竜王復活 |
「マズイ!マズイマズイマズイマズイマズイ……!!!!」
ノーチェが、艶やかな黒髪をみだしふるわせた。
とんでもない失敗をしてしまった。たった一瞬ひらいた回線から、隠していたすべてをSANATにひきぬかれた。喪失した規格外兵装―インペリアルフレイムを持っていることを知られてしまった。
完全にSANATを怒らせた。じきに討伐隊がやってくるだろう。
対抗しようにも、手元の戦力はとぼしい。時代遅れの兵器―バルクアームαやその追加武装がほとんどだった。ルシアとオルフェを罠にはめるために、金を使いすぎたのだ。
「インペリアルフレイムの完全復元はむずかしいが…それでも形にはなる。
問題は私は1人で、敵は大勢ということ。敵100機を焼き払っても、200いたら意味がない。
再びインペリアルフレイムをはなつ前に殺される…!
さらにはオールインジアース!!これはもう、詰んでいるっ!!」
ノーチェはLAへとつながる秘匿回線をひらいた。LAの研究者、ワームが端末に映しだされる。
「これはこれはノーチェくん。先日はすてきな実験サンプルをどうも。」
動揺をきづかれないように呼吸を整えて、あくまで優雅にうつくしく。
ノーチェは、ふるえをおさえるために愛する人を想った。
そう、恐れることはない。むしろ楽しむべきなのだ。この足掻きが成功すれば、騎士ルシアを苦しめることができる。清らかで優しいあの人が、私の邪悪を受け止めてくれる、これ以上の幸せはない。
「…SANATの軍勢が、LAへとむけて進軍している。目標は先日あげた実験サンプルよ。
リトル。いくら薬漬けにしても壊れない、新たなる強化兵士の可能性…。
アグニレイジをうしなったSANATは、LAが新たな力を得ることを恐れている。
とうとう私たちは、あのSANATを追い詰めたのよ。あとはとどめをさしてしまうだけ。
ワーム、私の軍隊を買うつもりはない?」
悪辣非道の魔女が、他人を助けることなどありえない。
ワームは、ノーチェが自分を利用しようとしているのだと察した。しかし彼は、ノーチェの誘いを断らなかった。
「我が親愛なる同士、きみの詐術に乗ろうじゃないか。
私の研究、私の非道をSANATは許さない。だが、きみは許す。
人類のために生き残るべきはどちらか、火を見るよりも明らかだ。」
ワームの背後で、巨躯がうごめく。
巨大な翼がひろがる、四本の脚が大地を踏み鳴らす。聖剣レイブレードの輝きが、大気を青く染めた。
歪な形状へと変異したキメラ型ヘキサギア、レイブレードグライフ。その復元がいま終わったのだった。
***
「バカなことを…!VF軍の侵攻ルートは、完全に我々の基地から外れている!
これはLAに対する軍事行動ではない。経過を観察する必要はあるが、いきなり攻撃するなど!」
LA基地。上層部をまじえた会議で、トロスが声を荒げる。しかし、彼の言葉にうなずくものはいない。
「熱砂の暴君オールインジアース。かの機体が動くとなっては、うってでるしかあるまい。」
上層部の1人が静かに語る。トロス以外のみなが、その言葉にうなずいた。
「…わかっているのか?手を組もうとしているのは、あの武器商人ノーチェだぞ。
LAのガバナーや市民たちが、なんど傷つけられ殺されてきたか。忘れたわけではあるまい!」
「竜撃戦によるアグニレイジの討伐、新たな強化兵士の可能性、ウィンドフォールによる潜入工作。
我々がVFを追い詰めていることは明白だ。人類のため、このチャンスはものにする必要がある。
ここは人類同士、遺恨を忘れて手をとりあうべきだろう。」
武器商人ノーチェとの合同作戦にむけ、みなが準備をはじめた。
この戦いに勝てば、LAは2つの規格外ヘキサギアを有することになる。
兵士たちの瞳は、希望に燃えていた。
「このままではまずい。ノーチェはかならず裏切る。
ジアースやグライフを奪取し、自分のものとする算段をたてているにちがいない。
規格外ヘキサギアがやつの手にわたれば、天変地異にも勝る災厄がおこるぞ!」
「仲間に犠牲はだしたくねえ、なんとかする方法はないのか?」
ブランカに問われて、トロスが腕をくむ。悩んでいるようだった。
「…1つ手はある。だが、この手をとっていいものか。」
トロスが端末をとりだし、みなに見せる。
表示されているのは、紅いひし形の紋章。SANATによる宣戦布告の日、人類へとくばられた連絡用コードだった。起動すれば、SANAT本人とつながることができる。
しばらくの間、沈黙がながれた。これはLAに対する裏切りで、自分の心に刃をむける行いだった。
SANATとの間には、おおくの戦いがあった。おおくの敵を殺し、おおくの友を奪われた。戦争がはじまったころならば、まだ手をとりあえただろう。多くの悲劇がすぎさったいま、その断絶はあまりに深い。
「やるしかあるまい。人々を救い守る。その意志のもとでなら、私はSANATとも手を組む。」
ルシアが沈黙をやぶる。語る言葉は、3人の胸をつらぬいた。
しかし、トロスとブランカも頷き、ルシアの手をとる。3人は拳をあわせ、LAを守ることを誓った。
鶏の騎士コケコ卿、虫混じりの獅子ミルコレオ、ロードインパルス・ロボ、小型犬ヘキサギア・シース。 ヘキサギアたちもまた、互いの決意をたしかめるように吼えた。
***
空飛ぶ顎モーターパニッシャー、万能の雷竜ボルトレックス、猛突の破壊神デモリッションブルート。
VFの機械獣たちが荒野を駆ける。
かなたに相対するのは、ヘテロドックスの白いバルクアームα部隊。
堅牢な装甲と太い四肢をもつ人型ヘキサギア。ICS追加装甲で、その防御力はさらに高まっている。
