仮装して・・・ |
もともとハロウィンとはキリスト教の祭りのはずだ。それなのにハロウィンに近づくとクリスマスほどではないにしろ、外を歩くとかぼちゃを人の顔のようにくりぬいたジャック・オ・ランタンや、お化けのをかたどった商品がいろいろと目に付く。
そしてそのハロウィンの余波は我がAcquire Associationにもきていた。
「ハロウィンの日に仮装を?」
「えぇ、さっき社長にも話したんですけど、面白そうだって言ってくれたんです。」
この会社の社長、佐伯克哉が何を考えているかはわかっている。表向きは社内でもこういうことをすれば社員が楽しめるから、ということなのだろうが、裏ではきっとろくでもないことを考えているに違いない。
「私も面白そうだとは思うが…」
佐伯のほうを伺うようにして見やると、当の本人は電話に出ていて視線には気付いていない様子だった。
「衣装のほうはどうするんだ?」
「みんな自分で用意するって言ってますよ。仮装出来るっていって張り切ってた人もいましたけど。」
「そういう人間に限ってろくな仮装をしないものだ。」
佐伯はどんな衣装にするのか、少々気になる。
「それじゃあ、俺はこれで…社長に怒られる前に仕事終わらせます」
「そのほうがいいだろう」
最近佐伯はよく藤田に当たる。そしてその日の夜はいつもより激しいのだ。たまに夜まで待てないらしく、そのまま社長室へと連れて行かれることもあるのだが、それは本当にたまにしかない。
「御堂さん、どうしたんですか?」
「あぁ、ちょっと考え事をしていた。」
「藤田と何を話していたんですか?」
きたと思ったらいきなりそれか。
「ハロウィンのことについてな。仮装をして業務を行うのに賛成したそうじゃないか。」
「えぇ、その後いろいろと楽しめそうだと思って。」
にっこりと笑って言う佐伯に、私は溜息をついた。
「予想はしていたが、まったく君の頭はそれしかないのか?」
「社員も楽しめて、その後違う意味で俺たちも楽しめて…一石二鳥だと思いますけど?」
どこが一石二鳥だというのだ。
「それに、あなたのいつもと違う姿も見られますしね。」
「違う姿…か。」
「御堂さんがどんな姿をするのか、楽しみにしてますよ。」
それによって夜のやり方も変わるのか。
「私も、君がどんな格好をするのか楽しみにしている。」
「御堂さんに期待されてるんだったら気合を入れないといけませんね。」
「そんなものなのか?」
笑って言う佐伯に苦い顔をして言うと「そんなものです」と返され、仕事の話に入られた。
そんな佐伯がおかしくて、私は気付かれないように微笑をもらした。
そして、ハロウィン当日。
結局佐伯がどんな格好をするかはわからないままだったが、それも今日わかる。もちろん、私も佐伯にどんな格好をするかは言っていない。
「おはよう、克哉。」
二人きりの時にしか呼ばない名前であいさつすると、もう衣装をきて準備万端な佐伯がこちらを見た。
「あぁ、おはよう。着替えないのか?」
「まぁ、その…さ、先に行っててくれないか?」
「何故ですか?どうせ俺も見るんだから、後も先も関係ないでしょう?」
思わず一瞬見とれてしまう。佐伯は吸血鬼の格好をしていたのだが、よく似合っていた。本物の吸血鬼のようなその姿に思わず身を竦めてしまう。
「それは、そうだが…」
「もしかして、俺に見られるのが恥ずかしいんですか?」
「そんなわけないだろう!」
言ってしまってはっとなる。こうなったら仕方がない。
「き、着替えてくる…先に行っていても構わないぞ」
「そんな、先になんか行きませんよ」
私としては先に行ってほしいんだがな。
「本当にその格好で行くのか?」
やっぱりそういうと思ったから見せたくなかったんだ。
「私がどういう格好で行こうと君には関係ないはずだ。」
「まぁ、そうなんですけど、さすがにそれは…」
ちなみに私は黒猫の仮装をしている。要するに黒の衣装に黒の猫耳に尻尾をつけているという簡単な仮装だ。
「他に人に見せるのはもったいないですね。」
「…早く行くぞ。」
そんなことを言われたら、どうしていいかわからなくなる。言われて嬉しいのだが、しかしなんとも複雑だ。
「それにしても、似てますね。」
「似ている?」
唐突に佐伯が言ってきた。似ている、とはどういう意味だろう?
