真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 77 |
「……これから話すのは俺の推測だ。白装束はもしかして天の国、つまり北郷。お前の世界を支配するつもりなんじゃないか?」
「“!!!!!!!”」
その推測にその場にいた全員が驚く。
「玄輝、それってどういうこと!?」
「奴らの目的はシン、そしてそれに当てられる漢字が申すの“申”。そして、その漢字には“天の神”という意味がある。そして俺たちの目の前に“天の御遣い”であるお前がいる」
「なるほど、つまり玄輝さんはその白装束の人たちが天の国を知っていて、そこを目指すために暗躍しているのでは、と考えているのですね」
「ああ。実際、あいつらは他の世界に渡る術を持っているのは間違いない」
「それならご主人様の世界に行くのは容易だ、と」
「容易、というよりも何かしらの条件が必要なんじゃないかと思う。で、その条件を満たすために行動しているんじゃないか?」
「なるほど……」
俺の推測を聞いた朱里はこの話を始めた時のように考えに耽る。
「…………確かに、妖術には魂を使ったものもあると聞きます。十分にあり得ますね」
「ああ」
「ですが、情報が少ない以上、決めつけるのは早計です。もう少し情報がないと……」
「……そりゃそうか」
頭を軽く掻いて溜息を吐く。
「我ながら良い推測だと思ったんだが」
「いえ、推測自体は十分にあり得るものでしたよ」
朱里のフォローに軽く礼を言ってから呂布に話しかける。
「ありがとうな。お前さんのおかげで一歩前進できた」
「(フルフル)」
彼女は首を横に振って口を開く。
「役に、たったらいい」
とりあえず、ここで白装束に関しては一段落か。そう判断した俺は北郷に目配せして彼らの話を始めるように促した。
「さて、俺たちが少なくとも君たちと敵対しているのは分かってもらえたと思うんだけど、その上で君に提案があるんだ」
「……?」
首をかしげる呂布に北郷は本題を切り出した。
「僕たちは戦乱に巻き込まれ、困難に喘ぐ人たちを救うために立ち上がった。いつの間にか州牧になっていたけど、それでもその芯は変えるつもりはない」
“でも、”と北郷は話を続ける。
「僕たちにはまだ力が足りない。だから、君たちの力を俺たちに貸してほしい」
「…………わかった」
「そっか、まぁ、少し………へ?」
「加わる」
「……いいの?」
「?」
互いに首をかしげる北郷と呂布。まぁ、あっさりと行き過ぎて驚く気持ちは分かるが。
「……月も詠もいる。それに」
そこで俺を見る呂布。
「……セキトが認めた、男がいる。それだけで、十分」
「……そうか」
そう言われた俺の心に、何か暖かい感情が湧き出る。
(……いや、こいつは知ってるな)
認めてほしい相手に認められた。その嬉しさだ。
(……セキト、ちゃんとお前の預かり物届けられたぜ)
俺は目を閉じて心の中でいい報告ができたことを喜び、目を開いて現実に戻る。
「じゃあ、これからは仲間だな」
そう言って俺は手を差し出した。
「…………(ジーっ)」
「……俺の手、なんか変か?」
「手、何?」
ん? ああ、この手が何のために差し出されてるかってことか。
「握手だよ」
「あくしゅ?」
首をかしげる呂布。
(もしかして、握手の意味を知らないのか……?)
いや、それもありうる。何せ、戦場にいるのが当たり前の人間だったんだ。こういった類の事を今までしていなかったことなんて容易に考えられる。
「握手っていうのは手と手を繋いで互いの信義と健闘を祈るもの、かな?」
そこへ北郷が握手の意味を説明してくれる。
「まっ、そういうこった」
再度、手を差し出す。今度は首ではなく、手を動かして握ってくれた。
「ん」
しかし、その握られた手が以外で驚いた。
(意外と、柔らかい……)
てっきり武人特有の硬さのある手だと思っていたので思わず握られた手を見つめてしまう。
「いつまで手を握っておられるのです?」
「っ!?」
愛紗からの冷たい一言に驚いて肩が跳ねる。
「あ、ああ、すまんな」
一言詫びて呂布の手を離す。
「まったく。こういう時は普通領主からするものですよ」
「うげっ、そうなのか?」
しまったそれはミスった。
「すまん、北郷」
「え? そうなの?」
よかった、北郷もこっち側だった。
「じゃあ、改めて俺の名前は北郷一刀。これからよろしく」
そして北郷は椅子から立ち上がって俺と同じように呂布に手を差し出した。
「ん」
呂布は迷わずにその手を握る。
「…………」
そして、今度は北郷が呂布の手を見つめていた。まぁ、うん。なるよな。
「呂布殿ぉー! 目が覚められたのです、ね……」
と、そんな瞬間に陳宮が天幕へ飛び込んできた。
「……ちんきゅー」
「な、なにをしてやがるですかぁーーーーーーーー!!!」
そう言って彼女は駆け寄りながら飛び上がり、空中で一回転したかと思うと蹴りの構えを取って北郷へと落ちていく。
「ち・ん・きゅ・う・キィイッックーーーーーーーーーーー!!!」
「なんだとぉ!?」
色々突っ込みたいところはあるが、まずは!
