あなたとわたしの味 |
「喫煙者とのキスは苦く感じるらしい」
いつものようにキスをしようとしたら何故だか彼が躊躇うように身を引いたので、どういうことかと問い詰めたら戻ってきた答えがこれだった。確かにそうだけど、と思いながら彼に声をかける。
「…何を今さら、気にしなくても良いのに」
「そうとも思ったんだが、やはり、その、お前が我慢していたんじゃないかと思うとな…」
見上げなければならないほど立派な体格の彼だが、申し訳なさげに身を縮ませて項垂れているせいか今はなんだか小さく見えた。カーペットに正座、という体勢のせいでもあるのかもしれない(ちなみに私が強要したわけではない。あと、私も正座している)。
私が言っていることは気休めでもなんでもなく、紛れもない本音だ。むしろ避けられる方が気になる、と言いたいところだけど彼も既にわかっているようなのでわざわざ追い討ちをかけるような真似はしなかった。
それにしても。
「…貴方らしいわね」
思わずぽつりと呟いた。
どこでそんなことを知ったのかはわからないけど、それを知って最初に思うことが私への配慮だというところが、本当にそう感じる。
世の中、好いた相手が何事も自分の都合に合わせてくることを理想にしている男は多いもの。けれどもそれは、私に言わせれば自分勝手な甘えだと思う。無条件に自分に従わせて相手がどう思おうと知ったことではないなんて、愛情があるのか怪しくなるぐらいだ。
目の前のこの人は、オルベリクはそういう人ではない。彼は相手に無理を強いることのない人。相手の意思を尊重してくれる人。彼は自分を「不器用」と称するけれど、それでも彼なりに、真っ直ぐに向き合ってくれる人なのだ。そういうところが居心地がいいと思えて、頼もしいと思えて、そして愛しいと思える。けれど。
(…こういう風になってしまうのはいただけないわね)
もう少し甘えてくれないと、そんな風に思える相手なのだから。
そういえば、と私は思い出したように切り出した。
「私、他にも聞いたことがある話があるんだけど」
突然の話題に彼が怪訝そうに見つめるので、わざといたずらっぽく訊ねてみせた。
「喫煙者って、吸ってない人のキスは甘く感じるんですってね?」
「!」
うっすらと赤く染まる頬。気恥ずかしげに反らされた視線。大きな手でがしがしと頭をかきはじめる彼は、本当に分かりやすい。
「それは、まあ…その…」
そこから続く言葉はもごもごと続けられたので、私には良く聞こえなかった。見た目に反して、こういう可愛いところがあるのも彼の魅力だと思う。
「それって勿体無いじゃない。貴方しか知らない、私の『味』があるんでしょう?」
そう言いながら彼に近寄ると、私は彼の首に腕を回して顔を寄せた。
今度は避けられないように。
「だったら、もっと味わって頂戴よ」
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数日後、共用していたパソコンを操作していると、検索履歴に「喫煙者 苦味 消す方法」などという単語が残っていたので、何も言わずに消しておいた。本当に貴方らしいわね、なんて、また一人呟きながら。
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オルプリとタバコの話 しれっと現パロ、短いです |
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