オリジナル小説「深海の天秤」一章 ファーストインパクトの挿絵B
説明
小説「深海の天秤」の文章

「山口さんが通勤に使用していた駅の防犯カメラから、午後10時過ぎ、犯行時間と思われる一時間前に山口さんの姿を確認しました。そのとき山口さんは、女子高校生と思われる人物と何か言い争いをしていたようです。近くにいた駅員も、それを目撃していました。」

 事件発生から三日後。
 この事件で初めての、一課全員で情報共有する捜査会議で、凛とした立ち姿で小野塚が自分の捜査した内容を発言する。

「コレがその時の防犯カメラの映像です。」

 小野塚は続けてそう言うと、澤木課長が座っている会議室上座の斜め横、設置してある大画面のテレビの横に立つ長岡に向かって目配せをした。
 長岡は小さく頷くと、持っていたリモコンを操作する。
 黒い画面からパッと切り替わり写し出されたのは、帰宅ラッシュから比べると人がまばらになってきた駅入口付近の映像。ちなみに、その映像には音声は入ってない。
 その場にいる捜査員たちの鋭い眼光が、皆映像内に山口さんの姿を探した。が、映像冒頭にはそれらしい姿は無い。
 その山口さんが現れたのは、映像が流れ始めて三十秒ほど経ってからだった。
 駅利用者の一定の出入りの流れの中、それを横切るように映像の右隅から左隅に駆け込んでくる鞄を持ったスーツ姿の男性が一人。その横顔が山口さんだと気づいた捜査員たちは視線で追う。
 すると山口さんは、駅入口隅に立っている濃紺のブレザーを着た女性の元に駆け寄った。
 どうやらその女性は、映像が始まる前からそこにいたらしい。多分コレが小野塚が言っていた女子高校生だろう。
 髪型は肩から二十センチほどのロングストレート。体型は細みの中背。肩には学校指定と思われるカバンを掛けている。けれど顔は、残念ながらカメラの方向とは真逆を向いていた。
 そして山口さんは女子高校生の正面に回り込み、話始めた。が、段々と二人の様子がおかしくなる。
 どうも女子高校生のほうが、山口さんのことを嫌がっているような態度を見せ始めたのだ。
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