真・恋姫†無双 金属の歯車 第十話
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「ねえ、天の御遣い・・・」

「なんだ?」

「この服装・・・どうにかならない?」

 賈駆の指摘はあちらの世界で、俗に言うメイド服だ。

前に朱里と雛里にあちらの世界の服を聞かれたときにおぼろげな記憶で描いたのがこれだった。

当人たちは大層お気に入りだったが、緊急ということで彼女たちの手に渡ることになった。

「その前に名前だ。今さっきもついつい口から出かけた」

「北郷様・・・真名はどうでしょうか?」

「さりげに流すんじゃないわよ!」

 劉備軍の天幕まで距離があった。それまで二言三言会話を交わしていた。

夜明けと共に馬騰軍、劉備軍は行軍し、一番に洛陽に入る予定だ。

「私の世界では真名の習慣がなかったが・・・特別な名前なのだろ?」

「きっと・・・北郷様にお会いするのが天命だったのです。私の真名は月です」

 どうも視線を合わせづらく頭をぽんぽんと撫でてしまう。

丁度良い高さにあるのが悪い。

「ゆ、月。こんな女みたいなのが天命なの?」

「はぁ・・・慣れたよ。髪切ろうかな」

 彼も髪を伸ばしているのが仇なのだろう。

願掛けの意味もあったが、性別を間違われる屈辱よりかは幾分いい。

「・・・私の真名は詠よ。せいぜい守ってちょうだい。天の御遣い」

「北郷一刀だ。一刀と呼べ。間違ってもご主人様とか呼ぶなよ」

 もうこりごりだった。今まで人の上に立ったことが無い人間なので主なんて呼ばれると、居心地が悪い。

「で・・・服装」

「しかし二人は強いな・・・私は付けられた名前が馴染まなかった」

 詠の言葉を華麗に受け流し、夜明けの空を見上げる。

「付けられた・・・名前?」

「私は孤児だったのでな・・・名前がなかったんだよ。加えてそれ以前は全く違う名前で呼ばれていたんだ。誰かに呼びかけられても自分と気付かなかったんだ」

「お辛い経験をされているんですね・・・」

「あんた・・・いい加減私の話を聞きなさいよ!」

「服については私に聞いてもどうにもならんぞ」

 

 第十話 一時休息 〜Moment Peace〜

 

 その後は随分と急ぎだった。洛陽入りしたとはいえ爆弾を抱えている身。 

マグナと名乗ったあちらの世界の尖兵も気になり、あちこちを調べてみるが手がかりはなく。

董卓は死んだとの噂を流すも、袁紹と袁術は月の首が上げる事に興味はなくただ皇帝がいる洛陽が欲しいだけであった。

董卓と近かった馬騰軍に嫌疑の目をかけられることもなく、両軍と孫策軍は撤収した。

得る物は少なく、また失った命は多く・・・。

そして蒼天は確実に黒く濁っていく。

それは何かの別の意志によるものだと知るのは、この世界に数えられるほどしかいなかった。

 

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「徐州の州牧とは・・・出世したな、桃香」

 幽州に戻って一ヶ月後、洛陽からの使者はこう言った。

いわば太守の様な物と雛里は言ったが大出世に近いものがあった。

「うん、けど・・・」

「せっかく、がんばって内政したのにね・・・」

 せっかくの船出だが、後髪引かれるものは多いらしい。

桃香と雛里の気持ちもわからないでもない。

「全くだな。なじみの店ができたというのに」

「しかしこれは大きな前進・・・すぐに移りましょう」

「そうだ、これまで培ってきた経験、知識、人材・・・それらを次に活かすことを考えよう」

 

以上回想終了・・・。

 

「と言う感じでがんばると決めたはずだぞ。桃香」

「ううう、申し訳ないです」

 目の前の太守様は、目の前の書類の山に怯えすっかりへたり込んでしまっていた。

仕事の量が半端無かった。先ほど朱里からの報告を聞いてこの調子だ。

朱里の報告だと幽州とは違い鉄や銅などの金属も産出されるのだ。雛里は交通の便も良く商業も盛んということを教えてくれた。

それだけ豊かということを報告してくれた。

「助けてよぉ、愛紗ちゃん」

「助けてます」

「やれやれ」

 幽州の県令を始めた時期と同じ光景が今目の前で起こっていた。

桃香がめげて、愛紗が助け、星が笑う。

鈴々の鍛錬の声が聞こえ、朱里と雛里の相談する声が聞こえる。

違うところとすれば、月と詠がお茶を持ってきてくれることか?

