英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜
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2月5日―――

 

〜エリンの里・ロゼのアトリエ〜

 

「ん………」

黒の工房の本拠地襲撃作戦から二日後、ベッドで眠っていたセドリックは目を覚ました。

「ここは………?そうか………ここはエマさん達の故郷……あの後、兄上達と共にエマさんの故郷に戻って……その後僕は疲れで意識を……」

目を覚ましたセドリックは周囲を見回し、自分が目覚める前の出来事を思い返した。

「……目を覚ましたようだな、セドリック。」

その時セドリックが眠っているベッドの傍で読書をしていたクルトが読んでいた本を懐にしまって、セドリックに話しかけた。

「クルト……僕達がここに来て、あれからどのくらい経っているんだ?」

「二日だ。」

「ええっ!?それじゃあ丸一日、僕は眠っていたのかい!?」

クルトの話を聞いて自分が丸一日眠っていた事にセドリックは驚きの声を上げた。

 

「ああ……だが、無理もない。ここに来るまでのセドリックの状況を考えると、むしろ丸一日程度で済んだ事の方が”奇蹟”のようなものだろう。ただでさえ、セドリックは内戦での件で衰弱して入院していたのに、今ではそんな様子は見られないのだからな。………もしかしてセドリックの急激な回復は”黄昏”の件が関係しているのか?」

「うん………それよりもクルト、兄上や他の皆さんは今どこに――――――」

複雑そうな表情で確認してきたクルトの推測にセドリックが静かな表情で頷いて話を変えようとしたその時、扉が開き、オリヴァルト皇子、ミュラー、アルフィン、オリエが部屋に入ってきた。

「セドリック………よかった…………目を覚まして……!里に着いた後すぐに倒れたという話を聞いた時は本当に心配したわ……」

「アルフィン………アハハ、内戦に続いてまた心配をかけてしまったね……兄上も今回の件といい、何度も僕の為に迷惑をかけてしまってすみません。」

安堵の表情のアルフィンに話しかけられたセドリックは苦笑した後オリヴァルト皇子に話しかけ

「ふっ、他ならぬ可愛い弟の為なのだから、別に迷惑でもないさ。それに弟は兄に迷惑をかけて当然なんだから、君が気にする必要はないよ。」

「そうだな……普段人に迷惑をかけまくっている貴様の場合はむしろ、皇太子殿下に限らず、多くの人々の為に労力を割くのは当然だな。」

セドリックの言葉に対して静かな笑みを浮かべて答えたオリヴァルト皇子にミュラーは指摘した。

 

「ミュラー君、ヒドイ!こういう時はお世辞でもいいから、『普段から行いがいいオリビエがそこまでする必要はない』くらいは言ってもバチが当たらないんじゃないかい?」

「何故お前の為にわざわざお世話を言ってやる必要がある。――――――というか、そもそも”空の女神”自身に会った事もあるお前ならば、”空の女神”もそうだが”空の女神”の血族であるエステル君の場合だと、その”罰”を与える可能性がある事がわからないのか?」

「………あ〜………確かにエステル君は当然として、どことなくエステル君に似ていたエイドス様の性格を考えると本当にありえそうだよね………」

(一体どんな性格をされている”女神”なんだ、”空の女神”は……?)

ミュラーの指摘に対してふざけたオリヴァルト皇子だったが、ミュラーの更なる指摘でエイドスやエステルを思い浮かべた後冷や汗をかいて疲れた表情で溜息を吐き、二人の会話を聞いたクルトは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。

「フフ…………――――――御挨拶が遅れて申し訳ございません。お久しぶりです、皇太子殿下。内戦勃発から様々な辛いご経験をされたようですが、こうして無事にお戻りになられて本当によかったです。」

ミュラーとオリヴァルト皇子のやり取りを微笑ましそうに見ていたオリエはセドリックに会釈をし

「オリエさん………いえ、これも僕の未熟さとオズボーン宰相を盲目的に信じていた愚かさが招いた事ですから。――――――例えばこの髪のように。」

会釈されたセドリックは謙遜した様子で答えた後白髪のままになっている自分の髪に視線を向けた。

 

「あ………」

「セドリック………」

セドリックの話を聞いたアルフィンは呆けた表情で声を出した後クルトと共に辛そうな表情でセドリックの髪に視線を向け

「その…………Z組の皆さんやリィンさんは今どちらに?内戦の件も含めて、助けてもらったお礼を改めて言っておきたいんです。」

「……すぐに呼んでくるよ。」

重くなりかけた空気を変える為に提案したセドリックの提案を聞いたオリヴァルト皇子は静かな表情で答えた。

 

