小説「深海の天秤」一章 ファーストインパクトの挿絵E
説明
弾かれたように顔を上げた小野塚。その大きく開いた口に、一口チョコがポンッと放り込まれた。放り込んだのは、もちろん落谷だ。

「モグッ…!」

 上質なミルクチョコレートの甘さが口いっぱいに広がる。そして落谷は気づいているか分からないが、放り込まれたさいに、小野塚の唇に落谷の長い指がかすった…。

「使った脳に糖分充電っ。駅に行くんだろ?いってらっしゃい」

 手を胸の前でヒラヒラさせる落谷。

   ガタッ!
「…〜〜〜〜ッ!…はい」

 小野塚は顔を真っ赤にして、勢いよくイスから立ち上がる。すると、どっからともなく長岡が凄い形相で二人の元に駆け寄って来た。

「小野塚さんッ!捜査に行くんですよねッ?俺も同行しますッ!!」

 目の前にいるのにもかかわらず、大声で発言する長岡。ポー…としていた小野塚は、ひとピシャ遅れでハッと我に返り、「そ、そうね。お願い」と言ってワタワタと用意を始める。
 小野塚が用意している横で、長岡が落谷をキッと睨んだ。その目は『ライバル視』している目だ。
 でも落谷のほうは軽く笑い返すのみ。その余裕な態度が、更に長岡をイラつかせる。

「早く行きましょうッ!」

 そう言うと、長岡は小野塚を先導するように大股で部屋を出ていった。
 残った落谷はデスクに顔をうっ伏して、肩を震わせながら笑いを堪えている。
 部屋の上座では、デスクの前でその一部始終を見ていた澤木課長が、ヤレヤレといった表情を浮かべていた。
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