とある昼下がりのとある微睡み |
薄手の長袖だけでは少し寒さを覚えるようになってきたが、太陽が当たる場所は気持ちがいいくらいに暖かく、油断していると微睡みに陥りそうだ。
そんな天気にも恵まれた事もあり、冬支度の準備として毛布と冬用のパジャマを日干しした。日が陰る前に取り込まないとせっかくホカホカになった毛布がもったいない。
「よう君。りょうちゃん。毛布を取り込むから手伝ってくれるかな。」
私がそう声をかけると二人は遊んでいたのをやめて私の所に駆け寄ってくる。
「おてつだいするよ。なにしたらいい?」
「お姉ちゃんがここに毛布をもってくるから、二人でソファーの所に運んでくれるかな。」
「わかった。」
私はリビングのガラスドアの鍵を開けて、洗濯用のスリッパをはき庭におりる。部屋の中で感じる暖かさよりも外の方が暖かく感じる。この暖かさももう二、三週するとなくなるのかな。
竿から滑らすように毛布をたたみながら腕におさめていると、、甘い香りが漂う。庭に植えてある金木犀の花が見事に咲き甘い匂いを漂わせていた。これが咲き終わり散ると冬がやってくる。そんな事を思いつつ毛布を一つ外す。
全部で5枚ある。そのうち二枚は子供用の小さいやつだ。私は小さいのから取り込む事にした。
「はい、これはよう君のだね。二人で持つんだよ。」
「ひとりでもてるよ。」
弟はそういって毛布を抱きしめるようにして抱えてソファーにもっていく。時々、抱き直ししっかりと前をみて歩いていく。
「りょうちゃんは、よう君と一緒にね。」
「わたしもひとりでもてるよ。」
私から毛布を受け取ると妹も抱きしめる。でも弟と違い、前が見えてない。なので抱きかかえたまま動けずにいる。ちょっとだけフラフラしている。机や棚にぶつかっていきそうだ。
「りょうちゃん。危ないよ。前、見えてないでしょう。」
「りょうちゃん。いっしょにもっていこう。ころぶとあぶないよ。」
戻ってきた弟が反対側から毛布を抱きしめ。体の向きを横にして蟹歩きをして、二人で歩いていく。仲良く毛布をもってソファーにいくのを確認して、外にある残りの毛布を取り込む。取り込んだ毛布をとりあえず、ガラスドア付近に置いておく。
そして一緒に干してあったパジャマを取り込む。毛布の部屋への移動は後でゆっくりとしよう。そう思い、パジャマをもってソファーまで移動して、パジャマを畳みはじめる。すると弟妹がガラスドアの横に積んである大人用の毛布にダイブして転がった。
「おねえちゃん。ふかふかだよ。」
「おひさまのにおいがするよ。あとあまいにおい」
二人は嬉しそうに毛布に沈んでいる。ふんわりとしていた毛布は二人の重さで見事にへこんでいた。
「ダメだよ。フワフワがなくなっちゃうよ。」
取合えず注意をするがとても楽しそうなのでそのままにすることにした。私も小さい時、あんな風に干した布団や毛布に乗って遊んでたっけ。でもお母さんはニコニコして怒らなかったけな。そんな事を思いながらパジャマをたたんでいく。
冬物のパジャマはまだ早いような気もするけど、風をひいては意味がない。それにここ最近、朝夕はとってもさむい。二人のパジャマがたためたので、部屋においてくるように声をかけたが返事がない。どうしたのかなと毛布まで見に行くと二人は仲良く毛布の上で寝ていた。
「二人とも幸せそうだな。」
そう一人ごちり、時計を見るとまだ三時までには随分と時間がある。この子達はおやつの時間までは寝かせておこう。二人をみていると何だか私まで眠くなってきた。その前にこの子達のパジャマと毛布を部屋に運んでおこう。
毛布とパジャマを部屋に置きにいき、リビングに戻りソファーに座り背筋を伸ばす。さて何しようかな。そう思いテーブルを見ると、彼が貸してくれた本が置いてある。続きが気になり本を開く。
月が二つ浮かぶ夜空はどんな感じなんだろうか。そんな事を思いながら本を開くが、眠気が頭を支配しようとする。眠気と共存して読むのは勿体無い。そう思い、テレビがある方に目をやると写真が目に入った。
その写真には家族全員が写っている。先月にみんなでぶどう狩りにいったときの写真。みんな嬉しそうだ。私は写真を持ってきてソファーに寝っ転がる。