その後セドリックはローゼリア達”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”が用意した装束に着替えて、皆が待っている広間に姿を現した。

 

 

「へえ?随分と印象が変わったわね。」

「……とてもお似合いです、殿下。」

セドリックが纏っている黒を基調とした装束を見たレンは興味ありげな表情を浮かべ、ユーシスは口元に笑みを浮かべて賛辞の言葉を述べた。

「里の者達が用意した装束じゃ。ヌシが着ていた服はボロボロになっておったからの。」

「霊力の暴走をある程度抑える術式を組み込んであります。祖母にセリーヌ、姉さん、そして里に残っている人達みんなが力を込めてくれました。」

「ま、あくまで気休め程度だけど一応身につけておいた方がいいわね。デザインが気に入るかどうかは知らないけど。」

「いえ、申し分ないくらいです。エマさん、セリーヌさん、ローゼリアさん。他の里の方々にも感謝を。」

ローゼリアとエマ、セリーヌの説明を聞いたセドリックは感謝の言葉を述べた。

 

「うむ、苦しゅうない。」

「お、お祖母ちゃん……幾ら何でもその態度は皇太子殿下に対して不敬よ……」

自慢げに胸を張るローゼリアの様子を見たエマは冷や汗をかいて指摘した。

「うーん、似合ってますけど少し狙い過ぎているような気が……」

「ふふ、その髪の色と相まって絶妙にハマっている印象ですね。」

「わたしは好きかな。カッコイイし。」

「フフ、大胆なイメージチェンジですが、とてもお似合いですわ♪」

一方セドリックを改めて見たエリオットとアリサは苦笑し、フィーとミュゼはセドリックの姿を誉め

「うーん……微妙にこじらせているような印象もあるような気が。」

「ふふ、まあ殿下ならば十二分に着こなせるだろう。」

「ああ、そもそも服など着こなし方が全てだからな。」

「さらっと言いやがるな……ま、同感だけどよ。」

困った表情で呟いたマキアスの言葉に指摘したラウラとユーシスの指摘を聞いたアッシュは苦笑しながらセドリックを見つめた。

 

「アハハ……」

「いや、本当に似合っているぞ?」

「ああ、動きやすそうだし、かなり丈夫な素材のようだ。」

「新たな旅立ちの一着としては最適なんだと思いますよ?」

「ええ……皇太子殿下は”紅”のイメージもありますから、新鮮な殿下を見ている気分です。」

恥ずかしそうに笑っているセドリックにクルトは指摘し、クルトの指摘にガイウスとサラ、リィンはそれぞれ頷き

「フッ、アルノール皇家と言えば”紅”の服が基本的だから、まさに新鮮な”帝国の至宝”を見ている気分だね♪」

「ああ。それに前までは気弱なイメージだったが、随分たくましくなっているイメージにも見えるしな。」

「もう、二人とも皇太子殿下に対して失礼だよ……」

静かな笑みを浮かべているアンゼリカとクロウの感想を聞いたトワは呆れた表情で指摘した。

 

「皆さん…………改めて、内戦に続いて今回の件でも僕を助けてくれてありがとうございます。特にリィンさんには夏至祭と内戦の件もありますから、アルフィン共々姉弟揃って本当にお世話になってしまいましたね……」

「……勿体ないお言葉。ですが、今の自分はアリサ達と違って殿下に礼を言われるような”立場”ではございません。――――――いえ、むしろオズボーン宰相のように御身の信頼を裏切ったようなものかと。」

「シュバルツァー…………」

「……………」

セドリックはその場にいる全員に対して感謝の言葉を述べた後リィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは謙遜した様子で答えた後覚悟を決めた表情を浮かべ、リィンの様子を見たデュバリィとプリネは複雑そうな表情で見守っていた。

「アルフィンもそうですが、エレボニアの為にリィンさんにセレーネさん、そしてエリスさんがメンフィル軍に所属した件でしたら、僕は気にしていませんよ。」

「え…………ど、どうしてセドリックがその事を……」

「―――”真なる生贄”にされた事で幽閉されている間霊脈の”記憶”で識(し)ったのでしょう?――――――黒の工房の本拠地での合流時に語った幼いリィンがユミルの雪山に捨てられる経緯の件のように。」

「……はい。」

「それは………」

幽閉されていたセドリックが自分やリィン達の件を知っている事に困惑しているアルフィンにセリーヌがセドリックに確認し、セリーヌの確認にセドリックが頷いた後ガイウスは真剣な表情を浮かべた。

 

「そういえば……セレーネやエリゼさん達は見当たらないけど、どうしてかしら?」

「それにクロスベルの連中――――――”特務支援課”だったか?連中も見かけねぇのも気になっていたな。」

その時ある事が気になっていたアリサとアッシュはリィンに訊ねた。

「セレーネ達には先にレヴォリューションに戻ってもらっている。元々皇太子殿下が目覚めるか3日経っても目覚めなかった場合、エリン(ここ)を発つ予定になっていたからな。それとロイド達は昨日の朝にメンフィルが用意した別の飛行艇でクロスベルに帰還している。」

「という事はお前達は、すぐにここを発つつもりなのか……」

「ったく、あんたの話通りならまだ二日もここに留まれたって話なのに、皇太子殿下が目覚めた途端さっさと去るとか、そんなに今の状況であたし達と話すのを嫌なのかしら?皇太子殿下が目覚めるまでの間も”軍務があるという理由”を盾にしてレヴォリューションに引きこもって、明らかにあたし達との接触を避けるような事をしていたようだし。」

リィンの答えを聞いたユーシスは重々しい様子を纏って呟き、サラは厳しい表情でリィンに指摘し

「別にサラ教官達を意図的に避ける為にレヴォリューションに滞在し続けていた訳でもなく、本当に軍務があって昨日は忙しくてこの里に出るような時間も取れなかったんですが……」

「その件についてはリィンさんは嘘等はついていません。リィンさんは”灰獅子隊”――――――メンフィル軍の遊撃隊の”軍団長”ですから、当然連合の”本陣”の上層部達との通信映像によるブリーフィングに参加しなければならなかった上、そのブリーフィングの内容で”灰獅子隊”はどう動くべきか等を”灰獅子隊”内の部隊長クラスを交えての話し合いのブリーフィングもありましたから、それら全てが終わったのは昨日の夜でしたから、本当にリィンさんは昨日は軍務の関係で多忙だったんです。」

「その証拠に”灰獅子隊”の部隊長クラスである”黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)”出身の人達は当然として、レンやプリネお姉様、それにデュバリィお姉さんも昨日は里に姿を現していないでしょう?」

「ふふっ、勿論そのブリーフィングには新生軍の”総主宰”である私も参加していましたから、当然私も昨日はリィン少将閣下達同様レヴォリューションから外に出るような余裕はありませんでしたわ。」

「言われてみればリィン君に限らず、”黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)”の人達やミュゼ君、それにレン皇女殿下達も昨日はこの里に見かけなかったね。」

サラの指摘に対してリィンが困った表情で答えるとプリネとレン、ミュゼがリィンへのフォローの説明をし、それを聞いたアンゼリカは考え込んでいた。

 

「……もしかしてクルトやオリエさんもそうだけど、アルフィンもリィンさん達に無理を承知で、僕の看病の為にこの里に留まるようにリィンさん達に進言したの?」

「ええ……そしてその話をリィンさんを通して聞いたリウイ陛下がわたくし達を気遣ってくれて、セドリックが目覚めるか目覚めなくても3日間はこの里に滞在する事を許可するという寛大なお心遣いのお陰で、今まで留まっていられたのよ。」

リィン達の話を聞いてある事に気づいたセドリックの質問にアルフィンは静かな表情で答え

「リウイ陛下が………」

「”英雄王”にとっては下っ端―――それも、”敵国出身の協力者”なんていう色々と”訳アリ”な連中の頼みを聞くなんて、何を考えているのかしら?」

「き、君なあ……アルフィン皇女殿下達の事を”下っ端”や”連中”呼ばわりするのはさすがに殿下達に対して不敬なんじゃないか?」

「フム……妾は昨日に顔合わせと挨拶だけはしたが………あくまで妾の私見じゃが、”英雄王”はこの里の書物等が目当てのように見えたの。実際、”レムリック”にある禁書や魔導書等の類を随分とたくさん買いあさっておったしの。」

アルフィンの説明を聞いたエマは驚き、セリーヌの疑問を聞いたマキアスが呆れた表情で指摘している中、ローゼリアは考え込んでいた。

 

「ハ………?」

「リ、リウイ陛下が”レムリック”の……?一体何の為に……」

ローゼリアの話を聞いたセリーヌとエマは困惑し

「アハハ……お父様は元々読書が趣味で、特に魔導書や禁書等と言った貴重な書物は目がありませんから、魔法技術が廃れているゼムリア大陸にとっては貴重な魔道の一族であるこの里の書物にも興味を抱いたのだと思います。」