「えぇ、そっくりですよ。」
ほら、と佐伯が指差したほうにはニャーと鳴く一匹の黒猫がいる。
「…似ているか?」
「似てますよ。な、みー?」
てとてとと寄ってきたその猫――みーを抱え上げ、私の目の前に持ってくる。
「ほら、お仲間だぞ。」
「…ふざけていないで早く行くぞ。」
「ノリが悪いですね、御堂さんは。」
苦笑しながら言う佐伯を一睨みすると佐伯は肩をすくめて見せた。
「今日はこいつも連れて行きますよ。」
「みーを連れて行くのか?」
「えぇ、いけませんか?」
いけなくはない。むしろ大歓迎だ。だが…。
「そんなことはないが、いきなりどうした?」
「最近外に出していないのでストレスが溜まってるみたいなんです。この間なんか遊んでやろうと思って抱きかかえようとしたら思いっきり引っかかれましたから。」
引っかき傷を見せながら佐伯が言う。佐伯に懐いているみーがその佐伯を引っかくということはよほどストレスが溜まっているのだろう。
「それにどれだけ御堂さんとみーが似ているか、他の連中にも聞いてみたいですしね。」
やはり本当の目的はそれか。
「それはどうでもいいとして、連れて行くのは賛成だ。たまに連れて行くのはみーにとっても、私たちにとってもいい。」
始めのうちは好奇心旺盛だったみーがいろいろとしでかしたせいでいろいろあったが、最近は慣れてきたのかそんなことはなくなり、おとなしく社内を歩き回っているか、佐伯のデスクの下でじっとしているかのどちらかだ。
「決まりですね。」
嬉しそうに笑う佐伯を見て私の心も嬉しくなる。やはり私は佐伯のこういうところに弱いのかもしれない。内心苦笑しながらそんなことを思った。
出社するとすでに来ている社員が私たちを出迎えた。強制ではなかったため、普段と同じような格好をしている者もいたが、半数以上が何らかの仮装をしている。
「あ、社長、副社長…おはようございます。」
挨拶をしてくる社員にこちらも挨拶を返しながらデスクへと向かう。
「みーちゃんも、おはよう。」
「なんか久しぶりにみーちゃんを見た気がするなぁ。」
「それはそうだろう。最近連れてきていなかったからな。」
最近は何かと忙しく、連れてくる余裕がなかったためみーを職場に連れてくるのは本当に久しぶりなのだ。
「社長は吸血鬼、ですか?」
「うわ、本物みたい。血吸わないでくださいね。」
「安心しろ、お前たちの血は吸わない。俺が吸うのは御堂だけだからな。」
その言葉を聴いてゾク…と鳥肌がたった。やけにリアルなその発言に今日の夜は気をつけたほうがいいかもしれない、と思う。本当に血を吸われるかもしれない。
「御堂さんは…黒猫ですか?」
藤田が持ってきた書類を渡しながら言ってきた。
「あぁ、そういう藤田はジャ●ク・ス●ロウだな。」
「あ、わかりますか?」
いつだったにやっていた海賊物の映画の主人公の衣装に身を包んだ藤田はどこから手に入れたのか腰に剣を下げている。
「でも似てますよね、御堂さんとみーちゃん。」
「それは私が今この格好をしているからだろう。」
藤田にも佐伯と同じことを言われ、そんなに似ているか、と思う。
「それだけじゃないですよ、たぶん。」
「そうか?」
「そうですよ、ね、社長?」
「まぁあいつは御堂に似ていると思ったから拾ってきたんからな。」
さも当然だというように言う佐伯に半ば呆れながら私は時計を見た。もうすぐ朝のミーティングの時間だ。
「それじゃあみーちゃんが御堂さんに似てるんですか?」
「そうなるな…それより藤田、そろそろミーティングを始めたいんだが?」
「え…あ、はい。」
佐伯に言われて急いで戻る藤田に苦笑しつつ社内を観察する。
仮装をしている者は死神や魔女、ジャック・オ・ランタンの被り物、海賊、悪魔など多種多様な衣装を着ている。さすがに一日だけにしておくにはもったいない。後で写真を撮るのもいいかもしれないな、と思いつき、そのこともあわせて後で佐伯に相談してみようと決め、朝のミーティングに集中した。
昼休みだというのに、社員がほとんど残っているのは珍しい。いつもは社外に出て食事に出ている社員が多いのだが、今日は社内で昼食をとっている者がほとんどだ。それもそうかもしれない。いくらハロウィンだからといえ、仮装をしたままで社外に出るのは私でもためらうものがある。
「さすがにこれだけ残るとは思わなかったな。」
「まぁ仕方ないでしょう。俺でもこの格好で外に出るのはためらいますから。」
この企画に関してノリノリだった佐伯も私と同じで外に出るのはためらわれるらしい。
「でもこうやってみんなでお昼を食べるのもいいじゃないですか。」
にこにこと笑って言う藤田の言葉にそうかもしれないな、と共感する。あまりこういうことがないために、新鮮でいいかもしれない。