そしてあの夜にお母さんとした話。それぞれを思い出しながら、私はあの夜を思い出していた。
お月見に使用したススキや縁台を片付けて、ソファーに寝かしていた二人を部屋に運ぶ。そして起こさないようにパジャマに着替えさせて、私は部屋に戻る。ベットに腰掛けてそのまま後ろに倒れていると、ドアが軽くノックされお母さんが入ってくる。
「亜由美。話って何?もう、だらしないわね。見えちゃうよ。」
お母さんの言葉と共にガバッと起き上がり、スカートの裾をなおす。そんなに短いのを履いていたつもりはないんだけどな。お母さんは部屋の小さなテーブルがある場所にちょこんと座る。
「何か久しぶりに見たな。アンタがそうやってる所。それでどんな話かな。」
「あのね……「あっ、もしかして、まさかアレ。確かこの間、まだ、こないとか言ってたし。」
「何の事。」
私がそう聞くとお母さんはおかしそうに私の隣に座り、そっと私のお腹をささすって膨らみを表現する。何が言いたいのかはその行動で全てわかった。
「もう、そんなわけないでしょう。」
「それもそうね。二人とも真面目すぎだもんね。でもそれがいい所かな。」
「お母さん。どうしていつも、そういうことばっかり。」
「だって心配でしょう。あんだけラブラブなんだから。それに世間ではよく聞く話だしね。」
お母さんが笑いながらそう言った。私もつられて自然と顔が笑っている。何だか少しだけ気が軽くなったような感じがした。
「それで、何を悩んでるの?あの子達も心配してるよ。お姉ちゃん元気ないって。」
さっきまで笑っていた表情は消えて、とっても心配そうな表情をしていた。あの子達にも心配させちゃってたのか。あの子達の前ではいつも通りにしてきたつもりなのに。
「アメリカ行きの事。私どうしたらいいのか。分かんなくなっちゃった。」
私がそれだけ言うと、お母さんはそっと肩をだきよせてきた。何かを言われる前に私の胸の内を全部伝えることにした。思いだけは知っていて欲しいから。
「みんなが一緒に暮らせるのが一番良いってわかってる。そうなだけど、我侭だってのはよくわかってる。私もみんなと離ればなれになるのは嫌だよ。そんな事したら、あの子達が悲しむのもわかってる。けど……。」
だけどそれ以上は言葉が続かなかった。恋人と離れたくない、まりにも親不孝な事で言えなかった。私が口ごもっているとお母さんは小さな声で呟いた。
「亜由美。」
お母さんはそう言ったきり黙ってしまった。お母さんにしてみれば、一度欠けた家族。そして欠けた家族を埋めてくれる人ができて、賑やかに増えた家族。それがまた、欠けるのは辛いんだろう。隣にいるお母さんの様子を伺いながら私はそう思った。
初めはお父さんの案に乗ろうかと思った。でもどう考えてもまだ早い。自立できてないのにそんな事はできない。卒業して働くならまだしも進学する身なのだから。
それに一生彼と会えないわけじゃない、互いに思いあっていれば距離は関係ない。私達は大丈夫だと思う。
けどもし我侭が通るなら、そう思って打ち明けてみたけど、お母さんが辛いのは嫌だ。弟妹が悲しむのも嫌だ。みんなで暮らせるように頑張ってくれてるお父さんにも悪い。お母さんにはいつも幸せでいて欲しい。だから私がほんの少し我慢すれば良いだけの話。
「お母さん。みんなで一緒に行こう。変な事言ってごめんね。」
私がそう言うとお母さんに私は強く強く抱きしめられた。後悔はしない、たくさんの時間を使って自分と向き合って決めた気持ちだから。彼とも離れたくはない、でも家族とはもっと離れたくないこれが私が出した答えだった。
「バカ、何言ってるのよ。前にも言ったでしょう。家族も大事だけど恋人も大事にしなさいって。」
そう言ってお母さんは私の方に両手を置いて自分の方に向かせる。そうやって見えたお母さんの目はまっ赤になっていて、微かに涙が流れた後が残っていた。
「ごめんね。」
そう言ったお母さんは再び私を抱きしめる。そしてこう言われた。