「この里にある書物は全てメンフィル帝国がコピーして、それらを”本国”に持ち帰っている話は知っているのに、パパったらわざわざ自分のポケットマネーを出してまで結構な値段がする”原本”を購入しているのよねぇ。」

「そういえば”影の国”の時も、リウイ陛下は”庭園”にある色んな書物があった本棚のある区画に頻繁に通っていましたよねぇ。」

「ええ……リウイ陛下とリシャール大佐があそこの”常連”のようなものだったわよね。」

「後はアドルの奴もあの二人程じゃないが、あの本棚がある所で熱心に本を読んでいる様子をわりと見かけたな。」

「フッ、好奇心の塊である彼にとってあそこの本棚は魅力的だったのだろうね。」

「まあ、あの本棚には教会で”禁書指定”されていた書物もあったから、一部の者達にとっては魅力的な場所だったのは事実だな。」

苦笑しながら答えたレンとやれやれと言った様子で肩をすくめているレンの話を聞いてある事を思い出したアネラスとシェラザードは懐かしそうな表情を浮かべ、アガットの話を聞いたオリヴァルト皇子は静かな笑みを浮かべ、ミュラーは苦笑し、それらを聞いたアリサ達は冷や汗をかいた。

 

「その話通りなら、もしかして”英雄王”がここの滞在を許したのも”この里にある書物を購入する事が一番の理由”だったんじゃないの?」

「やれやれ、連合の皇帝達は揃いも揃って自由過ぎな連中よね。ヴァイスハイト皇帝はヴァイスハイト皇帝で幾ら自国の領土内とは言え、自分達にとっては”敵国”の関係者であるアタシ達の前に2度も現れたし、ギュランドロス皇帝に至ってはこの里の露店風呂を楽しむどころか、本来なら魔女の眷属(アタシ達)の”試練”の場である”サングラール迷宮”に勝手に入った挙句、単身で攻略したんだから。」

「迷宮への入り方を知る魔女の眷属(わたしたち)の知識もなく、迷宮の設備を”勘”だけで動かして入った話には本当に驚いたわよね……」

「うむ…………まさに”天性”と言ってもいい、”野生の勘”……アレは一種の才能じゃろうな。」

ジト目のフィーの推測を聞いたセリーヌは呆れた表情で呟いた後ジト目になり、エマは戸惑いの表情で呟き、ローゼリアは苦笑しながら答えた。

「そ、それよりも……さっきのレン皇女殿下達の話を聞いた時から気になっていたが……まさかレン皇女殿下達も今後は”灰獅子隊”と共に行動するんですか?」

その時ある事を思い出したマキアスは不安そうな表情でレン達に訊ねた。

 

「ええ。元々”灰獅子隊”には他の部隊も加入させる予定で、その部隊に私を含めた私の親衛隊、そしてデュバリィさん達”鉄機隊”が”灰獅子隊”に所属する”新たな部隊”として加入することになっています。」

「そうか………という事は黒の工房の件は”灰獅子隊”とちゃんと連携を取れるかの”テスト運用”も兼ねていたのだろうね。」

「プリネ皇女殿下の親衛隊という事はレーヴェ殿やセレーネの姉であるルクセンベール卿、そしてエヴリーヌ殿もリィン達に加勢するという事ですか……」

「やれやれ、ただでさえ、圧倒的な戦力差だったのに、そこにレーヴェさん達や”現代の鉄機隊”まで加わるとか、内戦の時とは比べ物にならないくらいの圧倒的な戦力だね、リィン君達は。」

「つーか、その話だとお前もリィンの”下”に着くことになるにも関わらず、よくその話を承諾したよな、”神速”は。」

プリネの説明を聞いたオリヴァルト皇子は静かな表情で答え、ラウラは複雑そうな表情で呟き、アンゼリカは疲れた表情で溜息を吐き、クロウは呆れた表情でデュバリィに指摘した。

 

「フン!私とてかつては結社―――”組織”に所属していた身。メンフィル軍―――”組織に所属する者”として、マスター以外の者を”上司”としてサポートする立場を務める事に抵抗感等はありませんわよ。第一少なくても私がサポートした上司の中でも一番自分勝手だったNo.Tと比べれば、シュバルツァーの方がよほどマシですわ!」

「比較対象がよりにもよってあの”火焔魔人”って……そもそも比較対象にもならないんだと思うんだけど……」

「実際内戦でも自分の判断だけで行動していたようものね、”劫焔”は……」

「ハハ……一応、褒められていると判断しておくよ。」

デュバリィの答えを聞いたその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサはジト目で、サラは呆れた表情で呟き、リィンは苦笑した。