「突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
SANAT率いるVF部隊と、ノーチェ率いるヘテロドックス部隊。その戦いの幕が切って落とされた。
整列したバルクアームが、膝立ちで大型砲をかまえる。
<百拾式超長距離砲 叢雲(ムラクモ)>。バルクアームほどもある大型火器が、いっせいに発射される。
おおくの第三世代ヘキサギアが、掃射を避けきれずに落ちた。
「いけるぞ!この距離でならば、俺たちが有利だ!」
「弾代は気にしなくていい!落とせば落とすほど報酬が増える、撃ちまくれ!!」
しかし、第二射…第三射…回数をかさねると、状況が変わる。
SANATの加護をうけて、VF部隊のゾアテックスが全開した。射撃データを学習し、動きを修正する。
第三世代ヘキサギアたちが、たくみに砲撃を避けはじめた。かすり傷ひとつしなくなる。
「反撃開始だ、神聖なるVFの戦いをみせてやれ。すべてはSANATのために!」
「SANATのために!」
ボルトレックスの両肩が青く光った。プラズマキャノンが連射され、バルクアームの装甲を焼く。
空をゆくモーターパニッシャーからはセンチネルが飛び降りた。バルクアームのコックピットをこじあけて、グレネードをほうりこむ。
堅牢なバルクアームたちは猛攻に耐えるが、ろくに反撃することができない。
ゾアテックスの機動力に、翻弄されていた。
とつぜん機械獣たちが、なにかにふるえて怯えだした。圧倒的優位をすてて、散り散りに逃げていく。
はるか天上からさしこむ、一筋の赤い光。規格外兵装、インペリアルフレイム。
灼熱の炎が、すべてを飲みこんだ。
赤い竜、アグニレイジに乗ったノーチェが笑う。
「これは現実?それとも夢?なんて、なんてすばらしい!
100を超えるヘキサギアが、たったの一撃で朽ちていく。しかも……ふふっ……。」
バルクアームの通信回線から、悲しみ憎む声が聞こえてくる。ノーチェにはそれが、美しい歌声に聞こえた。
インペリアルフレイムの復元は不完全だった。以前のように、一撃で敵を滅する力はない。
みな、半殺しで焼かれつづけている。
「アグニレイジ、さいっこうに私好みの機体じゃない!」
生き残ったデモリッションブルートが、アグニレイジへと銃口をむけた。ひろったムラクモを装着し、天上のアグニレイジを狙い撃とうとする。
銃撃によって、ムラクモがふきとんだ。
炎の中から、ゆっくりとバルクアームたちが歩いてくる。ICSの赤い輝きが、黒ずんだ装甲を彩る。
ブルートがバルクアームへと突撃した。バルクアームが両腕で角をつかみ、巨躯を受け止める。
半壊した第三世代ヘキサギアたちが、バルクアームによって破壊されていく。
それを阻むように、長い長い尾がふるわれた。
『雇われの戦士たち、命が惜しくば立ち去りなさい。』
SANATの声が響く。
バルクアームやブルートの数倍も大きく、厚い装甲。熱砂の暴君、オールインジアース。
アグニレイジとジアース、2機の竜王がいまむかいあった。
***
戦いがはじまるすこしまえ、うち捨てられた教会にオルフェはいた。
ミラーの義体は修復され、いまは人と変わらない姿をしている。
「旅の人。もしよろしければ、食事でもいかがですか?」
とつぜん声をかけられて、オルフェは驚いた。
廃墟とばかり思っていたが、人が住んでいたらしい。
みると、シスターがオルフェに食事をさしだしている。
オルフェは首をふった。
たとえパラポーンでなかったとしても、受けとらなかっただろうと思った。
SANATを裏切り、SANATに見捨てられた自分には、もうなにも価値はない。
シスターは食事を置くと、教会の掃除をはじめた。
「なぜ、そんなことをする?」
「なぜと、もうしますと?」
「知っている。かつては指折りの宗教だったが、もうほとんど信者はいない。
おまえたちの神は、危機にあらわれなかった。信徒は神を裏切り、VFやLAへとくだった。
神を裏切り、神に見捨てられた。もう、おまえの献身に意味などあるまい。」
「自らの信仰に、迷っておられるのですね。
私も、かつてはそうでした。信仰を捨てて、主を裏切った。
わるくない暮らしをおくりましたよ、幸せだった。でも、気づくとここにもどっていた。
こんなこと、言っていいのかわからないけど…私が主を信じるのは、私のためです。
報いがなくても、真実でなくともいい。主を信じていたいと、私の心が求めるのです。
だから、私はここにいます。」
「己の心が、求める。」
シスターはまた掃除へともどった。
オルフェは心の中で、彼女の言葉をくりかえす。己の心が、求めるもの。
「私の心。私の歌は、まだいまも…。」
どこからか、季節はずれな鈴虫の音が聞こえた。
説明 | ||
SANATによる武器商人ノーチェ討伐宣言。 追いつめられたノーチェは、LAへと戦火をひろげた。 LAを守るため、ルシアはSANATと共闘する。 アグニレイジ率いるバルクアームα部隊と、ジアース率いる第三世代ヘキサギア部隊が激突する。 一方、オルフェは廃教会にいた。 ※コトブキヤ様のコンテンツ『ヘキサギア』の二次創作です。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
666 | 664 | 0 |
タグ | ||
ヘキサギア 二次創作 SS | ||
vivitaさんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |