【MH擬人化】恋人は森丘の火竜 後編【レウライ】
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※注意(必ずお読みください)

 

・モンハンの擬人化二次創作

・独自の設定あり

・文章力皆無(重要)

・ライゼクス右固定(重要)

・腐向け(重要)

・あとは、何でもありな方向け。

 

かなり私の趣味が全開なため、以上の表現が苦手な方は

このままブラウザバックすることを強くお勧めいたします。

 

大丈夫な方のみ、次のページへとお進みください。

 

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…ハァ、ハァッ……

 

気が付くと、俺は暗闇の中を駆け抜けていた。

 

荒く息を吐き出しながら、一瞬も止まってしまわないように足を動かして、

行く当てもなく、何も見えない道をただただ必死に走り続ける俺を、背後から追いかけてくるのは、眩いほどの青白い光を放つ巨大な球体。

 

こわい…、怖い……っ!

 

氷結晶よりもずっと冷たい色をしたその存在は、俺にとってもはや何よりも強い恐怖の対象でしかなく、

それ故に、無慈悲に俺を捕らえようとする冷酷な光を、どうにかして振り切ってしまいたかった。だから、俺は真っ暗な空間の中で必死に逃げ続けた。

 

逃げて、逃げて逃げて、とにかく逃げ続けて、奴から離れようとした。

 

……だけど、『現実』はそんなに甘くなんてなかった。

 

……っ、ぐ…!

 

走ることばかりに気を取られすぎた俺の身体が、不意にぐらりと揺れ、その直後に地面目掛けて強く打ち付けられてしまう。

 

当然、俺は突如襲い掛かってきた痛みに思わずうめき声を上げてしまうが、

追跡者たる青白い光は、そのことをむしろ好機と捉え、急速に距離を詰めてくる。

 

…はや、く…、早く、逃げ、ねえと……

 

まるで俺を嘲笑うかのように速度を上げてくるその存在を見て、急いで起き上がろうとするが、

痛撃を受けたばかりの自分の身体は、なかなか思うようには動いてくれなかった。

 

…くそっ、動け…!動け、よ…!

 

立ち上がるのに手間取っている間に、恐ろしい運命を告げる光はどんどん近づいてくる。

 

……いやだ、嫌だ…!

追いつかれたくないっ、『あれ』にだけは絶対に捕まりたくないっ…!

 

だけど、そんな切なる想いも空しく、最悪の未来は無慈悲に、刻一刻と俺の元へと迫ってくる。

 

……いやだ…、嫌だイヤだいやだ嫌だイヤだ…!

 

口の中で必死に叫んでみても、この最悪な状況が変わることなんてあるわけがなく、

不気味に光る青白い『それ』は、とうとう俺の至近距離まで近づき、そのまま情けなく震える身体に触れようとして……、

 

そんな時だった、

 

不意に、『何か』がそいつと俺の間に割り入ってきたのは。

 

 

……………?

 

光球の動きが止まったことに気づいて、ほんの一瞬だけ驚いていたが、

恐怖のあまり深く瞑ってしまった眼を、恐る恐るゆっくりと開いてみれば、そこには、全く予想だにしてなかった光景が存在していた。

 

 

眼前にあったのは、紅い炎。

豪々と燃え盛るそれに包まれながら苦しそうに暴れる青白色。

 

……な…、何、なんだよ、これ…?

 

何の前触れもなく姿を現した正体不明の『そいつ』は、

恐らくは俺の身体も冷たい光球すらも、周囲のモノ全てを簡単に溶かしてしまいそうな程に非常に強い熱と、

俺なんか比べ物にならない程遥かに巨大な姿をした自分自身を激しく揺らめかせながら、

ついさっきまで追跡者だった存在を容赦なく燃やし尽くしてしまおうとしている。

 

俺に絶対的な支配と恐怖を与えてきた、強大な力を持つ光球を、

いともあっけなく高熱の中に呑み込んでしまった、紅い色をした巨大な乱入者による、無慈悲で冷淡な捕食行為。

 

眼前で繰り広げられるその凄まじい光景に、気が付けば俺は、

残忍な冷酷な種族の一員であるにも関わらず、全身を情けなくガタガタと震わせていた…。

 

 

 

 

……しばらく時間が経った後、炎の中心にはもう、影も形もすっかり無くなってしまっていた。

 

捕食した青白い光から激しい抵抗を受けてきたにもかかわらず、

烈火は何事もなかったかのように、俺の目の前で輝きと熱を放ち続けている。

 

そんな姿を見て、強烈な恐れを抱き、寒気立った思考はこう警告してくる

――――『次は俺の番だ』、と。

 

その予感が的中するかのように、巨大な炎が俺の周りを囲みだす。

獲物を逃がすつもりはないという意思を見せつけるかの如く俺の身体を包み始める灼熱から

どうにかして逃げようと、駆けようとするが、恐怖で固まった身体は全くといっていいほどに言うことを聞いてくれない。

 

いやだ…、せっかく、せっかく『あれ』が消えてくれたってのに、

こんな…、こんなところで、自分まで消されるなんて…、そんなの……

 

立ち上がることにすら手間取っている間に、逃げ場はどんどん失われていき、

焼き焦がされそうな程に熱い紅との距離はどんどん埋まってきている。

 

やだ、嫌だ…!頼む…、頼むからやめてくれ…、やめてくれよ……!

 

あの光のように跡形もなく焼き尽くされるのが怖くて、

必死に命乞いをする俺だったが、そんな言葉も一切聞き入れてもらえない。

 

とうとう全方位を取り囲まれ、どこからも抜け出すことが出来なくなった俺は、

自分を狙う炎に頭から一気に喰われ、そのまま烈しい紅色の中に引きずり込まれてしまう……。

 

 

…………だが、俺の身体が無残に焼き焦がされることはなかった。

 

 

………あれ…?

 

劫火の内部に入れられて、まず最初に身体で感じたのが、陽だまりのような温かさ。

その次に資格で感じたのが、周囲を取り囲む烈しい紅と、その状況に反して殆ど無傷な自らの体躯。

 

この炎の餌食になってしまうのだと強く思い込んでいた俺は、

あの冷酷な光球が無慈悲に焼失させられた光景を間近で見ていたことも相まって、

突然与えられたこの柔和な温度に酷く混乱してしまっていた。

 

だが、俺を大事そうに包んでいる炎は、『お前に危害を加えるつもりはない』と言わんばかりに穏やかに揺れていて、

その意思を示すかのように、手で優しく撫でるかのように、俺の額に温かさをそっと落としてくる。すると……、

 

…………あったかい……。

 

恐怖に染まっていたはずの心が不思議なくらいに落ち着いてきて、身体の芯からぽかぽかしてきたように感じられるし、

何が起きてるのかなんて未だによく分かってないというのに、何故だかすごく安心できるような気さえしてしまう。

 

………こいつ…、なんで……?

 

先程とは全く正反対なこの炎の行為に、当然ながら疑念は浮かんでくる。

 

けれど、陽だまりのような優しい温かさに包まれた俺の思考は、それを至極どうでもよいことのように受け流してしまう。

身体も、心も、全部溶けてしまいそうな程に甘美な温度は、どうやら危機感や疑念すらもまとめて奪い去ってしまったらしく、

 

……気が付けば俺は、ついさっきまであれほど恐れていた炎に自ら身を委ねていた。

 

全身を包んでくる酷く居心地の良い熱に、頭をそっと撫でてくる柔和な温もり。

 

自分をずっと追いかけてきた冷酷な存在とは、何もかもが違うそれらにすっかり心を奪われてしまった俺の意識は、

そのまま穏やかに、温かさと優しさの中に埋もれていき…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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……そして、夢から覚めてしまった後も、あの炎からもらった温もりが俺から離れていくことはなかった。

 

 

「…………ん……」

 

天井に空いた穴から降り注いでくる眩い陽の光を瞼越しに感じた紅い両眼は、

やがてうっすらと、少しずつ自らの表面に強い光量を浴びていき、

それに促されるように、眠り惚けていた俺の意識も徐々に現実へと浮上していく。

 

やがて光に未だ慣れずにぼやけていた視界も少しずつはっきりしだし、

全身の肌も温かくて柔らかいモノを段々と感じ始めたことで、今いる場所がふかふかのベッドの上だと気づくことができ、

大きな穴のある天井がはっきり見え始めるとともに、俺はようやく安堵感を覚えることが出来た。

 

……そっか…、青電主はもう、俺の傍にはいないんだっけ……。

 

俺にとってはもはや冷淡さと嘲笑の象徴でしかない沼地にはほとんどといっていいほどに存在しない陽の光が、

すっかり冷え切った俺の心を温めるかのように、真っ直ぐにこちらの方へ降り注ぎ、

それのもたらす温度に影響されたのか、俺の身体を包んでくれている布団もまた心地の良い温かさを直に届けてくれていて、

奴にさんざん殴られたせいであちこちから痛みを感じてしまうことも、ほんの少しだけだが忘れることが出来そうに思える。

 

そんな、電竜である俺に縁の無かったはずの優しさが、今まさに現実として、傍に存在しているんだと、そう確信した時、

 

……もう一つ、俺の右手を優しく囲う温度に、俺は気づいた。

 

その温もりをもはや嫌という程に知っていた俺には正体を見破ることすら造作もなく、

そいつの方へと視線を向けてみれば、おおかた予想していた通りの光景がそこにはあった。

 

「………………火竜……」

 

少しだけ長めの燃えるような赤い色をした髪、開かれたワインレッドのレザージャケット、そこから見える包帯の巻かれた屈強な胸元。

 

身体中に巻かれた白いものさえなければ、青電主と戦って傷を負わされたなんて思えないほどに、

目の前にいる火竜は、俺の右手を両手で優しく包みながら、すぅすぅと穏やかな寝息を立てていた。

 

………もしかしてこいつ…、ずっと俺のことを……?

 

自分にとってまだ信じがたいことだったそいつのそんな姿は、心臓を揺さぶってしまう程の驚きを俺に与えてくる。

だけど…、それと同時に、心の奥深くの方から何か温かいものが込み上げてくるような、そんな気さえしてしまっていて、

 

だからこそ、胸がすごく苦しくて、苦しくて堪らなかった。

 

……っ、なんで……、なんで、なんだよっ……?

なんで…、電竜である俺が…、敵対種族であるコイツのことを……?

 

自分でも訳が分からなかった。残忍で冷酷な種族の一員であるはずの俺が、どうしてこんな『感情』を抱いてしまっているのか、

なんで他の奴、それも火竜なんかのことをこんなにも気にしてしまっているのか、この時の俺には全然理解できずにいたから。

俺の中にはなかったはずのその『感情』が、心の中に生まれたポカポカしたものが、

俺の、電竜としての常識を丸ごとぶち壊してしまうような気がして、そのことがなんだか酷く恐ろしく思えてしまったから。

 

……これら全てをあっさりと切り捨てることが出来ていれば、きっと心の中にある余計な荷物だって簡単に捨てられたはず…。

 

…………なのに俺は、何故だかこの温度を手放せずにいる。

 

なんで、なんでっ……、どうして俺が、こんな……

 

自分自身にいくら問いただしてみても、その答えは一向に見つからない。

それどころか、答えを見つけようとすればするほど、頭の中がどんどん乱雑になっていく。

 

いったい……、一体、どうすりゃ…、いいんだよ……?

 

この苦しみから逃れるための解決方法も全く分からず、何もできないまま浅くて荒い息を吐き出し続けるんだろうか…?

火竜のもたらす温かさと俺が元来持っていた冷たさがせめぎ合うせいですっかり乱れ切っていた思考の中には、

そういった不安が朧気ながら現れ始め、更にはとうの昔に役目を終えたはずの涙腺も、何故かこの時になって急に塩辛さを含んだ雫を落とし始めて……、

 

 

…………その最中、不意にひやりとした何かが俺の額に触れてくる。

 

「……よしよし。ゼクスちゃん、大丈夫?どこか痛いとこでもあった?」

「…ひっ……!」

 

その上、どこからか火竜のモノとは全く違う、やや舌足らずな感じの高い声がすぐ近くで聞こえてきたことで、俺の心臓と身体は一気に緊張と恐怖に囚われてしまった。

 

…っ、何なんだよ、今の……?