「というかデュバリィお姉さんの場合、メンフィル軍から”灰獅子隊”の件の話が来なくてもエリスお姉さんの件があるから元々”灰獅子隊”への加入を志願するつもりだったと思うのだけど?」

「ぐっ……やかましいですわ!」

からかいの表情を浮かべたレンの指摘に図星を突かれたかのようにデュバリィは一瞬唸り声を上げた後レンを睨んだ。

 

「エリスちゃんの件って……」

「……………そういえばデュバリィ殿はエリスの剣の”師”を務めているという話だったな。」

「なるほどな……彼女の”師”を務めている以上、少なくても”弟子”であるエリス君に自分が教えられる”全て”を教えるまではエリス君と共に行動する”師としての責任感”もあるからこそ、最初から”灰獅子隊”に加入するつもりだったという事か。」

「へえ……結社に所属していた執行者クラスのエージェントとは聞いているけど、今まで会った結社の連中の中ではかなり良心的な性格をしているわね。」

「そもそも、他の連中が色々とイカレた連中揃いってのもあるがな……」

「アハハ……3年前の”リベールの異変”の時の結社の使い手達も、まともな性格をしていたのはレーヴェさんと”幻惑の鈴”くらいだって話ですものね……」

レンの話を聞いたトワは目を丸くし、ラウラはある事を思い出し、ミュラーは静かな表情で推測し、シェラザードは興味ありげな表情でデュバリィを見つめ、アガットは呆れた表情でかつてやりあった結社の関係者達を思い返し、アネラスは苦笑し、それを聞いたアリサ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

 

「フッ、アネラス君もそうだがアガット君もそのユニークな性格揃いの結社の諸君に我が好敵手まで含めるのは間違っていると彼の好敵手たるこの私が指摘させてもらおう!」

「お前が言っても何の説得力もないんだよ、このスチャラカ皇子が。」

「というか執行者達も、あんたにだけは性格云々に関して言われたくないでしょうね。」

「全くもってその通りだな。」

(フウ……リベールでの旅行の話は伺ってはいるけど、こうしてかつてお兄様と共に行動をしていた方々の反応を見る限り、お兄様は皆さんに本当に色々と迷惑をかけていたようね……)

(アハハ……でも、僕は羨ましいな。自分が皇族と知っていても、あんな気安い態度を取る仲間達がたくさんいるんだから。)

髪をかきあげて静かな笑みを浮かべたオリヴァルト皇子の発言にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中、アガットとシェラザードは呆れた表情でオリヴァルト皇子に指摘し、二人の言葉にミュラーは頷き、呆れた表情で溜息を吐いたアルフィンの小声にセドリックは苦笑しながら答えた。

 

「ひ、人が黙って聞いていれば好き勝手な事ばかり……!」

「お、落ち着いてください、デュバリィさん。Z組の方達もそうですけど、シェラザードさん達もかつては結社の関係者達とやり合ったのですから、結社に所属していた今のデュバリィさんの状況に色々と驚いている事で、今のような反応をしているのだと思いますよ?」

一方顔に青筋を立てて身体を震わせているデュバリィを見たプリネは苦笑しながらデュバリィを諫めていた。

「クスクス……ちなみに言い忘れたけど、レンはレヴォリューションの”艦長”を担当する事になっているから、改めてよろしくね♪」

「ええっ!?レ、レン皇女殿下がレヴォリューションの”艦長”を……!?」

「”殲滅天使”を知るわたし達からすれば”一番最悪な人物”が”艦長”になったと言っても過言ではないね。」

「まあ、メンフィル側からすれば”最適な人選”である事は事実でしょうね……」

「うむ…………策謀に戦術に優れているレン皇女は”人を使う立場”としてもそうじゃが、遊撃軍として存在する”灰獅子隊”の”頭脳”としても適しているのじゃろうな。」

「”灰獅子隊”の”軍団長”であるリィンは何故、レヴォリューションの”艦長”じゃないんだ?」

意味ありげな笑みを浮かべて答えたレンの答えに仲間達が血相を変えて驚いている中アリサは驚きの声を上げ、フィーは真剣な表情でレンを見つめ、疲れた表情で呟いたセリーヌの推測にローゼリアは静かな表情で同意し、ガイウスは不思議そうな表情でリィンに訊ねた。

 

「まあ、それに関してはメンフィル軍の上層部達が”適材適所”と言ってもいい配置にしたんだと思う。そもそも俺は後方から指示するより、最前線で仲間達と共に剣を振るって戦う方が性に合っているからな。」

