女だが、強烈かつ急所を的確にとらえた一撃は、一瞬にしてオレの意識をすっ飛ばした。

遠のく意識の中で、悪戯っ子のような笑顔で「油断大敵だ」と言い放つ与一の幻が見えたのは、果たしてオレの生んだ幻想だったのだろうか。

 

 

 

その後、オレと彼女がどうなったかは、また別のお話で。

説明
2003年に発売された『少女義経伝』の二次創作です。
ヒロインの一人である「那須与一」クリア後に、勢いで書いた作品のため、非常に内容は荒いです。

書いてから長らく放っておいたもので大変恐縮ですが、この機会に、思い切ってUPしてみました。
興味がおありの方は、ぜひご覧になってあげて下さい。
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タグ
少女義経伝 那須与一 武蔵坊弁慶 

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