「待てぃ!」
北郷に当たりそうになる足首を右手で掴んで、左手を添えながら受け流すと、そのまま右肩へ担いでしまう。
「な、何をするですかっ! 不届きものぉ!」
「いや、今はお前が不届き者だからな!?」
「問答無用!!! 乙女の手を握るなんて変態ですぞっ!」
そう言いながらバタバタと暴れる陳宮を押さえつけ、脱出できないようにしておく。すると、呂布が近づいて陳宮の尻を軽く叩く。
「めっ」
「あひんっ!」
その一撃で陳宮はおとなしくなった。
「ちんきゅーきっくは、だめ」
「で、ですが〜!」
「めっ」
「……う〜っ」
そこでようやっと力尽きたのか、がっくりと項垂れてしまった。これなら降ろしても問題なさそうだ。
俺は担いでいた体を持ち上げて、地面に降ろす。
「それに、今からご主人様」
「な、なんですとぉおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」
(いちいちリアクションが大きいな)
まぁ、見ている分には飽きないから構わないが。
「い、今、何と? ご主人様と?」
「(コクッ)」
「……………」
一瞬にして血の気が引いたのが分かるな。
「なにかの、何かの間違いだと言ってくだされ〜〜〜〜……」
「間違いじゃ、ない」
「が〜ん……」
「それに、セキトが認めてる」
そう言って彼女はセキトの布を取りだす。
「うっ」
どうやら、陳宮にとってもセキトは特別な存在らしい。
「……で、ですがセキトが認めたのはそこの黒い男で、その胡散臭そうな男ではないでしょう!」
「でも、この男は、ご主人様の下にいる。なら、問題ない」
「うっ、うぅぅ……」
勝敗は決した。陳宮はどでかいため息を吐いて折れたことを示した。
「……わかりました。まぁ、本来なら斬られても致し方ありませんしな」
「いや、そんな気はないんだけど……」
「うっさい! 黙ってろです!」
「ひどいっ……」
北郷を落ち込ませる陳宮だったが、すぐに呂布にたしなめられる。
「ちんきゅー、めっ」
「うっ」
何というか、呂布には頭が上がらないんだな。こいつ。
「……よろしくです」
「ん、よろしく」
そう言って北郷は再び手を差し出した。陳宮はその意味を知っているからか、すんなりとその手を握る。
それを見た呂布は陳宮を見て言葉を口にする。
「あと、真名」
「ふえ!?」
「恋は、恋」
それに驚いたのは俺だけじゃない。
「真名を、北郷に預けるのか?」
俺の問いに呂布は首を横に振る。
「ご主人様、だけじゃない」
そう言って俺を指さす。
「俺にもか?」
「(コクッ)」
それを見ていた陳宮が大きく両手を振りながら喚きだす。
「呂布殿ぉ! 血迷ってはなりませぬぞぉ!!! お気を確かにしてくだされ!!!」
それに対し、呂布は落ち着いて言葉を返す。
「大丈夫」
これに乗ったのは桃香だ。
「大丈夫だよ、陳宮ちゃん。ご主人様は気が多いけど、優しいし、嘘はつかないし、誠実な人だよ」
「気が多いのと誠実は噛み合わないのですっ!」
「いや、その前に俺ってそんなに軟派なの……?」
北郷の問いに星が答える。
「軟派、とは言いませぬが、英雄とはそんなものです。気にされることではありますまい」
「そうそう。ご主人様は自分らしくしていればいいと思う♪」
桃香の言葉に少し涙ぐみながら北郷が礼を言う。
「うう、ありがとう桃香」
「いえいえ」
桃香の返事を聞いた後で、北郷は改めて呂布と向き合う。
「それじゃあ、改めて」
「待って」
「へ?」
目を丸くした北郷。しかし、呂布はそれを気にしないで陳宮へ目を向ける。
「ねね、真名」
「ねねもですかぁ!?」
驚く陳宮に呂布は言葉を続ける。
「それが信頼」
「うう、それはそうですがぁ……」
言いたくなさそうな雰囲気の陳宮だが、どうにも言いたくない理由が“預けたくない”ではないような気がする。
「別に、言いたくなければ……」
と北郷が助け舟を出すが、
「うっさい黙れなのです!」
と、ぴしゃりと返されてしまう。
だが、その後は呂布にたしなめられ、結局真名を口にする。
「姓は陳、名は宮。字は公台! 真名は……」
そこで一度口ごもってしまうが、意を決した表情でそれを口にした。
「ねねね!」
「ね、ねねねね?」
「ねねねのね?」
「おい、桃香。なんだその箒を持った叔父さんが言いそうな言い間違えは」
「へ?」
「……いや、分からんならいい。えっと、ねねねでいいんだよな?」
俺の確認に彼女は少しだけ目を輝かせる。
「ほ、ほう。ねねの真名をしっかり言えるとは見直したのです」