 

空耳にしてはやけにはっきりと聞こえてきたその声に、当然ながら俺は警戒し、恐る恐る辺りを見回し始めたが、

どこに視線を向けてみても、声の主の姿は全く無く、その事実が余計に状況の不気味さを倍増させてしまう。

 

「ありゃ?そんなにビクビクしちゃって、一体どうしちゃったの?」

 

それでも、幼げな声は俺がなんで不安になっているのか理解してないらしく、

逆に呆気にとられているような色だけが、不自然に俺の耳朶を叩いてくる。

 

なんなんだよ…、何なんだよ…!

 

未だ無知な部分の多かった自分の頭では全くもって理解不能だった、その不可解な現象に、

俺は布団に顔を埋めたまま、ガタガタと情けなく震えていることしかできずにいた。

 

そんな時、

 

「…あぁ、そういうことか!」

 

見えない何かが先程よりも一際大きな声を吐き出して……、

 

 

――――すると、直後に、何も無いところから前触れもなく一人の少女が現れる。

 

「…………………………え?」

 

…………こう言うと、遠くから瞬時に近づいてきたんじゃないかとか、

見間違いなんじゃないかと言われそうだが、決して嘘なんかじゃない。

 

眼前の虚空から、およそ10歳くらいに見える幼女がその姿をパッと出現させていたという、その現象を、

確かにこの眼で見ていたという自信を今ではちゃんと持っているからだ。

 

………まぁ、初めてこの幼女に出会った当時は、信じられないという気持ちの方が大きかった訳だが…。

 

そういう話はともかくとして、思わず目を丸くせずにいられなかった電竜に対して、

そいつが今までに見たことのないような芸当を披露してきた謎多き幼い少女は、

物怖じなんて一切せずに、人懐っこそうな屈託のない笑みを浮かべていて、

 

「ごめんね、いきなり声だけ掛けちゃって。ゼクスちゃん、すっごくびっくりしちゃったよね?」

それどころか、驚かせてしまったことを素直に詫び、俺のことを気遣う素振りすら見せてきている。

 

「でも、大丈夫だよ。ボクはキミ達の味方だからね。

古龍であるボクがここにいる限り青電主はキミ達に近づけないはずだからさ、今は安心して、ゆっくり休んでるといいよ。」

「………は…?『古龍』……?」

「うん、そーだよー♪ あ、ボクはナズチって言って、『霞龍』って呼ばれる種に属してるんだ♪」

「………………」

 

………………マジかよ……。

……でも…、コイツの声が聞こえてきた時、というかそれより少し以前に、

上手く説明はしにくいものの、いつもとは違うような感じがしたような気がするし、

『霞龍』という名前やそいつの特徴は、前に一度聞いたことがあって、

それに非常に合致していたことから、ナズチと名乗った少女の自己申告に嘘はないと俺は思った、恐らくだけど…。

 

……けど、古龍ってのは確か、俺達みたいなただのモンスターなんかとは到底比べきれない程の、遥かに強大な力を保持し、

それでいて、生物の多い場所へは滅多に姿を現すことのないと言われている特異な種達のことで、

少なくとも俺達の一般的な常識では考えられないくらいの不可思議な能力を持つが故に、

普通のモンスターであれば、気配を感じた時点で真っ先に逃げ出してしまってもおかしくない程に規格外な恐ろしい存在、だったはずだよな……?

 

なのに、そんな奴が、俺の前に平然と現れて…、

その上、俺の味方だと言い出した理由が全く分からないことも相まって、俺は酷く混乱してしまう。

 

「ボクはね、レウスちゃんのちっちゃい頃からのお友達でね、森丘にはごくたまーに遊びに来てるんだ。

ごくたまーにっていうのは、ボク達古龍が一つの場所に留まりすぎるとその土地の生態バランスが崩れるからで……、」

 

だが、硬そうな平べったい尻尾と頭頂部に生えたアホ毛が特徴的な古龍は、

俺の気分などお構いなしと言わんばかりにそのまま好き勝手におしゃべりを始めていた。

 

「……まあ、そのことはさておいて、昨日、レウスちゃんにテオ兄から押し付けられた『お土産』を渡すために巣までやってきたの。

そしたら、レウスちゃんともう一人知らない男の子――つまりキミのことなんだけど…、その二人がボロボロの状態だったのを見ちゃったわけ。

……しかもレウスちゃんの方は、ゼクスちゃん以上に傷だらけなのに、そんなこともお構いなしにゼクスちゃんの介抱を続けていたもんだから、ボクもう、すっごく心配になっちゃってさ、慌ててレウスちゃんを予備の布団に寝かせようとしたんだ。

だけど、レウスちゃん、ゼクスちゃんのことをどうしても放っておけないからって、包帯持って、椅子に座ったまま全然動いてくれなかったの…。

何回も何回も説得したりぐいぐい引っ張ったりして見たのに、一向にゼクスちゃんから離れようとしなかったから、

『一体何がそこまでレウスちゃんを突き動かしてるのかな?』と思って、レウスちゃんに理由を聞いてみたら…、『恋人にしたい奴をどうしても助けたいから』って言われてさ……、」

 

……だが、彼女から聞かされたその事実が、今度はまた別の意味で俺を悩ませ始めてしまっていた。

 

「あのレウスちゃんが誰かに恋をしたというだけで、古龍のボクですら天変地異が起きるかもって思う程の驚きの出来事なのに、

その相手が他種族の…、それも男の子だなんて余りにもビックリ過ぎて、お空と地面が丸ごとひっくり返るんじゃないかと思ったよ…。

……だけど、レウスちゃんはどうやら本気みたいで、ゼクスちゃんを見てものすごく悲しそうな顔しながら、何度も『ごめんな、ごめんな』って謝ったりしてたもんだから、

いろいろと心配でしばらく悩んでいたボクも仕方なくレウスちゃんの意思を尊重することにして、椅子に座りながらゼクスちゃんの介抱をするこの子の手当てを引き受けたんだ。ついでに、食料や薬草とかの調達も…、って、どうしたの、ゼクスちゃん?どこか痛いとこでもあるの?」

「……っ」

 

……っ、……なんで…、なんで、なんだよ……?

俺の方から逃げ出したってのに、どうして…、どうして、この火竜はこんなに…、俺に優しく接してくるんだよ……?

……なんで俺のこと…、そんな風に気遣ったりできるんだよ……?