「はい、ご主人様」

 と、月から差し出されたお茶をずずっと一杯飲む。

「待て、あまりにも自然で油断していたが、その呼び方は止めなさい」

「私はやっぱりお仕えしている身分なので・・・」

「良いじゃない、ご主人様」

「そうですよ、ご主人様」

「そろそろあきらめてはどうですかな、主?」

「泣いてやる・・・」

 そういって職務を終わらせるのである。

大げさに竹間を鳴らし、職務を終わらせたことを強調する。

「あー、ご主人様早いよー。うー、場所が変わっただけでこんなに忙しいなんて」

「国とは人の集まりであり、場所は関係ない」

「そんな良いこと言われても・・・」

 すっかり凹んでしまい突っ伏した桃香の頭を撫でて政務室を後にする。

いろいろ記号がでているだろう。

「あれ、ご主人様?お出かけ?」

「たまに気分転換でもしなければ仕事の効率が下がるぞ」

 

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「たまには息抜きが必要ってご主人様が言ってたけど・・・その通りだね」

 桃香と愛紗は街に繰り出していた。

ずっと政務室に閉じこもっていた二人は大きく伸びをし、外の空気を満喫する。

「そうですね。それに朱里と雛里にも感謝しなくてはなりませんね」

 朱里と雛里は、多分太守である桃香より多忙だろう。新しい土地で仕事も多い。しかし先ほどの一刀の助言もあり休息をもらったのだ。

「それにしてもご主人様は私たちの知らないことをよく知ってるよね」

「そうですね。薬や衛生だけでなく、その他の知識も豊富です。本当に天の国から来たのですよ、きっと」

 そう呟き、桃香を見た時だった。顔を隠した人間がこちらに走ってきている。手には何か光る物・・・。

「桃香様!下がって」

 桃香は小さな叫び声を上げ、愛紗は手を伸ばす。暗殺者と思われる手には小刀だ。

しかし小刀は桃香に届く前に一人の男の手によって止められる。

「ご主人様!?」

 暗殺者と思われる人間は彼の手を振り払い、目標を彼に変える。

「愛紗、用心しろ」

 再び小刀の突き。左目を狙った一撃を最低限の動作でかわす。

彼は得物である刀を抜こうとはしない。

「私に目標を変えたと言うことはもっといるぞ」

 その言葉と共に暗殺者の顎に右手の裏拳が入る。

ひるんだ隙にもう一撃。暗殺者が距離を取ろうとするが右の脇腹に一刀の拳が入っていた。

無表情。一刀の顔はまさにそれだった。左手を前に構え、暗殺者と対峙する。

再び暗殺者が突きが飛ぶ。それを一撃一撃丁寧に、最低限の動作でかわし手で逸らす。

そして肩を狙った一撃を掴み、相手の肘を掴む。そうすると相手の一撃が好きな場所に逸らすことが出来る。その場所は相手の左肩だ。

小刀は深く刺さり、一人では抜けなくなる。暗殺者は右手一本で戦うことを強制させられた。

その驚きの隙に、一刀は相手の顎を掴み、右足を払って頭から地面にたたき落とした。首がやや自由になっていたことで意識を保つことが出来ずに暗殺者が気絶する。

「愛紗、手は空いてるか?」

 そう呼びかけるが後ろで愛紗が苦戦しているようだ。

武神も得物がないと苦戦するのかと後ろを振り返ると、二対一の戦いになっていた。

不味いことに、一人は桃香を狙っている。

彼我の距離は遠くなかった。手にしていた小刀を蹴り上げ、突かれた左の拳を掴み、逆の手を脇の下に入れる。そのまま相手の力を利用して豪快に投げる。方向は桃香とは逆の方向に。

独特の投げ方は左腕を脱臼を発生させ、先ほどと同じ構図ができあがる。

暗殺者は小刀を取り出し突きを浴びせるが、持っている腕は吸い付くように一刀の手に掴まれ、手頃な壁に叩きつけられる。

壁に叩きつけられたとなると、この世の理通り体は前に倒れる。その無防備の状態を一刀は見逃さず、手頃な高さに落ちてきた頭を掴み、膝蹴りを喰らわせた。

安心もつかの間だ。後ろから風を切る声が聞こえ、体をずらす。

彼がいた場所が剣で切られ、剣は空気を切る。彼は体をずらした際に回転をかけ、裏拳を姿を確認していない暗殺者に叩きつける。

どうやら三人目は結構腕に覚えがあるようだ。

右上から左下に一凪、そこから足を払うように一凪を避け、次の一撃が困難であることを察知すると、その手を返せないように押さえつけ、顎を蹴り上げる。

暗殺者も顎を蹴られ宙に浮かぶ体験は初めてだろう。大の字で地面に叩きつけられるが、すぐに右手に激痛が走る。自分の得物が右手に刺されているのだ。その剣の先には無表情の一刀。

「・・・残念だったな、私がいて」

 

 * *

 

「ご、ご主人様・・・」

「何だ?」

座り込んでしまった桃香は一刀に話しかけるが、彼は何事もなかったかのようにいつもの調子になっていた。

暗殺者は気絶させた以外は自害したようだ。気絶した物から何らかの情報が聞ければいいだろう。

「無事ですか?桃香様、ご主人様!?」

「それはこちらの台詞だ。苦戦していたようだが・・・」

 いつもの羽織りは何処も破れていなかった。ただ袖のあたりが血で汚れている。

「ご主人様が・・・お一人で三人も?」

「前に言ったはずだ、自分の身くらい守れると」

 呆れ笑いのような顔を愛紗に見せ、桃香の手を取る。

「やれやれ、誰のちょっかいだと思ったが・・・こちらの世界のものらしいな」

「こちらの世界?」

「・・・こっちの話だ」

 彼はそう小さく笑って羽織を脱ぎ左手にかける。

「城に戻る。桃香達も今日は出歩くな」

 そういって城に一人歩いていく。

その後ろ姿に愛紗は疑念の目を向けていた。

 