「そりゃどうも。ちなみに漢字で書くとどうなるんだ?」
「音三つで音々音なのです」
「ああ、だから呂布はねね、って呼んでたのか」
俺の納得に呂布が頷く。
「呼びやすい」
「だな。じゃあ、よろしくな、ねね」
「真名を間違えなかったお前にはよろしくしてやるのです」
そう言ってふんぞり返るねね。それを見ていた本郷が素直に謝る。
「ごめんって。次は間違えないよ」
「私も。ごめんね」
「……ふん、謝るならよろしくしてやるのです」
さて、じゃあ俺からもしておこうか。
「まぁ、知ってるとは思うが俺の名前は御剣玄輝だ。よろしくな」
「うむなのです!」
ねねと握手した後で呂布にも握手を求める。
「よろしく、げんき?」
「いや、なんで疑問なんだよ」
「……元気と間違える」
「……いや、間違えないと思うぞ?」
そこらへんは聞いてりゃ分かるだろうし。
「……玄輝?」
「そんな感じだな。これからよろしく」
「ん」
この後は皆それぞれ真名を交わし合い、恋とねねが仲間に加わった。だが、この世界は、そんな喜ばしいひと時ですら無常にも奪っていく。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
玄輝たちが呂布を仲間に引き入れる前夜。小野小町はとある町で星詠みをしていた。
「これは……」
だが、その結果があまりにも信じがたいものだったために彼女の表情は驚きに染まっている。
「そんなの、そんなのって……」
もう一度星を詠むが、結果は変わらない。
(ふざけないでよ……!)
睨んでも仕方ないのは分かっているのだが、それでも彼女は睨むことをやめられなかった。
「黒き者、西にて炎を纏いし鶯(ウグイス)の想いを継ぎ、雷神と相まみえる。しかし、その刃は届かず器は砕かれるだろう、ですって?」
冗談ではない。星詠みから推測できることは……
「玄輝の、死……」
それは阻止しなくてはならない。だが、星詠みと違う道を取らせようとすればどこかで歪みが出る。
(……あんまり、やりたくはなかったけど)
私は切り札として用意しておいた外史の鍵を懐から取り出す。
「あとは、あの子も呼びましょうか」
あの子の足であれば今、玄輝たちがいる場所から涼州まで3日で行ける。そうすれば時間的な余裕もできるだろう。私はそう判断してこの外史の外にある蔵を開く。
「……さぁ、来て頂戴。あなたにとっても懐かしい空気のはずよ」
その蔵から金属の軋む音を響かせながら出てきた物を見て彼女は頷いた。
「うん、定着は上手くいったわね。じゃあ、行きましょう」
小野小町はその背に跨って手綱を握る。
「はっ!」
そして、乗った物の腹を蹴って駆けて行った。
ただ、唯一の誤算があった。
「は、はやぁああああああああああぁぁぁぁぁぁっぁあっぁっぁあっぁぁ!!!」
思った以上に乗った物の速度があったことだ。
「ちょ、ま、ちょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
彼女は情けない叫び声を残して玄輝の元へまさしく風のように去っていった。
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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
最近、ようやっと秋らしさを感じられる日が続いていますが、皆さんお元気ですか?
作者はついこの間、ひどい眩暈に襲われました。で、急いで病院に行ったら……
「あー、多分肩こりですね」
………なんですと???
ってなりましたよ。
で、お薬とシップを張ること一週間、症状が驚くほど落ち着きました。
いや、肩こりって眩暈を引き起こすことあるんですね。驚きですわ。
皆さんも肩こりにならないよう、お気を付けください。
さて、こんなところでまた次回となります。
こんな亀更新な作品ですが、読んでいただいている皆様には感謝しかありません。
今後ともよろしくお願いいたします。
いつも言っていますが、何か誤字脱字がありましたらコメントの方にお願いいたします。
ではではっ!
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白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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