 

口の中でこう呟いてはみるものの、それらの疑問への答えなんか、もうとっくの昔に分かっているはずだ。

 

…だけど、首を絞めつけるような苦しさを生み出す『何か』が、

『火竜の中に秘められているかもしれない嘘や邪な気持ちを何としても探し出せ』と強く命令してくる。

 

これまでずっと、他者にさんざん虐げられてきたことを嫌という程に覚えている思考だから、

そいつのこの反応は、俺を守り通すための行動としては、きっと至極正しいものだろうし、そう思ってなきゃいけない気さえしてしまう。

 

……それでも、あいつが俺に施してきた様々なことからは、悪感情と呼ばれるモノがただの一片すらも見えてこなくて……、

 

 

そんな時、紫色の髪の少女が、俺の顔をじっと見つめながらこんなことを言い出してきた。

 

「……もしかして、一番痛いのは、心の方だったりする?」

「……え…」

「…ふふっ、どうやら正解って感じかな? ボクねぇ、こう見えてものすごーく長く生きてるからさ、

他の人の考えてることが何となく分かっちゃったりするんだよ。

まぁ、ゼクスちゃんの場合、反応があまりにも分かりやすかったってのもあるんだけど。

……万が一そうじゃなかったとしても、ゼクスちゃんのあの苦しそうな顔は、

どうも身体の痛みだけじゃないような気がするし、そうなると、薬草とかじゃ治しようがないと思うんだよね。」

「……だったら、何なんだよ?」

 

恐らくは、かなり怪訝な表情を浮かべていたであろう俺に対して、霞龍が提案してきたことは、当時の俺にとって実に珍妙かつ突飛なものだった。

 

「だからねぇ、ボク、ゼクスちゃんと一緒にお話がしたいの。」

「…………はぁ、なんで?」

「だって、ほら、ゼクスちゃんのお話を聞けたらさ、その痛みの原因も和らげ方も、もしかしたら全部解るかもしれないし。」

「…………」

 

…………何を抜かしてやがんだ、このチビガキは?

……まさかとは思うが、そんなちゃちな方法で、凶悪な種族であるこの俺の、荒み切った心を解すことが出来ると、

本気で考えてるなんてことはあるはずないよな? かなり長い時を生きているというなら、俺達の凶暴さなんて知識だけでもとっくに分かってるはずだし。

 

そういった趣旨の文句を込めた眼差しを、目の前にいる少女に向けてみるものの、

その内容を分かっていないのか、あるいは理解はしていても特に気に留めていないのか、

俺よりも遥かに年上だという彼女は、相変わらずニコニコと屈託のない笑みを見せつけてくる。

 

「まぁまぁ、物は試しってことでさ♪ もちろん答えたことでキミに危害を加えたりはしないし、古龍からのアドバイスはめっちゃくちゃ貴重だし、

ものすごーくタメになると思うし、何よりレウスちゃんが恋人に選んだ子のことをボク自身がきっちり知っておきたいし」

「…………っ」

「だから、お願い♪ ゼクスちゃんのこと、ぜひぜひ教えてくれないかな?」

 

両眼をキラキラとさせながら、外見年齢相応に媚びまくってくる古龍様に、

彼女から見え隠れする特有の圧にどうにか耐えていた俺も、ここでとうとう完全に折れてしまい、

ここから逃げ出せない傷だらけの身体を心底恨みながら、渋々自身のことを話すこととなった。

 

 

 

 

 

「――――なるほどねぇ。それで、ゼクスちゃんはここまで来たんだね。」

「……ああ。」

 

まず最初に語ったのが、俺が森丘へと来た経緯。

 

電竜を忌み嫌う沼地の住民達から酷く虐められ、居場所までをも奪われ、

挙句の果てには同種である青電主に捕らえられ、激しい暴力を受け続ける羽目になってしまったこと。

容赦なく襲い来る痛みにじっと耐え続けなければならない日々が続いていた時に、

突然、『俺を恋人にしたい』などと宣う火竜が現れ、そんな状況に戸惑いながらもそいつを利用して沼地から脱出したこと。

それから、俺を執拗に追いかけてきていた青電主からどうにか逃げ出せたこと。

 

そんな、苦痛と嘲笑に塗れた、一片の優しさすら存在しない過酷な記憶を聞いて、

見た目10歳くらいの少女は、まるでそれが自分のことであるかのように表情に悲しげな色を浮かべ、

ベッドに登ったかと思うと、ひんやりとした温度を含む小さな右手で、俺の頭をそっと撫で始めた。

 

「……そっかぁ。それは、とっても辛い思いをしたね…」

「…………。」

 

……そうやって、俺の知らなかった柔和なものに触れられる度に、また一つ俺の常識にヒビが入っていく。

俺がこれまで生きてきた『世界』が、このままだと跡形もなく壊れてしまいそうだと、そう思うとどんどん何もかもが怖くなっていく。

 

…………だけど……、

 

 

「それじゃ、ここに来てからはどうだった? レウスちゃん、時折世話焼きが過ぎることがあるから、

色々やりすぎてゼクスちゃんのこと困らせてないといいんだけど……」

「…………まぁ、お節介なのは否定できないよな……」

 

敵対種族であるはずの俺に対して、かなり積極的に強い好意を向けてくる森丘の火竜。

 

四六時中俺のそばに付きっきりで、何かあれば大げさなほどに俺のことを気にしてしまうそいつの姿は、

正直言って今でもすごくうっとおしいと思うし、放っておいてほしいと感じてしまうことすらあった。

 

「………大体、火竜が電竜に恋をしてしまうってのが既におかしいんだよ。

火竜と電竜が結ばれるなんて、そんなの絶対ありえるはずがないのに…」

「……どうしてそう言い切れるの?」

「……そ、そりゃあ、火竜と電竜が互いを互いに敵視してるからに決まってんだろ。

王者と呼ばれるような奴と凶暴で残忍な嫌われ者じゃ、到底釣り合わねえだろうしさ。」

「………ふーん、そうなの…」

 

俺としては火竜なんかと恋人になれない理由を、自分なりにきちんと答えたつもりなのだが、

霞龍は何故か釈然としない表情を浮かべたまま、更に質問を投げかけてくる。

 

「じゃあ、ゼクスちゃん自身はどう思ってんの?」

「……え?」

「キミ個人としての考えのこと。それをボクは一番聞いてみたいの。」

 

……彼女の抱くその疑問の意味とそれを投げかけて来た意図が、この時の俺には全く解らなかった。

 

「…っ、だから、俺達電竜と火竜は憎み合うべき敵同士で、互いに相容れるような関係じゃねえから――」

「違う、違うって。そういう普遍的な回答を聞きたいんじゃないの、ボクは。

そんな種族同士がどーのこーのなんて言うのは、これっぽっちだって興味はないの。

ボクが聞きたいのはね、ゼクスちゃん自身の『正直な』本当の気持ち、それだけなんだから」

「………しょ、しょうじき…?」

 

…………何を言ってやがんだ、このチビガキは……?