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「ご主人様」

 朝議が終わろうとするときだった。愛紗の凛々しい声が全体に響き渡る。

「どうした?私の朝の弱さをどうにかしたいのか?それは残念ながら・・・」

「違います!」

 いつもの戯れ言で返そうとしたが、帰ってきたのはいつもと違う声だった。

「ご主人様は一体何者なのですか」

 その言葉に眠気眼だった一刀は完全に覚醒する。

「私はご主人様を信用しています。

しかし反董卓連合の時も、この前の桃香様の暗殺未遂の時も、何か隠していらっしゃった。私たちと初めて会ったときも・・・何かの目的があると仰っていました」

 そろそろ愛紗をなだめようと左右の桃香と鈴々が動こうと思っているそのときだった。

「申し上げます!」

「何だ!重要な話の途中だ!」

「ただいま城門に、公孫賛殿が・・・」

「伯桂殿が?」

 途端に星の顔が驚いた物に変わる。

「多数の兵を引き連れ、劉備様に保護を求めていらっしゃるのです」

「ほ、保護?」

「なにかあったってことかなー?」

「・・・ここに通してくれ」

「はっ」

 しばらくして、先導の後に続いて白蓮が入ってくるが鎧は煤に血で染まっている。

「すまん。いきなり転がり込んできて・・・」

「・・・袁紹か?」

 一刀の一言に白蓮が頷く。

その動作をみて彼は苦い顔を浮かべる。

「・・・すまん、私の失態だ。袁紹が兵をやたらと動かしている情報を掴んでいたんだが・・・」

「私が甘かったんだ。仮に北郷が気付いて、何かしたとしても手遅れだっただろうしな」

 相も変わらず人の良さそうな笑みを浮かべる。

「しかしこれで雌雄は袁紹と曹操に分かたれたということですか」

「・・・とりあえず白蓮が無事だったことを良かったとしよう。とりあえず今はゆっくり休んでくれ」

 彼はそういって兵に指示を出し彼女を見送った後、朱里と雛里に駆け寄る。

「ご主人様!話は・・・」

「愛紗、それは時が来たら言う。今は私の話を聞いてくれ」

 いつになく真剣な目も愛紗は凄んでしまう。

「私たちもうかうかしていられない。白蓮に起こったことは何時私たちに降りかかるかわからない・・・それを学んだ。だから動こう」

 そういって一刀は朱里と雛里に合図し、円卓の上に地図を広げる。

「実は袁紹の動きと同時に袁術の動きも怪しいんだ。距離は徐州から遠いが・・・準備するに越したことはない。今から緊急の軍議を行う」

 全員を視界に入れる。皆その言葉に賛同しているようだが、愛紗だけが怪訝そうな顔だった。

「愛紗」

「は、はい」

「私はこの国が好きだ。別に豊かだからとかそういうのではない。みんなと共にこの国を作っている。だから好きなんだ。その想いは本物だと誓う・・・だから、何れ話す」

 

・・・済まない。

 

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おまけ

鈴々「見て、愛紗、桃香お姉ちゃん。茸だよ!」

桃香「ホントだ。大きいねぇ」

愛紗「そ、そんなものどこで取ってきたのだ?明らかに毒々しいぞ」

一刀「で、味は?」

姉妹「・・・」

一刀「・・・くそ、結局変わらないのかよ!」

 

説明
・真・恋姫†無双をベースにとある作品の設定を使用しています。クロスオーバーが苦手な方には本当におすすめできない。
・俺の◯GSを汚すんじゃねぇって方もリアルにお勧めできない。
・ちなみにその設定は話の本筋にはあんまり関係ありません。
・ならその設定を使うなよ。
・オリジナル主人公は三人いますが、蜀ルートが元になっています。
・オリジナル主人公はそれなりに厨性能です。
・っていうかこの作品自体厨作品です
・過度な期待どころか、普通の期待もしないでください。二次創作を書くのは初めてです。

執筆について。
・書き溜めをしています。第十七話+拠点フェイズ二話まで完成しています。そこから一話書き終えるごとに一話投稿します。
・ただし執筆スピードが尋常じゃなく遅いのでねばり強い忍耐が必要です。
・要するに何も変わらないって事です。
・ふと思いましたが皆さん一刀くんと玲二は幾つだと思いますか?
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コメント
>jackryさん。光る茸を食べたらバッテリーが回復します。>キラさん。伏線を張りますが回収を忘れる危険あり。>ブックマンさん、だが普通。 (しがない書き手)
白蓮ベストなタイミングで出てきたな。(ブックマン)
この一刀は秘密が多そうですね(キラ・リョウ)
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