「これもこの提案をしてくれた藤田のおかげだな。」
「いやぁ、そんなことないですよ〜。」
「御堂に褒められたからといって調子に乗るなよ、藤田。」
「わ、わかってますよ。」
私に褒められて顔を綻ばせた藤田に佐伯からの忠告が入る。その半分はおそらく嫉妬からきているのだろう。まったく、子供か、この男は。
「佐伯、あまり藤田をいじめるなよ。」
「いじめてなんかいませんよ。褒められても調子に乗らないのは当たり前のことだと思いますけど?」
まぁそうなのだが、佐伯の場合は私情も入っているような気がしてならない。
「まぁ、君がそういうのならそういうことにしておこう。」
「そういうことにしておいてください。」
佐伯のにこっと笑うその笑顔の裏に何か黒いものが見えたのは気のせいということにしておこうか。
午後は例によって例のごとくというか、佐伯が藤田にいろいろと仕事を押し付けたり、普段なら見逃しているようなミスを見逃さなかったりと藤田に対しての軽い嫌がらせのようなものを行っているのを止めるのに必死だった。まぁそのとばっちりが後でどのように返ってくるかを私は身をもって知っているのだが、それでも佐伯の藤田に対する嫌がらせのようなものを止めるのが私の役割のようなものになっている。
「どうした、御堂?」
部屋に戻って一日を振り返っている後ろから佐伯が抱き着いてきた。
ちなみに仮装はもう解いてしまった。
「いや、相変らず君の藤田いじめは悪質極まりないと思ってな。フォローする身にもなってくれ。」
「藤田をいじめてなんかいませんよ。まぁ少し仕事を押し付けたりはしていますけど、それはあいつが出来ると思っているからです。」
結局押し付けているんじゃないか。しかし、確かに佐伯の言うとおり押し付けている仕事はどれも藤田の能力にあったものばかりだ。時々越えているものもあるが、それもほんの少し努力すればどうにかなるようなレベルのものなのだから、人のことをよく見ていると感心する。
「あぁ、そういえば…」
「何だ?」
「トリック・オア・トリート。」
「残念ながらお菓子はないぞ。」
耳元で言われ、少しだけゾク…と背中に何かが降りた気配がした。
「それじゃあ、悪戯決定だな」
そばに置いてあった猫耳を頭に付けられる。やはりそうくるか。
「黒猫の血はそこらのお菓子よりも甘いぞ。」
「あぁ、じっくり味わってやる。」
押し倒され、そのまま深いキスをする。もしかしたら「トリック・オア・トリート」と聞かれる前からこの幸せな悪戯は始まっていたのかもしれない。だがそれでもいい。私はトリートではなくトリックを選んだのだから。お菓子よりも甘い、魅惑的な悪戯を。
後書き
結局間に合わなかったですね。
鬼畜眼鏡onハロウィン!←
書いてるときにうまく更新が反映されなかったり、いきなりデータが消えたりして散々だったけど…
何とか書き上げましたよ!!
眼鏡克哉に見守られながら、がんばって書いてました。(え
かわいそうな藤田の描写は書かなかったけど、想像してください。
ちなみに克哉の藤田いじめは趣味になってたらいいと思う。←
藤田をいじめるのが楽しいからと、それを止めようと必死になってる御堂さんを見るのを楽しみしてればいいさ。
うわ、理由がすっごい悪質だなww
藤田をいじめるためのスイッチは軽い嫉妬です。
御堂が藤田を褒めたり、藤田に構ってたりするとそれを見た克哉が「藤田のくせに…」と思ってそこでスイッチが入ります。
そしてあの悪質極まりない嫌がらせの嵐が始まるわけです。
しかし基本的には出来る仕事しか押し付けないのでやるごとに藤田のスキルは上がっていきます。
ある意味で社内教育の一環ともいえなくもない…か?
そして最後はやっぱり甘いんだなぁ。
てかこれギャグになってる?ちゃんと笑えますか?
あ、この後御堂さんがどうなったかは皆さんの想像にお任せしますww
長編で佐伯吸血鬼パロでも書いてみようかしら?←
まぁ濡れ場が書けるようになったら考えてみますわ。
次回は未定です。
クリスマスまでには何個か書きたいと思っとりますが。。。
突発ネタが多いんで、何か浮かんだらということになりますな。
では、次回またお会いするときまで。
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鬼畜眼鏡R克哉×御堂ベストエンド後 ハロウィンの日、仮装をして業務をしてはどうかと社員たちに言われた御堂と克哉は… お菓子より甘いかもしれないギャグです。 大人気ない克哉と、それに振り回される御堂さんのお話。 |
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