 

てめえが『話して』っつーから、俺は…、理由をちゃんとテメェに話してやったんだぞ…!

なのに、一体何が不満なんだよ? てめえの言う『正直な』気持ちって、一体何なんだよ…? 全然意味が分かんねえ……

 

そう思いながら、それでもどうにか目の前の古龍に対して答えを出すために、必死に思考を巡らしていると、

幼げのある顔を相変わらず柔和に綻ばせていたそいつの、『ふふっ』という小さな笑い声が耳朶を叩いてきた。

 

「……ゼクスちゃんってさ、結構分かりやすいよね。」

「……は?」

「キミ自身は恐らく分かってないのかもしれないんだけど、

ゼクスちゃんの顔見てるとさ、キミが嘘をついてるってことが、すっごくはっきり分かっちゃうんだよね。」

 

……………嘘…? 俺が……?

……俺は、自分の中で思っていたことを、きちんと話したつもりなのに……?

 

「……で、デタラメ言ってんじゃねえよ。俺は、嘘なんて言って――」

「いいや、嘘だよ。だって、ボクにはちゃあんと分かってしまうんだもん。」

 

俺の反論を遮って、自信満々にそう断言する見た目10歳な古龍。

彼女は、まるで俺に言い訳の余地すら与えないかのごとく言葉を吐き、そして、そのまま俺に『ある事実』を突き付け始めた。

 

「さっき、ボクが『火竜と電竜が結ばれるわけないなんて、どうしてそう思うの?』的なことを聞いたでしょ?

そうしたらゼクスちゃんね、とても苦しそうな顔してたの。ただ何を言うかを悩んでるだけだったら、そういう感じにはならないと思うし、

『本当にレウスちゃんのことを敵視してたり嫌っていたりしたのなら』、すぐに答えを出すことはできたはずだよ。」

 

渦巻き模様のある紫色の瞳に、必死に反論の弁を考えている俺を映しだしながら、霞龍は更に音吐を継ぎ続ける。

 

「にも関わらず、ゼクスちゃんはすごく苦しそうだったし、答えるのにもちょっと時間がかかってた。

もちろん、今目の前にいるのが古龍種だってことも理由のひとつだとは思う。

だけど、ゼクスちゃんの苦しいのって、どうもそれが主じゃないように思えてしまうんだよ。それにね…」

 

立てた人差し指をピッと俺の眼前に突きつけてくる彼女に、自分が間違っているかもしれないという危惧はどうやら全く無いらしい。

そいつに対して俺が抱いていたそんな感想は、次に投げかけられた言葉がきっかけで強い真実味を帯びることとなる。

 

「…昨日の夜にボクが来たときね、ゼクスちゃん、すっごいうなされてたの。

どんな内容だったのかは当然僕には分かんなかったけど、ただとても悪い夢見てるんだなっていうのは

容易に想像することが出来てさ、それぐらいにキミは苦しそうな表情を浮かべてたんだ…。

そんな姿を見て、レウスちゃんは今まで見たことないような深刻そうな顔してて、

自分の身体がゼクスちゃん以上にボロボロであるにも関わらず、キミのことを心配して寄り添ってたんだよ。

…恐らくはキミの苦しみを少しでも和らげてあげたかったんだろうね。

だからこの子は、ゼクスちゃんの頭を優しく撫でながら、『大丈夫、大丈夫』って声を掛け続けてたんだと思う。そしたら…、

不思議なことに、ゼクスちゃんから少しずつ苦しいのが消えていって、

しばらくすると穏やかな顔になって、安心したように『すぅすぅ』って寝息を立てていたの。」

「…………」

「……これがどういう意味だか、ここまで言えばもうゼクスちゃんにも分かるよね?」

「……違う」

 

…違う…、そんなはずはない……。

 

だって…、俺は、残忍で冷酷な種族の一員なんだぞ…?

そんな奴が、敵対種族なんかに安心させられるなんて、そんなの、ありえるわけ……

 

「ゼクスちゃん」

「…っ、違う!違う、違うっ! 俺は、あいつをそんな風に思ったことなんてない!だって、あいつは火竜で、俺は――」

「ゼクスちゃんっ!」

「……!」

 

霞龍から突き付けられた『事実』に酷く怯えてしまい、布団の中に潜り込みながら、

『抱き始めていたある感情』をどうにか払拭してしまいたくて否定の言葉をぶちまけようとした俺だったが、

その言動は、俺よりも背の低い少女の一声によってあっさりと止められてしまう。

 

ややあって、俺が何も言えなくなったことを確認したらしい彼女は、今度は優しげな声で、布団に全身を包み込んでいる俺に話し掛け始める。

 

「…あのねぇ、ゼクスちゃん。ボクはね、別にボクやレウスちゃんとかに嘘をついたりすることを気にしているわけじゃないの。」

 

まるで駄々をこねる小さな子供を優しく諭すかのような柔和な音吐が、

しかし、その内に隠れていた鋭利な何かが、今にも壊れそうだった、俺の中にある『常識』の息の根を完全に止めようとしていた。

 

「ボクが心配しているのは、むしろキミ自身のことなんだよ。」

 

『やめろ、やめろ』と必死に願ってみても、当然、彼女の言葉が終わることなんてない。

両耳を塞いでみても、その声が完全に聞こえなくなるわけではない。

 

コイツの言う『事実』を、この耳で聞いてしまえば、この頭の中で認識してしまえば、

恐らくは、もう二度と後戻りはできないかもしれない。少なくとも以前までの俺に戻ることはもうできなくなってしまうだろう。

 

そう思うと、とても怖くなってしまう。

 

……だが、この霞龍にとって、そんな俺の不安など、もはや知ったこっちゃないという感じらしかった。

 

幼さがそのまま残る声音は、知りたくもない『事実』からどうにかして逃避しようとする俺の耳朶に、

一片程の容赦すらないまま、まるで確認するかのようにある疑問を投げかけてきて…、

 

「……どうしてゼクスちゃんは、自分に嘘をついたりしてるの?」

 

その瞬間に、俺の中にあった『常識』は、実にあっけなく壊されてしまった。

 

 

 

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……………………………………………………………………………んん…………?

 

………………あ、れ……? …俺…、また寝ちまってたのか……?

 

……つか、何だ? なんか知らねえけど、瞼がすっげえ重い気がするんだが…。

……いや、眠気とはまた違った意味でな…。

 

…………あと、気のせいなのか、なんだか額のあたりがかなりポカポカしてる、ような……。

 

……? あれ…? この、温かさ…、なんだかものすごく覚えのあるもんに思えちまうんだが……、

………もしかして…、これって…………

 

 

「……………………、あ……?」

「……………………ゼクス?」

 

……ゆっくりと両眼を開いてみると、そこには優しい眼をした赤毛の青年の姿があった。

 

「……っ、ゼクス…!」

 

もはやそうするのが当たり前であると言わんばかりに、すぐ傍にいた火竜は、俺が目を覚ましたことに気づくと、

よく整った顔を綻ばせながら、温度のある両腕で俺の身体を柔く包み込んでくる。

 

「……っ、良かった…。本当に、良かった…」

「……………………。」

 

幸いにして、俺に怪我の後遺症が無かったことを自分のことのように喜んでいる火竜の姿には、

やっぱり相変わらず呆れを感じさせられるが、

それでも、コイツに対する敵愾心や拒絶感なんてもんは、もはや俺の中には存在していなくて、

 

そこまで気づいた時に、俺はようやく思い出す。

 

紫髪の小さな霞龍の見ている前で、ぼろぼろと無様に涙を流してしまったことを。

 

 

ーーーーあの時、彼女によって、自分の中の『常識』を壊されてしまったその瞬間に、

俺は突きつけられた『事実』から自らを守るすべを完全に失ってしまった。

 

その結果、俺に何が起こったか。

 

まず始めに、今まで拒んでいた『温度』が、俺の心の中に一気に入り込み、

そして、その次に、とうに役目を忘れ切っていたはずの涙腺が、

俺の頬に温かいものを伝わせ始めていたという、電竜には全く縁のなかったはずの現象。

 

初めて正面から受け入れることになった優しい温かさは、瞬く間に俺の身体と心に染み渡り、

俺の奥底に隠れていた『感情』を激しく揺さぶって、ついには表に出してしまった。

 

これまでずっと、強く押さえ込んできた願望を、許されないと分かっていながら密かに夢見ていた情景を、

隠しておくことなんてもはや不可能なのだと、そう悟ってしまったと同時に、

 

俺はもう、両眼から流れ落ちる涙を止めることなんて、出来なくなってしまい、

その後は、大粒をぽろぽろと落としながら、ただただずっと泣きじゃくっていた。

 

心にさんざん刻みつけられた傷を一気に洗い流すかのようにいっぱい涙を流し、

これまでずっと溜め込んできたものをいっぺんに吐き出すかのごとく、気が済むまで嗚咽を漏らした俺は、

そうしているうちに疲れてしまって、気がつかない間に眠ってしまったん、だと思う…。

 

 

「……昨日はよく眠れたか?」

「…………まぁ」

 

……瞼の腫れている理由を思い出した俺は、改めて俺を優しく抱きしめていた火竜の方に目を向ける。

 

俺のことを『恋人にしたい』というこの青年は、いつもみたいに俺の頭や背中を優しく撫でさすっていて、

そこから伝わってくる温度が俺の心と身体を暖めてくれることが、なんだか素直に嬉しかった。

 

そいつにもっと傍にいて欲しくて、そいつの服をほんの少しだけ引っ張ってみれば、

火竜もまた、それに応えるように優しく笑いながら、より一層愛おしそうに抱きしめてくれて、

そのことにまた、目の前の赤髪が、俺のことを本気で思ってくれているんだと実感させられる。

 

俺にはもはや、この火竜を自分にとって危険な敵対者だと見なすことなんて出来なくなっていて、

 

その代わりに俺の心を埋めようとしていた感情が、柔和な温度の中でゆっくりと俺にある言葉を紡がせていた。

 

「………………あの、さ……」

「ん、どうした?」

 

……痛みや嘲笑といった冷酷な感情を嫌という程に味わってきたこの口から吐き出される『ソレ』は、

もしかすると、目の前の火竜にとっては、とても拙いモノに思えたかもしれない。

 

それでも、コイツは俺の話を真剣に聞こうと、こちらの顔を見つめながら次の言葉をじっと待っていてくれている。

 

……………ホントに…、良いやつだよな、お前は……。

 

その優しさに、また目頭が熱くなってしまうのををどうにかこらえながら、俺は再びゆっくりと口を開いた。

 

「……俺…、ずっと、嘘吐いてた…」

 

最初に吐き出したのは、あの霞龍の言葉によって、ようやくまともに認識するようになった『事実』。

 

「…………お前にも…、そして、俺自身にも…、俺はずっと……、いっぱい嘘をつき続けてきた……。

…………本当は、お前が、ずっと俺のことを想って行動していたことも、

お前のくれる温かさが、俺を優しく包んでくれていたことだって、ちゃんと分かってたのに……、

……なのに、俺…、お前の気持ちを、ずっと今まで拒み続けていたし、その上お前のことをいいように利用しようともしてた……。

…………誰かに優しくされるのなんて、初めて、だったから…、どう受け止めたらいいか、全然分かんなかったし……、

……受け取ったら受け取ったで、すぐに消えてしまうんじゃないかっていう、そんな、不安もあった……。

……だって…、誰かに…、それも敵対種族の火竜に恋されるなんて…、全然、思ってもみなかったから……」

「……………」

 

ずっと嘘を吐いていたことや自分の本当の気持ちを誰かに言うのは正直未だ怖かったけど、

俺が泣きじゃくっていた時に霞龍が投げかけてくれた『きっと大丈夫』だよという言葉が後押ししてくれたことや、

今目の前で赤髪が柔和な表情を浮かべながら話を聞いてくれていることが、俺を勇気づけてくれていた。

 

「…………ごめんな……。俺、全然素直じゃなくて……、お前のこと、全然考えてなくて……。

………………これからも……、多分、すぐには素直になれねえと思う……。

……それに…、俺は電竜で、お前ら火竜の敵対種族だから……、

俺とお前が一緒にいることで目をつけられるだろうし、あの青電主のような奴に襲われることもあるかもしれない……」

 

だから、俺は言う。

自分自身のために。そして、『電竜である俺を好いている』という眼前の火竜のためにも。

 

「…………それでも……、それでもアンタがいいってんなら…………、…………………………俺は……、お前と……、」

 

 

 

 

 

 

「…………レウスと…、一緒にいてやってもいい…、けど……?」

 

…………………………………………………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………………………………………………

………………………うぅ、やべえ…。なんか、すっげえ顔熱いんだけど……。

こんな告白を誰かにすんのって、結構気力がいるもん、なのか……。全然知らなかった……。

 

…………てか、最後すっげー上から目線になっちまってるし……、こんなのって、告白って言えんのか――――

 

「……今の、本当なのか…?」

「…………え……、うわっ!?」

 

不意にがしっと両肩を掴まれたかと思うと、次の瞬間には火竜の端正な顔が俺の鼻先辺りまで近づいていた。

 

「それって……、ゼクスを恋人にしてもいいってことかっ!? 俺が、ゼクスの傍にずっといてもいいってことか!!??

この俺の巣で一緒に愛を育んでいきたいってことでいいのかっ!!!!????」

「ちょっ…、落ち着けって…」

 

早口で確認をしてくる赤髪の持つ二つの蒼は、心なしかキラキラと輝いて見える。

俺なんかに告白されたぐらいで、どんだけ嬉しがってんだよこいつは…。

 

……だけど、目の前の火竜が…、レウスが、そんな風に思っていてくれている事実を、嬉しくないなんて微塵も思わず、

 

「……………………お前こそ……、俺なんかで、本当にいいのかよ……?」

 

むしろ、好きになってしまったそいつに対して、申し訳ないという思いすら抱いてしまっていた。

 

「……さっきも言ったけど、電竜の俺と恋仲になっちまえば、周りからどういう目で見られるか分かんないだぞ?

それに…、お前ぐらいのイケメンなら、同種の女の一人や二人ぐらい、簡単にモノにできそうな気がするし、

俺みたいな奴にも優しく出来るぐらい、性格も良いと思うし、その上すごく強えーし……、

だから……、同じ火竜と結ばれた方が、お前にとっても良いんじゃ、ねえかって…………」

 

自分から告白しといて何を言ってるんだと呆れられてもおかしくないような言い草。

 

…………今にして思えば、幸せを得ることに対して俺は、この期に及んでまだ恐怖心を抱いてたんだと思う。

 

ここまで来て踏みとどまりそうになる自分自身に、この時初めて苛立ち、

だけど、次にどんな言葉を吐き出せばいいか、それすらも全然分かんないまま思い悩んでいると……、

 

――――ぎゅ。

 

不意に、ぽかぽかとした体温が、俺の身体を優しく包みだす。

 

その上、俺の頭までをも撫で始めたことで、ただでさえ熱く感じていた全身の温度が余計に上がってきたように思え、

この未知の感覚に未だ慣れていなかった俺は思わず、慌ててレウスを自分から引き剥がそうとしていた。

 

「…っ、おい…、ちょっと待てって――」

「……優しいんだな、ゼクスは」

「…………は……?」

 

…………だが、火竜のその一言によって、俺はその行動をいとも呆気なく止めてしまう。

理由は簡単。冷酷で残忍な種族の一員である俺には一生縁の無かったはずのその言葉を投げかけられたことに、

俺にとっては予想外すぎることこの上ない事態に、頭の中が酷く混乱してしまったからだ。

 

「……っ、優しい…?俺が…?なんで…!?だって、俺は電竜で…、

自分以外の全てを容赦なく蹂躙するような、お前ら火竜の敵対種族だぞ!?」

 

それ故に、思わずその疑問を目の前の火竜にぶつけずにはいられなかった俺に対して、

それでもレウスは、相変わらず柔和な笑みを浮かべたまま、優しい声音で答えてくれる。

 

「……ははっ。本当にそんな残忍な性格なら、わざわざ俺に直接そんなことを言う必要もないはずだろう?

俺のことを敵だと思ってるなら尚更、その場ですぐに俺を殺して、原型が無くなるくらいズタズタにしてしまえばいいんだから。」

「……っ、それは――」

 

霞龍にも暴かれ、火竜にも見透かされたその真実に、未だに素直になれない心が、自分が幸せになることを許せない心情が、

この期に及んでまだ、温かさに抗うかのように必死に否定の言葉を探そうとする。だが……、

 

「俺は、ゼクスを優しい奴だと思ってる。さっき言ってくれたよな、『同じ火竜と結ばれた方が、お前にとってもいい』って。

それ聞いたときにな、ゼクスは不器用ながらも俺の幸せを考えてくれてるんだなって、そう思ってさ。」

「……………………」

「…………だからこそ俺は、ゼクスと一緒にいたい。他の誰でもない、お前と一緒に。

お前のことすごく好きだし、お前のこと好きになって本当に良かったって思ってる。だから、」

 

火竜の余りにも優しすぎる言葉が、俺の身体を包み込む柔らかな温度が、一切の嘘偽りも存在しない純粋な好意が、

霞龍に説得されても尚俺の中に最後までしぶとく残っていたそんな心をも跡形もなく取り除いてしまい……、

 

 

「……今の俺にはもう、お前を手放すことなんて、これっぽっちも出来やしない…」

「……レウス…」

 

…………ああ…、やっぱり俺は……、コイツと…、レウスと、一緒にいたいんだ……………。

 

「…っ、ひぐっ…」

「……!? どうした、ゼクス? もしかして俺、何か嫌なこと言ってしまったか?」

「……っ、ちがう…、違う…」

 

改めてそう思ったその瞬間に涙が溢れ出し、泣きじゃくり始めた俺。

レウスは割と慌てていたけど、しょっぱさのあるこの粒は辛いとか苦しいなどといった負の感情から来るもんじゃなかった。

 

「……っ、嬉しいんだよ…。…っ、誰かに、そういうこと言われたの…、初めてだから……」

 

……すっかりぽかぽかになったこの心はもう、目の前の火竜から与えられる温度を拒むことなんて出来ない。

 