「うふふ、さすが今まで自らが先頭に立って仲間の方々を勝利に導いたリィン少将閣下ですわ。”脳筋”―――いえ、自身も現場に立って生徒達と共に戦う”紫電”殿もその点に関しては誇らしいのでは?」

「誰が”脳筋”ですって!?グランセル城で会った時からアンタの事は気に喰わなかったけど……ちょうどいい機会だし、アンタにもあたしの”教育的指導”をしてあげる必要がありそうね……!」

「お、落ち着いてください、サラ教官!」

「つーか、”脳筋”の件に関しては今までのサラの行動を考えると、否定できねぇんじゃねぇのか?」

「そだね。内戦での作戦立案も全部、トワ会長に任せて、サラは何も考えずただ戦うだけだったね。」

「そもそも今もそうやって”力”で解決しようとしているからこそ、”脳筋”と言われても反論できないのが理解できないのか?」

「さ、三人ともこれ以上油を注ぐような事を言わないでよ……」

リィンの答えを聞いて微笑んだミュゼは意味ありげな笑みを浮かべてサラに視線を向け、ミュゼの発言にアリサ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中サラは怒りの表情で反論してミュゼを睨み、それを見たエマはサラを諫めようとし、ジト目のクロウとフィー、ユーシスの言葉を聞いたトワは疲れた表情で指摘した。

 

「……おい、チビ猫。最初からテメェ自身があの灰色の飛行艇の”艦長”になる事を知っていたから、後に”自分達の邪魔をする存在になる事がわかっている紅き翼(オレたち)”の事を知る為にオレ達と行動していたんじゃねぇのか?」

その時ある事に気づいたアッシュは目を細めてレンを睨んで問いかけ

「へ………」

「い、幾ら何でもさすがにそれは考え過ぎなんじゃないのか?あの時点でリィンが”カレイジャス”クラスの飛行艇の運用を任され程の出世をする事まではさすがに予想できないだろうし……」

「……だけど、メンフィル軍の上層部クラス―――それも”皇族”の一人である”殲滅天使”なら、”灰色の翼”の運用の件もそうだけど”殲滅天使”が”灰色の翼の艦長”を任命される話も予め知らされていた可能性は十分に考えられるわね。」

アッシュの推測を聞いたエリオットは呆け、マキアスは困惑の表情で指摘し、セリーヌは目を細めてレンを睨んだ。

「クスクス、それについてはみんなの”ご想像にお任せするわ♪”―――さてと、色々と話が逸れたけど……念の為にもう一度だけ確認しておくけど、クルトお兄さんとオリエ夫人は引き続きメンフィル軍の客将、義勇兵のままでいいのよね?」

小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化したレンは意味ありげな笑みを浮かべてクルトとオリエに訊ねた。

 

「――――――はい。私達”ヴァンダール”の今回の戦争の役割は”アルノール”の血を絶やさせない為にも、単身でメンフィル軍に協力する事を決められた皇女殿下の御身をお守りする事ですから、この戦争が継続している以上その役目を道半ばで降りると言った”アルノールの懐刀”と呼ばれた”ヴァンダール”の名を汚すような事をするつもりは一切ありません。幸いにも今の皇太子殿下にはミュラーさんもいる上、内戦終結に大きく貢献した”紅き翼”という皇太子殿下にとっても信頼でき、心強い方達がいらっしゃるのですから、この戦争での皇太子殿下の守りはミュラーさん達に任せます。」

「それに元々自分達が殿下達に協力するからこそ、黒の工房に囚われたセドリックの救出協力もそうですが皇帝陛下達の処遇を穏便な内容にするという”約束”もあって自分達は殿下や少将閣下達に協力し、その結果約束通り貴国は”黒の工房”に囚われていたセドリックの救出に貴国の貴重な戦力を割いて頂けたお陰でセドリックを無事に救出できたのですから、その恩に報いる為にも母もそうですが自分もこの戦争の最後までリィン少将閣下達と共に剣を振るう所存です。」

「オリエさん……クルトさん……」

「……………………」

オリエとクルトの答えを聞いたアルフィンとミュラーはそれぞれ複雑そうな表情を浮かべ

「”アルノール家の守護職”の役目を解かれてもなお、エレボニアを――――――世界を今の状況に陥らせた私達愚かなアルノール家の為を思って行動してくれている貴女達の気持ちはとてもありがたいが………ミュラー達と違って直接守護するアルノール家の人物がいなかったオリエさんはともかく、セドリックの守護を担当してくれていたクルトは本当にそれでいいのかい?」

