オリジナル小説「深海の天秤」一章 ファーストインパクトの挿絵C |
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〈小説「深海の天秤」の文章〉 テレビに映し出されたのは……夜、民家の玄関先のようだった。 画面の中央には、家の前の道と玄関先との間ギリギリのスペースに停められた白のワンボックスがある。が、人など写っている様子はない。 それも、駅の防犯カメラから比べるとその映像は荒く、始めてこの映像を目にする捜査官たちは「コレが、なんだっていうんだ?」と訝しげに目を凝らした。 周りの思っていた通りの反応に、落谷は下げた手で頬杖を付きながら薄笑みを浮かべる。それを横目で睨んでいた小野塚は何か嫌な違和感を感じ、『一度は見た映像』だが着席しながらもう一度凝視した。 少しすると映像の隅、ワンボックスの後ろの道を誰かが横切った。 薄ぼんやりした外灯が照らしたのは、濃紺のブレザー。その前の駅の映像を見ていた皆、それがあの山口さんに向かって怒鳴った女子高校生だと連想した。それを確信させたのは、十数秒遅れて現れたスーツ姿の男性。 こちらも見覚えのある服装から、たぶん駅から追ってきたであろう山口さんだろうと思う。 でも確信しているのに、『たぶん』だ。 何故かというと、肩から上が見切れている。会議室の中から誰となく「なんだよッ。顔、映ってないのかよッ」とボヤきが響いた。 唯一駅と違うのは、女子高校生の肩から下げているカバンがカメラの正面を向いているので、それに猫のヌイグルミのチャームホルダーが着いていると確認できたことぐらいだ。 「これは、公園から100メートルほど離れた民家に設置してあった防犯カメラの映像でーす。日にち的にも時間的にも、駅から歩いてきた女性とそれを追ってきた被害者と思ってもいいでしょう。以上でーす」 急に話が終わり、捜査員ほぼ全員が「はッ?それだけッ?」という顔をした。 確かに、公園には防犯カメラが設置していなかったので、そこまでの被害者の足取りを確定させる証拠にはなるだろう。だがそれなら、始めの駅の映像を見るだけで、これは口上で言うだけで十分だったのでは…と思ってしまう捜査員。 署内検挙率No.1の落谷だから、どんな証拠を見せてくれるのだろうと期待していた分、怒りを覚えるほどそれはヌカ喜びに終った。落谷の映像はそのまま受け流され、別の捜査員が自分の捜査内容を発表し始める。 「…チッ。勿体ぶってコレかよッ」 そんななか、落谷の前の席で悪口がボソッと聴こえる。 声からして、次の日に七光り新人刑事の噂話で恥をかくことになる刑事だろう。 「だーかーらぁ、「オマケ」って言ったじゃ〜〜ん♪」 「……「オマケ」って、それ、私に対してのイヤミですかッ?!」 なぜか悪口を言われた落谷は鼻歌まじりで、駅の映像を見つけた功績を称えられているはずの小野塚が隣で機嫌を悪くしていた。 心の中で「ただの「オマケ」とは思えないッ」と呟く小野塚。そう、落谷が意味なくこんなことをするとは思えない。 (…だって、あの時だって…) 小野塚は、さっきの民家の防犯カメラの映像を『初めて』見せられたときのことを思い出していた…。 …………… ……… … |
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