情けなくぼろぼろと涙をこぼす俺を見ても、怒ったり呆れたりせずに、ただ黙って俺の感情を受け止めてくれている火竜の両腕に、

ひいてはこいつの傍に居心地の良さを俺自身が感じていることこそ、そのことを認めざるを得ない最大の証左なんだと思う。

 

これが俺の本当の気持ちなんだって理解できたからこそ、俺は、レウスに最も届けたい言葉を拙いながらも嗚咽の中で紡いでいく。

 

「…………っ、好きだよ…、俺も……。……俺も…、レウスのこと、すげえ好き…………」

「…ゼクス……!」

 

すると、赤髪の喜びの音吐が、俺の耳朶を強く叩き、それと同時に、温度のある両腕がより一層強く俺の身体を包み込む。

 

……まぁ、正直言うとこいつの腕の締め付け具合がちょっとだけ苦しかったが、それ以上に温かさや愛おしさを感じることができたから、この時だけは何にも言わないでやることにした。

 

…………全然素直になれなかったせいでだいぶ時間は掛かってしまったけど、

自分自身が目の前の火竜と同じ「好き」という気持ちを抱いていたことにようやく気づくことのできた俺は、

 

 

頬を紅くして表情を綻ばせるレウスの整った唇に、初めてのキスをゆっくりと落とした。

 

 

-5ページ-

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――なんてこともあったよな、ゼクス?」

「………………」

 

一つのベッドの上で、ムカつくほど明るい声でベラベラと思い出を語る火竜と、そいつに対してそっぽを向いている電竜。

 

「おいおい、何でこっち向いてくれないんだ? ……もしかして、今の話恥ずかしかったか?」

「………………うっせーバカ」

 

寝床を共有する赤髪の恋人に悪態を吐きつつも、その声に嫌悪の色なんて微塵もないことは自分自身が一番よく分かっていて、

 

だけど、正直に認めてしまうのはなんだか癪だと思った電竜は、どうにか言葉で反抗しようとするが、

電竜のことをとても愛おしいと思っている火竜にはやはり余りにも効果が無さすぎた。

 

 

「…ははっ、そんなゼクスもすごく可愛いな」

「…………っ、可愛いとかゆーな……」

 

 

――――あれから、二年の時が過ぎた。

 

俺が恐れていたのに反して、青電主のようなこの火竜と電竜の関係を忌まわしく連中が俺達二人に襲いかかってくるなどということはほぼ無く、

これまでの自分の境遇を考えれば酷く拍子抜けしてしまうほどに平穏無事な日々を送っている。

 

 

「それにしても、あの時のゼクスからもらったキス、すっごく嬉しかったなぁ……」

「そ、その話は止めろっつってんだろうが…」

 

 

恥ずかしげもなく真っ直ぐに俺に愛を注ぐこの赤髪の力は、どうやら俺が思ってる以上に強大なモノらしい。

 

庇護者に恵まれるチャンスなど限りなく皆無に等しい種である電竜に生まれた俺にとって、

本来ならばこの火竜に守られるということは完全に手の届かないものであるはずであり、、

他の電竜から見ても塵にも等しい程の極稀な幸運を見事に引き当てることが出来たと言っても恐らく過言では無いと思う。

 

でも、俺の最高の幸せはそれだけで成り立つもんじゃなかった。

 

 

「ははっ、そういうとこも俺は好きだぞ、ゼクス。」

「むぅ…、だから髪わしゃわしゃすんなって…」

 

 

お互いが、お互いのことを好きであること、

 

その事実こそが、今の俺にとっては一番大事だった。

 

2年もの月日が流れても尚、レウスの俺への愛は冷めないどころか、まだまだ高まりつつあるようで、

よくもまぁ、ひとりの電竜なんかにそこまで愛を注ぐ気になれるよなって呆れてしまうが、

そう思う俺にしたって、こいつへの好意をここまでずっと持ち続けてるわけだから、この辺に関してはあんまりひとのことは言えないよな……。

 

…………まぁ、それを赤髪の恋人に伝えるのはやっぱりすげえ小っ恥ずかしいから、直接は言ってやんねーけどさ。

 

 

「――さて、そろそろ寝なくちゃな。ゼクスも明日ジンに稽古つけてもらいに行くんだろう?」

「…あぁ、そうだな。」

 

 

――――とても優しくてすごく温かい、かけがえのない俺だけの居場所。

 

俺にとって一番遠かったはずの存在が、俺のすぐ傍に在って、俺を柔らかく包んでくれることが直に感じられて、そのことが何よりも俺を安心させてくれる。、

だからこそ、穏やかな眠気とレウスの言葉に促されるように布団の中に潜り込んだ後、俺は愛しい恋人の頬に一つだけキスを落とす。

 

 

「……おやすみ、レウス。」

そう言ってから、あっという間に眠りに落ちていく間に、俺の良く知る温度が頭の上に落ちてきたような、そんな感じがした。

 

 

2年前のあの日、森丘の火竜の恋人になることを選んだ俺は、今、とても幸せに生きている。

 

【完】

 

 

-6ページ-

 

【巻末付録】擬人化レウライのプロフィール

 

〇擬人化ライゼクス

通称:ゼクス

性別:♂

年齢:18歳(物語終了時点)

種族:電竜

好きなもの:ランポスの肉、モフモフしたもの、レウス

概要:かつては沼地に住んでいた若い電竜。

ポニーテールにまとめても尚腰まで届くほど長い黒髪と血のように紅い眼が特徴。

長い間虐められていた故にかなりひねくれているが、

本来は好奇心旺盛で、目新しいものを見るとついつい興奮してしまうことも。

また、周囲には隠しているが、アイルーの毛などのモフモフしたものが好き。

 

〇擬人化リオレウス

通称:レウス

性別:♂

年齢:22歳(物語終了時点)

種族:火竜

好きなもの:ゼクス

概要:まだ若い雄竜でありながら、広大な森丘の全土を支配している青年。

セミロングの赤い髪に、大空を映しだしたような蒼い瞳が特徴的。

恋人のゼクスや友人達には柔和かつ友好的に接するものの、

一度敵視した相手(ゼクスを襲った青電主など)には一片すらも容赦がない。

砂漠に血の繋がった姉がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
リオレウス×ライゼクスの馴れ初め最終話。
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タグ
ボーイズラブ リオレウス ライゼクス 擬人化 

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