オリヴァルト皇子は静かな表情でクルトに問いかけた。

 

「はい。……それに不謹慎ではあると思われるのですが、この戦争でリィン少将閣下達と共に剣を振るう事で僕自身も今までとは比べ物にならないくらい成長していると自覚しているんです……どのような理由があろうとも、一度はセドリックの――――――皇帝陛下の後を継がれる方の守護を離れた者が再びその立場を手にする為には、周りの者達を納得させる為の”相応の実力”が必要かと思われます。そしてその”相応の実力”をつける為にも、リィン少将閣下達と共に剣を振るいたいのです。」

「クルト………」

「まあ、今のリィンお兄さんの周りには”アルゼイド流”の皆伝者もそうだけど、遥か昔に廃れたはずの”ヴァンダール流槍術”の皆伝者もいるし、リィンお兄さん自身も”八葉一刀流”として相当な使い手の上エリゼお姉さんは”八葉一刀流”の皆伝者、そして他にも相当な使い手揃いと訓練相手に事欠かない上”互いの命を奪い合う本物の戦場”という”経験”を得る事で、クルトお兄さんが”様々な意味”で飛躍的に成長する事は確実でしょうね。」

「つまりは自分自身の武者修行の為にもあえてメンフィル軍に協力するって事ね……ま、貴方の気持ち、あたしもわからなくもないわ。」

「実際、ペテレーネさんと親しいシェラ先輩もペテレーネさんを通じてファーミシルス大将軍閣下を始めとしたメンフィルの上層部クラスに訓練相手を務めてもらった事で実力も上がっていますものねぇ。」

クルトの話を聞いたセドリックは静かな表情でクルトを見つめ、小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの話を聞いたシェラザードとアネラスは苦笑していた。

 

「――――――そういう訳ですまない、セドリック。肝心な時にセドリックを守れなかった所か、今回の戦争ではセドリックとは”別の道”を選んだ事には本当に申し訳ないと思っている。」

「アハハ……僕はそんなに気にしていないよ。僕がオズボーン宰相達によって幽閉の身になった件に関してはクルトに何の落ち度もないし、黒の工房にも助けに来てくれたし、今回の戦争の件にしても君は僕や父上達の為にもリィンさん達と一緒に戦う事にしたんだろう?少なくても僕はその事に対して君に感謝はしても、恨んだりしないよ。」

「セドリック………」

「フフ………」

「……………」

クルトに謝罪されて謙遜した様子で答えたセドリックの様子を見たアルフィンは目を丸くし、その様子をオリエは微笑ましそうに見守り、ミュラーは静かな笑みを浮かべていた。

「―――だけど、僕も兄上達を手伝うと決めた以上、もし君達とぶつかり合う事態になったら全力で挑ませてもらうから、クルトも僕に遠慮して手加減とかをしないでね……!」

「ああ……!」

そしてセドリックの言葉にクルトは力強く頷き

「――――――それじゃあ俺達はこれで失礼させてもらう。」

二人の様子を見て去り時と判断したリィンはアルフィン達と共に退出しようとした。

 

「あ………そ、そうだ!皇太子殿下の件で思い出したけど……リィンはユミルに捨てられる前の事についてはまだ知らなかったよね!?」

「皇太子殿下と合流した際に偶然知った事実なんだが……君がよければ、聞いていかないか?」

「――――――ならば私達もその件が関係するシュバルツァー男爵閣下と宰相殿との”関係”についても語った方がいいだろうね。」

その時ある事を思い出したエリオットとマキアスはリィンを呼び止め、二人の申し出を聞いたオリヴァルト皇子は静かな表情で続きを口にした。

「え…………男爵閣下とオズボーン宰相の”関係”、ですか?」

「それもリィンのシュバルツァー家の養子入りの件も関わっているとなると……まさか、お二人は旧知の仲か何かなのでしょうか?」

オリヴァルト皇子の話を聞いたアリサは呆け、ラウラは真剣な表情で訊ねた。

 

「………お前達も知っているように俺達は”メルカバ”で各国を回る前に内戦や今回の戦争の件での男爵夫妻への謝罪等の為にユミルを訪れて夫妻と面会をしたのだが……その時に男爵閣下は”リィンをシュバルツァー家の養子にした本当の経緯”も語ってくれた。」

「”リィンをシュバルツァー家の養子にした本当の経緯”という事は、男爵閣下が雪山に捨てられていた幼いリィンを偶然見つけたという話も違っていたのですか?」

ミュラーの説明を聞いたユーシスは続きを促した。

「ああ………宰相殿の出身は帝国の北部――――――ユミルの近郊だったらしくてね。宰相殿が13歳の頃に両親を雪崩で失った宰相殿は宰相殿の父君が親しかったシュバルツァー男爵家に引き取られたそうでね。そのシュバルツァー家での生活で、男爵閣下とは兄弟のように育った仲だったそうだ。」

「ええっ!?男爵閣下とオズボーン宰相が!?」

「まさかシュバルツァー男爵とオズボーン宰相にそのような関係があったなんて……」

「……………………」

オリヴァルト皇子が語った驚愕の事実にその場にいる多くの者達が血相を変えている中エマは思わず驚きの声を上げ、プリネは信じられない表情をし、リィンは真剣な表情で黙り込んでいた。

 

「そして宰相殿が17歳でトールズに入学した際に宰相殿はユミルに別れを告げて……卒業後は正規軍入りして目覚ましい働きを見せて昇進し続けた。当然、当時の貴族派にも目をつけられた事で宰相殿もそうだが男爵閣下もお互いの関係を大っぴらにできなくなったそうだが……男爵閣下が爵位を継いでからも宰相殿とユミルの交流は続いていたとの事だ。……”13年前まではね。”」

「”13年前まで”…………――――――まさか!?」

「……もしかして”百日戦役”も関係しているの?」

オリヴァルト皇子の説明を聞いて察しがついたサラは血相を変え、フィーは真剣な表情で訊ねた。

「いや……男爵閣下の話ではそこまではわからなかった。話を続けるが、宰相殿が久しぶりに男爵閣下に連絡を取った際にこう告げたとの事だ。『ある子供を引き取って欲しい。そして私との一切の関係を忘れ、その子にも告げないでもらいたい。』、と。」

「そして宰相の頼みを即座に承諾した男爵閣下は雪の中、宰相が指定した場所へと馬を駆り……そこから先はここにいる皆も知っての流れだ。」

「……なるほどね。貴方達から聞いた”灰色の騎士”の複雑な背景にはあたし達も気になっていたけど……まさか、鉄血宰相とシュバルツァー男爵が旧知の仲で、鉄血宰相に頼まれて彼を引き取っていたとはね。」

「”雪山に捨てられた幼子が凍死したり、魔獣に襲われて死亡する前に領主に拾われるなんて偶然”はあまりにも”出来過ぎている話”だと思っていたが……最初から、シュバルツァーを雪山に捨てる前に示し合わせていたのか。」

「もしかしたらお祖父(じい)ちゃんも男爵閣下からリィン君の事についてある程度聞いていたかもしれませんね……」

オリヴァルト皇子とミュラーの話を聞いたその場にいる多くの者達がそれぞれ驚きのあまり黙り込んでいる中シェラザードとアガットは静かな表情で呟き、アネラスは複雑そうな表情で呟いた。

 

「うふふ、だけどそこでオズボーン宰相にとっての想定外(イレギュラー)――――――”メンフィル帝国の登場”によって、リィン少将を預けたユミルがメンフィルに占領され、そしてメンフィルに帰属した事で様々な想定外(イレギュラー)が発生したという事ね。」

「そうね…………自身にとって大切な子息をそのような回りくどい手を使ってまでシュバルツァー家に引き取らせたオズボーン宰相の真意はわからないけど………少なくてもメンフィル(私達)の登場は、オズボーン宰相にとって様々な想定外(イレギュラー)だった事は事実でしょうね。」

「あ………」

意味ありげな笑みを浮かべて呟いたレンの推測にプリネは静かな表情で頷き、それを聞いたアルフィンが呆けた声を出したその時

「――――――そしてその”想定外(イレギュラー)”を”修正”する為にも皇太子を”真なる贄”にせざるをえなかったという所だろうな。」

リウイの声が聞こえた後、部屋にリウイとギュランドロスが入ってきた――――――

 

 

 

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第89話
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コメント
Kyogo2012様 まあ、実際この頃のアリサ達はまだ子供ですから、わがままを言うのも仕方ないかと(ぇ)(sorano)
次回とその次あたりで、Z組がリウイを怒らせそうな雰囲気があるな。第三の道って一体それになんの効果があるんだかな?それってアリサたちの都合でしょ。結局の所、リィンに帰ってきてもいたいってだけのわがままでしょ。アリサの母親もそういう子供じみたところを知ってるから、あえて突き放している気がするが・・・・・・。(Kyogo2012)
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