「亜由美、自分の気持ちは大事にしなさい。彼と離れるのが嫌なんでしょう。たとえ私達と離れて一人で暮らす事になっても近くにいたいんでしょう。」
「うん。でも」
「でもじゃないわよ。それにもう、亜由美にとっては彼は大事な家族でしょう。」
お母さんはそう言って抱くのをやめて、私の左手をそっと握り顔の高さまであげる。私は握られている左手に嵌っている指輪をみる。これは私と彼が、お母さんとお父さんを前に将来一緒になる事を誓った証。でもそれはまだ先の話、今は違う。そう思い顔を向ける。
「ほら、そんな顔しないの。ねぇ、亜由美、もっと希望とか要望とか遠慮なく相談してほしい。全部、聞いてあげる。例えとんでもない我侭でも。」
「うん。」
「亜由美が嫌ならアメリカはやめね。娘を悲しませる親はいないのよ。」
お母さんはそういって私の頭をポンポンと軽く叩く。私があの子達にするみたいに優しく撫でるように叩かれる。
「えっ、だってもうほぼ決まってるって。」
「そう、ほぼね。今決まってるのは場所と年数だけね。お父さん一人か、みんなでいくかはまだよ。」
「お父さんはお母さんも賛成してくれてるって。それにもし、一人暮らしするなら応援してくれるって。」
「そんな事も言ったの?」
お母さんは困ったような顔をし、一瞬怒っているようにも感じたが、すぐいつもの優しい表情に戻り話をつづけた。一人暮らしの話はそう言えば、内緒っていってたっけ。
「賛成は条件付きでね。仕事の引き継ぎが出来る期間があること。あとは亜由美がOKしてくれること。これが二つがクリア出来たら行っても良いかなって言っただけよ。だから心配しないの。」
「うん。」
そう言われてしばらくすると、涙が自然と出てきた。お父さんから話をきいて、どうしたらいいのかをずっと考えてきた。家族と離れるのは嫌だった、彼と離れるのも嫌だった。その二つの間でずっと揺れ動き続けていた。
すると、お母さんが涙を手で拭いてくれる。私はその手をとりそのままお母さんに抱きついた。しっかりと受けて持て貰い、お母さんの温もりに包まれた。小さいときもそうだったけど、今されてもすごく落ち着ける。
「じゃ、話は終わりね。お父さんには私から話しておくね。」
「うん、ありがとう。話せて良かった。後それとね。」
私は恥ずかしさから、お母さんの耳元でボソボソとしゃべる。体中が熱いのがよくわかる。話し終えてお母さんを見ると初めて見る顔をしていた。あんな話をした後に、こんな事聞くのはやっぱり変だよね。
でも、こんな事はお母さんにしか聞けない。親友は私と一緒でまだ経験してない。それはお互いに確認してある。不安な気持ちに覆われつつお母さんを促す。
「お母さん?」
「ごめん。急にそんな事言うからビックリした。そうね気になるよね。えっと、……『おねえちゃん。おやつは。お?や?つ。』
二人の声と体を揺すられて私は起こされる。目を覚ますと二人が私の前に立っていた。
「おねえちゃん。さんじすぎたよ。おやつは?」
「きょうはなにがたべれるの?」
目をこすり時計を見ると三時半近くになるところだった。思い出しながら寝ちゃったんだ。
「このあいだもらった柿でプリンをつくったから。今日は柿プリンだよ」
一昨日の夜、彼が田舎から送ってきたからと持ってきてくれたものをお母さんと二人で実をくりぬきプリンをつくった。ちょうど雑誌に作り方がかいてあったので試しに作ってみた。
「かきプリン??ふつうのとはちがうの?」
「それは食べてみてのお楽しみだよ。じゃ行こうか。」
二人の手を握り、キッチンに向かう。日だまりで温まったのか二人の手はお母さんに包まれたときのように温かくなんだかホッとした。いつまでもとはいかないけど、なるべく長い時間、この温もりと共に過ごしていきたい。
fin
説明 | ||
一番秋を強く感じれるこの時期。読書の秋、運動の秋、食欲の秋と秋には色々な顔があります。皆様はいかがおすごしでしょうか。さて彼女はどんな秋をすごしているのでしょうか。少々時間を遡って覗いてみる事にしましょう。 | ||
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